コンプエース版ヨスガノソラ 第9話「苦しみの先に」
2010年5月26日 ヨスガノソラ
春日野穹bot→URL:http://twitter.com/sora_k_bot
最初に書いておくと、今月号こと7月号にアニメ化の続報や発表はありません。扉絵の上隅にコミックスが発売されていることにプラスして、重大発表もあるぞ! という情報を載せているに過ぎず、アニメ化という文字の欠片も存在しませんでした。正直、拍子抜けしたというか、これなら早めに手に入れる必要もなかったかな。私の勝手でそうしたのだから文句をいう筋でもないが、ちょっと拍子抜けしたのは事実です。でも、コミックスが21日頃に出たから勘違いしがちだけど、本来は同時発売なんだよね。
扉絵はこの作品では珍しく、話の中の1シーンにそのままタイトル等をつけたもの。1枚絵ですが、今までは扉のみ別に描き下ろしていたからちょっと新鮮。バスの中で床に座り込んでいるハルを穹が見下ろしながら、
「戻ろう、私たちの街へ」
と、言葉を投げかけています。その冷たく輝いた瞳にハルは射抜かれますが、同時に穹がなにを言っているのか理解することが出来ず、困惑します。
「帰るって…もうあそこに僕らの家は…」
「どこかに借りればいい」
そんなにすぐ出来るわけがないと、あくまでハルは現実的な意見を口にします。確かに、今の生活は家賃だけは掛かってないですからね。大変なようで、田舎ぐらしは結構家計に貢献しているんですよ。
「とにかく、この街から出るの!!」
ここにいちゃダメなの……と、声を低くする穹に、ハルはどうしてそこまでするのかがわかりません。
「ハルがどこかへ行っちゃいそうだった。私を置いてどこかへ」
「そんなわけないだろ!?」
「だって、いつもあの女の肩を持つじゃない」
あの日みたいに私からハルを奪っていくんだ、そう呟く穹の脳裏にはかつて奈緒がハルを犯した、その光景が蘇ります。奈緒によってハルは色々なものを奪われたはずですが、穹にとってはまさにハルそのものを奪い取られたといっても良かったのでしょう。奈緒は当時のハルを傷つけましたが、それと同時に穹も傷つけていたのです。
「…ひとりは嫌だよ」
「いっしょにここを出て暮らそう。二人だけで」
ハルの首に腕を回しながら、その身体を抱きしめる穹。ハルにとって奈緒との一件は、時折思い出すだけの、忌まわしい過去に過ぎなかったのかも知れませんが、穹にとっては現実の脅威として存在していたわけで、ハルはそれに気づくことが出来なかった。あのことを穹が知っていた、その事実を知らなかったハルには無理からぬことですが、それでもハルは自分を責めます。
――僕は、こんなにも穹を傷つけてたのか……
奈緒に責任転嫁して、自分は悪くないと言い張ることも出来たはずです。いえ、ハルは被害者であると考えている穹にしてみれば、ハルに罪はないのです。ただ、奈緒のことを庇うハルの姿が気に入らない、見ていたくないだけで。
その頃、もう一人の当事者である奈緒といえば、雨の中を傘もささずに穹を探しています。ハルも穹を探している最中、雨に降られましたから、奈緒が傘を差してないのはおかしくもなんともありません。
――もう二度とハルの前に現れないで!!
穹からぶつけられた言葉は、奈緒にとって心を抉り出されるほどの痛烈さを持っていました。奈緒にしてみれば、自分の両親やハルの祖父母を除けば、自分にあの件を持ち出してくるのはハルだけだろうと思っていたのでしょう。そして、コミカライズにおける奈緒のこれまでの態度を見るに、奈緒はハルならば許してくれる、すべてをなかったことにして関係をやり直せると思い込んで、いや、そう信じたかっただけなのかも知れません。
けれど、そんな奈緒の想いを穹は許さなかった。言ってしまえば図々しい、身勝手すぎる想い。奈緒はまったく予想だにしなかった相手から、それを否定されて、断罪されたのです。許しては貰えないだろう、穹に会ってなにを言えばいいのかわからない。それでも奈緒は、雨の中を探し続けます。
そんな奈緒の横を、一台のバスが横切ります。何気なく覗きみて、驚きに見開いた瞳へ映るのは、ハルのことを抱きしめる穹の姿。車内で二人がなにを話しているのか、どのような状況なのか、奈緒にはまったくわかりません。
「穹ちゃん…はるちゃんも…」
自分が引き起こしてしまった事態に、奈緒はその場に立ち尽くすことしか出来ませんでした。
「この街を出ればもう大丈夫」
車内では、穹がハルと自分自身に言い聞かせるように言葉を紡いでいます。
「全部あの女が悪いの。ハルを傷つけて、振り回して」
「だから、あの女のいない所へ行くの。誰も邪魔できない所へ…」
穹の言葉に、ハルは無感動な表情を見せました。ハルは穹に対してだけ、よくこの表情を見せています。穹の想いがハルに感銘を与えなかったわけはありませんが、それでもハルはこの選択を止めなければなりません。
「穹、よく聞いて」
穹の両肩をつかみ、ハルは真剣な色合いを表情に浮かべます。
「穹は奈緒ちゃんが悪いって言うけど、僕だって悪いんだ」
「ハルは悪くない!! 全部あの女が…」
「そうやって僕だけ責任を取らせてくれないの?」
「!! それは…」
奈緒も苦しんでいた。ずっと苦しんできた。そしてそれは僕のせいだと、知ろうともしなかった自分に罪があるとハルは言います。ハッキリいうと奈緒が暴走の末に自爆しただけですから、ただの自業自得だし、ハルの祖父母だって、ハルや穹を気遣って事を荒立てなかったんでしょうから、ハルが知っておかなくてはいけない理由はないはずです。だから、ハルが責任を感じる理由がよく分からないんですが、そこに言及すると話が進まないのでこの際、無視しちゃいましょう。
ハルは奈緒のことを詫びると同時に、穹まで傷つけていたことを謝ります。
「……ハルは馬鹿だ。一人で全部抱え込んで…わかってた…こんなことをしてもハルを困らせるだけだって」
判っていても、身体が勝手に動くときもある。穹にはそれでも、守らなければいけないものがあったから。
「私…間違ってたの? ハルを守る方法」
「いいよ……ありがとう」
「私…どうすればいい?」
「穹の好きにすればいいよ」
「そんなこと言われても…」
穹の好きにすればいい、何気ないハルの言葉ですが、これは実際原作にも似たような台詞があります。というより、この流れ自体が原作の奈緒シナリオにおけるバスのシーンとほぼ同じです。ただし、若干言葉が違うとともに、原作ではなかった台詞が付け加えられています。
「まずは戻ろう? 奥木染に。このまま逃げ出したって行く場所なんてないんだ」
「二人でいられるように、この街に来たんだから」
ハルの好きにすればいい、この言葉は原作の回想シーンにおいて、両親を失って今後に悲観していたハルへ、穹が投げかけた言葉です。これによって穹まで失いたくないことを実感したハルは、穹を連れて奥木染に行くことを決めます。
3話のレビューで書いたと思いますが、コミカライズに置いてこの穹の台詞は登場しません。何故なら、ハルが奥木染に行くことを決めた理由が、原作とまるで違うからです。両親の葬式後、泣いている穹を見たハル。「ずっと、ずっと一緒にいてよ、ハル…」と、泣きながらしがみついてきた穹の姿に、ハルは奥木染行きを決めるのです。そもそもの理由が穹であり、穹と離れたくないという理由がハルの中にもあったにせよ、ハルは穹とずっと一緒にいるために、奥木染を選んだのです。
だからこそでしょうか、奈緒シナリオの流れをほぼ再現しているというのに、展開されているのはハルと穹の話です。バスを降りて奥木染に戻るのも、なにもかもが奈緒シナリオと同じなのに、そこに描かれているのは穹シナリオでしかなかった。
他のシナリオを吸収した上で穹へと繋げる手法は、既に5~6話の時点で一度やっていますが、アレは話を大幅に変えた上での瑛シナリオだったから……そう考えると、今回はまるで違和感がないなぁ。元々、ハルにとって奈緒とのことが過去でしかないってのもあるんだろうけど、この違和感の無さは凄いと思った。
「はるちゃんたち、どこまで行ったんだろう」
雨も止み、夜もふけたであろうバス停のベンチに奈緒がいました。もう帰ってこないのかも知れないと思いつつ、ハルとの関係が危うかったことは奈緒にも判っていた。判っていた上で、自分が過去の出来事を忘れようとしていたことを奈緒は認めます。
「そうすれば、はるちゃんと普通に話せると思ったから」
あの日帰ってきてくれて、本当に嬉しかったから……呟く奈緒ですが、彼女の間違いはハルのことばかり考えるあまり、穹のことをちっとも考えていなかったことです。口では色々言うし、実際に気にも掛けていたんでしょうが、穹の心情や感情、気持ちを理解することが奈緒には出来なかった。ハルのことだけで頭がいっぱいだったといえばそれまでなんでしょうが、だからこそ奈緒は手痛い逆撃を被ったのです。奈緒はもう少し、穹のことを考えてあげるべきだった。
「はるちゃん…穹ちゃん…」
「奈緒ちゃん…?」
後悔やらなにやらで途方にくれる奈緒の前に、ハルと穹が現れました。とっくに家にでも帰ったものと考えていたのか、奈緒がそこへいたことにハルはなんだか意外そう。そして時間を決めて落ち会う約束をしていたことを思い出したのかハルは謝りますが、奈緒はそれを謝絶します。ハルを見つめる穹の表情は悲痛であり、まだ心の整理は付いていないのか、なにも言葉を発しません。対する奈緒も、穹を相手になにを言えばいいのか判断がつかず、言葉をどもらせます。
「奈緒ちゃん、ごめん!!」
見かねたハルが、先手を打って奈緒に謝りました。驚く奈緒ですが、ハルは今まで奈緒のことを知ろうともしなかったことを詫び、頭を下げます。そんなハルの姿に、穹は少なからず複雑そうな表情を見せる。
「ごめんなさい。今まで酷いこと言いすぎた。ごめんなさい」
けれど、ハルにだけ頭を下げさせておくわけにもいかず、穹も奈緒に謝罪しました。春日野兄妹二人から謝罪され、自分こそ謝罪する側だと思っていた奈緒は動揺します。
「ハルは…頼りないところがあるから…」
「たまに…奈緒ちゃんが助けてくれると嬉しいかも……」
頬を赤らめながら言った穹の言葉に、奈緒は許されたと感じたんでしょう。涙を流してハルに抱きつきますが、その姿から穹は視線を外します。照れから来るはずの頬の赤みは消え失せ、浮かべる表情は重く、心の底から奈緒を許しているようには見えません。多分、これは推測ですけど、穹は奈緒を許したのではなくて、ハルに対して妥協したんじゃないでしょうか? 穹はハルの説得に応じたというより、ハルの中で自分が奈緒より上の存在であることを確認することができたから、おとなしく従ったんだと思います。原作の奈緒ルートだと、車内でハルは逆レイプ関係なしに昔から奈緒が好きだったという妄言、失礼、自分の気持ちを穹に理解させるわけだけど、コミカライズは奈緒ルートではありませんから、当然のごとくそんな台詞はありません。
瑛ではないですが、どんなときでも自分のことを一番に考えていてくれている、それを穹は実感したんでしょうね。自分からハルを奪うかに見えた奈緒が、これといった驚異ではなくなった。理解したからこそ、穹は奈緒との関係修復を行ったんです。けれど、この場合、奈緒を許したというよりは、ハルのして欲しいことをしてあげただけですから、感動している奈緒を見る穹の視線が冷めているは当然だし、浮かない表情をするのは当たり前なのかも知れない。
実際に原作においても、穹が完全に奈緒と和解するのはハルカナソラの終盤です。正直、あのシーンほどいらないシーンもないというか、奈緒が不人気だからって無理矢理とってつけたかのような強引なシーンだったんだけど、まあそんな個人的な感想はどうでもいいとして、穹と奈緒というのは原作でもそのときまで微妙な関係を続けており、ヨスガノソラ内においては完全に対抗心をあらわにしています。過去の精算をしたからといって、穹の中ではなにも解決していないんです。それは原作もコミカライズも同じことであり、奈緒という過去は過去として、穹にはつかみたい今があるのだから。
日が変わり、スーパータカノで買い物をするハルと穹。お菓子ばかり入れている穹をハルは注意し、穹は「ケチ」と呟く。
「はるちゃん、穹ちゃん」
そこに買い物袋を下げた奈緒がやってきて、スーパータカノの日だから来ていると思ったと話ます。そのためにわざわざ出てきたのかと思わなくもないけど、奈緒にしてみればおいそれと春日野家を訪ねることも出来ないでしょうから、まあ外で会うしかないのかも。
「こんにちは、穹ちゃん」
「ん…」
「えっと…その…」
まだ上手く話せないのか、穹の前で口ごもる奈緒。穹はそんな奈緒を無言で見つめながら、不意に支線をハルへと向けます。
「ハル」
「うん?」
「今度ビシソワーズ飲みたい」
「ええ!? 僕、作れないし」
フランス料理と見せかけて実はアメリカ料理のじゃがいもスープ、私は冷水スープ嫌いなんで食べませんけど、確かにハルがそんな凝ったもの作れたら凄いや。あれって結構手間かかるんですよ、私は作らないけど。
「だったら、奈緒ちゃんに教えてもらえばいい」
思いがけない穹の言葉に奈緒は驚き、感動します。ハルも穹の気遣いに安堵を覚え、奈緒への態度を改めたことに感謝しました。しかし……
「ありがとう、穹」
「別にお礼を言われるようなことしていない」
ハルの感謝の言葉に、穹の態度はそっけない。穹にとって、既に奈緒への関心は尽きたということなのか。
「……奈緒ちゃんと同じことしたら、私も好きになってもらえるのかな」
「? 何か言った?」
「…何でもない」
想いをため込む穹。その行き着く先は……というところで次回に続く。
奈緒シナリオが僅か2話で終わったのはいいとして、ハルが最後の穹の言葉を聞き取れていなかったというラストには驚きました。原作では穹のこの言葉が引き金となって、ハルは穹の気持ちに気づき始めます。ですが、原作はその過程として海に遊びに行ったりしますが、コミカライズだとそのイベントは奈緒シナリオに入る直前に済ませています。さらに、ハルが穹の気持ちに確信を抱くキスに関しても第6話で済ませているという、よく考えたらコミカライズで重要なイベントを逆転させてますね。
後残っているものといえば両親の初盆で都会に帰ることぐらいですが……そこから先は果たしてどうなるのやら。イベントらしいイベントは残ってないし、ここは委員長を交えたオリジナルストーリーでも展開するんでしょうか。いや、オリジナルになどしなくともハルカナソラの委員長シナリオから持ってくればなんとかなるかも知れない。コミックスの1巻が6話収録だったから、残り3話分まで2巻に収録されるはずですが、さすがに3話じゃ完結は出来ないでしょう。1~2話プラスして2巻を通常より厚みのあるものにするってことも出来ますが、それでも全2巻というのは寂しすぎる。アニメ化も控えているんですから。
半分アニメ化の情報を求めて早く手に入れたというかなんというかだけど、まさか一欠片の情報も得られないとは思っていませんでした。せめてアニメ化決定の一文ぐらいあると思ったんですがね……この調子じゃメガミマガジンにもなにもないんだろうな。来月の10日売りアニメ誌に載っているか否か。どちらにせよ、今日はコミックスの正式な発売日ですし、公式が触れる可能性もなくはないでしょう。自社の作品のコミックスが出たのですから宣伝するのが普通ですし、アニメ化とは書けなくとも、帯について触れないわけにはいかない。もっとも、言葉を選ばなければ即叩きに合いそうですが。
Sphereが動かなければ今月はもうネタもないでしょうが、コンプエースで情報を公開していくというぐらいだから、やはり来月号なんですかね。6月末、遠いなぁ。
最初に書いておくと、今月号こと7月号にアニメ化の続報や発表はありません。扉絵の上隅にコミックスが発売されていることにプラスして、重大発表もあるぞ! という情報を載せているに過ぎず、アニメ化という文字の欠片も存在しませんでした。正直、拍子抜けしたというか、これなら早めに手に入れる必要もなかったかな。私の勝手でそうしたのだから文句をいう筋でもないが、ちょっと拍子抜けしたのは事実です。でも、コミックスが21日頃に出たから勘違いしがちだけど、本来は同時発売なんだよね。
扉絵はこの作品では珍しく、話の中の1シーンにそのままタイトル等をつけたもの。1枚絵ですが、今までは扉のみ別に描き下ろしていたからちょっと新鮮。バスの中で床に座り込んでいるハルを穹が見下ろしながら、
「戻ろう、私たちの街へ」
と、言葉を投げかけています。その冷たく輝いた瞳にハルは射抜かれますが、同時に穹がなにを言っているのか理解することが出来ず、困惑します。
「帰るって…もうあそこに僕らの家は…」
「どこかに借りればいい」
そんなにすぐ出来るわけがないと、あくまでハルは現実的な意見を口にします。確かに、今の生活は家賃だけは掛かってないですからね。大変なようで、田舎ぐらしは結構家計に貢献しているんですよ。
「とにかく、この街から出るの!!」
ここにいちゃダメなの……と、声を低くする穹に、ハルはどうしてそこまでするのかがわかりません。
「ハルがどこかへ行っちゃいそうだった。私を置いてどこかへ」
「そんなわけないだろ!?」
「だって、いつもあの女の肩を持つじゃない」
あの日みたいに私からハルを奪っていくんだ、そう呟く穹の脳裏にはかつて奈緒がハルを犯した、その光景が蘇ります。奈緒によってハルは色々なものを奪われたはずですが、穹にとってはまさにハルそのものを奪い取られたといっても良かったのでしょう。奈緒は当時のハルを傷つけましたが、それと同時に穹も傷つけていたのです。
「…ひとりは嫌だよ」
「いっしょにここを出て暮らそう。二人だけで」
ハルの首に腕を回しながら、その身体を抱きしめる穹。ハルにとって奈緒との一件は、時折思い出すだけの、忌まわしい過去に過ぎなかったのかも知れませんが、穹にとっては現実の脅威として存在していたわけで、ハルはそれに気づくことが出来なかった。あのことを穹が知っていた、その事実を知らなかったハルには無理からぬことですが、それでもハルは自分を責めます。
――僕は、こんなにも穹を傷つけてたのか……
奈緒に責任転嫁して、自分は悪くないと言い張ることも出来たはずです。いえ、ハルは被害者であると考えている穹にしてみれば、ハルに罪はないのです。ただ、奈緒のことを庇うハルの姿が気に入らない、見ていたくないだけで。
その頃、もう一人の当事者である奈緒といえば、雨の中を傘もささずに穹を探しています。ハルも穹を探している最中、雨に降られましたから、奈緒が傘を差してないのはおかしくもなんともありません。
――もう二度とハルの前に現れないで!!
穹からぶつけられた言葉は、奈緒にとって心を抉り出されるほどの痛烈さを持っていました。奈緒にしてみれば、自分の両親やハルの祖父母を除けば、自分にあの件を持ち出してくるのはハルだけだろうと思っていたのでしょう。そして、コミカライズにおける奈緒のこれまでの態度を見るに、奈緒はハルならば許してくれる、すべてをなかったことにして関係をやり直せると思い込んで、いや、そう信じたかっただけなのかも知れません。
けれど、そんな奈緒の想いを穹は許さなかった。言ってしまえば図々しい、身勝手すぎる想い。奈緒はまったく予想だにしなかった相手から、それを否定されて、断罪されたのです。許しては貰えないだろう、穹に会ってなにを言えばいいのかわからない。それでも奈緒は、雨の中を探し続けます。
そんな奈緒の横を、一台のバスが横切ります。何気なく覗きみて、驚きに見開いた瞳へ映るのは、ハルのことを抱きしめる穹の姿。車内で二人がなにを話しているのか、どのような状況なのか、奈緒にはまったくわかりません。
「穹ちゃん…はるちゃんも…」
自分が引き起こしてしまった事態に、奈緒はその場に立ち尽くすことしか出来ませんでした。
「この街を出ればもう大丈夫」
車内では、穹がハルと自分自身に言い聞かせるように言葉を紡いでいます。
「全部あの女が悪いの。ハルを傷つけて、振り回して」
「だから、あの女のいない所へ行くの。誰も邪魔できない所へ…」
穹の言葉に、ハルは無感動な表情を見せました。ハルは穹に対してだけ、よくこの表情を見せています。穹の想いがハルに感銘を与えなかったわけはありませんが、それでもハルはこの選択を止めなければなりません。
「穹、よく聞いて」
穹の両肩をつかみ、ハルは真剣な色合いを表情に浮かべます。
「穹は奈緒ちゃんが悪いって言うけど、僕だって悪いんだ」
「ハルは悪くない!! 全部あの女が…」
「そうやって僕だけ責任を取らせてくれないの?」
「!! それは…」
奈緒も苦しんでいた。ずっと苦しんできた。そしてそれは僕のせいだと、知ろうともしなかった自分に罪があるとハルは言います。ハッキリいうと奈緒が暴走の末に自爆しただけですから、ただの自業自得だし、ハルの祖父母だって、ハルや穹を気遣って事を荒立てなかったんでしょうから、ハルが知っておかなくてはいけない理由はないはずです。だから、ハルが責任を感じる理由がよく分からないんですが、そこに言及すると話が進まないのでこの際、無視しちゃいましょう。
ハルは奈緒のことを詫びると同時に、穹まで傷つけていたことを謝ります。
「……ハルは馬鹿だ。一人で全部抱え込んで…わかってた…こんなことをしてもハルを困らせるだけだって」
判っていても、身体が勝手に動くときもある。穹にはそれでも、守らなければいけないものがあったから。
「私…間違ってたの? ハルを守る方法」
「いいよ……ありがとう」
「私…どうすればいい?」
「穹の好きにすればいいよ」
「そんなこと言われても…」
穹の好きにすればいい、何気ないハルの言葉ですが、これは実際原作にも似たような台詞があります。というより、この流れ自体が原作の奈緒シナリオにおけるバスのシーンとほぼ同じです。ただし、若干言葉が違うとともに、原作ではなかった台詞が付け加えられています。
「まずは戻ろう? 奥木染に。このまま逃げ出したって行く場所なんてないんだ」
「二人でいられるように、この街に来たんだから」
ハルの好きにすればいい、この言葉は原作の回想シーンにおいて、両親を失って今後に悲観していたハルへ、穹が投げかけた言葉です。これによって穹まで失いたくないことを実感したハルは、穹を連れて奥木染に行くことを決めます。
3話のレビューで書いたと思いますが、コミカライズに置いてこの穹の台詞は登場しません。何故なら、ハルが奥木染に行くことを決めた理由が、原作とまるで違うからです。両親の葬式後、泣いている穹を見たハル。「ずっと、ずっと一緒にいてよ、ハル…」と、泣きながらしがみついてきた穹の姿に、ハルは奥木染行きを決めるのです。そもそもの理由が穹であり、穹と離れたくないという理由がハルの中にもあったにせよ、ハルは穹とずっと一緒にいるために、奥木染を選んだのです。
だからこそでしょうか、奈緒シナリオの流れをほぼ再現しているというのに、展開されているのはハルと穹の話です。バスを降りて奥木染に戻るのも、なにもかもが奈緒シナリオと同じなのに、そこに描かれているのは穹シナリオでしかなかった。
他のシナリオを吸収した上で穹へと繋げる手法は、既に5~6話の時点で一度やっていますが、アレは話を大幅に変えた上での瑛シナリオだったから……そう考えると、今回はまるで違和感がないなぁ。元々、ハルにとって奈緒とのことが過去でしかないってのもあるんだろうけど、この違和感の無さは凄いと思った。
「はるちゃんたち、どこまで行ったんだろう」
雨も止み、夜もふけたであろうバス停のベンチに奈緒がいました。もう帰ってこないのかも知れないと思いつつ、ハルとの関係が危うかったことは奈緒にも判っていた。判っていた上で、自分が過去の出来事を忘れようとしていたことを奈緒は認めます。
「そうすれば、はるちゃんと普通に話せると思ったから」
あの日帰ってきてくれて、本当に嬉しかったから……呟く奈緒ですが、彼女の間違いはハルのことばかり考えるあまり、穹のことをちっとも考えていなかったことです。口では色々言うし、実際に気にも掛けていたんでしょうが、穹の心情や感情、気持ちを理解することが奈緒には出来なかった。ハルのことだけで頭がいっぱいだったといえばそれまでなんでしょうが、だからこそ奈緒は手痛い逆撃を被ったのです。奈緒はもう少し、穹のことを考えてあげるべきだった。
「はるちゃん…穹ちゃん…」
「奈緒ちゃん…?」
後悔やらなにやらで途方にくれる奈緒の前に、ハルと穹が現れました。とっくに家にでも帰ったものと考えていたのか、奈緒がそこへいたことにハルはなんだか意外そう。そして時間を決めて落ち会う約束をしていたことを思い出したのかハルは謝りますが、奈緒はそれを謝絶します。ハルを見つめる穹の表情は悲痛であり、まだ心の整理は付いていないのか、なにも言葉を発しません。対する奈緒も、穹を相手になにを言えばいいのか判断がつかず、言葉をどもらせます。
「奈緒ちゃん、ごめん!!」
見かねたハルが、先手を打って奈緒に謝りました。驚く奈緒ですが、ハルは今まで奈緒のことを知ろうともしなかったことを詫び、頭を下げます。そんなハルの姿に、穹は少なからず複雑そうな表情を見せる。
「ごめんなさい。今まで酷いこと言いすぎた。ごめんなさい」
けれど、ハルにだけ頭を下げさせておくわけにもいかず、穹も奈緒に謝罪しました。春日野兄妹二人から謝罪され、自分こそ謝罪する側だと思っていた奈緒は動揺します。
「ハルは…頼りないところがあるから…」
「たまに…奈緒ちゃんが助けてくれると嬉しいかも……」
頬を赤らめながら言った穹の言葉に、奈緒は許されたと感じたんでしょう。涙を流してハルに抱きつきますが、その姿から穹は視線を外します。照れから来るはずの頬の赤みは消え失せ、浮かべる表情は重く、心の底から奈緒を許しているようには見えません。多分、これは推測ですけど、穹は奈緒を許したのではなくて、ハルに対して妥協したんじゃないでしょうか? 穹はハルの説得に応じたというより、ハルの中で自分が奈緒より上の存在であることを確認することができたから、おとなしく従ったんだと思います。原作の奈緒ルートだと、車内でハルは逆レイプ関係なしに昔から奈緒が好きだったという妄言、失礼、自分の気持ちを穹に理解させるわけだけど、コミカライズは奈緒ルートではありませんから、当然のごとくそんな台詞はありません。
瑛ではないですが、どんなときでも自分のことを一番に考えていてくれている、それを穹は実感したんでしょうね。自分からハルを奪うかに見えた奈緒が、これといった驚異ではなくなった。理解したからこそ、穹は奈緒との関係修復を行ったんです。けれど、この場合、奈緒を許したというよりは、ハルのして欲しいことをしてあげただけですから、感動している奈緒を見る穹の視線が冷めているは当然だし、浮かない表情をするのは当たり前なのかも知れない。
実際に原作においても、穹が完全に奈緒と和解するのはハルカナソラの終盤です。正直、あのシーンほどいらないシーンもないというか、奈緒が不人気だからって無理矢理とってつけたかのような強引なシーンだったんだけど、まあそんな個人的な感想はどうでもいいとして、穹と奈緒というのは原作でもそのときまで微妙な関係を続けており、ヨスガノソラ内においては完全に対抗心をあらわにしています。過去の精算をしたからといって、穹の中ではなにも解決していないんです。それは原作もコミカライズも同じことであり、奈緒という過去は過去として、穹にはつかみたい今があるのだから。
日が変わり、スーパータカノで買い物をするハルと穹。お菓子ばかり入れている穹をハルは注意し、穹は「ケチ」と呟く。
「はるちゃん、穹ちゃん」
そこに買い物袋を下げた奈緒がやってきて、スーパータカノの日だから来ていると思ったと話ます。そのためにわざわざ出てきたのかと思わなくもないけど、奈緒にしてみればおいそれと春日野家を訪ねることも出来ないでしょうから、まあ外で会うしかないのかも。
「こんにちは、穹ちゃん」
「ん…」
「えっと…その…」
まだ上手く話せないのか、穹の前で口ごもる奈緒。穹はそんな奈緒を無言で見つめながら、不意に支線をハルへと向けます。
「ハル」
「うん?」
「今度ビシソワーズ飲みたい」
「ええ!? 僕、作れないし」
フランス料理と見せかけて実はアメリカ料理のじゃがいもスープ、私は冷水スープ嫌いなんで食べませんけど、確かにハルがそんな凝ったもの作れたら凄いや。あれって結構手間かかるんですよ、私は作らないけど。
「だったら、奈緒ちゃんに教えてもらえばいい」
思いがけない穹の言葉に奈緒は驚き、感動します。ハルも穹の気遣いに安堵を覚え、奈緒への態度を改めたことに感謝しました。しかし……
「ありがとう、穹」
「別にお礼を言われるようなことしていない」
ハルの感謝の言葉に、穹の態度はそっけない。穹にとって、既に奈緒への関心は尽きたということなのか。
「……奈緒ちゃんと同じことしたら、私も好きになってもらえるのかな」
「? 何か言った?」
「…何でもない」
想いをため込む穹。その行き着く先は……というところで次回に続く。
奈緒シナリオが僅か2話で終わったのはいいとして、ハルが最後の穹の言葉を聞き取れていなかったというラストには驚きました。原作では穹のこの言葉が引き金となって、ハルは穹の気持ちに気づき始めます。ですが、原作はその過程として海に遊びに行ったりしますが、コミカライズだとそのイベントは奈緒シナリオに入る直前に済ませています。さらに、ハルが穹の気持ちに確信を抱くキスに関しても第6話で済ませているという、よく考えたらコミカライズで重要なイベントを逆転させてますね。
後残っているものといえば両親の初盆で都会に帰ることぐらいですが……そこから先は果たしてどうなるのやら。イベントらしいイベントは残ってないし、ここは委員長を交えたオリジナルストーリーでも展開するんでしょうか。いや、オリジナルになどしなくともハルカナソラの委員長シナリオから持ってくればなんとかなるかも知れない。コミックスの1巻が6話収録だったから、残り3話分まで2巻に収録されるはずですが、さすがに3話じゃ完結は出来ないでしょう。1~2話プラスして2巻を通常より厚みのあるものにするってことも出来ますが、それでも全2巻というのは寂しすぎる。アニメ化も控えているんですから。
半分アニメ化の情報を求めて早く手に入れたというかなんというかだけど、まさか一欠片の情報も得られないとは思っていませんでした。せめてアニメ化決定の一文ぐらいあると思ったんですがね……この調子じゃメガミマガジンにもなにもないんだろうな。来月の10日売りアニメ誌に載っているか否か。どちらにせよ、今日はコミックスの正式な発売日ですし、公式が触れる可能性もなくはないでしょう。自社の作品のコミックスが出たのですから宣伝するのが普通ですし、アニメ化とは書けなくとも、帯について触れないわけにはいかない。もっとも、言葉を選ばなければ即叩きに合いそうですが。
Sphereが動かなければ今月はもうネタもないでしょうが、コンプエースで情報を公開していくというぐらいだから、やはり来月号なんですかね。6月末、遠いなぁ。
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