一週間ほど前、徳島行きの準備をするため本屋に行ったんですよ。道中暇つぶしのために本でも買おうと。元々、買うものは決めていたから、本屋についてもそれを手にとってレジに持って行くだけで終わりのはずだったんだけど、本が沢山ある場所に行くとついつい中を回ってしまうというのが本読みの性でして。買いに行ったのは文庫本だったけど、なんとなく新刊及び話題図書みたいなコーナーも覗いたんですよ。ハードカバー好きだしね。そしたら、これから正義の話をしようとか、もしドラなんかのベストセラーの隣に、この本が置いてあったんです。

「金欠の高校生がバフェットから「お金持ちになる方法」を学んだら」というのはまた長いタイトルで、それでいてラノベ風の表紙している本だ、というのが第一印象でした。もしドラの隣にある時点で、ベストセラーになった本を意識しているのかと思ったけど、出版しているのは最近ラノベも始めたPHP研究所でした。絵柄が可愛かったというのもあるけど、長ったらしいタイトルと帯に書かれていた内容にも惹かれて手にとって見ることに。本を開いたとき最初に感じたのは、随分と白いことです。これはなにも空白は目立つということじゃなくて、本文に使われている紙が白上質で、所謂文庫本やハードカバー小説などで見慣れたクリーム系の用紙ではなかったんですよ。この手の紙の特徴として、短いページ数ならまだしも、結構な厚みがある場合は長時間読んでいると目が疲れるというのがあって、単なるラノベや小説の類ではないとはいえ、珍しい紙を使っているなと感じた。ダメですね、実際に本とか作っている側だから、中身より先に装丁とか仕様が気になってしまう。それも大事なことだけど、それがすべてではないというのに。
作者の菅野隆宏という人は聞かない名前でしたが、本業はCGアニメーションや映像編集を手がけるアニメ屋さんらしい。小説は本作が始めてということで、映像作っている人が書いた小説という点で違和感を憶える人がいるかも知れないけど、そんなこと言ったら京極夏彦だって元々はデザイナーですからね。なんでも出来る人ってのは、本当になんでも出来るんですよ。絵も描ければ小説も書ける、そういうものなんです。

さて、肝心の感想ですけど……面白いね、こいつは素直に面白いと思った。私がタイムトラベルものの歴史小説を好きだというのもあるけど、もしドラより断然読みやすかった。もしドラは基本的に表紙で釣るタイプの本で、ビジネス書が可愛い女の子の絵柄で着飾っただけです。小説としてもビジネス書としても優れているわけでもなく、とにかく文章として読みにくいんですよ。これから正義の話をしようは小説じゃないからいいとしても、この作品の良いなと感じたところは、小説として読めるという点でした。大前提に思えて、それが出来ていない作品ってのは結構あるんですよ。もしドラ以降は特に。
もちろん、文章や作風には好みというものがあるから、私が面白い言ったところで、自分の趣味には合わないって人もいるだろうけど、久々に人へ本を薦めたくなった。新書じゃない小説本という時点で経済書として確立されたなにかがあるわけでもないんだが、読みやすさという点ではもしドラを上回るんじゃないだろうか。表紙のイメージ通り、文章や内容もライトな感じがしますしね。
肝心の物語については……まだ発売して間もない本だからネタバレを避けるためにもamazonにある内容紹介からの引用で留めましょう。
不思議な力をもった少女とともに、 経済史上の大事件を追体験していく物語。 少年は世界各地で発生する「経済史のねじれ」を修復するなか、若き日のウォーレン・バフェット(やがて「オマハの賢人」「投資の神様」などと呼ばれる大富豪になる)と出会い、その教えを請うが、そこには大問題が……!
【あらすじ】 刻斗(こくと)(16)の父はバブル崩壊で全財産を失い、家を出ていった。そんな家庭環境のためか金銭欲がめっぽう強い刻斗は、 ずっと気になっていた近所の無人の洋館に忍び込む。高価なものでも隠されていないかと家捜しをしていたところ、 なんとチューリップバブル(球根が投機の対象となることで発生したバブル)に沸き立つ17世紀オランダに迷い込んでしまう!  刻斗は、経済史を司る謎の美少女ユノとともに、 世界を股にかけた時を越える旅に出発する!

歴史ファンタジー、いや、タイムトラベルネタという時点で歴史SFかな。経済史をネタにしている時点で一風変わっているどころではないけど、ラノベを書くための元ネタとして経済史を選んだのか、経済史を元ネタにするためラノベにしたのかで、結構変わってくるんじゃないかと思う。あとがきを読んだ限りでは後者だと思うけど、ラノベって基本的になんでもありですからね。なんていうか、イメージとしては小学校の図書室にあるようなタイムトラベルものの歴史漫画に近い。あるじゃない、偉人や歴史上の事件などに会いに行く学習漫画みたいのがさ。あれほど単純ではないけど、切り口としては近いものを感じたんだよね。そして、私はあの手の漫画が大好きだったから。
キャラはそれをほど際だったものではないし、ネタ以上に奇抜なものなんてありはしないんだけど、だからこその読みやすさなんじゃないかと思う。気軽に気楽に、片意地張らずに経済史の世界へと入っていけるって感じかな。

もしドラはアニメ化が決定したらしいけど、本作は青春アドベンチャーかなにかでのラジオドラマ化を希望したいですね。文量的にも丁度良いと思うし、内容も向いている気がしたから。別に話が地味だって言うつもりはないけど、アニメみたいな視覚的な媒体よりも、ラジオドラマのような音声的媒体の方が返って聴いた人の想像力を膨らます、良い作品になるかなって。それにほら、読んだ人がどこまで共感してくれるかは分からないけど、如何にも青春アドベンチャーで放送されそうな感じがするじゃない。タイプというか、雰囲気が凄く合ってる。流行るかどうかはまだ分からないけど、是非手にとって欲しい一冊です。
ただ、最初のほうに書いたとおり、やっぱり一気に読むのは難しいです。話云々の前に目が疲れる。実は、先週の時点では買わずに今日買ったんですけど、白上質で100ページ以上は止めて欲しいです。細かいことのようで、読む側にとっては結構重要な問題だから。

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