ミステリマガジン 2011年 06月号 [雑誌]
2011年4月26日 アニメ・マンガ
つい1ヵ月ほど前の話になるが、早川書房のミステリ編集部がとある資料を探しているということで、私がそれを提供したことがあった。私は仕事の関係上、早川の編集部とは良い付き合いをさせてもらっているのだけど、こういう形で雑誌に関わることはあまり例がなく、珍しいと言えただろう。まあ、たまたま私が持っていた本を貸しだしただけなので、なにを手伝ったわけでもないのだが、資料提供のお礼にと刊行された雑誌を1冊ほど献本してもらったので、この日記で取り上げてみようと思う。
私は基本的にSF畑の人だから、早川の雑誌はミステリマガジンよりもSFマガジンの方をよく読んでいると思う。とはいえ、ミステリの方にも編集者の知り合いは多いし、マガジンの担当編集は世代が近いこともあって、顔を合わせればなにくれとなく会話することがしばしばあります。まあ、そんな縁もあって今回の件に繋がったんですが、今月号は色々と凄いね。なにせ、表紙からしてこれまでのミステリマガジンとは違いすぎる。
最初に名探偵コナンの特集をマガジンで組むと聞かされたとき、私はそれほど意外さを覚えなかった。何故なら、特集と言ってもレビューコーナーなど小さい部分のことであり、まさか雑誌を上げてその月の目玉企画にするなどとは思ってもいなかったのだ。SFマガジンはまだしも各種メディアミックスに対し柔軟な対応をすることもあり、漫画やアニメ、ライトノベルといったものにも造詣が深く、自社から刊行されているマルドゥック・スクランブルがアニメ映画として公開されたことからもそれは読み取れるだろう。
勿論、ミステリの方にもそういったメディア展開がないわけではなく、代表的なもので言えばNHKにて放送された名探偵ポワロとミス・マープルのアニメがある。クオリティの高さで有名なNHKアニメにしては、声優のキャンスティング等の問題もあってそれほど流行りはしなかったが、つい5,6年ほど前の作品であるし、記憶に新しい人も多いだろう。
だが、これはあくまで自社が版権を所有している作品のことであって、一般的なイメージとしてお堅い印象を受けるミステリマガジンが、他社の漫画・アニメ作品をここまで大々的に特集するのはそれほど例のあることとは言えないはずだ。SFマガジンならともかく、ミステリマガジンの表紙にアニメキャラが載ることなど、少なくとも私の記憶にはないことだった。
もっとも、名探偵コナンの探偵漫画、もしくは推理漫画としての歴史の長さを考えれば、今まで特集が組まれなかったことが不思議なくらいかもしれない。表紙にも書いてあるとおりアニメですら既に15年も放送しており、漫画に至っては17年だ。特集記事にも記載はあるが、所謂金田一少年のブームから派生した作品としては最長であり、現在も連載が続いていることを考えると、今や原点すら軽く超越した、一種の驚異といえよう。週刊漫画というものを滅多に読まない私ですら、何故かコミックスの大半を所有し、尚且つ毎年公開される映画を観に行っているというのだから、大勢の人々を惹きつける魅力を常に有しており、それでいて輝きを失わないなにかがあるのだろう。
ミステリマガジンの特集内容を軽く解説すると、まずはカラー口絵に原作者の青山剛昌の写真付きインタビューが載せられている。彼もミステリ畑の人間であるからして、創刊から55年の歴史と格式を持つミステリ雑誌で特集を組まれることに、感慨深さや光栄さを覚えたのかもしれない。連載当時の事情や最近の動向など基本的なことに加え、まだどこにも明かしていないかのような情報なども含め、かなり饒舌に喋っている印象を受けた。まあ、青山剛昌はシャーロキアンに近いものがあるから、ポアロを始めとしたクリスティの著作をメインとするハヤカワ・ミステリとは違う部分があるのかもしれないが、インタビュー中は始終機嫌が良かったという話も小耳に挟んでいる。
けれど、考えて見れば確かにコナンは有名であり、国民的漫画ないしアニメと言ってもいいのだろうが、媒体が媒体であるからして、どうしても子供向けという印象が拭えない。レビュアーやミステリ研究科がコナンのコミックス各巻やアニメを解説するページにも書いてあったが、大人の読書、視聴に耐えうるものであっても、先入観からくるイメージで、大人向けであるとは思いづらいのだろう。
剛昌のインタビュー記事で気になったのは、工藤新一と黒羽快斗が似ている理由についての言及だった。工藤新一とは江戸川コナンの本来の姿であり、黒羽快斗とは怪盗キッドの正体のことである。そもそも怪盗キッドはまじっく快斗という剣勇伝説YAIBAよりも古い作品の主人公であり、このことからも、新一が後出の主人公である故に、旧作の主人公と顔付きが似ているのだろうとファンの間ではされてきた。作品に対する理由付けとしては少々メタだが、同じ作者が描いているのだから、当たり前といえば当たり前である。しかし、剛昌曰くそれは間違いであり、いや、間違いではないのだが、他にも理由があるというのだ。
「常識的に考えて、あんなに顔が似ている人間がいるわけないじゃないですか」
この記述を読んだときの、私の驚きようといったらないね。なんとも言えない胡散臭さと、どうせ後付に決まっているという偏見に近い確信を抱きつつも、それでもあるいは、もしかしたらと思う心も、確かにあったのだから。
実際それがどういう事なのか、ここで書くつもりはないが、ミステリマガジンを買って読めば、そこにたった一つの真実が書いてあるかもしれない。特集以外は連載小説や連載企画ばかりなので、普段読まない人には面白くもなんともないかもしれないが、コナンが好きで、もっとコナンのことを知りたいという人には、まあ楽しい特集なのではないかと思う。現に私は楽しめたし、ミステリ畑の人々がコナンを批評し、解説するというのもなかなかに見応えがあった。表紙からも判るようにアニメ15周年に引っ掛けた特集だったのだろうが、少なくとも現況の推理漫画、アニメでそんなことが出来るのはコナンだけであり、むしろ一般のミステリ雑誌に取り上げられたことで、コナンもまた純粋なミステリ作品として認められたフシがあるのではないだろうか? そこまでミステリマガジンは大層な雑誌ではないと思う方が大半かもしれないが、私はこれも一つの偉業として、誇っていいことだと考えている。少なくとも、漫画やアニメがその敷居を跨ぐことはとても大変なことなのだ。
ミステリマガジンは最近になって誌面の方向性が変わってきているとも言われている。まず、SFマガジンのようにアニメやゲームのレビュー欄が生まれた。つまりコナンを取り上げるだけの下地は既に出来ていたわけだが、よりオタク的な話を持ち出すなら、探偵オペラミルキィホームズが1ページ記事ながらも特集されたのが思い起こされる。確か、2011年の1月号だったか。あのときはメインの特集が相棒だったこともあり売れたと言うが、ミルキィ効果も少なからずあったのは周知の事実であろう。古参のミステリファンがこうした誌面の変化をどう思っているかは知らないが、私はこれもまたありだろうと考える一人である。
私は基本的にSF畑の人だから、早川の雑誌はミステリマガジンよりもSFマガジンの方をよく読んでいると思う。とはいえ、ミステリの方にも編集者の知り合いは多いし、マガジンの担当編集は世代が近いこともあって、顔を合わせればなにくれとなく会話することがしばしばあります。まあ、そんな縁もあって今回の件に繋がったんですが、今月号は色々と凄いね。なにせ、表紙からしてこれまでのミステリマガジンとは違いすぎる。
最初に名探偵コナンの特集をマガジンで組むと聞かされたとき、私はそれほど意外さを覚えなかった。何故なら、特集と言ってもレビューコーナーなど小さい部分のことであり、まさか雑誌を上げてその月の目玉企画にするなどとは思ってもいなかったのだ。SFマガジンはまだしも各種メディアミックスに対し柔軟な対応をすることもあり、漫画やアニメ、ライトノベルといったものにも造詣が深く、自社から刊行されているマルドゥック・スクランブルがアニメ映画として公開されたことからもそれは読み取れるだろう。
勿論、ミステリの方にもそういったメディア展開がないわけではなく、代表的なもので言えばNHKにて放送された名探偵ポワロとミス・マープルのアニメがある。クオリティの高さで有名なNHKアニメにしては、声優のキャンスティング等の問題もあってそれほど流行りはしなかったが、つい5,6年ほど前の作品であるし、記憶に新しい人も多いだろう。
だが、これはあくまで自社が版権を所有している作品のことであって、一般的なイメージとしてお堅い印象を受けるミステリマガジンが、他社の漫画・アニメ作品をここまで大々的に特集するのはそれほど例のあることとは言えないはずだ。SFマガジンならともかく、ミステリマガジンの表紙にアニメキャラが載ることなど、少なくとも私の記憶にはないことだった。
もっとも、名探偵コナンの探偵漫画、もしくは推理漫画としての歴史の長さを考えれば、今まで特集が組まれなかったことが不思議なくらいかもしれない。表紙にも書いてあるとおりアニメですら既に15年も放送しており、漫画に至っては17年だ。特集記事にも記載はあるが、所謂金田一少年のブームから派生した作品としては最長であり、現在も連載が続いていることを考えると、今や原点すら軽く超越した、一種の驚異といえよう。週刊漫画というものを滅多に読まない私ですら、何故かコミックスの大半を所有し、尚且つ毎年公開される映画を観に行っているというのだから、大勢の人々を惹きつける魅力を常に有しており、それでいて輝きを失わないなにかがあるのだろう。
ミステリマガジンの特集内容を軽く解説すると、まずはカラー口絵に原作者の青山剛昌の写真付きインタビューが載せられている。彼もミステリ畑の人間であるからして、創刊から55年の歴史と格式を持つミステリ雑誌で特集を組まれることに、感慨深さや光栄さを覚えたのかもしれない。連載当時の事情や最近の動向など基本的なことに加え、まだどこにも明かしていないかのような情報なども含め、かなり饒舌に喋っている印象を受けた。まあ、青山剛昌はシャーロキアンに近いものがあるから、ポアロを始めとしたクリスティの著作をメインとするハヤカワ・ミステリとは違う部分があるのかもしれないが、インタビュー中は始終機嫌が良かったという話も小耳に挟んでいる。
けれど、考えて見れば確かにコナンは有名であり、国民的漫画ないしアニメと言ってもいいのだろうが、媒体が媒体であるからして、どうしても子供向けという印象が拭えない。レビュアーやミステリ研究科がコナンのコミックス各巻やアニメを解説するページにも書いてあったが、大人の読書、視聴に耐えうるものであっても、先入観からくるイメージで、大人向けであるとは思いづらいのだろう。
剛昌のインタビュー記事で気になったのは、工藤新一と黒羽快斗が似ている理由についての言及だった。工藤新一とは江戸川コナンの本来の姿であり、黒羽快斗とは怪盗キッドの正体のことである。そもそも怪盗キッドはまじっく快斗という剣勇伝説YAIBAよりも古い作品の主人公であり、このことからも、新一が後出の主人公である故に、旧作の主人公と顔付きが似ているのだろうとファンの間ではされてきた。作品に対する理由付けとしては少々メタだが、同じ作者が描いているのだから、当たり前といえば当たり前である。しかし、剛昌曰くそれは間違いであり、いや、間違いではないのだが、他にも理由があるというのだ。
「常識的に考えて、あんなに顔が似ている人間がいるわけないじゃないですか」
この記述を読んだときの、私の驚きようといったらないね。なんとも言えない胡散臭さと、どうせ後付に決まっているという偏見に近い確信を抱きつつも、それでもあるいは、もしかしたらと思う心も、確かにあったのだから。
実際それがどういう事なのか、ここで書くつもりはないが、ミステリマガジンを買って読めば、そこにたった一つの真実が書いてあるかもしれない。特集以外は連載小説や連載企画ばかりなので、普段読まない人には面白くもなんともないかもしれないが、コナンが好きで、もっとコナンのことを知りたいという人には、まあ楽しい特集なのではないかと思う。現に私は楽しめたし、ミステリ畑の人々がコナンを批評し、解説するというのもなかなかに見応えがあった。表紙からも判るようにアニメ15周年に引っ掛けた特集だったのだろうが、少なくとも現況の推理漫画、アニメでそんなことが出来るのはコナンだけであり、むしろ一般のミステリ雑誌に取り上げられたことで、コナンもまた純粋なミステリ作品として認められたフシがあるのではないだろうか? そこまでミステリマガジンは大層な雑誌ではないと思う方が大半かもしれないが、私はこれも一つの偉業として、誇っていいことだと考えている。少なくとも、漫画やアニメがその敷居を跨ぐことはとても大変なことなのだ。
ミステリマガジンは最近になって誌面の方向性が変わってきているとも言われている。まず、SFマガジンのようにアニメやゲームのレビュー欄が生まれた。つまりコナンを取り上げるだけの下地は既に出来ていたわけだが、よりオタク的な話を持ち出すなら、探偵オペラミルキィホームズが1ページ記事ながらも特集されたのが思い起こされる。確か、2011年の1月号だったか。あのときはメインの特集が相棒だったこともあり売れたと言うが、ミルキィ効果も少なからずあったのは周知の事実であろう。古参のミステリファンがこうした誌面の変化をどう思っているかは知らないが、私はこれもまたありだろうと考える一人である。
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