エリスルートの話を書く前に、アンケートハガキにもあったお気に入りのキャラクターに付いて少し語ってみましょうか。エロゲの付属ハガキに好きなキャラ等を書く欄があるのは珍しいことでもなんでもないんですが、ユースティアは面白いことにプレイ前とプレイ後で選ぶようになっていた。体験版ないし、各種雑誌の情報から受ける印象と、ゲーム本体を遊び終わってからの印象でどこまで違うのか。言われてみれば、体験版はイレーヌやリシアがほとんど出ませんし、外見が好きだというならまだしも、中身も含めて好きだとは言いがたいののかもしれません。その点、ティアとかエリス、それにフィオネは有利ですよね。

さて、そんなエリスルートですが、意外にも牢獄編は彼女のシナリオで最後となります。つまり、牢獄という空間が舞台になるのはここまでというわけで、そのためヒロインのエリス以外にも不蝕金鎖の頭であるジークなども密接に絡んできて、謂わばカイムとその友人たちの過去を含めた物語展開となった。過去の精算という意味では、カイムにしろジークにしろ同じことで、それが身請けした女と異母兄の違いがあるぐらいか。どちらも何とかしなければいけないと分かっていながら、様々な負い目から後回しにしてしまい、泥沼とになってしまった。自業自得と言ってしまえばそれまでだけど、悩ましい問題であったことには違いない。
エリスの抱えている問題は、ヒロインという枠組みで考えると、本来ならあってはならないようなものです。体験版だけの印象で彼女を語れば、主人公と古馴染みであり、彼に身請けされたことで惚れ込んだ幼なじみタイプのヒロインということになるでしょう。数年来の付き合いだからこそ、新しい女に対して嫉妬を覚えずにはいられない。ティアは勿論のこと、フィオネなど仕事関係の女にも嫉心を向ける。つまりは酷いヤキモチやきなのだと、普通はそのように思うはずです。幼なじみタイプとしてはありがちだし、そこから考えられるシナリオは今まで有耶無耶にしてきた関係性の成立か精算、今の流行りならエリスがヤンデレと化すみたいな、そんな感じがベタでしょうか? でも、実際に展開された話はヤンデレなど通り越した、もっと重たくて根の深いものだった。

ハッキリ書くと、エリスという女は壊れています。後に出てくる聖女ほど頭が逝っているわけではないですが、そもそも自らを人ではなく人形であると定義している彼女にとって、カイムは恋愛感情から執着する相手ではありませんでした。ジークやメルトは、あくまでエリスはカイムに惚れていることを前提にしており、当のカイム本人ですら、その通りであると思っていた。けれどそれは大きな間違いで、エリスがカイムに求めていたものは彼らが想像もしないものだった。世の中には男に縛られたい女もいると言うけど、エリスはその究極かもしれない。彼女には主体性というものがないのだ。結局、エリスが医者というか人間をやっているのは、カイムがそう命じたからに過ぎなくて、その意味で彼女は正しくお人形さんだった。いや、そういう単語が存在しないだけで、ロボットと表現したほうが分かりやすいかもしれない。多少の自主性はあっても、主が命令を行わない限り具体的な行動を起こそうとはしない、エリスはそういうロボットなのだ。
命令をしてくれる相手ならカイムでなくても構わないというのは、強りがりでもなんでもなくエリスの本音であったことでしょう。彼女の生い立ちがどういうものか、具体的には語られていないし、決して良いものでなかったのは見て取るように分かる。カイムの間違いは、出会った当初の印象を完全に拭いきれていたと思っていたことであり、ティアやフィオネといったカイムに近しい女性の出現でエリスが変わったことを、嫉妬の類と先入観で決めつけていたことにある。
カイムのとった選択は、決して間違いではない。その考えも、彼の立場からすれば当然のことだったろう。フィオネのときもそうなのだが、カイムがヒロインと結ばれるには相手の弱さや痛みを受け入れ、自らも背負うことで初めて成立するのだ。つまり、そうしないということはヒロインの成長を諭し、独り立ちさせるということである。だからこそ、ルートに入らず進んだ場合のヒロインは主人公に対して覚め気味であり、言ってしまえばカイムは各々のヒロインを見捨てたことになるのだ。エリスはまだしもいい具合に成長できたけど、フィオネなどは蟠りが残ってしまった。嫌わせる必要まであったのかとは、思わなくもない。

このシナリオの見所は、エリスというよりはジークとベルナドの方だろう。ただ、カイムにしろジークにしろ、「牢獄なら~」という表現を多用し過ぎるような気もする。誰に対しても同じことばかり言って、まるで言い訳のように聞こえる。ベルナドが本当に不幸で、ジークが幸福なのかといえば、異論を挟む余地はいくらでもありそうだけど、ジークはもう少し上手くやるべきだったと思うね。結果論で言えば彼は勝ったけど、カイムがそうであったように、それは泥臭い勝利だった。それほど嫌いなシナリオではなかったけど、これといって好きになる理由もない、そんな話でした。

コメント