ユースティア日記再開ということで、3回目は聖女イレーヌのルートになります。所謂牢獄編が終了し、一気に上層編となる第3章ですが、通行証一枚で上まで行けてしまう辺り、なんとも呆気無い気がしますね。聖女に招待されたティアとカイムはまだしも、エリスなんかも気軽に大聖堂まで来られる辺り、どうなっているんだって感じです。特にエリスは後のシナリオで王城の中に入ったり、上層までフラリと現れることがあるから、牢獄とか言っても案外出入りは自由なんじゃないかと思えてしまう。考えて見れば第1章でフィオネの家に行ったときも、楽々と下層まで行って拍子抜けした覚えがある。もっとこう、勝手に抜けだしたら斬首刑ぐらいの厳しい場所って想像をしていたから。

イレーヌルートと言いつつ、実際は彼女とそのお付きであるラヴィのシナリオになっています。メインはあくまでイレーヌですが、流れによってはラヴィの方を攻略することになり、むしろ彼女のルートなのではないかと思わせるシーンも度々ある。そう考えるとラヴィがパッケージにいないのはおかしいような気もするけど、まあ、立ち位置としてはおまけ程度なのだろうか。ラヴィはイレーヌ以上に体験版で出番があり、カイムとの絡みもありましたからある程度のキャラクターは事前につかむことが出来ます。印象としては体験版のときに受けたものと大差なく、いい意味で代わり映えないキャラですね。
一方、イレーヌは後に出てくるリシアほどではないにせよ出番の少ないキャラで、本格的に絡むのは本編からとなっています。見た目は気弱でか弱い聖女様って感じなんですけど、実際に会って話すとまったく違う印象を受けます。一言で言えば高位聖職者を絵に書いたような感じで、自身の信仰を絶対のものとして、それに理解を示さない相手は平気で見下すような人物です。要は、居丈高なんですね。時折人を小馬鹿にしたような、「なに言ってんだ、こいつ?」みたいな表情をするんだけど、個人的にはそこがイレーヌの魅力だったように思う。プレイ前はもうちょっと従順な、信仰に敬虔な無垢なる少女を予想していましたが、そういった要素はラヴィの方に求めるべきみたいね。二人で一人というわけではないけど、お互いに足りない部分を補い合う、そんな関係なんでしょう。まあ、好みは分かれそうなシナリオであり、ヒロインだけど、当初の予想を裏切られたからと言って、私は別に嫌いになったりはしませんでした。この時点では。

このシナリオの特徴としては、登場人物の誰しもがを付いていることです。それは他人に対してでも、自分に対してでも同じことで、例えば29代聖女イレーヌ、イレーヌは継承名に過ぎませんから、本名はコレットというらしいですが、彼女なんてもう存在自体が嘘っぱちみたいなものですからね。でも、考えて見れば、聖女が血縁等による世襲制でない時点で、気付くべきだったのかも知れない。ユースティアは一見するとファンタジーな世界ですけど、羽付きとかそういう身体的現象や、都市が浮いているという事実を除けば、特に魔法等が出てくるわけでもない、至って平凡な中世的世界観になっています。羽付きは病気と言うことになっているからともかくとして、この世界で唯一聖女だけが、祈りの力で都市を浮かせるという、不思議パワーを発揮しているわけなんですよ。カイムは昔からの言い伝え、神話や伝説のたぐいであると言っていましたが、少しおかしいと思いませんか? 聖女が世襲制で、その血縁によって引き継がれるというのなら、その理屈も分からなくはありません。聖女の一族にだけ、そうした不思議パワーが受け継がれてきたで済みますから。でも、29代イレーヌであるコレットは、元々は教会外部の人間であり、28代目を尊敬こそしていましたが、血縁があるわけではありません。ましてや、29代目を選出する際、最初はラヴィの方に話が来たというほどですし、場合によっては彼女が聖女となって都市を浮かせていたかも知れないのです。そんな馬鹿な、おかしな話はないでしょう。その理屈なら、信仰心の高い女声ならば誰でも聖女となって、祈りの力で都市を浮かせることが出来ることになってしまう。
そういう世界なのだ、という事実でカイムは納得していたようですが、今代の聖女であるコレットは違いました。彼女はとある理由から、聖女という者の真実を知ってしまったのです。だからこそ、彼女は自らの信仰、つまり天使信奉を貫くことが出来た。教会内ではさも、都市を浮かせる聖女を演じながら。

ラヴィもまた、重大な嘘を抱えて生きている少女です。彼女は自分が聖女の役目を断った理由にコレットを上げ、ある意味では自分より信仰心の厚い彼女に役目を押し付けてしまったと語っていますが、それは真っ赤な嘘です。勿論、そうした罪悪感がなかったとは言いませんが、彼女の場合はどうしたって聖女になどなれなかった。その理由は、主に彼女の背中にあります。イレーヌが執り行う儀式には全裸で行う沐浴があり、ラヴィには絶対に不可能なことだったのです。
コレットとラヴィのシナリオは友情の復活が一つのテーマみたいなものですけど、その逆に友情の崩壊も描いています。真実の一端を知ってしまったカイムと、それを知りうる立場にはなかったジーク。カイムが上層に上がった時点で、二人の関係には大きな差が生まれることになった。これまでジークは不蝕金鎖の頭であり、友人とはいえカイムを雇う側の人間であった。対等に見えて、実はそうじゃなかったんです。けれど、カイムが上層に行って、聖女イレーヌの元で様々なことを見聞きした結果、もはや二人は同じ認識や意識を共有することが出来なくなっていた。カイムは情報量において、牢獄の王を上回ってしまったから。
カイムがあくまでコレットとラヴィの言い分を信じるなら、そのまま二人のルートになります。途中、コレットを抱くか抱かないかで微妙に展開がラヴィよりになったりするけど、それはまあ良いとして、カイムはコレットルートにおいて、馬鹿げているとは思うが一緒にいる内にそっち側の人間になってしまったと述懐しています。彼は、自分がすでに牢獄と考えを同調させることが出来ないことを悟っていたのです。再び崩落が起き、メルトという初恋の女性が死んだにも関わらず、彼は牢獄の気持ちを代弁することが出来なかった。だから、ジークと決裂するしかなかった。
これはコレットルートに進まなくても言えることで、既に真実の階段を登り始めてしまったカイムと、牢獄という最下層で王を続けているジークでは、歩調を合わせることは不可能なんですよ。カイムは身軽だった。彼はであるが故に、止まることが出来なかったから。

世界の真実に近づいたカイムは、上層にてルキウス卿と協力しあうことで、更なる確信を得ようとする。舞台は聖域から王城へと変わり、最後のヒロインがカイムの前へと姿を表すのですが、その話はまた明日ということで。この作品で一番好きなヒロインの話になるので、ちょっと長くなるとかと思いますが、なるべく早いうちに書き上げてしまおうかと思います。

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