Anotherの0巻が発売されて、私もアニメイト横浜店で引き取って来ました。場所によっては完売している店舗もあるそうですが、なにか特典がつくというわけでもなかったので予約に際して内金の掛からなかったアニメイトを選択したんだけど、DVD付きコミックスというのは、やはり値が張りますね。今の時代、主流はBDだろうという声も多いようだけど、これに関しては仕方ないと思う。皆が皆、BDを持っているわけじゃないし、DVDは観られるけどBDは観れないという人はいても、その逆はまずありえないでしょ? そう考えると、当分は書籍もCDもDVD付きが続くんじゃないのかな。それに、BDに変えると高そうだしね。

0巻はTV本編が始まる直前の、謂わば前日談に当たる物語です。主人公は本編のヒロインを務めた見崎鳴と、その従姉妹である藤岡未咲の二人で、主要キャラという意味ではそれが全てとなります。恒一は最後の方にちょっとだけ登場しますけど、夜見北の生徒はモブで後ろ姿が映る程度の登場となり、話は始終、鳴と未咲の関係や繋がりについて描いていました。
藤岡未咲という少女は建前的には鳴の従姉妹ということになっていますが、実際は双子の姉妹であり、鳴は物心付く前に見崎家に養女へ出されたという過去があります。お互いがその事実を知ったのは少し前のようですが、未咲自身は自分と鳴の相似から薄々感づいてはいたらしい。母親同士が姉妹だからといって、いくらなんでも似すぎていると。この辺り、大叔母から聞かされるまで気付けなかった鳴とは違いますね。鳴が素直なのか、それとも未咲の勘が良かったのかは分かりませんが、双子であり同じ容姿を持っていながら、二人はまったく異なる内面を持つ少女として視聴者の前に姿を表します。それは育った環境に差異があったからなのかもしれないし、あるいは生来の気性だったのかもしれないけど、鏡のような存在という意味では、まさしく二人は真逆だった。
鳴は未咲を好いていたし、他者との繋がりを否定し続ける彼女が、唯一自分から繋がりを求めていたのが双子である未咲です。同じように未咲も、離れて暮らす鳴の存在には強い感情を抱いていたようで、そういえば双子は一定期間離れているとお互いを求めやすいなんて話もありますよね。双子の姉妹は創作物だと珍しいことではないですが、鳴と未咲は実に仲睦まじい姉妹に見えました。モブ出演していた3組の百合コンビにも負けないぐらい。もっとも、あちらと違って、こちらは姉妹愛だと思いますが。

未咲は少し茶目っ気の強い部分もありますが、ごくごく一般的な少女であることに変わりはなく、常にミステリアスな雰囲気を醸し出している鳴とは、まるで印象の異なるキャラクターです。未咲の言動から、どちらかと言えば普段は彼女がお姉さん役として鳴を引っ張っていたようですが、鳴自身もそうした未咲の快活さにもたれ掛かるというか、依存している部分は合ったのかもしれない。大切な姉妹だから、というのもあるだろうし、あの時点で唯一自分の本音を曝け出せる相手だったわけだしね。だからこそ、失ったときの衝撃も大きかった。
鳴を見崎家へ養女に出したことに対し、未咲の母親、つまり鳴の実の母でもある人は多少なりとも後悔している模様です。未だに実の娘であると思っているそうですし、まあ、経済的な事情から手放さざるを得なかったことを考えれば、愛情がないってことはありませんよね。もっとも、未咲は母親についてこそ言及しましたが、父親については触れていません。母親と違い、鳴のことを口にだす機会がないのかも知れませんが、父親にしてみれば自分の稼ぎが少ないばかりに、養女へ出す羽目になった娘ですから、複雑な気持ちを抱いているのかもしれない。鳴の養母である霧果は、妹から娘を奪ったことに後ろめたさを感じていることもあるそうですが、その旦那のことまで考えていたかどうかは……はてさて、どうなんでしょう。
見崎家は藤岡家に比べると、経済的に裕福な立場にあります。鳴の父親は海外を飛び回っている実業家の類だそうだけど、芸術家である妻のパトロンでもあることを考えると、むしろ金持ちじゃない方がおかしいのかな。あの人形館にしたところで、霧果のために建てた住居兼用のビルだというし。そもそも海辺に別荘まで持っているんですから、アパート暮らしらしい藤岡家とは、雲泥の差ではないだろうか。未咲は自分だけが藤岡家に残ったことを、鳴と同じく名前の問題だと思っており、それも含めて実の両親と暮らせない鳴に負い目を感じています。けれど、鳴が左目を失ったのは病気のせいであって養女に出たからではないし、むしろ生活面から言えば未咲よりよっぽど恵まれています。未咲自身言ってましたが、彼女の部屋は畳に布団なのに対し、鳴はそれなりに広いフローリングの個室ですからね。しかも、鳴自身はそれを広いとも凄いとも思ってないから、やっぱり育った環境の差ってのはあるんじゃないだろうか。

鳴は左目の義眼で、未咲に死の色を観てしまいます。3組の災悪のこともあり、気が気でなかったわけだけど、そうした事情の全てを未咲に明かしていたわけでもなかった。これはTV本編でも言ってましたが、義眼の秘密について語ったのは恒一が初めてであり、未咲には「変なものが視える」程度にしか話してなかったことが、二人の会話から分かります。ルールの関係上、未咲に3組の抱える問題を明かすことが出来なかった鳴は、精々控えめに呪われていることを漏らしていましたが、彼女自身、この時点では災悪なんてものを信じてはいませんでした。鳴はミステリアスであるといっても、別に常識外れな性格をしているわけでもなかったし、まさか呪いなんてものが本当にあるとは思ってなかったんでしょう。
でも、現実に未咲から死の色を視てしまった鳴は、彼女を守るために動き出します。遊園地に行った際も、不審な人を見かければ自らが盾となろうとしたり、目の特性を考えれば、これから事故や事件に巻き込まれて死ぬ人から死の色は視えないはずなんだけど、これに関しては深層心理の中にあの光景が、三神先生が通り魔に襲われた記憶が残っていたからなのかもしれまえせん。そう考えると、鳴のあの行動にも納得がいくと思う。鳴は未咲を守りたかったんですね。遊園地での観覧車のシーンは、あそこで未咲が死ぬことはないと分かっていても、ハラハラしてしまう展開でした。本編でも基本的に守られる側であった鳴が、必死で未咲を助けようとしている姿は、流石に見ていて辛かった。
結局、観覧車では事なきを得るわけですが、遊園地からの帰り道に未咲は倒れ、白血病を患いそのまま帰らぬ人となりました。容態が急変して、ということなのでしょうが、治ると言われていたものが、鳴という骨髄移植可能な確実なドナーもいたのに、やり切れないという話ではないと思います。鳴はこのとき、初めて3組の災悪、呪いの存在を受け入れざるを得ない状況になった。彼女が姿見を割ったのは、自分の左目、死の色が視えるだけの義眼に、なんの意味もないと絶望してしまったからじゃないかな。

そうして物語は本編へと繋がり、一話のエレベーターのシーンが鳴視点から再現されます。未咲を失った直後である鳴は恒一の存在を気に留めておらず、彼の問いかけに対する返事も半分以上が裏の空、無意識の内に相槌を打つ感覚だったのかもしれない。現に鳴は病院のエレベーターで恒一と会ったことを覚えてなかったし、一度として彼の方を見てはいないんだよね。それでも来訪目的や名前を答えたのは、あるいは自分のことを誰かに知ってもらいたくて、唯一未咲だけに聞かせていた自分の本心や本音を、誰かに聞いてもらいたかったのかも。
榊原恒一が見崎鳴の真実を知る少年なら、藤岡未咲は見崎鳴の本質を知る少女でした。恒一もまた、鳴の本質や本音の一端を垣間見ることは出来ましたが、そのほとんどは未咲の死とともに失われたものばかり。例えば笑顔にしたところで、0巻では非常に多くの笑みを未咲に対して向けている鳴ですが、本編では数える程度しかありません。勿論、30分しかない0巻と本編全体を合わせれば、後者のほうが数において優っているのかもしれないけど、日常的な表情の変化、という意味では、0巻の方がより自然体だよね。
未咲は作中で彼氏や恋人、もっと簡単に言うと好きな人の存在について言及しています。彼女はバンドの趣味が同じ相手に恋心を抱いていたようですが、鳴はまったく興味が無い。田舎の中学生という年頃から考えると、むしろ未咲の方が普通なのかな? と思えなくもないけど、誰か紹介しようかという辺り、彼女は男子との交友関係も普通に広いんでしょう。まあ、鳴に見合った相手がいたのかどうかはともかくとしても、あるいは男っ気のない姉妹を気遣って、とりあえず付き合ってみればと適当に見繕うつもりだったのか。今となっては、もう分からないことですが。

未咲を失った鳴は、それと入れ替わるように恒一と出会います。勿論、恒一は未咲ではありません。彼が未咲の代わりになるわけではないのですが、0巻を見た後に本編を見直すと、鳴が段々と恒一に心を開いていく様や、失った笑顔や感情を取り戻していく過程がよく分かります。6話もそうですし、最終話にしても最後は鳴の笑みで終わるわけですしね。埋め合わせ、というわけでもないのだろうけど、鳴にとって恒一は未咲のように失いたくない、傷つけたくない存在であったのは事実だと思う。
だからこそ、鳴は恒一の前では頻繁に眼帯を外していたのでしょう。彼に死の色が視えないことを確認し、自分自身が安心するためにも。この辺りは推測ですが、恒一は十分、鳴に相応しい相手だと思いますよ。未咲の代わりにはなれないかもしれないけど、だからこそ、一緒に同じ道を歩けることが出来るのではないか? 少なくとも、私は恒一と鳴の、二人の未来に幸あれと願います。
けど、0巻にはもうちょっと恒一の出番があっても良かったんじゃないかな。未咲のお見舞いに来た鳴が、あるいは院内を歩いていた未咲が、気胸で緊急搬送されてきた恒一とすれ違うとか、そんなシーンがあっても良かった気がする。でもそうすると、未咲との繋がりが絶たれた後に、恒一との繋がりが始まったということに離れないのか。難しいけど、恒一と鳴については本編で観ることにしましょう。

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