最近、ヴァニタスの羊でこの日記に飛んでくる人があまりに多いので、試しに検索してみたら私が書いた感想が、かなり上位に出るみたいですね。正直、あの感想は初プレイそのままに書いたものだから、今とは全然違う辛口な批評になっているのだけど、だからといって書き直したり、消すのもどうかと思うので残しておきます。なので、今日は現在の私の中にあるヴァニタスの羊に対する感想や意見のようなものを書いていきましょうか? 実はあれから1年以上経って、私の中でヴァニタスの羊は最も好きなエロゲの一つになるまで大切な作品になったので、まあ、夏コミでヴァニタスの羊本も出すことだし、2012年版ってことで一つ。

ヴァニタスの羊とは、そもそもRococo Worksが昨年の4月頃に発売したエロゲで、中世欧風戦記浪漫群像劇と題したジャンルの作品になります。プレイしてみると、どこら辺が戦記で浪漫なのか謎が残りますけど、中世のドイツをモチーフとしたであろう城塞都市の描写が魅力的であり、薄暗い背景ながらも、原画家の笛さんのタッチもあってか、どこか絵本や童話の中に迷い込んだような印象を受けます。
メインとなる登場人物は全部で18人と結構多く、主人公はクロード・バトンという魔術師と薬草師を生業とする青年です。彼はメインヒロインにして、義姉のテレーゼ・コンラートと長い旅をしているのだけど、それには理由があって物語まず9年前から始まります。9年前、帝国の首都であるエンゲルブルクへ、父親であり魔術師のエリファス・バトンと共に訪れたクロードは、そこで暴漢に追われる少女、テレーゼに出会います。彼女はエリファスが、かつて親しくしていた女性、アルマ・コンラートの娘であり、親同士の関係もあり友人関係を築いていきました。少年時代の想い出という奴で、クロードもテレーゼも、この頃はそれなりに幸せそうだった。
アルマはテレーゼが何者かに狙われている事実に怯え、信頼するエリファスへと相談します。当然エリファスは魔術師として、かつて慕っていたアルマのために協力を惜しまず、息子であり弟子であるクロードも手助けをします。しかし、テレーゼに纏わる問題は意外なほど根が深い、もっと言えばエンゲルブルクという町そのものが絡んでいることが発覚し、解決は容易なものではありませんでした。脱出しようにも、テレーゼとアルマには町の外へ出ることが出来ないよう魔術まで掛けられている始末。
仕方なくエリファスは脱出計画を延期し、二人に魔術を掛けている魔術師を排除する方向で計画を練り直します。しかし、それは同時にエンゲルブルクと言う町に蔓延る闇そのものと対決することを意味していました。クロード曰く、世界一の魔術師であり、最高の師匠でもあるエリファスなら、それは可能なはずだった。しかし、世界に絶対というものは存在せず、万が一の自体がクロードとテレーゼを襲います。もし自分が合流できなかったとき、そのときは……父の言いつけを息子は、師の命令を弟子は忠実に実行しました。エリファスとアルマとの合流を果たせぬままに、クロードはテレーゼを連れてエンゲルブルクを脱出したのです。
そして物語は、ヴァニタスの羊は始まるのです。

時は流れ9年後、成長したクロードとテレーゼは父と母を探しにエンゲルブルクへと戻ってきます。本編は主にその部分を描いた物なんですが、テレーゼを除く攻略ヒロイン達は、ここに来て初めて出てくるんですよね。城主代行ヴィクトールの妹であるフラウエンや、娼館小さな唇亭の踊り子であるリアーヌ、そして帝国最高権力者の一角、教皇ブリジット・オベールなど、三人の娘が出てきます。もっとも、攻略ヒロインとしてのテレーゼもここで初めてお目見えするような物だから、プレイヤーとしての感覚差はそれほどないのかな。
9年という長い年月は、テレーゼから声を奪い、彼女は失声症によって喋ることが出来なくなっていました。意思疎通のためのカウベルを付けて、苦労の末にクロードだけは理解できるようになったけど、そうした境遇もまた、彼女の儚さを強調しています。二人は戻ってきたエンゲルブルクで両親のその後を辿り、ヒロイン達と知り合いつつも9年前のに何があったのか、事件の真相と真実に触れていく訳なのだけど……さて、そうした話に対して、同時の私はどんな日記を書いていたでしょうか?

ヴァニタスの羊 感想日記
URL:http://mlwhlw.diarynote.jp/201104240238102856/


自分でも頭を抱えたくなるほどに辛口な内容だけど、同時にこのときの薄偽りない気持ちでもあったんだろうなと思う。今はヴァニタスの鷹の存在を知ってしまったから、ある程度は納得出来てるんだけど、当時の私は作品を褒めるよりも先に、自分の中にある不満の方を優先してしまった。一見するとシナリオに対してなんだけど、今見るとほとんどキャラに付いてなんだよね。別に言い訳を書きたいわけじゃないからハッキリ言うと、今でも私は一部のキャラ、特にヴィクトールとリアーヌについては思うところがあって、それぞれ真逆の意味で納得いかない部分がある。
それは前回の感想日記で書いたとおり、報われない小悪党に成り下がってしまったヴィクトールの悲惨さと、娼婦であり殺し屋でありながらもクロードとくっついたリアーヌへの違和感、いや、不快感なんだけど、私は基本的にテレーゼへの気持ちが強すぎるんだろうね。私の恋愛の基本は移りゆく恋だというのは、この日記でも何度か書いているけど、元々相手がいる場合に関しては結構それを尊重したい方でさ。例えばメモオフ2ndとかね。
リアーヌに限った話ではないのだけど、9年間苦楽をともにして生き抜いてきたテレーゼから離れて、クロードが他のヒロインに走ることへの説得力のようなものが欠けていると感じたし、中でもリアーヌルートはテレーゼの内心が痛ましいこともあって、ちょっと許容できない部分が合ったんだと思う。当時はなんか、商売女差別みたいなこと書いてますが、勿論、そうした気持ちが残ってないわけでもない。

それから、フラウエンはその出自が出自だからともかく、ブリジットに関しては9年前の時点で出会っておくことは出来なかったのかなと思わないでもない。そうすれば、ブリジットがクロードに恋慕の情を抱く理由も何となく説得力が出るし、結局のところフラウエンにしろブリジットにせよ、テレーゼと過ごした9年間を上回るだけの存在だったと思えないのが、私が微妙に感じる一番の部分なんだろうね。
ただ、シナリオというか物語については当時と違って今はヴァニタスの鷹に付いて知っているから、何とも言えない部分がある。物足りなさを感じたボリュームも、本来は羊と鷹でセットの話だったと言われれば、納得出来てしまうんだよ。ヴァニタスの鷹を知らない人に軽く解説すると、本来この作品は9年前の首都脱出劇のところに選択肢のようなものがあって、それによって二人で脱出すると、クロード一人で脱出するという二つの話に分岐するはずだったそうです。羊はご存じ、クロードとテレーゼの話であり、鷹はクロードメインの話。完全に公開された情報ではないので、あまりネタバレになるようなことは書けないのだけど、かなりダーティーでシリアスな話になる予定だったらしい。でも、Rococo Worksは皆も知っている事情で窮地に立たされていたし、それによってヴァニタスの鷹を完成させることなく、羊のみで出さざるを得なかったのだとか。つまり、当時私や他のプレイヤーが感じていた消化不良やボリューム不足というのは、決して間違った意見でもなかったんだろうね。そこに悲惨な事情があったと言うだけで。

あの頃も書きましたけど、私にとってヴァニタスの羊はテレーゼが唯一ヒロインだと思っているし、その気持ちは今も変わらない。むしろ、鷹でテレーゼがあんなことになるのならば、尚更テレーゼが幸せになる道を探すべきだったのではないか? というのは、私が少し甘いのかな。テレーゼが羊において声を取り戻さなかった、いや、取り戻せなかった理由は得心が行きましたけど、それにしたって他ルートにおける彼女の扱いは少しぞんざいじゃないかと思うわけですよ。
羊はあくまでクロードとテレーゼの話だという意識が私の中では強く、それを満たしたいが故に夏コミのヴァニタス本を書いているのかなと、そんな気がします。現在、鋭意制作中ですが、ビックリするほど登場キャラクターが少なくて、もっと言うと羊の前日談みたいな話にしたいと思っているから、本当にクロードとテレーゼだけをメインにしてます。納得いかない部分を同人にぶつけるのもどうかと思うんだけど、なんだろうね、自分の思い描くカップリング像見たいのが、やっぱりあるんでしょう。勿論、原作における二人の関係は理想だし、それを崩したいわけじゃないのですが、他ルートをやったときに感じた違和感に対して、自分なりの答えを見つけたいのかも知れない。
実は入稿日まで10日もないので、早いとこ書き上げないと行けないのだけど、羊のサントラを聴きながら、あるいは羊をプレイしながら雰囲気を掴むのに必死です。原作のシナリオを担当されたJ-MENTさんは参考図書にハヤカワNVから出ている「黒のトイフェル」を上げていましたけど、私はそれを含めてもう何冊か読んでいて、多分、そっちの方の設定や書き方が色濃く出てしまうと思う。ヴァニタスの羊が現実世界において何世紀ぐらいの話になるのかは、作中の描写や登場する道具などから推察することが出来て、丁度それに見合った話を一つ知っていたのが大きいかな。

ヴァニタスの羊に関しては、もっともっと書きたいこと、語りたいことが多くて、私自身答えの出ていないことが沢山あります。今回もう一度感想もどきを書いたのは、当時よりはまだしも冷静に作品と向き合うことが出来るかと思ったからですが、内容自体はあまり大差ないものになりましたね。むしろ、私がヴァニタスの羊のどこが好きか、それを書くべきだったのではないかと思いますけど、それはまあ、同人誌の方に書いてみます。勿論、日記でもまだ書く機会はあるだろうから、そのときが来れば色々書くつもりではいますけど、今現在の私に言うべきことがあるとすれば、本当に良い作品なんですよ。過去に対する言い訳はしないが、ヴァニタスの羊は面白い作品なんです。Rococo Worksはなくなってしまいましたけど、ヴァニタスの羊はまだ買えますし、サントラ共々多くの人に触れて欲しいと思います。

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