イモウトノカタチの最終シナリオであるミータルートの感想レビューへ入る前に、これまで攻略してきた3つのルート、美優樹、あやか、千毬のシナリオに存在した各種伏線について書き出してみようと思います。この作品、最終ルートをロックしているだけ合って、作中に様々な伏線を鏤めています。それは15年前の災害の真相だけに留まらず、本当に色々なことが解き明かされないまま、最終ルートまで来てしまいました。当然、これらは解明されて然るべきことなんですが、まとめると以下のような形になります。

1.鵠見豪雨災害の真相
まあ、最初はやはりこれでしょう。15年前に起きたという大災害。これの原因はなんだったのか? あやかの口などから当時のことは語られますが、あくまで天災であったという認識であり、表面的には自然災害と言うことになっています。けれど、物語を読み込んで行くにつれてどうもそうではないらしい、なにか別の原因があったのではないかと、そう思えてくるのです。特に環境特区は、『自然共生型環境都市』と、『持続可能な都市モデル』をスローガンとして抱えていたわけですからね。そしてその主たる研究内容は、人間による人工的な天候操作だったのではないかと推測されるのです。故に、災害が起きたのには、何か人為的な理由があり、本当は人災だったのではないかと思うのだけど、それが今までのルートで語られることは遂にありませんでした。

2.神志那幸人、神志那美幸、神志那真幸の三兄妹
美優樹ルートの最後に分かることですが、実の兄妹である雪人と美優樹の本名は神志那であり、両親はそれぞれ環境特区で働く研究員だったようです。そして、これも大方の予想通りですが、兄妹には更にもう一人の女の子がいて、名前を真幸というそうです。家族写真があるため当時の雪人たちを観ることが出来ますけど、外見から年齢を察するにどう考えても幼稚園児か小学校低学年、雪人の入学が一年遅れた発言を思い出すに、4,5歳ぐらいだったと考えるのが自然でしょう。そうすると15年後は二十歳過ぎじゃないかといういつかの突っ込みが入りそうですが、赤ん坊には見えないんだから仕方ない。それに、初期設定では災害は10年前ですしね。
問題なのは、当時4,5歳の雪人や美優樹がお互いの存在、そして両親や妹のことを完全に忘れていたことにあります。既に物心も付いているであろう年齢だろうに、何故記憶の中から忘却されたのか? 災害のショックで記憶障害にという可能性もありますが、美優樹は写真を見ただけで、「どうして今まで忘れていたんだろう?」と事実を思い出します。雪人は何せ馬鹿ですから、そんな簡単にもいかないんですけど、このことから察するに、美優樹や雪人の記憶には何らかの封印が施されていた可能性があるんです。それは後々登場する真幸、いえ、真結希にも言えることなんですが……次の伏線からも、それは読み取ることが出来ます。

順也による神志那の調査失敗
あやかルートにおいて、あやかは澄稀の人間ではなく、神巫という家の娘であることが分かります。それを知った順也が澄稀家の力を遣い雪人のことも独自に調べ上げるのですが、分かったのは本名だけであり、他の情報にはプロテクトが掛かっていたというのです。澄稀家はC4と呼ばれる街の有力企業の一つであり、その家柄と権力は鵠見市全体に及ぶと言っても過言ではありません。しかし、そんな澄稀家ですら神志那の情報はトップシークレットであり、重要な情報は何一つ引き出すことが出来なかった。一体、神志那家とは何者だったんでしょうか? 気になるところではありますが、あやかルートはあくまであやかの家庭環境についてがメインだったので、そこら辺に踏み込むことは遂にありませんでした。ちなみにあやかの本当の両親についても、特に語られてはいません。

高階夫妻の贖罪と目的
千毬の両親である高階夫妻は、封鎖地区だった旧実験区域の底に住んでいました。つまり土中に埋もれた旧施設内であり、そこに15年も済んでいたというのです。理由は贖罪であると言いますが、この施設は一部電源やシステムが生きており、稼働自体はしていたようなのです。それでも15年間引きこもれる物なのだろうか? という疑問はありますが、あそこで行われた実験が自然共生型だったことを考えると、生活用の実験プラントの一つや二つあっても不思議ではないし、流石に15年は長いですが、なんとか生きていくことが出来たのかも知れない。疑問なのは、15年も地下で何をしていたのか? ということです。夫妻の口ぶりから、夫妻が関わっていた研究や実験によって、鵠見豪雨災害が引き起こされたのではないかと推測されます。それも間接的にではなく、直接的なレベルで。じゃなきゃ、15年間も土の下になどいられないでしょう。
けど、二人が結局そこで何をしていたのかは、千毬ルートでは語られないんですね。雪人はそもそも災害の真相とか、そういうことに興味を持っていませんし、難しいことは欠片も理解出来ない奴ですから、肝心なことが何も明かされないままにシナリオは終了してしまいます。

現状だけで、これだけの伏線が未消化になっています。どれも重要なものであり、すべて解明されて然るべきことです。他にも細々した謎や疑問は山のようにあるんだけど、とりあえずはこんなところでしょう。すべての謎が解き明かされるであろうミータルート……随分と前置きが長くなってしまいましたけど、彼女のルートに関して書いていくことにしましょう。予めルートロックされているミータシナリオは、他の3ヒロインすべてのシナリオをクリアすることで、初めて解禁される仕掛けになっています。選択肢やあまり意味のないルートマップなどは特に関係なく、春日野穹のように誰か一人でもクリアすれば、という甘いものでもありません。
何故、妹でもないロボットのミータシナリオがこれほどまで厳重に管理されているのか? このゲームをプレイした方で、特にミータを最初に攻略したかった人などはそんな疑問を抱かれると思います。私はかつて、ミータというキャラに一つの仮説を立てたことがあります。あるいはミータも主人公の妹であり、実妹の記憶なり、意識なりを移植されているのではないか? という奴で、類似の物であればD.C.~ダ・カーポ~に同じような話がありましたね。これならミータが実妹であっても一応の理屈は通りますし、かなりこじつけではありますが、妹候補の一人として考えることも出来るでしょう。けど、我々プレイヤーは事前に美優樹ルートをクリアしているわけですから、雪人の妹が美優樹と真結希であることは分かっているのです。それこそ、真結希がイコールでミータだったということでもなければ、この仮説は成立しようがありません。

さて、ミータルートの攻略を始めるわけですが、このイモウトノカタチというのは体験版の部分が共通ルートの終盤と言っても差し支えなく、そこから先はMAP上のヒロインを選択し、ひたすらフラグを積み重ねる作業に入ります。といっても、精々3~4回のことなんですけどね。体験版のラストと言えば千毬が雪人の元にやってきたところだけど、ヒロインの選択しルートにおいても、その流れは引き継がれていきます。故にあやかルートでは、雪人と親しげなあやかに、やってきたばかりの千毬が嫉妬したりするわけですね。
では、ミータルートではどうでしょうか? 千毬がやってきたばかりなことに変わりはありませんし、彼女が話題の中心にあるのも事実ですが、ミータはその性格から比較的早く千毬と打ち解けており、千毬もミータのことは気に入っています。飄々としたミータの性格や言動は、人によっては不快感を刺激されるかも知れませんが、一応は純粋で素直な心の持ち主である千毬は普通に面白いとか、楽しいとか感じているらしい。
ところで、千毬と言えば、彼女は雪人のことを「ゆきにい」という呼称で呼びます。要するに雪人お兄ちゃんの略なわけですが、その意味を知らなかったミータは、何故かお兄ちゃんという言葉に酷く食いつきます。他のルートでは特に興味も示さないのに、自分のシナリオだと妙に拘り、「私の灰色の脳細胞がビビっと来るしたです。私も『お兄ちゃん』と呼ぶです」などと言い出すのです。当然、自分こそ雪人の妹であるという矜持を持っている千毬は嫌がりますが、「ではこうするです。チマりんは『ゆきにい』を独占するです。私は『お兄ちゃん』を使うです」と、言葉巧みに丸め込んでしまいました。何がしたいのか分からないのは雪人もプレイヤーも同じですが、雪人に関してはわからなかっただらけで、その疑問を解消する気にもなれなかったと、早くも考えることを放棄してしまいました。本当にもう、雪人は仕方のない奴ですね。

ミータルートの特徴としてあげられる物の一つに、選択肢の少なさがあります。つまり、他のヒロインはMAP上のヒロイン選択を何回かクリックし、2~3回と決して多くはないですがフラグを立てる必要があるのに対し、ミータの場合は、ルートロックが解除され、解禁された選択肢を一度選ぶだけで、強制的にルートへと突入してしまうのです。別にもうミータしか残っていないわけですから、今更横道にそれる理由なんてありはしませんが、もう少し日常パートを楽しみたかったと、そう思わないでもありません。だって、最初の選択肢が終わったら、すぐさま林間学校に突入するんだから。
そして、ミータルートのもう一つの特徴として、これまであった3つのルート、美優樹、あやか、千毬のシナリオであった各種イベントを、掻い摘まむ形ではありますが、追体験していくというものにあります。美優樹で言うなら親善大使コンテストとか、そう言ったものにミータが積極的に絡んでいくんですよね。しかし、一方でミータ固有のエピソードというものは、シナリオ前半においてあまり多くはなく、序盤はむしろ美優樹ルートの流れが軸として存在していたと思います。故に美優樹は自身のルートと同じように雪人へ恋をするのですが……これは彼女のルートでも、シナリオでもありませんでした。それがどういう結果を生むのかは、意外とすぐに分かります。
ところでミータと言えば、彼女は私服の一つにとてもSFチックなスーツを着ていることがあるんですが、何故かこのスーツを着ると雪人や美優樹がミータをミータと認識することが出来なくなります。雪人だけなら彼が馬鹿だからで済ませることも出来ますが、美優樹でさえ半信半疑なのは何とも妙な話。別に顔の形が変わったり、身体だが変形しているわけでもありません。ちょっと奇抜な格好をしているだけなのにね。まあ、それが納得いかないらしいんですが、少なくとも美優樹はミータをロボットとして認識しているんだから、その反応はおかしくないだろうか。
二人がそんな格好のミータと出会ったのは、コミュニティサイト用の宣材写真を撮りにボート乗り場に来たときのことで、ミータは当然のようにデート中なのかと茶化します。雪人は否定しますが、美優樹は結構複雑。この時点で、彼女がかなり雪人に気があることが伝わってきます。ヒロインが、他のヒロインのルートで主人公に好意を向けたり、恋愛感情を見せることはそう珍しい話ではなく、この作品にしたところで既にあやかルートにおける千毬などの前例がありますね。だから、美優樹にしても不思議はないはずなんですが、ミータルートの序盤に関して言えば、あたかも美優樹がヒロインなのではないかと錯覚するほどに、彼女が恋する乙女になっているのです。これは何か、不吉なものを感じますよね。

話は進み、雪人の誕生日パーティ。年齢バレするところは同じですが、始終微妙な空気で終わったという他ルートとは違い、ミータルートでは二次会にまで突入します。といっても、男子禁制の女子によるパジャマパーティなんですけどね。晴哉と雪人が聞き耳を立てる中、そこそこ盛り上がったのだけど、なんとその席上でミータが急に意識を失います。それはもう、電源が落ちた電化製品のようにパッタリと。動揺する雪人たちですが、ミータが病院住まいであることを思い出し、とりあえず病院へと連絡を取ります。
すると現れたのは清宮律佳、白衣を着込んだ中央メディカルセンターの医師でした。寮長こと静夏曰く、内科のお医者さんだったはずの律佳ですが、てきぱきと指示を飛ばしてミータを回収していきます。そして律佳の言葉から、ミータがかなり繊細な機体であること、人間ではなくロボであることがまざまざと語られます……が、彼女なりにかみ砕いた説明、実際私には超分かりやすかった解説ですら、雪人にとってはちんぷんかんぷんでした。この男は本当にどこまで馬鹿なのかと怒鳴りたくなりましたが、挙げ句の果てにあやかが「そんな説明してもこの人には分からないから! 熟睡してるとか、そういう説明にしてあげて」と、ミータの状況をあろう事か熟睡で片付けてしまいます。実際、ミータはバッテリー切れによる自閉モードを作動させていたので、熟睡は決して的外れな言い回しではなかったのだけど、厳密には違います。雪人のこうした性格で、何度貴重な説明や解説が台無しになったことでしょうか。いい加減、私は辟易していました。内科医であるはずの律佳がミータのことを異常なまでに詳しいことへ、千毬や聡里ですら違和感を持っていたというのに、雪人だけは最近の医者はロボットも診られるんじゃないかとか、訳の分かんないことを言いだして。世間知らずでゴメンナサイとか言ってましたけど、彼はそれを改善する気が全くないのがね……もう最悪です。

その後は親善大使コンテストに向けての特訓が始まり、ミータによるスパルタ指導が行われます。対象は主に美優樹ですが、このときの彼女は雪人が何かとミータの肩を持つことに不信感を抱き始めています。いえ、不信感と言うよりは嫉妬心なんですが、美優樹の雪人に対する気持ちに気付いているあやかとしては、ロボットのミータなどより美優樹を優先しろと雪人に釘を刺すのだけど、ミータがロボットであるという実感をあまり持てないでいる彼は、あまり深刻にその言葉を聞くことが出来ません。まあ、これに関しては雪人がミータに惹かれ始めているのだと解釈すれば良いだけですが、そうすると美優樹はどうなるのでしょうか? ルートだと親善大使コンテストの中で美優樹は告白を断行するのだけど、ミータルートであるからか、流石にそこまでは行きませんでした。
さて、親善大使コンテストへ出るに当たって、雪人はペアとなるべく相手役を模索します。彼は他人の心なんて分かっちゃいない男ですから、口にこそ出しませんが結構辛辣なことを考えており、例えば静夏の美貌は武器になるだろうが、聡里や千毬では力不足だろうと考えます。確かに、後者2人には美貌はないかも知れないけど、水準以上の可愛さは持っているはずなのにね。しかも、普段は馬鹿なくせに「鼻血を吹くような妙なトラブルは回避したい」などという理由で、一番やる気があってコンテスト参加に乗り気でもある聡里を却下します。聡里は雪人に王子様像を抱いているようですが、こんな内心を知ってもそれを崩さずにいられるのだろうか。
興味深いのは、この時点だと雪人はミータに関しても言動こそおかしいが見た目は普通という評価を下しています。特別美人だとか、可愛いとは言ってないんですね。私は正直、静夏の原画がそれほど好みではないから、美貌とかなんとか言われても微妙な気持ちになるんだけど……あやかが拒否したことから美優樹をパートナーにと考えますが、こちらも断固拒否されてしまいます。まあ、本人のルートでも承諾までは時間が掛かったので当たり前ですが、あくまで拒む美優樹に千毬やミータがパートナー役を強く希望しますが、雪人は即断出来ません。美優樹のルートでもないくせに、ミータや千毬では役不足であると、本気で思っていたからです。美優樹やあやかが出られなかろうと、自分自身が頑張れば問題ない! という考えには至らず、パートナーが必要と分かった途端、急に現実的な考えをし出すから不自然でなりません。

コンテストの優勝は、即ち街の公認カップルになるといっても過言ではないため、雪人はそこら辺を幾らか意識し始めます。そして、結局誰もパートナーになってくれなかった事実に対し、雪人はこんなことをぼや聞くのです。
「そりゃあ、俺が女の子にモテモテだとか、二股三股の不義理ができるほど人気があるとは思ってない」
実際恋人なんていないし……と、自分の現状を悲観する彼ですが、ここで重要なのは彼が二股や三股を不義理であると認識していることです。また、彼はそれらの道理に外れた行為を女子に人気があればできるとも考えているんですね。今の段階ではそれほど問題のある言動じゃないですが、彼のこの台詞は後々になって深い意味を持ってくるので、覚えておくと良いでしょう。
雪人は誰もパートナーになってくれなかったことが不満なようですが、よく考えてみましょう。雪人が普段付き合いのある女子は6人であり、美優樹、あやか、ミータ、千毬、聡里、そして静夏です。静夏はなにせ去年の優勝者だし、生徒会の仕事もあるから除外するとして、残り5人の内半分以上の少女たちは、親善大使コンテストに出ても構わないと言ってくれているのです。でも雪人はあくまで勝ちたいし、勝つためには千毬たちでは力不足だと言い切るのです。勿論、好意そのものは素直に嬉しいと思ってはいるそうだけど。
客観的に見て、美優樹やあやかなら勝ち目があると判断する雪人は、完全に打算で動いています。素直に千毬や聡里の厚意を受けないのは、彼が厚真にコンテストでの優勝へ拘っているから。優勝すれば妹に会えると思い込んでいますから、性格上必死になりますし、自分の都合が最優先の男ですから、相手の気持ちになど構っていられません。そこで夜の夜中に美優樹の部屋へと押しかけて説得工作を行います。ここで思い出して貰いたいのは、このルートの美優樹は雪人への親愛度が自分のルート並に高く、つまり殆ど惚れている状態です。雪人の言葉に絆され、最終的には彼の言葉に理を感じて出場を決意します。しかし、美優樹が確実に雪人へ恋愛感情を抱きつつあるのとは逆に、雪人はあくまで共に家族との再会を目指すパートナーとしか考えていません。この気持ちの差が、結局は美優樹の運命を決めたのかも知れません。

コンテストが水着着用の見世物協議であることを知った美優樹は、元々羞恥心の塊を持っていることもあってか尻込みしますが、雪人はそんな美優樹の心情を逆なでしつつ、ミータの口車に載せられて特訓を開始します。これがまた前述のようにスパルタで、その割りにはあまり効果がないもので……ここから徐々にではありますが、ミータに対する雪人の意識が変化し始めます。妙に大人ぶった、似非人格者のような言葉を乱発するのですが、ルート後半における彼の言動を考えると、冗談にしか見えないのが不思議です。美優樹は自分がミータから受けている理不尽な仕打ちを雪人に助けて貰いたいんだけど、彼にはその気持ちが伝わらない。それどころか、雪人はあやかに電話して助言を求める始末です。理由は、「友達同士が喧嘩しているなんて嫌なんだよ」とのことですが、彼は美優樹が何に対して怒っているのか分かっていないばかりか、あやかに仲裁役を頼んだのも、あくまで自分にとって都合が悪いからに他なりません。
しかし、聡明なあやかは美優樹の気持ちを正確に理解していますし、彼女の心情がよく分かっています。けど、それ故に、ハッキリとした助言は美優樹の想いを明かすことになるから、言うことができません。だからこそ、雪人は遂に美優樹の気持ちを理解することが出来なかったんですけど。あやかのことではなく、ミータについてあれこれ聞き出そうとする彼は、ミータとは長い付き合いであるはずのあやかですら、彼女のことを機械であると認識していることに納得がいきません。雪人は知識として人型の、極めて人間に近いミータのようなタイプを知らなかったので、実感が湧きにくいのかも知れませんね。

段々と、無自覚ではありますがミータに惹かれ始める雪人。しかし、美優樹の好意というか恋愛感情は持続されたままであり、告白こそしませんでしたが、親善大使コンテストにも優勝しています。その後の打ち明けでも告白に近い発言をしていますし、美優樹が雪人を好きであることに違いはありません。でも、雪人がそれに気付くことはない。だって彼には、他人の心根というものが分からないから。そういった自分の性格に対して、勝手な奴だという自覚は持っているみたいなんですが、それを改めたり、改善したりしないのが、雪人の残念なところでもある。
雪人は美優樹のことを兄妹探しのパートナーとしか思っていません。勿論、友人であることに違いはないのですが、彼女に見捨てられることは雪人にとって考えられないことです。けど、もし妹と天秤に掛けるなら? 晴哉の問いに、雪人は初めて迷いを見せます。親友である美優樹と妹、どちらを選ぶべきなのかと。美優樹は同じような気持ちで苦しんでるんだと晴哉に諭された雪人ですが、彼は本当にどうしようもない馬鹿ですから、その言葉の意味を理解出来ず、いえ、勘違いしてしまいます。即ち、自分のことなど忘れて兄探しを優先させろと、美優樹に言ってしまうのです。美優樹の恋が、終わりを告げた瞬間でした。
あやかも、そしてミータでさえ美優樹の気持ちと、そして雪人の性格を理解していたから踏み込んだことは言わなかったのに、晴哉はまさか雪人もそこまで馬鹿ではないだろうと、一般的には優れた助言を与えたのですが……あやかの言うとおり、それは最低な結末に結びつくこととなりました。美優樹は雪人に一欠片も自分の気持ちが伝わっていなかったことと、彼がほんの僅かも自分に恋愛感情を抱いていないという事実を突きつけられ、失恋するのです。正直、美優樹が可哀想すぎて見ていられませんし、雪人の性格がどこまで最悪なのか分かる瞬間ですが、これが美馬雪人なんです。他人の気持ちが分からず、相手の考えが理解出来ず、目の前にいる人の心情さえ忖度出来ない。それが美馬雪人という主人公なんですよ。

美優樹は失恋しましたが、このルートが美優樹シナリオを軸に進んでいることは変わりなく、舞台は封鎖地区、旧実験区域の発掘現場へと移ります。要は発掘作業の手伝いを行うわけですが、雪人は相変わらずデリカシーというか、常識のない行動で美優樹を怒らせてしまいます。一体、雪人のどこに好意を抱く部分があるのかと不思議でなりませんが、失恋した直後であっても、相手を嫌わないでいる美優樹は天使なんでしょうか?
シナリオ的には普通にプレイしていれば中盤ぐらいまで進んだはずですが、即座にイチャイチャへと発展したあやかルートに比べて、ミータルートはまだ恋仲にすらなっていません。なにせ、直前まであたかも美優樹がヒロインのような立ち位置にいたのですから、ミータとの恋愛方面での交流などあろうはずがありません。しかも、ミータというのは基本的にギャグキャラであり、行動も言動も突拍子がないため、シリアスな雰囲気というのがあまりないんですね。いるだけなにかしらのネタになるというか、真面目な会話に発展しづらい。更に言えば、ミータは自分のことをあまり話しませんから、雪人にとっては友人ではあってもよく分からない奴から、なかなか先に行かないんだと思います。
封鎖地区で仲間たちと昼食を取る中、ここにきて旧実験区域で行われていた研究について言及され始めます。今でこそ自然共生型の環境都市を目指している鵠見市ですが、災害前は自然制御型のシステムを模索していたようで、要は人工的に自然環境を操ろうとしていたわけですね。これは後に理事長も言っていることですが、そうした傲慢な考えによる天罰で災害が起きた、と考えている保守派は少なくないようで、鵠見市育ちのあやかなどは封鎖地区にそれほど良いイメージが持てないようです。無理もない話だけど、外で暮らしていた雪人にはその気持ちが分からない。彼が発掘作業を手伝うのは、両親の手かがりを探すためであり、そんな悲観的なことは知ったこっちゃないのです。気まずさこそ感じていますが、それはあくまで自分が蚊帳の外へ置かれたからであり、自分の希望に水を差されたような気分になったからです。
無論、雪人にしろ美優樹にせよ、鵠見市の生まれではあるはずなので、余所者というわけではありません。でも、二人はこの街で育ってきたわけではないから、限りなく余所者に近い感覚の持ち主でもあるのです。千毬なんかはもっとハッキリしていて、彼女は待ちに対する思い出や思い入れがありませんよね。だから、1,2歳しか年の差がない雪人にしたところで、それは大して変わらないというわけで。

ところで、旧実験区域と言えば千毬の両親が引きこもりを続けている場所ですが、ミータルートでも夫妻が潜んでいた地下施設が出てきます。本人は流石に出てこないのだけど、施設自体は登場し、雪人、ミータ、晴哉の3人が潜入を開始します。これはその直前まで施設の入口があった廃ビルの屋上で、ミータと千毬が遊んでいたことから偶然発見したのですが、千毬に対して危ないことはしちゃ行けないと怒っておきながら、オトコノコだからという理由で、雪人は廃墟の中に入っていくのです。当然美優樹は怒りますが、そもそも人の気持ちを尊重出来るような男ではないから、無駄という物です。
廃墟内を進む3人はやがて行き止まりに、自動ドアの前まで来ますが、廃墟なので当然開くことはありません。力尽くで開けようにも、爪の入る隙間すらない。探検もここまでと引き返そうとする雪人と晴哉ですが、それに対してミータがこう言います。
「待つです。このドアの電源系統は生きているようです」
なんとドアにはセキュリティが掛かっており、開かないのはそのためらしい。千毬ルートをやった人なら、高階夫妻が施したものであることは明白ですが、このルートの雪人や晴哉はそんな事情知るわけもありませんし、15年も前に土砂の中へ埋まった研究所の電源が何故? と訝しがります。
「私の演算能力ならセキュリティを突破できるです。……やるです?」
中に何があるのか、もしかしたら危険な物かも知れないのに、好奇心には勝てないのかミータの誘いに乗ってしまいます。介護ロボットのくせにクラッキング機能まであるとは、高性能と言うより万能の域に達している気もしますが、セキュリティの突破は口で言うほど容易ではなかったらしく、解除と共にミータは機能停止をしてしまいました。駆けつけた律佳にしかり飛ばされる雪人と晴哉ですが、今更のように後悔する彼は、病院にまで同行してミータの様子を伺いに行きます。しかし、当然のごとくミータと会うことはできず、同じく着いてきた美優樹と二人、律佳からミータについての話を聞かされることになりました。あくまでミータが機械であることを前提に、というか事実として話す律佳ですが、無学者というより無知でしかない雪人に、彼女の言葉は何一つ伝わりません。決して難しいことを言っているわけではない、プレイヤーの私ですら理解できるのだから、雪人や美優樹向けに、かなり簡単な説明をしてくれているのでしょう。

しかし、当の雪人と言えば、そんな説明も一切理解することができませんでした。
聞いたことのない言葉や、知らない話、繰り返される原因と結果、の説明。日常の中では聞くことがそれらのことが、遠い世界の出来事のように感じてしまう。
日常の中では聞くことがそれらのことがとは、日常の中では聞くことがないそれらのことがの脱字でしょう。イモウトノカタチはじっくり読み込んでみると非常に誤字脱字が多く、台詞と文章が合っていない箇所が結構あるのですが、ここは地の文なので余計目に付いてしまいますね。
まあ、そんなツッコミは良いとして、雪人は律佳の説明から改めてミータが人ではないことを思い知らされ、その事実に反発します。ミータを化け物みたいに言うなと、お前は今まで何の説明も聞いてなかったのかと言いたくなるような、そんな一言を。上記にもありますが、雪人は聞いたことのない言葉や、知らない話を、そのままで済ませる癖があります。彼は分からなければ許されると思っている人種であり、それが彼の限界でもあります。分からなければしょうがない、確かにそれはその通りかも知れない。でも、如何様にも努力は出来たはずです。自ら進んで、知ろうとすることは可能なはずだった。けど、雪人にはそうした発想がない。分からないことは分からないで済ませ、自分勝手な解釈で物事を定義づけている彼には、それこそ不可能な話でした。
「あの子は機械だよ。可能な限り人間に似せてはいるが、機械だ」
そうハッキリと断言する律佳に雪人は苛立ちが隠せないわけですが、彼女はこう続けます。
「あの子は誰かの身代わりなんかじゃない。ただの機械なんだ。作った私が、それを一番に弁えなければならない」
律佳の言葉は、人型ロボットの制作者としては立派なものです。人間そっくりなロボットやアンドロイドのルーツが、誰かの身代わりであることは少なくありません。開発者の死んだ子供だったり、身近な人物をモデルにして作られることは非常に多い。ミータにモデルがいるのかは知りませんが、律佳はそうした代替物としてのロボットを否定したのです。しかし、雪人はそんな難しい説明分かりません。身代わりとか言われても、彼にとってミータはミータでしかないのだから。

律佳がミータの制作者だと分かると、一転して雪人は怒りの矛先を治めました。自分に責任があるとか言ってたくせに、なんで雪人が怒っているんだろうと思わなくもないですが、あろう事か彼は律佳が散々否定したにもかかわらず、彼女をミータの母親だと認識しました。律佳はそれを感傷的な表現だと言いますが、馬鹿な雪人にとってはそれが一番分かりやすい答えだったんでしょう。母親が大丈夫だと言ったなら心配ないと、独りでに安心し始めます。ミータを律佳の子供扱いする雪人ですが、それには流石の律佳も訂正をします。
「子供、ではないよ。あくまでそのようなもの、というだけだ。同じじゃあ、ない」
律佳の断言を、またも雪人は理解できなかったようです。彼としてみては、やっと分かりやすくなった関係性を、何故否定するんだと言った感じでしょうか? 律佳の立場からすれば当然の言動も、雪人にとっては冷たい一言にしか思えない。それは彼が彼の感覚でしか物事を考えていないからであり、相手の気持ちを考えるまでに到らないからです。人として明らかに欠落している証拠ですが、もうどうしようもありません。彼はきっと、最後までこんな感じなんでしょう。
ミータは結局精密検査となりましたが、基本的にはバッテリー切れであるため、特別問題はありませんでした。週明けには学校へも登校してきましたしね。しかし、元気な見た目とは裏腹に、その状態は深刻なものに変わりつつありました。律佳が白鳥寮を訪れ、雪人と美優樹だけに、ミータの現状について話したのです。
ミータの稼働目的と、役割。交換の利かない部品を多数使用していることや、元々は二年間の運用を予定していた事実を告げます。
「――時期が来たら、あの子の役目は終わりだ。あの子に限らず、機械である以上は仕方のないことなんだ」
律佳の口振り、親であるにも関わらずミータを機械扱いする言動に雪人は苛立ちを隠せず、美優樹に言い方がキツいと言われるほどに言動が荒くなります。しかし、律佳はそれに動じることもなく、ミータが「二年が過ぎれば調査の後、解体し、処分される」ことだけを淡々と話します。そしてミータがあやかたちに出会ったのは、去年のことです。
「ミータは今年度いっぱいで運用を終了する予定だった」
予定だった。その言葉が意味するところは、ミータの現状が芳しくないと言うこと。パーツの劣化が進み、もはや修復できないレベルにまで達していたのです。ミータは近々機能を停止する。人間で言えば寿命と同じであり、それも1,2ヵ月程度しか残されていないという現実に美優樹は打ちのめされましたが、雪人は受け止めきることが出来ませんでした。
会えてミータには伝えず、最後のその日までこれまで通り友人として接して欲しいという律佳の頼みを、雪人は一応了承するのですが、彼には事実を事実として受け止めきることが、難しすぎました。これに関してはまあ、友人の死を宣告されたわけですから、無理もないと言えるのだけど……人に流されやすいこともあってか、すぐに落ち込んでしまいました。

そこから雪人はミータに対して過剰なまでに、過保護とも言える接し方を始めるのだけど、そうなってみて初めて、本当に急な話ではあるのですが、雪人はミータを意識し始めます。とはいえ、近々機能停止が確定しているミータを前にして思うように話すことが出来ず、空回りの連続となってしまう。ただ、ミータ本人は自分の状態を知りませんから、いつも通りに接してくるし、一見すると何も変わりがないように思えます。けれど、雪人は事実を知ってしまっているから気が気でないという感じで、それが却って不信感を抱かれる原因に。あやかや晴哉にも話せば良いものを、彼は結局他者の力を借りようとはしませんでした。
あくまで雪人の力になりたいミータは発掘作業の手伝いを継続し、遂にタイムカプセルを掘り出すことに成功しました。けれど、その代償は決して小さいものではなく、ミータの残り時間は確実に削り取られていきます。ミータ自身、それを意識するところがあったのでしょう。彼女は頑なに雪人の手助けをした理由も、少し考えれば分かるとこだと思います。
ミータの活躍によって神志那の性と、本来の名前を取り戻した雪人と美優樹ですが、それは同時に真結希の存在が明らかになることでもあります。やはりこの二人、記憶にプロテクトでも掛けられたいのか、手紙や写真を見ただけで全てのことを思い出すのだけど、肝心の真結希がどこにいるのかが分からない。当然雪人は探し出すことを決意しますが、それより先に問題としてのし掛かってくるのは、やはりミータのことです。無理がたたったミータは頻繁にメンテナンスを受けるようになり、限界が近いことを如実に告げているのでした。このことから雪人は真結希とミータのことに関して平静ではいられなくなるのだけど、どうしてその二人が同列なのだろうかと思わなくもない。それに妹だと分かった途端、美優樹に対する言動が心ないものに、勿論本人は無自覚なんでしょうが、失恋を味わった彼女にはキツいものになっています。ハッキリ言うと、このルートにおける美優樹はかなり酷い仕打ちを受けているのだけど、それを受け入れてしまうのも、また美優樹だったりする。
結局、ミータは回復することなく機能を停止します。分かっていたことではありますが、遂に最後の日が訪れたのです。ここになって雪人はミータを初めて抱きますが、やや唐突さを感じなくもありません。だってそれまで雪人は、ミータに対して愛だの恋だのといった感情を見せたりはしなかったのですから。双方合意の上なので、別に強引ではないのだけど、正直なんと言えば良いのか分からない。

翌日になって本当に機能を停止したミータを、雪人と美優樹は病院に送り届けます。大切な友人、雪人にとって疑似妹のような存在を失ったことで、途方もない喪失感を受けますが、それも仕方ないことです。これにてミータルートは終わり、ミータはいなくなってしまったが、彼女が幸せだったのだからそれを尊重して……というわけには行きませんでした。何故なら、ミータが機能を停止してから数日後、律佳によって雪人と美優樹が病院へと呼び出されたからです。
てっきりミータの件で話があると思い込んでいた二人を、律佳は病院内の特別病棟へと案内します。律佳自身、話すべきか、事実を伝えるべきか悩んでいたという事柄。それは既にいなくなったミータのことなどではなく、もっと別のことでした。特別病棟の、無記名のネームプレートが掛かった部屋……そうです、その部屋にいた少女こそ、

「初めまして……清宮真結希、ううん……」

「神志那真幸、と言います。よろしくお願いしますね、幸人お兄ちゃん、美幸お姉ちゃん」

イモウトノカタチ最後のヒロイン、清宮真結希だったのです。

こうして話は最終ルート、神志那真幸シナリオへと繋がっていくのですが、流石に長くなったのでここら辺にしておきます。伏線云々も書いたとは言え、まさかこんな膨大になるとは思わなかった。ハルカナソラ以来とも言えますが、その割りにちっとも作品を褒めていませんね。まあ、そもそもが良作ではあり得ないから、自然と感想やレビューが否定的な方向に向いてしまいがちなんだけど、個人的にはまだまだこの程度は序の口だと思っています。何故なら真結希ルートは……いえ、その話は次回、明日の日記で書くとしましょう。全てを書き終えることが出来れば、ですが。
そういえばミータルートでは、最初に書いた伏線一切回収されてないですね。まあ、それもこれも真結希ルートに入ったわけですし、全ての事情と種明かしは、ここで行われるのでしょう。きっとそうに違いないのだ。

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