夏空のペルセウス、翠ルートの感想を書きます。minori推奨のオートプレイでやりましたが、あくまで初回プレイの感想なので、二週目以降はまた感じ方が変わってくいるかも知れません。だから、これはまだ私と夏ペルの、翠ルートのファーストインプレッションでしかないことを先に明記しておきます。なにか逃げているような気もしますが、結構大事だと思うのよ。エロゲに限った話でなく、印象ってのは繰り返されるごとに、あるいは時間が経つにつれて変わってくるものですから。

ルートの感想入る前に一点だけ、私は今回の夏ペルを透香ルートからプレイするつもりでいました。理由は幾つかあるんですが、まず第一に透香がこの作品の表ヒロインであると事前の情報で伝えられていたことと、主人公の妹である恋が裏ヒロインだと言われていたからです。表と言うからには王道的なシナリオであり、恋は最後の真ルート、真シナリオみたいな扱いなんだろうと予想し、では最初に表ヒロインである透香を攻略しようと、そう考えていました。
第二の理由に、これも単純な話なんだけど、体験版の引きが透香で終わっていましたから、単純に続きが気になったんですね。あの後、森羅と透香はどうなってしまったのか? それを知りたかったこともあり、私は真っ先に透香ルートへと進むつもりだった。そう思いながら、ゲームをスタートさせた訳なんですが……最初から、「あれ?」とは思ったんですよ。序盤の回想と電車のシーンが、どことなく体験版のそれと違うように感じたから。でも、この所は忙しくて体験版をやり直す暇はなかったし、製品版故の差異か、あるいは単純に私の勘違いや錯覚だと思い直した。まさか、体験版を起動して同時にやってみるなんて無粋な真似出来ませんでしたからね。
ただ、以降の基本的な流れは、それこそ選択肢が出るまで体験版と同じようなものだったから、特筆すべき点はなかったかも知れない。妹の恋と共に天領村にやってきた、遠野森羅という少年が、そこで出会った少女たちと接する中で、自分の能力や他者というものに考えていくわけですが……体験版部分を消化し、待ちに待った選択肢を選択する場面に来て、私は思わず固まってしまった。だって、なかったんです。望楼に行くという選択肢が。

望楼とは、前述の透香が一人天文部として星を観察するために訪れている場所で、彼女に会うためにはそこへ行かなければなりません。しかし、自らの力を使い、それでも救えるのは一人だけだと思った森羅の前に現れた選択肢は、花畑、沢、図書室の3つだけだった。そう、本来入るであろう望楼への選択肢は、ルートロックが掛けられていたのです。
私はminoriがニコニコ生放送でやっているminori通信を視聴しているのだけど、あれを聴く限りでは、この夏空のペルセウスという作品にルートロックはないと思わせる発言があったので、当然の如くユーザーの好きなように、好きな順番でプレイできるものと思っていました。だからこそ、自分の中で続きが気になっていた透香ルートを最初にプレイできればと考えていたし、選択肢の画面が出るまではそのつもりでした。
しかし、現実には望楼は選択肢に存在しないロック仕様になっており、最初に透香を選ぶことは出来ませんでした。勿論、minoriは一度もルートロックを掛けていないと明言はしてませんでしたから、これは私の早とちりや勘違いなのだろうけど、出鼻を挫かれた感じがしないでもなかった。私はここで3つの仮定を立てました。つまり、どうすれば透香ルートは出現するのか、ということについて。一つ目は、誰でも良いからヒロインのルートを1人クリアすること。1人攻略したら出現する隠しルートなんて良くある話だし、透香ルートがそういう仕様になっていても不思議じゃない。二つ目は、これまた単純だけど現状出ている3つのルートをクリアすること。すべてクリアすれば、真ルートである透香が出現する、というわけです。三つ目はあり得ないけど実装ミス。単純に表示されるべき選択肢が表示されないバグやエラーが発生したと言うこと。まあ、こんなことはあるはずもないんだけどね。

このときの私は、おそらく一つ目で透香ルートは開くと考えていました。なにせ、minoriの社長であるnbkzさんは、翠→あやめ→透香→恋でプレイしたと言うし、この順番を再現するには、翠かあやめ、あるいは両方をクリアした時点で透香ルートに行けないとおかしいからです。本音を言ってしまうと、私は透香も先にやりたいが、それよりも何よりも、一番思い入れのある恋を最後にプレイしたかったんですね。これが私の好きな順番というわけで、それでプレイできるもんだと思っていただけに、たとえ勘違いであったのだとしてもガクリときてしまった。
けれど、選択肢が存在しない以上は他の3人から選ばなければならず、私が最初に選んだのは翠ルートでした。この際、minoriと同じ順番にクリアしていこうと思ったんですね。どちらにせよ、恋を最後に持ってこられることには変わりないから、最終的な狂いがないのなら、それでも良いかと考えて。でも、私は一つだけ明確な思い違いをしていた。私はユーザとしての環境でプレイしていたけど、向こうは制作としての環境でプレイできたのだと言うことを。これは後々に置いて、私の中に大きな波紋を広げることとなります。
そんなわけで翠ルートですが、数いるヒロインの中で森羅が翠の元へ向かうという選択は、それほど違和感がないように思えた。なんて言ったらいいのか、翠はこの村に来て最初に出会った人間であり、親戚であり、彼ら兄妹の事情を知りながらも気軽に接してくれる相手です。親近感とはまた違うのでしょうが、森羅が気を許すことにはそれほど違和感もなく、恋ですら翠には懐くとは行かないまでも、敵意の矛先を向けてませんでしたから。そういった意味で、まだしも安全にプレイすることの出来る、入口と言っても差し支えないルートだったかも知れない。

minoriのイベントで、夏ペルをefで例えるなら翠のルートはfirst tale.だと言っていました。ここからも分かるとおり、他のルートに比べてそれほど重苦しいものではないんですね。物語は主人公である森羅の能力がどうと言うよりは、翠の抱える個人的な問題、癒えない傷に焦点が当てられていて、それが一体何であるのかを森羅が考えていくという話です。
では、癒えない傷とはなんでしょうか? 物理的なことを言えば、現代以外では治療困難な重傷や、後遺症、あるいは大きく残った傷跡など、目に見える傷という意味では、癒えない傷は確かにあります。でも、逆に物理的なものでなかったとしたら? もっと違う、精神的な心理的なものならどうでしょう。止まない雨という言葉があるように、心の傷というものは、なかなかに癒えないものです。けど、翠のそれは違います。彼女は山で転んだ際に足を怪我しており、そのため物理的な傷がある。
主人公の森羅と恋には、人の痛みを自分に移す能力というのがあって、かなり一方通行な超能力です。治すわけでもなければ、打ち消すわけでもない。痛いの痛いの飛んでけをしたら、そのまま自分に落ちてきたとしか言い様がない力、これを使って森羅は翠の足を治療します。ここら辺、少し設定が曖昧に感じたんですが、痛みだけでなく傷も移すことが出来るらしいのです。
森羅がそんなことをした理由は単純で、自分と恋の安全を買うため。翠の足を治療することで、彼女を味方に付け、その見返りに自分たちの安寧とした暮らしを守るとしたんですね。下心というよりは、打算的といった方が適切な気もしますが、森羅が翠に好意的だった、好意的にしようとしていた理由は、最初のうちはこんな程度でしかありませんでした。けれど、翠は恋をして例外と言われるほど、二人に対して差別的でなく、能力に対する抵抗感も、精々足を触れるときの羞恥ぐらいなものです。そんな翠に対して森羅が段々と惹かれていっても、心を開いたとしても、さほど不思議ではないでしょう。自分に対してある程度理解があって、怪我があるとは言え、基本は健康的で可愛い娘なんですから、魅力を感じないわけがない。至って単純な話です。

夏ペルという作品は、minori作品特有の共通ルートの短さも相成って、主人公がヒロインに恋する理由が、少なからず軽く感じられることがあります。自分の能力に向き合うためという主目的があるとは言え、なにか壮大な話の末に恋をしたというわけでもなく、言ってしまえば恋を除いた3人のヒロインは、出会って数日と間もない少女たちです。彼女らが転校生で、それまでいなかった同年代の男子である森羅に興味を持ち、惹かれる理由は分からなくもないけど、根本的に人嫌いだろう森羅が彼女たちに惹かれる、あるいは自分から吸い寄せられていく理由が、少し弱いように思えた。まあ、翠については上記の通り、ある程度は惹かれる要因が明確化されてますから、違和感や不思議は少ないんですけどね。
勿論、森羅の人嫌いは恋のそれに比べたら軽い方だし、生来のお人好しな性格から、本質的には他人を放っておけないのだろうけど……うーん、難しい。恋が言うように、森羅はこれまでも自分から厄介ごとに突っ込むことは多かったのでしょう。それは冬空のペルセウスに出てきた心愛もそうだし、そこから先の出来事でも、森羅はお人好しな部分を見せたと言いますから、そういった性格的な部分と恋愛的感情が上手く繋がった、と考えた方が良いのかな? おそらく、恋ルート以外は全部そうなんだと思う。敢えて断定的な文章にしてしまうけど、切欠はいつも森羅の方から作っているんだよ。翠ルートはまだしも単純な、軽めの話だったけど、あやめや透香にしたところで、切欠に関して言えば、それほどの違いはないし。
唯一の例外は恋ルートだけど、彼女については、彼女のシナリオについて感想を書く際に触れようと思うので、ここでは止めておきます。それでなくとも、結構長くなってしまってますから。

翠の抱える癒えない傷、本当の痛みというのは、人間なら誰しもが持っているものだと思います。例えば子供の頃、夜中にベッドや布団に潜っているとき、ふと天井を見上げる。そうすると10年後の自分はどうなっているのかとか、何をしているんだろうみたいな考えが、不安となって押し寄せて、急に叫び出したくなるような、発狂したくなる瞬間ってあるでしょ? つまりは、将来への不安という訳なんだけど、翠はそれが自分自身ではなく、村の存亡という形で現れてしまったのだと思う。
体験版のときから語られているとおり、翠の家は大家族で、彼女は七人兄姉の末娘です。翠が所謂性的なことに興味津々なのは、年の離れた兄や姉の影響もあるみたいですが、家族が多ければ多いほど、それが離れたときのことを強く意識してしまうんでしょう。過疎化が進む村なんて珍しくもないし、余所者の森羅でさえ、天領村がなくなろうとしていることには気付いています。村の相談役を父親に持つ翠なら、もっと身近に、村の窮状に頭を痛める父やその仲間達を見てきたことでしょう。何もない田舎なんて大嫌いだったはずなのに、それでも翠にとっては故郷であり、本当は大好きな場所だった。だから森羅にも村に残って欲しいと思っていたし、故に彼に対して自分の体を許したのです。自分の目的を果たしたいが為に、森羅という少年を村に縛り付けるために、翠は彼と付き合うことにした。翠が森羅や恋の能力に対して、あまり関心を示さなかったのは当然です。だって、そんなもの村に居着いて貰うことことには関係ないから。本人がどこまで意識していたかは分かりませんが、下手に指摘し、差別でもしよう物なら、森羅も恋も村をさっさと出て行ったことでしょう。それは翠にとって、もっとも忌避すべきことだった。

翠はefで言うところのfirst tale.と言うだけあって、確かに宮村みやこのそれと近いものを感じました。要するに面倒くさい女という訳なんだけど、勿論不快な意味じゃなくて、自分自身に対する迷いや悩みから抜け出せないでいるところが、非常に分かりやすかった。みやこが紘という存在を手に入れるために身体を使ったように、翠もまた森羅を村に欲しいが為に身体を使ってしまった。自分のためと村のため、多少の違いや差はありますけど、でもそこに恋愛感情がなかったのかと言えば、これは普通にあるんです。みやこは当然としても、翠にしたところで嫌いな奴に身体を捧げるわけはありませんし、むしろ好きだからこそ、森羅に対して強い好意を抱いていたからこそ、何が何でも彼を村に残したかったんじゃないかな。前述のように森羅は自分か、それ以上に恋の安全や安寧を第一に考えていますから、恋に何かがあったらすぐに村を出たでしょう。翠もそのところは良く理解していたから、多少なりとも強引な手段に訴えなければいけなかったのではないか? みやこが景に勝てないと思ったように、森羅が恋を大切にする気持ちは、翠が村を思う気持ちに匹敵していると感じたのでしょう。だから翠は、自分を介して森羅の気持ちを村に傾かせねばならなかった。
森羅は翠と付き合う内に、そうした事実に気付き始めてしまいます。元々、色々な人間と出会い、別れを繰り返してきた少年です。妹ほどではないにせよ、人間心理に対して鋭い面もあるし、それでなくとも翠の態度があからさますぎた。森羅に対してもそうだし、あやめや、他のヒロインに対しても、翠は村の外の話を嫌い、拒絶したのだから。
大好きな村を守りたい、でも、同じぐらい翠は森羅のことも好きになってしまった。その板挟みは彼女を惑わし、自分のやっていることが正しいのか、いや、正しくないことに気付いてしまった。感傷的な部分はともかくとしても、感情的な発露では、外に羽ばたく鳥たちを止めることが出来ない。翠の両親は、自分の子供たちを独立させ、村の外で暮らすようにと家から出すと言います。外の世界に触れ、見聞を広めよと言うことなのでしょうが、その結果、誰一人として帰ってこなかった。合理的なやり方は、しかし、外の世界に馴染んだ子供たちにとって、現実を知る機会にもなってしまったのでしょう。あるいは村が長くないことを知った上で、名目を立てて先に脱出させていただけかも知れないけど、それは推測でしかないし、翠にはあるのは誰も帰ってこなかったという事実だけです。

森羅はそれが分かった上で、理解しながらも翠に村の外へ出ようと言います。結局、なくなろうとしているのは村の事情であり、村に問題があるのだから、それを探すためにも、改善するためにも、一度外に出ようと言います。そうすることで、森羅は村という存在に縛られた翠を解放し、彼女の負っていた傷を癒やしたんですね。こうして二人はお互いの将来に目標を見据えて、恋人としてまた一歩前に踏み出してくわけです。
以上が翠ルートになるわけだけど、私はちょっとばかし不安がある。話としては綺麗にまとまっているし、テーマもしっかりした翠の話だけど、将来的な部分で気になることがあるんですよ。というのも、もし翠の父親なり、村の人間が森羅や恋の正体を知ってしまったら? あるいは二人を、村のために利用しようと考えるのではないか。げすの勘ぐりなのは分かってるけど、みんながみんな、翠みたいな性格はしていないし、彼女が例外であることは恋が言及しています。森羅とて、悪人じゃないにせよ、自分の身内や親しい者のために、自分や恋を躊躇なく使った人間たちを多く見てきました。だから村の活性化に二人を利用しようと企む奴が現れたとしても、全く不思議はないはずなんです。
そういった輩が現れたとき、果たして森羅はどうするのか? 恋を守り、翠を捨てて村を出て行くのか。まさか、彼だって町興しに自分の能力を利用しようなんて考えちゃいないでしょう。たとえそれが、一番手っ取り早いのだとしても。まず第一に、恋が許すわけもないし。
話自体は綺麗にまとまったけど、先の見通したがそれほど良くもないのが、翠ルートという感じでしょうか? 勿論、そもそも過疎化が進む村の話であり、確実になくなろうとしているのは事実だから、明るい展望など待ってやしないのですが、どっちに転んでも良くないことが起きそうで、心配性の私としては、少し考えざるを得ない。翠が良い子であっても、両親が完全な人格者だとは限らず、主人公とヒロイン以外の登場人物が出てこないという本作独特の作りが、却って周囲に対する不安や不信感を生んでしまった気がして、残念でなりません。

ただ、将来的な展望を抜きにするなら翠ルートは良くまとまっていたし、何より翠はエロかった。巨乳村入村編として考えるなら、好みはあるにしても翠のそれは十分に魅力的だと思う。けど、これは全体的な話になっちゃうけど、オートプレイだとえっちぃシーンも長いね。まあ、普通にえっちぃことすればあれだけの時間は掛かるのかも知れないけど、中の人が長時間えっちぃシーンを録音ししていたのかと思うと、なんだか興奮しちゃうね。なんて、あまりメタ的なことを書いても興がさめるだけかも知れないけど。
明日はあやめルートです。こちらは翠ルートに比べると、やや複雑になっています。

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