部屋の掃除をしていたら、古いボンボンコミックがわんさかと出て来ました。私は、少年時代はコミックボンボンを読んでいた人なので、家には未だにボンボンが数十冊程度あります。ただ、あの雑誌は特徴として掲載されているからといってコミックス化されるわけではないという独特の風習があったため、たとえ長期連載でも単行本が出ていないものも多くて、中には2~3巻出したところで、単行本の刊行を打ち切り、雑誌では完結してるのに単行本には未収録なんて作品も少なくありませんでした。今回私が発掘した作品、ゲームウルフ隼人もその一つです。

ボンボンは、本誌に掲載されている中から厳選した作品をボンボンコミックスにしていると言ってましたが、その基準はよくわかりません。単純にアンケートの結果が良かったものか、あるいはタイアップ物を中心にしていたのか、とにかく出る作品と出ない作品のばらつきが大きかった。後年の黄金期と呼ばれる時代、メダロットやサイボーグクロちゃんが台頭してきた頃は大分マシになった気もしますが、80年代後期から90年代初期~中期の名作は、ほとんど単行本になってないんじゃなかろうか?
ゲームウルフ隼人に話を戻して、この作品は当時人気だった格闘ゲームストリートファイターⅡを題材にした作品で、ゲームの登場キャラであるリュウたちをメインにした漫画が多い中、実際の格ゲーとしてのストツーを扱ったものでした。主人公の小学生ゲーマー英州隼人(えいすはやと)が、数々のライバル、仲間たちの出会いの中、ストツーの大会であるGリーグでの優勝を目指していくというのが大まかな内容で、要は格ゲーのチャンピオンを目指すという物語ですね。
隼人は全くの初心者という訳じゃなくて、この手の作品にはありがちな、初登場時からそれなりの実力を持っている主人公になります。地元にあるゲームセンターのエースゲーマーと、ともすれば井の中の蛙に近い称号ではありますが、実力者ならではのテクを披露するなど、結構実際のゲームに忠実なんですよね。ゲームセンターあらしとか、アーケードゲーマーふぶきみたいな、何か凄いパワーを発揮して勝ってしまうみたいな、そういうのがないんです。

隼人は主人公ですから、やはり持ちキャラはストツーの主人公格であるリュウなんですが、これまた実機におけるリュウの性能に忠実なんですよ。超必殺技の真空波動拳が、「所詮は波動拳」と足払いの一つで止めれたり、起死回生の技がシリーズごとの持続時間の差で不発に終わってしまったりとか、小ネタも割と多くてね。一部のゲーマーしか知らないような裏ワザとかも比較的再現されて、ゲーセンにあまり行ったことがなかった私でも、普通に楽しく読むことが出来ました。
この作品のもう一つの魅力は多彩なキャラクターたちにもあり、私は5話から登場した少女、椿が好きでしたね。彼女は主人公の隼人と同い年の女の子で、常に着物を身にまとい、現代語を読むことが出来ないなど、かなり世間ずれをしています。隼人に対しては最初敵として現れ、しかも雪山の山荘に篭っているなど、妖怪じみた不気味な雰囲気をまとっていて、ハッキリ言うと怖いです。
けど、そんな和風な出で立ちと面持ちをしているにもかかわらず、持ちキャラは何故かブランカと、格ゲーを代表する野生児キャラというのだから、凄いギャップがあるんだよね。物静かだけど毒舌家という普段の態度とは対照的に、ファイト自体は荒々しくもトリッキーと、飄々とした部分も多い。そしてなにより、椿は強かった。

椿は隼人にとって敵として登場したキャラです。世界的なエースゲーマーである鮫島に雇われ隼人の実力を試すなど、彼の仲間というわけではなかった。でも、後々隼人と触れ合っていく中で心が揺れ動き、遂には鮫島から彼の側へと寝返ってしまいます。まあ、椿はあくまで雇われゲーマーでしたから、敵の組織の幹部とかそういうわけじゃないんだけど、主人公の人柄に触れて、その仲間になるってのは王道だよね。
隼人に気持ちが傾いてからの椿は本当に健気で、彼女はストツーの大会であるGリーグでかつての雇い主である鮫島と戦うことになるんですよ。鮫島はフェイロンが持ちキャラのエースゲーマーで、圧倒的とは言わないまでも、戦う前から勝敗が見えているような実力差があった。それでも椿だって相応の力は持っていたから、たとえ勝てないとしても善戦は可能なはずでした。いや、もしかしたら頑張れば、万が一にも勝機はあったかもしれない。
だけど、椿はそうした僅かな可能性を捨てました。彼女は最初から、鮫島の操るフェイロンの実力をすべて引き出し、彼の技や戦法などを披露させる選択を取ったのです。それは何故か? 他でもない、隼人にフェイロンの力を見せるためでした。以前、自分が鮫島に言われて隼人の実力を測ったように、今度は隼人のために鮫島の、フェイロンの力を教えてあげようとする。健気じゃないですか、ゲーマーにとって敗北というのは重いものです。かなわない相手にだって、負けるつもりで戦いを挑む奴なんてなかなかいません。胸を借りるつもりで行っても、心の何処かで勝利を追い求めているはずなんです。
椿はそうしたゲーマーとしての矜持さえも捨て去って、隼人に勝利を託しました。自らの持ちキャラがボコボコにされても、最後の最後まで隼人のために尽くす。私はそんな椿の奥ゆかしさに心を打たれました。多分、ボンボン漫画のヒロインではベスト5には確実に入るでしょう。それぐらいの魅力は余裕であると思います。

そんなゲームウルフ隼人ですが、前述のとおりコミックスは未完で打ち切られています。一応、Gリーグ編は最後まで収録されてるんだけど、その後に始まった電脳寺の前半で止まっており、後に始まる最終シリーズの闘神伝編はボンボンを引っぱり出さないと読めないのです。3巻まで出したなら4巻も出せよと言いたいけど、まあ、ボンボンですからね。もう20年も前の作品だし、復刊の希望も薄いですが、最近はボンボン同窓会が行われたりと、緩いながらも風向きが変わってきた気がします。私としては、既にコミックスが全巻出ているものより、出たけど未完で終わった作品や、そもそもコミックス化されなかった作品などを中心に、日の目を見られたら良いと思うんですけどね。いやはやなんともはや、難しい話です。

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