久しぶりにお芝居を観てきた。それも、小劇場の聖地、サブカルチャーの殿堂ともいえる下北沢で。私は所謂芝居小屋や小劇場で行われるような舞台や芝居を好んでみることが多いのだが、下北沢での観劇経験は、実のところそれほど多くはない。同じサブカルでも、私は学生時代の多くを早稲田や神保町などの古書店街と、後は秋葉原で過ごしていたような人間だから、それよりも多少はお洒落な雰囲気を持った下北沢に抵抗感があった……訳ではない、別に。
単純に芝居を観るにしても、贔屓の劇団とかが下北沢では公演してなかっただけで、私自身、出向いてまで開拓と言うほどではなかっただけの話だ。そこに深い意味などないのだろう。

そんな私が何故、今回下北沢の地に出向いたのかと言えば、まあ、上記のように芝居を観に行ったんですけど、私が贔屓にしている……といっていいのか、とにかく贔屓にしている声優事務所にガジェットリンクってところがあるんだけど、そこに所属している本田愛美さんという声優さんが初舞台に立つというので、少し興味が湧いて。本田さん自身、知らない人って訳でもなかったし。
でまあ、本当だったら12日の水曜日に観る予定でチケットを取ったんですよ。平日だけど有給残ってますし、有給ってのは特に用事があろうとなかろうと消化して良いものだと最近知ったので。そうしたらなんですか、会社に初めて却下されましてね。私の仕事は問題なかったんですが、別工程で遅れていたというか、まあ、来るはずの仕事が来なくて延期になって、12日にやって欲しいみたいな状況になりまして。
まあ、有給申請後だったら突っぱねましたけど、残念なことにまだだったから、仕方なく劇団へと連絡して日程を振り替えて貰うことに。幸いこれは上手くいって、三連休の最終日である今日観てきたというわけです。
久しぶりの下北沢ということで、私もお洒落にランチとかしたかったんだけど、生憎と家を出た時間が遅くて、着いた頃には13時前と、自由席なことも考えたら既に並んでないといけない時刻。なくなく、某ピザ屋に行くのを諦めて劇場へと赴きました。下北沢は今、カレーフェスがやっているらしくて、それで盛り上がっている若者が結構いましたね。カレーというと神保町のイメージだけど、下北沢にも専門店ではないにせよ、カレーを提供する店は結構あるらしい。

13時半になって開場して、振替の手続きも上手くいっていたのか、私は結構すんなり入れました。50人入れるかどうかみたいな芝居小屋という印象を受けたのですが、後で劇団の方から教えてもらったところ、実際には85名ほどの観客がいたらしく、見た目以上の広さらしい。そんな劇場内には演者の親戚か何かか、ご年配の方も結構いましたね。私の隣に座っていたのも年配の……といったら失礼かな、とにかくそんな方々でしたけど、こちらは前述の本田愛美さんの関係者だったようで、終演後に私がアンケート書いている横で挨拶に来られてました。
まあ、それは良いとしてお芝居です。この芝居は決して観客参加型ではないのだけど、観客にも一つの役割というか、役所を与えられていて、それが葬儀の参列者というものです。世界的な歌手が亡くなって、そのお葬式に参列したのが観客である我々なんですね。勿論、お葬式ってのは厳かなものですから、声など上げませんし、芝居その物に関わったりもしません。
物語は、そんなお葬式の席で亡くなった歌手の忘れ形見……実子である四姉妹の長女が発した言葉をきっかけに始まっていきます。
ジャンルがブラックファンタジーで、登場人物というか主役が仲の悪い四姉妹ともなれば、話の流れや結末なんてのは容易に想像しやすく、ハッピーエンドかバッドエンドか、そのどちらかだと思います。そういった意味ではこのドールズハウスは非常に分かりやすい物語だったんだけど、シンプルなだけ合って、テーマ性というか、お芝居を通して訴えたいことと、伝えたいことが、非常にダイレクトなんだよね。直球で投げてきて、受け止めることを許さずにそのままぶつけてくるというか。こういう書き方をすると乱暴に感じるかも知れないけど、四姉妹が内に抱えているものってのは、遠回しに回りくどくやっても解決する問題じゃなくて、多少強引でなければどうにもならないってのを良く現していたように思う。

それでいてまあ、ドールズハウスというぐらいですから人形が結構出てくるんですけど、この人形たちがとても個性的なんですよ。まるでミュージカルを思わせるような音楽演出の中で、まあ、人形なりに楽しく生きてる訳なんだけど、これが又可愛いのよ。人形って、それぞれ何の人形であるか、って分かれてるじゃないですか。男なのか女なのか、王子様なのかお姫様なのか、海賊なのか兵隊なのか、それとも……みたいに、人形ってのは生まれてきたそのときから、常に何かしらの個性を持ってるんですよね。
その際立った個性を、役者陣が上手く演じていて、人形というからには人と違う価値観と時間の流れを持ってるんだけど、これが楽しくもあり切なくもありと、忘れ去られても変わらなかった者たちの輝きと悲哀がそこにはあった。特に三女と四女は、分かりやすいぐらいにその辺りのことが描かれていたんじゃないかな。
オチも本当にシンプルで、あっと驚かされたり、やられた! と思うような部分はなくて、シンプルイズベストを突き詰めたかのようなお芝居だったけど、それだけに観やすかったし、考えさせられるとか、突き動かされるとかじゃなくて、混じり気のない純粋さがそこにはあった。奇想天外とか、シュールを求めてる人には合わないかも知れないけど、平凡ながら少し不思議な物語を楽しみたいという人にはオススメかも。あんまり平凡っていい言葉じゃないんだけど、このお芝居に関しては褒め言葉と受け取って欲しいなぁ……奇を衒うような話じゃなかったし、それでいて伝えたいことがハッキリしていたから。

私が12日のチケットを取ったのはそもそもアフタートーク目当てだったんですが、それも流れてしまったので、終演後はアンケートを書いて、物販を覗いたらそそくさと帰りました。そういえば、本田愛美さん宛に届いていた花に小説家のあかほりさとる先生がいましたけど、あかほりさんの名前とか久しぶりに見たなぁ。昔々に少しだけ世話になったんだけど、本田さんってあかほりさくひんとか出ていたかしら。お花を贈るってことはそう薄い縁ってことはないんだろうが。
ちなみに行きに寄れなかったピザ屋、帰りにも覗いたら17時45分から再開だったので諦めました。なかなかどうした、上手くいかないもんですね。

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