先日観劇したドールズハウスが千秋楽を迎えたので、ネタバレを避けるために書いてなかった部分を追記しよう……と思ったのだけど、予想以上に長くなったので新規に書くこととしました。私、この日記で後日に書くとか言ったものは大体書かないことが多いんだけど、今回は一つ前の日記を書いた直後、即座に取りかかっているので大丈夫です。
で、何が書き足りないかというと、登場人物、つまりはキャラクターについて。私はこのお芝居、物語性よりもキャラクター性を重視していると思っているのだけど、これがまあ、実に魅力的だった。要するに、あのキャラ可愛かったよね? という話を書きたい。

演者としての目当てだった本田さんはともかくとして、私が登場人物で心惹かれたのは四女のリナと、彼女の人形である海賊のビアンカでした。どちらもメインキャラと言って差し支えないのだけど、リナだけは人形たちに対してある種の好意というか、期待感のようなものを滲ませてるんですね。
「私の人形もあるの?」とわざわざ確認を取った辺りから、それまで姉たちに対して小憎たらしい末っ子だった彼女に、可愛げのようなものが帯び始めます。彼女は昔から性格が変わらないのか、人形たちにとっては暴君みたいなもので、再会した途端にいじめられると騒がれるんですが、リナはそんな彼女たちを即座に従えてしまう。人形たちの存在に戸惑い困惑する姉たちと違って、リナだけは比較的人形たちと目線が近いんですね。暴君でありながら対等な存在を求めているというか、ハッキリ言ってしまえば友達を望んでいるんです。
いじめられてたという割に、彼女の人形たちは根性ひん曲がったところもなく、心が擦れているどころか、実に楽しそうな描写が目立ちます。楽しく遊び、楽しく踊り、ボスはともかくとして、昔からリナに虐げられてきたというなら、こうはならないでしょう。リナは姉からも言及されるように現実世界で友達がいないんだと思います。分かりやすい孤独感を抱えているが故に、それを埋めるために人形たちとの再会を欲して望んだ。
ここがウララとの違いでもあるんですが、それは一先ず置いておくとして、次はビアンカの話。

海賊人形のビアンカは、リナが持つ人形たちどころか、全体的な登場人物の中でも一際目立つ、謂わば人形側の主役ともいうべき子です。一番の秘密が隠されているのはマリーだけど、実際に動いていたのはこの子で、姉妹たちの橋渡しではないけど、彼女たちの心理的影響を揺さぶる役目を負ったのが、ビアンカな訳だ。
リナにいじめられていたとは言っても、彼女はリナを騙す……というより、傷付けた自らの行いに強い罪悪感を覚えています。リナは姉妹たちの中で唯一、自分から人形に縋り付いた娘で、横暴ながらも人形たちに対して少々ひん曲がってはいるけど、好意的でした。彼女にとって人形は今も昔も友人がいなかった自分にとって、数少ない、気を許せる友達代わりだったようなところがあったのでしょう。彼女の人形だけ7体と、他の姉妹に比べて多いことからもそれが伺えます。おそらく、新しい友達を増やしていく感覚で増やしていったに違いない。
終盤に登場するとある人物に対して、自分は母親からパンケーキ一つ作って貰えなかったと吐露するリナは、根本的な愛情に飢えている娘です。そんな彼女が、自ら再会を望んだ人形たちから拒絶されるのというのは、文字通りイヤなことであり、ショックも大きかった。
そして、とある人物から命令された際のビアンカの反応からして、ビアンカはそれがリナを傷付けてしまう行為だと悟っていたわけですね。だからこそ、罪悪感に打ちのめされてしまった。
もっとも、これはあくまで精神的な話。いくらでも取り返しは付くように思えますが、逆に物理的な意味で傷付いたのはジェーンであって、こちらは猫によってズタボロにされてますから、洒落になってないんですが、このジェーンの悲劇が起きたのは、リナとウララの人形に対する接し方と考え方の違いからでしょうね。

リナは人形たちから割とあっさり、自分たちの持ち主であるリナであることを受け入れられます。それは彼女の性格があまり変わってなくて、他の姉妹……レオナやサラと違って邪険にせず、自分からその輪に入ったことが大きいんでしょうけど、これが三女のウララになると少し話が変わってきます。
ウララは遺産相続にはありがちなお金に執着する娘として書かれており、人形に言わせれば子供の頃と一番性格が変わっています。子供の頃の彼女がどのような存在だったかは断片的にしか分かりませんが、無頓着ではないにせよ、お金に対する執着は一般的な子供と同じだったと考えていいでしょう。あるいは昔はお人形遊びに、後は花や蝶が好きだった娘なのかも知れない。
お金が好きだという情報を与えられたばかりに困惑する彼女の人形たちと、その事実を認めてしまったウララ。そしてそれを真に受けたが故に、ジェーンは猫という危険が待っている庭へと、コインを取りに行ってしまう。ジェーン以外の人形が大人になったウララを本当に持ち主なのかと疑う中で、ジェーンは敢えて、彼女が喜ぶと信じた道を選んだんですね。何故なら開き直ったサラや、最初からどこか楽しげに人形と接するリナと違って、ウララは受け入れられないファンタジーを前に、人形たちとの距離感と接し方が歪だった。
だからこそ、自分のために命を掛けてしまったジェーンの存在も又、彼女には受け入れられないものだった。故に彼女は、リナ以上に人形たちと破局してしまうわけです。
一つ残念なのは、姉妹の和解が優先されたことで、リナやウララが人形たちと和解するシーンがなかったことでしょうか。些細な喧嘩みたいなリナはともかく、持ち主ではないと否定されたウララが人形たちと和解できたのかは、ちょっと気になります。勿論、あのドールズハウスがレオナの家になった時点で、時間は幾らもであるのでしょうが。まずは、猫を庭から追い出すことから始めましょう。

このドールズハウスは総勢20名以上の役者が出演している、小劇場とは思えない大所帯なんですけど、一人として欠けてはいけないように思えた。無駄にも邪魔にも、余り物にもなってない。勿論、メインとサブの違いや差はあれど、あの小さなステージで、20名以上キャラクターを活かしきるってのは、相当なものじゃないだろうか。物販で台本が売っていたので読んだんですけど、構成や演出がね、よく考えられてますよ。
あと、失礼ながら役者陣は殆ど知らない人ばっかりだったけど、それだけに先入観を持たず、登場人物の一人として観られたのが良かったのかも知れない。これが知ってる人なら、まあ、今回の場合は本田さんですか? 彼女が演じたユーミーが出てくると、「ああ、本田さんだなぁ」と思ってしまうから、そういった意味で新鮮さに違いはあったかも。本田さんは良い演技されてましたけどね。
今年はあと2つ、観たいと思っている芝居があるのだけど、果たして行けるのかどうか。時間はあまりないですが、検討していきたいものです。

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