昨年、Sphereから発売された美少女ゲーム、イモウトノカタチのビジュアルファンブックが出ていたので買ってきました。CUFFS系のVFBと言えば自社で作った物をメロンブックスなどで同人誌扱いとして売り出すか、もしくは夏か冬のグッズ通販で出すものと相場が決まっていたのだけど、イモウトノカタチに関しては何故かエロゲ雑誌のPUSHを出している、MAXからの刊行でした。同人誌扱いで出していたのがあまり売れなかったのかは知りませんが、遂に自分のところでVFBを作るのも止めてしまったようです。まあ、イモウトノカタチだけという可能性もあるけど。

私がこの本を買った理由は、何だかんだ言って去年一番やり込んだエロゲがイモウトノカタチだったからで、年末に出た夏ペルよりも費やした時間が長かったんですね。勿論、金銭的な部分も含め、雑誌等の追っかけもしていましたし、発売するまでが一番楽しかったかも知れない。発売後に関しては……まあ、皆さんご存じの通りと言うことで。
さて、同人誌媒体から一般の商業誌媒体で発行されたイモウトノカタチVFBですが、これが刊行されるにあたってSphereの公式Twitterは、以下のような文章をツイートしています。
【イモウトノカタチ】のビジュアルファンブックを株式会社マックス社様より1月24(木)に発売します。【イモウトノカタチ】の世界を全て詰め込んだ本書の表紙を飾るのは、武藤此史描き下ろしの美優樹とミータです。よろしくお願いします。
URL:https://t.co/WJh2R7G1
なんてことない、良くある宣伝文句ですが、ここで気になるのは本書のページ数です。イモウトノカタチVFBは2800円と、一般的なエロゲVFBとしては平均価格。しかし、ページ数は128Pと比較的少ない部類になり、かつてのSphere、CUFFSが出してきたVFBとは圧倒的な差があります。ブランドとしての前作ヨスガノソラに関しては、ハルカナソラというFDもあったとはいえ、2冊組みで456Pの大ボリュームであり、CUFFSから出たCAFE SOURIREのVFBでさえ300Pの厚さを誇ります。それに比べてイモウトノカタチは半分のページにも満たず、たかだか128Pに作品世界をすべて詰め込んだと言い切られてしまっているのです。

今まで線画やラフも含めて何百ページというVFBを出し続けてきたメーカーがですよ、言うに事欠いて128Pで世界のすべてを詰め込んだはないだろうと思って、私はやや複雑な気持ちで本書を読み始めたのだけど……これがビックリ、その通りだったんだよね。いつもの線画やラフがないのは残念だけど、それを除けば確かに128Pで収まってしまう内容で、イモウトノカタチと言う作品はこんなにコンパクトにまとまってしまうものなのかと、僅かに意外さを覚えてしまった。
だって、物足りなさがないんだもん。流石に冬通販の抱き枕画像は載ってませんでしたけど、それを除けば載せるべきイラストは全部載っていたし、ヒロイン紹介ですか? あれもシンプルだけど、攻略推奨ルートなども記載されていて、MAXならではの部分も光った。ルート回想にしたところで、主観のない淡々としたものだったから、こういう物語でした、おしまいという感じで、内容賛美がないだけ特に不快感を刺激されることがなかった。これで開き直って、雪人の行動とか、その辺りを褒め称えていたら、思わず本を投げ出したかと思うけど、基本的にはシナリオに沿って内容を書いていくだけなので、これといって気になる部分はなかったかな。
版権イラストに関しては、何せ雑誌等を追い掛けていたことから私は全部持っているので、特に初めて見るものとか、そういうのはありませんでした。イマイチ新鮮さに欠けたけど、それについては仕方ないよね。あぁ、でも去年の秋ドリパで発売された真結希のテレカイラストが、美優樹のそれと比較して小さかったのはどうだろう。あれってそんなに枚数でなかったし、もう少し大きく載せても良かったと思うんだが。

イモウトノカタチVFBに特筆すべき点があるとすれば、スタッフスペシャルインタビューが掲載されているところでしょう。雑誌における企画や特集はともかくとして、これまでCUFFS系のVFBでは所謂スタッフインタビューや対談の類いがなかったのですが、今回は商業誌だからか分かりませんが、ディレクターとライター、それに原画家陣の7人に対して作品に関する質問、疑問などが投げかけられていました。
ライターの1人であるなつかぜかおる氏は、実は昨年の11月もって活動を休止しているのですが、インタビュー時期がそれより前だったのか、普通に参加しています。彼が物書きを廃業したのか、それともライターとしての仕事を辞めたのかは知りませんが、色々思うところあったのでしょう。真意の程は定かではないですが。
スタッフインタビューと言うことで、かなり深い部分まで突っ込んだ質問がなされていました。具体的に言うと、作中で放置されていた伏線、疑問に関してはすべて回答が用意されており、災害の原因や、あやかの両親、雪人と美優樹が兄妹であることがDNA鑑定で判明しなかった理由に、ミータを攫って改造した組織についてなど、ユーザーがこれでもかと言うぐらい酷評して糾弾した伏線や疑問点が、全部解説されています。
これは何もユーザーから散々叩かれたからと言うわけではなく、イモウトノカタチはFDを出さないので、答えられる質問には答えてしまおうということでした。FDが出ないのはイモウトノカタチがどうこうと言うより、CUFFSとしてのスタンスであって、ハルカナソラが例外だったそうです。

私がこのインタビューで注目したのは、やはりミータに対する人気の読み違えでしょうか。人気投票をやっていないので、発売前、発売後でヒロインの人気の変動を語るのは難しいと言いながらも、ミータに人気が出たのは予想外だったとディレクターの佐倉さんは答えています。独特な、癖の強いキャラだから、好き嫌いが分かれるだろうと思ったらしい。性格や言動についてはその通りだと同意するけど、私に言わせるとミータの人気が出たのは結果的だと思うんだよね。
ライターの朝倉さんによると、ミータと真結希のシナリオは最初からセットで考えられており、真結希が正統派だったそうです。まあ、真結希は実妹なんですから当たり前でしょうけど、ここで忘れちゃいけないのは彼女は作品発表当初は存在していなかった、つまりユーザー的には隠しキャラだったということ。美優樹、あやか、千毬、ミータの4人がヒロインだと思っていたところに現れた、追加キャラというイメージが強いんですね。だから、途中で発表されたとはいえ、ユーザーの感覚的にはミータの方に思い入れというか、意識が傾いてしまうのも無理はないんです。だって、真結希はそれまで存在してなかったし、体験版にも出ないんだから。
朝倉さんはミータを脇キャラのつもりで書いていたらしいけど、ユーザーにそんな認識が出来るわけはないんですよ。だからミータの単独ルートがなかったことに不満がわき起こり、結果的にヒロインとして不遇のミータへ人気が集まったわけです。この辺り、春日野穹という妹を排出したSphereの驕り高ぶりがあるというか、とりあえず妹出しとけば良いだろうみたいな部分があったんじゃないだろうか。Sphere=妹モノという考えはともかく、それを意識するあまり、妹以外に人気が出る可能性を失念していた。佐倉さんはミータに対するエッチシーンの回数設定を失敗したと言ってるけど、そういう問題でもないんじゃないだろうか。

そもそもイモウトノカタチ言う作品は、妹ゲーとして魅力的だったのか? と、私は思います。美優樹にしろ真結希にしろ、あるいは千毬にしても妹キャラとしての魅力はあったでしょうか? 極端な意見では、この作品にまともなキャラはいないとされるイモウトノカタチです。春日野穹や、桜井朋美などと比較してどうだったのか? 必ずしも、好意的な評価ばかりじゃないよね。
特に批判された、私も酷評した美馬雪人という主人公に関しては、スタッフ側でも思うところはあるみたいです。体験版が公開された当初は、「ギャグキャラだから受け入れて貰えるか不安だった主人公の性格も概ね好評で」と言っていたスタッフも、流石に現状を鑑みたらしく、なつかぜかおる氏が以下のような発言をしています。
雪人と美優樹のボケコンビは書いていて楽しかったですけど、逆に雪人の世間知らずな面とか、ボケのさじ加減がとても難しくもありました……。結果的に雪人のああいう性格は賛否両論だったので、今後の作品作りにおいての要改善事項だと思っています。
私としては、大洪水の中、止める妹を連れて水着で病院に泳いで行ったり高熱で死にかけのもう一人の妹を、彼女が嫌っているロボット娘を探す為に雪の中連れ出したりすることを世間知らずボケで済ませて欲しくはないのだけど、雪人の性格設定などはなつかぜさんがメインだったのかな? ミータ&真結希ルートを書いたのは、どうやら朝倉さんみたいですが。

他にもあやかルートで出てきた喫茶店の店長、あの人の息子夫婦についてとか、ユーザーが少しでも考察、検証した部分には相応の答えが載っています。私は外れた部分もあり、当たった箇所もありという感じですが、伏線の投げっぱなしに辟易としていた人は、読めば結構スッキリするんじゃないでしょうか? 今回は店舗特典もありませんから何冊も買うようなものではありませんが、プレイした人なら1冊ぐらい持っていても損はないと思います。決して、読み物として特別面白いわけではないですが、VFBはイラストを見る為のものだしね。私はそれなりに満足しています。本当に128Pでイモウトノカタチの世界を詰め込めてしまったことには、些か以上に唖然としているけど。
イモウトノカタチに日記も、いい加減まとめに移った方が良さそうなので、今日は総評を書くことにします。本当はもう少し書き足りない気分なんだけど、これ以上続けても同じ事の繰り返しだし、昨日みたいに心の狭い文章ばかりになりそうだから。別にあれの何がいけないってわけじゃないんでしょうが、継続的に貶し続けるというのも感じ悪いし、かといって良いところを上げろと言われても無理ですからね。勿論、イモウトノカタチという形にも僅かながらの美点や、褒めるべきところはあるんだろうけど……まあ、今日はそんなイモウトノカタチの総評と、FDの可能性について書きます。

始めにおさらいをしておくと、この作品は好意的な評価よりも否定的な評価、つまり酷評や不評が多い作品です。俗に言う地雷とまではいきませんが、駄作と凡作の間を行ったり来 たりしているような感じで、私自身の評価もそれに近いものがあります。少なくとも、美優樹ルートや、あやかルートをプレイしていたときはごくごく 平凡なエロゲーというイメージがとても強く、こんな平々凡々とした内容の作品をSphereで出す必要があったのか? と思ったのは事実です。
ただ、千毬ルートと真結希ルートをやってからは、主人公のキャラや、それに伴うシナリオが酷すぎることと、伏線等が全く回収されなかったことか ら、平凡や王道という表現を使うことに躊躇いが生まれました。あやかルートがそれなりにまともだったことから、決して地雷ではないし、一つでも評価 できる部分があるなら、その作品は駄作ではないってのが私の考えだけど、それじゃあ凡作なのか? と言われれば、雪人の酷いキャラや伏線の存在もあって、素直 に肯定することが出来ないんですよね。凡作の域を出ないと言うより、その域に達してないとでも言うべきか。
私が最初に体験版をやったとき、イモウトノカタチは王道的なエロゲを目指しているのではないかと思い、実際に美優樹とあやかのシナリオはそんな感じだったのだけど、後半になって見事に崩れてしまった。色づけとして用意したであろう設定が荷物となり、結果的に生かすことも出来なかったのだから皮肉な話です。
だからこそ、イモウトノカタチは中途半端なエロゲと言われており、期待外れであるという声が多いのだと思う。少なくとも、Sphereブランドの3作目として出すべきような作品ではなかったね。ヨスガノソラに続く新作としては、相応しくなかったとしか言い様がない。

そんなイモウトノカタチですが、今後の課題となっているのは、果たしてFDは発売されるのかどうか? と言うことです。FD、つまりファンディスクの略だけど、これに関して私は一つの考えを持っています。多分ですが、イモウトノカタチFDは出るでしょう。これは希望的観測ではなく、ある程度の根拠がある推測になります。
回収されてない伏線が多いからとか、単純に作品として未完成、あるいは中途半端な出来だからFDでの補完が欲しい、という要望が目立つイモウトノカタチだけど、それと匹敵する、もしくはそれ以上にこの程度の作品にFDなど必要ないという意見が出ているのも事実です。要は不評と酷評だらけの作品でFDなど出してどうする、FDは不出来な作品を作り直すために存在するのではないぞと、まあ、そういうことですね。私も基本的には後者の意見に同意するし、イモウトノカタチで特別FDを欲していないというのが正直なところです。8月の新作として一番売れたのは事実だろうけど、それに比例するぐらいのけちが付いたのも否定できないでしょう。
ただ、そういった現状や現実を無視しても、FDは出るんじゃないかと思う。口では文句言っている奴も出たら出たで買うだろうってのは勿論あるけど、もっと言うならイモウトノカタチはFDを作りやすいんですよ。現在Sphereは、早くも新作であるBerry’sを作っているわけですが、これは橋本タカシと鈴平ひろの黄金コンビに、その友人原画家たちを大量に招いた、複数原画家によるお祭り作品です。元々は同人企画としてスタートしたものですが、新作をやる以上はイモウトノカタチのFDなんて作っている暇はないんじゃないかと言えば、実はそうでもありません。何故なら、Berry’sにはイモウトノカタチの原画家である武藤此史とこだまさわは参加しておらず、例えば聡里や律佳など、攻略が期待されているであろうキャラの新規ルートを作ることに、それほど制約がないのです。まあ、前者はともかく、妹ゲーで後者を攻略したいのか、という気持ちはありますけどね。

FDである以上は立ち絵や音楽、それにシステム面での流用が利きますし、必要なのはシナリオと新規CGぐらいなものです。真結希ルートを作り直すにしろ、聡里ルートを新たに追加するにせよ、一からゲームを作るわけじゃないですから、新作と並行しての作業もさほど難しくはないと思うんですよ。現に、ヨスガノソラのFDハルカナソラは、CUBEの処女作夏ノ雨と同時発売でしたからね。
それに、私がイモウトノカタチのFDが出るのではないかと思っている理由の一つ、まあ、これが一番大きいんですけど、原画家の武藤此史が、原画の依頼を2013年下半期以降の受付としているからです。つまり、彼は原画家としてのスケジュールが来年の夏ぐらいまでは埋まっていて、何らかの作品に従事している可能性があると言うことです。勿論、イモウトノカタチとは全く関係ない、何か別の新作である可能性は否定できないけど、Berry’sの発売予定が2013年であることを考えれば、イモウトノカタチFDと同時に出す流れを考えた方が自然という物でしょう。最初からSphereはFDを出すつもりでイモウトノカタチを作っていたのかと思えば、それはそれで腹立たしいのだけど、流石に「どうせFD出すんだし、伏線とかはそこで回収すればいっか」とか、そういうノリで作品を発売したのではないと思いたい。以前にも書きましたけど、FDってのは本来人気の作品が、待望され、期待されて出す物であって、不人気で酷評されている物が、評判を挽回するためのものじゃないんですよ。
だから、Sphereはある程度、いや、ヨスガノソラに近しいぐらいの反響や人気を、イモウトノカタチで得られると思っていたに違いない。あの作品でどうしてそんな夢みたいな事を考えてしまったのかとは思いますけど、じゃなかったら確信犯な訳で、よっぽど質が悪いことになりますからね。ここまでの酷評を受けるとは、予想できていなかったのでしょう。

私は何だかんだ言って、イモウトノカタチFDが出れば買うと思います。必要ないって気持ちに変わりありませんが、まず間違いなく出るでしょうし、聡里ルートなりを追加しつつ、ミータないし真結希ルートを作り直す形になるはずです。主人公の交代は流石にないだろうけど、今のままでは何も変わらないし、性格というか人格面での調整ぐらいはするんじゃなかろうか。あやかルートを基準にしていけば、ある程度の改善は見込めるはずだしね。
ヨスガノソラがイモウトノカタチに比べてよっぽど優れた作品だと言うつもりはないけど、私はヨスガの方が好きだし、イモカタはあらゆる面で失敗作というか、残念な気分にさせられた作品です。だから私にとってイモウトノカタチとは、好きになりたかった作品ということで、感想レビューをまとめておくことにしましょう。本当に、惜しい作品でした。
いつまで続けるイモウトノカタチ日記ということで、ネタがある限りは書き切ってしまおうかなと思っていたりします。後に引きずるとろくなことが無 さそうだし、公式サイトがそうであるように、既にこの作品は一区切り付いてますからね。世間的にも粗方の感想は出尽くしたようですし、某所は延々 と不満を言い合うだけの流れになってしまったので……まあ、それも無理のないことなんでしょうけど。私もとっくに結論は出してるんだけど、そこへ 辿り着くまでの過程がまだ書き足りないから、もうしばらくはイモウトノカタチをやり込もうかと思います。

そんなわけで、今日はイモウトノカタチの主人公、美馬雪人と、ヨスガノソラの主人公、春日野悠の対比について書きます。予め断っておくと、私はハルのことは大好き だけど、雪人のことは大嫌いなので、公平な物の書き方は出来ないでしょう。まあ、別にハルだって完全無欠の主人公というわけじゃなかったけど、キャラクターとしての魅力に圧倒的な差があるというか、主人公としての在りようがね、雪人とは根本的な部分から違うんですよ。前作の主人公と言うことで比較されがちだけど、ここらで少しまとめてみた方が良いかなと思いまして。
では、まず最初に美馬雪人のキャラクター紹介から観てみましょうか? 彼のプロフィールは、以下のような形になります。
美馬雪人
故郷の災害で両親を失い、妹とも生き別れてしまった天涯孤独の少年。幼い頃施設に預けられて、以降アルバイトで学費を稼ぎながら学校に通う。

常に物事を前向きに考える楽天家だが、真っ直ぐな性格で、思い立ったら一直線に進む傾向がある。

困った人を放っておけない優しさの持ち主でもあり、世話焼きなところがあってか、施設では同じ境遇を持つ子供たちのお兄さん的存在として慕われていた。田舎育ちでやや天然気味なところもあるが、本人に自覚はない。

行方不明の妹を探す旅に出るためにコツコツとお金を貯めていたが、災害で失われた過去の記録が一般公開されることを知って、故郷の街―白鳥環境特区―へ向かうことになる。
なんというか、物は書きようって感じがひしひしと伝わってくる文章ですね。ツッコミどころしかないような紹介文ですが、そもそも雪人って何のバイトしてたんでしょうか。携帯もろくに使えないような奴だけど、近未来に新聞配達があるとは思えないし、あやかルートの反応を見るに接客業かな。あの性格でよく雇って貰えたというか、働くことが出来たなと言う疑問は残りますけど……自分の都合を押し通したり、人の気持ちが分からないことを真っ直ぐな性格で、思い立ったら一直線と表現するのもなんだかねぇ。天然気味とか言うけど、美優樹ルートやればそれが嘘っぱちであることは分かりきってるし、そもそも彼の優しさって何でしょうね?

さて、続いてはヨスガノソラの主人公であるハルの紹介文。こちらはちょっと短めですね。
春日野悠
苦労人で、両親と死別したときから、ずっと苦労の連続。しかし、本人は苦笑しながらも、けなげに頑張っている。

わけあって祖父の田舎に引っ越してきたが、そこは幼少の頃、避暑に来ていた場所でもあり、顔なじみの奈緒に助けてもらいながら、なんとか穹との二人暮らしをしている。

都会の便利な環境に慣れきっており、勝手の違いに戸惑い、苦労している。

意外とまめな性格だが、家事全般が全然ダメで、穹も何もしないために、家はいつもてんやわんやである。

穹と同じく、色白で線が細い顔つきなので、繊細な少年の様に見える。

穹のわがまま振りには手を焼いているが、残された家族を大事にしたいと甲斐甲斐しく面倒を見ている。
ハルに関しては、概ねその通りと言った内容ですね。少なくとも嘘は書かれてないし、ハルがまめな性格であることとか、穹の面倒を甲斐甲斐しく見ているところなんかは、体験版の時点で分かることです。家事にしたって苦手ではあるにせよ、率先してやろうとする努力家ですし、その後の上達を考えれば頑張っている方でしょう。雪人のそれと違って深い部分までは記載されてませんが、ハルというキャラを端的に示すなら、上記の文章だけでも問題はないと思います。安定感のある、エロゲにはややありがちな人物像ですかね。ただ、ハルにはこれプラス抜群の容姿があるわけですから、その時点で雪人とは差が付いています。それではまあ、二人の登場人物紹介を書いたことだし、対比の方を初めて行きますか。

相貌と容姿
昨今は最初からイケメン設定である主人公も少なくないですが、ハルはまさしく美形、美少年と形容されるキャラクターです。本人は双子の妹、穹のことを強く意識していたので、自分に対する容姿の評価は気に留めないことが多かったようですが、その容貌が優れていることに変わりはありません。典型的なイケメン主人公と言えるでしょう。
対する雪人は、残念なことに視覚的な面からして美形だという確信が持てないキャラです。作中の登場人物、例えばヒロインなどからは格好いいと言われることもありますが、容姿を面と向かって褒められたこと、例えばハルのように美少年だとか、イケメンだとか言われたことはなく、CGなどで観られる顔貌は、あまり個性的とは言えません。視覚的な面から、と書きましたけど、ハルはハッシー&鈴平の黄金コンビによって書かれていたのに比べ、雪人は画風の違う三人の原画家によって描かれたキャラなので、ハッキリ言うと描き手によって全然見た目が違います。ハッシー、武藤、こだまさわが描いた雪人を比べてみると、同じキャラという気が全然してきませんよね。それぞれに特徴がありすぎて、特にこだまさわの雪人はショタと見紛う別人と化しており、ハルと違って見た目の統一性が出来ていないのです。雪人が中身に反して、外見的に無個性なのは、おそらく原画家陣による描きやすさを優先してのことなんだろうけど、見事に失敗してますよね。だから、相貌の面から雪人を評価することは難しいと思います。

ただ、雪人は子供の頃に野山を駆け回っていたという野生児的な設定があるにもかかわらず、顔立ちそのものは柔和であり、田舎者という感じがしません。性格や言動に見た目が一致しないといいますか、あの容姿からああいった発言や行動をしているのだと考えると、なんというかぶん殴りたくなりますよね。

生い立ちと境遇
登場人物紹介に苦労人と書かれているハルですが、単純に悲惨な境遇というなら雪人の方が上回るかも知れません。まあ、個人の不憫さに強弱や上下を付けることが間違っているのかも知れませんが、震災で両親を失い、妹とも生き別れ、施設暮らしのバイト三昧という雪人は、彼という人格に目を瞑るなら十分同情に値するものでしょう。そういえば、どうして両親は失った、つまり死んだと明記されているのに、妹は生き別れたと、生きていることが前提なんですかね? 普通なら、妹含めた家族と生き別れたと表記するのが自然に思えますが……まあ、本筋と違うので別に良いか。
ただ、雪人はそのいい加減な、もとい前向きな性格からあまり辛さを感じさせませんし、何より災害から15年という月日が過ぎています。物心付く前、あるいは記憶を操作されている可能性もあることから、本人の自覚や意識がとても薄いんですね。故に同じ被災者でありながら、静香などとは考え方が違い、配慮や思いやりが足りないなどと注意されてしまうのです。
一方、ハルはどうでしょうか? 彼の場合、両親を亡くしたのはつい最近の話であり、奥木染に引っ越したのは、葬儀やその後の諸々で疲れ果てたからです。負った傷は深く、癒えることはない。しかし、自発的に引っ越しを選んだことから、田舎生活には積極的な面があり、不器用ながらも家事を行うなど、積極性もあります。この辺り、突発的に鵠見市に行ったものの、あらゆる事が無計画だった雪人とは違いますね。勿論、最初から彼が長期滞在するつもりだったとは思えませんが、彼の鵠見市における生活が成り立っているのは、偏に理事長のおかげですからね……衣食住と補償して貰って、学校にも通えているのだから結構な身分です。災害孤児への補償と言ってしまえば、それまでなんでしょうが。

日常生活
雪人は生き別れの妹を探すという目的を持って鵠見市にやってきました。彼の日常はそれが基準であり、学園生活とかは実のところ二の次だったりするんだよね。単純に引っ越してきた、つまり生活環境を変えただけのハルとは事情が異なります。ただ、そのことで雪人が苦労をしているのかと言えば話は別で、前述の通り彼は衣食住を補償して貰ってますし、生活のための努力というのはあまりしてません。お金は出るし、食事は学食や寮で作って貰えるし、学生寮とはいえ住むところも安定してる。日々の生活というものにあくせくする必要がないんですね。この辺り、家事だなんだと一杯一杯のハルに比べて、いくらかの余裕があります。
ヨスガノソラとイモウトノカタチはそれぞれ共通点があって、学校というものが舞台装置としてはそれほど機能していません。後者は学園ラブコメを謳っているけど、学校が舞台に話が展開するというのはあまりなく、どちらかと言えば寮の方が多いんじゃないか? という気もします。一方、ヨスガノソラはルートごとに差異はあるも、穂見学園が物語の中心となることはありませんよね。この様に二つの作品は、学校生活をメインにしているわけじゃないから、そこから積み重ねる日常というものがあまりなかったりする。
話は逸れましたが、雪人はこうしてみると平々凡々な学生をやっている気もしますね。特殊な環境ではあるけど、ハルほど現実に苦労しておらず、環境としては恵まれていると言ってもいいでしょう。ハルが奥木染で受けられる恩恵なんて些細なものだし、この差は結構大きい。

妹との関係
これはそもそも比較できないと思うんだよね。最初から双子の妹がいるハルに対して、雪人はその妹を探しに来たわけだから。けどまあ、基本的に穹のことを考えて行動しているハルと違い、雪人は自分の都合で妹さえも振り回す男だし、兄としてどちらがまともかというのは、考えるまでもないでしょう。そもそも、雪人が持つ兄貴像というのは、一般的なそれから外れてますしね。
大体、雪人は義妹である千毬に断りもなく鵠見市に来るぐらいですから、兄としての優しさなんてものは持っていないような気がするんだよ。真結希はともかくとしても、美優樹は友人関係の延長線、もしくはそこからのシフトで成立した兄妹仲だし。そういや、美優樹ルートって二人が兄妹であることが発覚した時点で終わるから、兄としての雪人は真結希ルートでしか見られないんだよね。そして、そのシナリオにおいて雪人がどんな兄貴だったのかと言えば……まったく、しょうもない奴です。
イモウトノカタチが酷評される理由の大部分は、主人公の雪人にあると見て間違いないですが、考えてみれば兄としての雪人は最後のルートでしか存在しないんだよね。千毬ルートもあれで関係性が曖昧だし、ユーザーは雪人がキャラとしてもっとも最悪なときに、兄である彼も見なくてはいけない訳か。そりゃ、好かれないわけだよ。ハルだって兄として間違いを犯すことは少なくなかったけど、穹ルートではちゃんと彼女を大切にしているし、しっかりと兄をやっていますからね。雪人は千毬という義妹がいたにしては、真っ当な兄妹観というものを何故築けなかったのだろう。
妹の方はどうかといえば、穹はハルにベタ惚れだからともかくとして、美優樹はなにせ兄妹であると知ったのが終盤ないし中盤だし、真結希に至っては兄妹だなんて思ったことはなかったですからね。この時点で、雪人と美優樹、そして真結希には、ハルと穹のような兄妹関係を望むことは出来ないのです。もっとも、穹は双子であることを意識しても、兄妹という順列には否定的でしたから、特典CDを除けばハルのことをお兄ちゃんと呼んだことはないんですが……まあ、それだけに重みが違うよね。雪人たちはなんて言うか、軽いんだよ。美優樹のお兄さんも、真結希のお兄ちゃんも取って付けたようなものだし、ミータとか意味分からないじゃないですか。千毬は年季があるから自然だけど、なんか雪人たちのそれは重みがない。重くないにも関わらずシリアスな流れに持って行こうとするから違和感が出る。要は、関係性が固まらないうちに兄妹としての話をやろうとしたのが間違っていたんじゃないだろうか。美優樹が瀬名を捨てて神志那になった経緯とかも含めて、駆け足過ぎたんだよ。

主人公として
ハルのことをヘタレだという人がいます。同じように雪人のことをクズだという人もいます。私は前者には否定的ですが、後者には肯定的で、雪人が非難される最大の要因は、やはり瀕死の真結希を病院から連れ出したことでしょうか? これに関して、ハルだって湖で穹を殺そうとしたじゃないかという反論があるわけですが、あれとは全然状況が違います。先にハルと穹のことを書きますと、まずあのシーンは穹が自殺しようとしたところにハルが現れ、水の中という恐怖空間に惑乱したハルが、穹を助けるつもりが諦めてしまい、一緒に死のうとした、つまり心中を図ったのです。結果として穹がハルの、助けてと言う声に応じたことで事無きを得るのだけど、そこには双方の意思が介在しています。
じゃあ、雪人はどうだったのか? 彼が高熱で瀕死の真結希を連れ出した理由は、そもそも行方不明のミータを探すという、真結希にはさして関係のない事情でした。直前まで真結希はミータのことをかなり疎んでいたから、当然ながら彼女はミータのことが好きじゃありません。にもかかわらず、雪人は真結希とミータの板挟みになった状況で、二人のどちらかを選ぶことが出来ず、真結希は置いていけないけどミータを探したいという自己の都合を最大限に優先し、その結果真結希を連れ出すのです。真結希が一緒に連れて行ってと言ったような気がしたと、自分に都合の言い訳をしながら、今にも死にそうな真結希を抱えて雪の街を歩く。彼女の本心はともかくとしても、雪人の行動には決して真結希の意思が入っているわけじゃない。だからこそ、彼の自分勝手な行動は叩かれるし、瀕死の妹が本当に死んでしまったらどうするつもりだったんだと、激しく非難されるわけです。つまるところ、雪人の行動は一方的すぎるんですよ。ハルと穹の場合、まず最初に穹が自らの死を選び、次にハルが二人の終わりを望んだ。しかし、雪人は彼だけにしか通用しない理屈や理由で真結希や美優樹を振り回し、その結果があれですからね。私は雪人を天然じゃなくて人格破綻者だと思っているけど、彼のああいった行動は本当に救いようがないと思う。ハルだって自分自身の力だけで這い上がれたわけじゃないけど、雪人は本当に自分じゃ何もしてませんからね。真結希とミータの件だって、二人がいつの間にか和解しただけだし、彼の都合の良いように話が進んで、偶然幸せを掴んでしまったといっても過言ではありません。性格が楽天家で前向きだから、先々の苦労とか不安とか、そういうのを一切感じさせないのもあるけど、ああいう支離滅裂の行動をした挙げ句に、自称モラリストになるわけですから、雪人というのは全くどうした……主人公としてのまとまりに欠ける男です。

何故、急にハルとの対比を行ったのかと言えば、単純に心の狭い私がハルが雪人の下に見られることに耐えきれなかったからです。いや、いくら何でもハルが雪人より劣るって事はあり得ないでしょ。容姿も性格も、妹に対する接し方も、何一つ雪人が勝っている部分なんてないと思うんだが。確かにハルはヘタレなところもあるかも知れないが、それは年頃の少年として等身大と言って良いものだし、少なくとも馬鹿ではないし、常識だってありますよ。ハルは都会人で、もっと言えば一般人や普通人なんです。それが妹と関係を結んだことで徐々に堕落してしまうのであって、雪人のように最初から箍が外れているわけじゃありません。
無論、どちらが上か下かなんてのは詮無きことなんでしょうが、主人公としてここまで違う二人、ハルは雪人にないものを沢山持っているし、雪人はハルが持っていたものを沢山なくしている。それは主人公として、兄として重要な物だったのだけど、雪人はどうしてかそれを全然別なもので補おうとしたから、結果としてキャラが破綻したんでしょう。とにかく雪人にげんなりした人は、ヨスガをやると良いですよ。きっとハルを見直すはずだから。
イモウトノカタチの日記をここまで書いてきて、全体的なことは昨日までで終わりました。個別ルート、アフターエピソード、残された伏線や謎には触れましたし、普通なら後は総評をしてこの作品とはおさらばなんですが、実はその他にも細かい部分で少し書き足りないことがありまして。主にキャラやシナリオについてなんですが、総評へ入る前に、これらのことを先に書いておこうかなと思います。だって、まとめをやってしまうと、それこそ終わりというイメージが強くなって、以降はだらだらと続ける感じになってしまいますからね。まあ、今だって大差はないんでしょうけど、後になって書き続けるよりは幾分かマシでしょう。

そんなわけで、今日はイモウトノカタチの真結希ルートにおける私の考察というか、気付いたことを書こうと思います。何か作中の伏線や謎に対する新発見とか、そういうわけではなくて、もっと単純にこのシナリオのモデル元ネタについてです。あくまで私の想像や推測だし、確固たる証拠があるわけじゃ無いんだけど、確信は持っているという類いのもの。
即ち、このイモウトノカタチにおける真結希ルート、そして神志那真幸というキャラクターは、
アニメ版ヨスガノソラの春日野穹をモチーフに作られたのではないか?ということです。
原作ではなくアニメ版、あの悪夢とも言うべき作品のことを思い出すのは苦痛でしかないのだけど、私が真結希ルートをプレイして、そのシナリオを読み進めていく内に、これはアニメ版ヨスガの影響を受けている気がする、と考えるようになりました。ヨスガのアニメが放送していたのは今から2年ほど前、2010年9月から12月と、結構前の話です。当時はなにかと話題になり、原作ファンを絶望のどん底へとたたき落とした作品だけど、イモウトノカタチはどうにもあれをリスペクトしているというか、オマージュのつもりで真結希シナリオを書いたんじゃないでしょうか? 前述のように明確な証拠はないんですが、幾つかの根拠はあります。上手く説明できるかは分かりませんが、とりあえず書いてみることにします。

美馬雪人と清宮真結希、作中で出会った時点だと神志那幸人、神志那真幸と表記されている二人ですが、私は何もこの兄妹がヨスガノソラの主人公である春日野悠、春日野穹の双子に似ていると言いたいわけじゃありません。外見で言うなら、アニメ版はともかくとしても春日野兄妹の方が圧倒的ですし、そもそも比較しようがない。でも、シナリオやキャラクター性で言うなら、イモウトノカタチのそれはアニメ版ヨスガに通ずるものがあると思う。
まず、ヒロインの清宮真結希について。これは彼女のルートにも書いたことですが、この娘は儚げな容姿や不幸な境遇に比べると結構性格が悪いキャラであり、割と陰険な性格をしています。美優樹に対する、毒のこもった言葉や、ミータへの嫉妬心をむき出しにした、棘の生えた言動など、儚げなのはあくまで外見だけ、その実は相当腹黒いです。
障害を抱えているため、手段を選ばずと言うよりは、手段を選べずと言った感じの真結希だけど、美優樹が「全力で手に入れた」と言ったように、彼女は雪人を自分のものとするために、かなりの策略を持って挑みました。自身の障害や、ミータとの繋がり、そして雪人の心情や気持ちを完全に読み取った上で、如何にして雪人の気持ちを自分に向けるか、自分のものとするか、その計算を完璧に行いました。真結希は雪人の心が現状ミータ一色であることを理解していたし、彼の気持ちがミータにしか向いていないことを知っていた。故に、まずは自分はミータと同じであることを雪人に印象づけ、彼に真結希とミータの存在を混同させました。
真結希は雪人が自分とミータを重ね合わせ、だからキスしたと言う事実を正確に認識していたので、彼の心を奪うには、自分がミータとなる必要があると思ったのでしょう。そしてそれは、ミータが復活するまではすべて上手く行っていたかに見えました。潜在的に存在する美優樹の気持ちを見抜いた上で牽制し、出し抜き、自身の不幸な境遇まで最大限に利用して、美優樹から雪人を奪い取ることに成功したのです。

さて、ここで話をアニメ版ヨスガノソラのヒロインである、春日野穹へと移しましょう。好きなキャラにこんなことを言うのもあれですが、アニメ版の穹は原作と比べてそこそこ性格が悪く、主人公である悠の心を手に入れるために、様々な策略を練りました。それは主に悠の恋人に収まっていた奈緒から、愛する悠を取り戻すために実行されたものですが、穹は悠の心を自分へと引き戻すために、かなりの計算をしています。
例えば10話。アニメ版における穹ルートの初回ですが、穹は自分を置いて奈緒とのデートを優先した悠に、幾つかの嘘を吐きます。悠が奈緒とデートすることを知った穹は、まず自分と悠の間に架空の約束を作り、あたかも先約をしていたかのように見せかけ、約束を破ろうとしている悠を非難します。本来は存在しないはずの約束が元で悠は追い詰められるのですが、まさか穹が嘘を吐いているとは思いませんし、妹との約束を破ってしまったことに動揺します。勿論、ハルには奈緒とのデートを断り、穹を優先することも出来たはずなんですが、彼は穹との距離の測り方に悩んでいましたし、仮にも奈緒は恋人と言うことになっていましたから、穹を選べるわけはないんですね。
穹はそこのところを理解していたけど、彼女にとっては自分が選ばれることよりも、悠に罪悪感を抱かせることが重要だったのです。勿論、自分との約束を守ってくれるなら、それはそれで構わないのでしょうけど、穹は悠に罪悪感を抱かせることで、自分の存在を強く印象づけたのです。10話を実際に観た人は分かると思いますが、ハルは奈緒とのデート中も常に穹のことを考え、穹を優先して行動していました。そして、そこに穹は自身の孤独を演出することで、完全に彼の心を自分の方へともぎ取ってしまった。1から10まで、穹の計算通りに物事は進んだのです。穹は悠が自分に後ろめたさを持つことや、奈緒との関係などを洞察した上で、自身の立場までも最大限に利用した。本人以上に相手の気持ちというものをよく理解していたが故に、その行動を計算することも可能だったんでしょう。
共に計算高く、相手の心情を把握した上で罠を張る。アニメ版の穹がしたように、イモウトノカタチの真結希も又、何気ない言葉の誘導を繰り返すことで、雪人の心を徐々に掌握していきました。

次に主人公はどうでしょうか? 仮に原作版や漫画版の春日野悠であれば、美馬雪人と比べたら失礼に値するほどの差がありますけど、アニメ版だとそうでもありません。アニメの悠は原作のハルと違い、割と独善的な性格をしており、相手の事情よりも自分の都合を優先するなど、雪人に近い部分が多々あります。一葉ルートや瑛ルートはそれが顕著であり、かなり強引な一面を見せていますよね。
性欲の面でもアニメの悠は盛んであり、奈緒ルートの惨状は思い返したくもないですが、性欲に流されやすいのは穹ルートでも同じ事です。原作と違い妹に誘惑されて、というのは、イモウトノカタチで雪人が真結希から迫られ、なし崩しに関係を結んでしまう部分に近しいものがあるし、この二人は主導権を女性側に取られているんですね。勿論、それはアニメ版の穹やイモカタの真結希が、狡猾とも言うべき計算の末に、悠や雪人を追い詰めたからに他ならないのだけど、決して相手に責任転嫁をしない辺り、雪人の方が幾分かマシなんでしょうか。雪人より下がいるとは信じられませんけど、アニメの悠はねぇ……いや、雪人の場合は回りに八つ当たりするから大して変わらないか。
知性の違いはあれど、理性的には大差なく、相手に対する思いやりに欠ける。奈緒ルートにおける穹に対する扱いや仕打ちは、真結希ルートにおける美優樹の不遇っぷりに似通ったものがあるし、相手のことを考えることが出来ないという意味ではそっくりさんも良いところでしょう。

私は真結希というヒロインが、外見はともかくして、あまり好きじゃないのかも知れません。ヤンデレと言ってしまえばそれまでだけど、彼女が強引な部分が目に付きすぎるし、言動も毒や棘が多すぎる。アニメ版の穹が見せる、露骨な対抗意識というのが見え透いてるんだよね。アニメの穹に関して言えば、それまでが不遇だったのと、奈緒ルートの直後と言うこともあって、もっとやってしまえと言う感じが強かったのだけど、真結希はそうじゃないからね。春日野穹ルートと言うよりは、アニメ版の春日野穹そのものに真結希は似通っていたけど、結局自分の策に溺れて、足をすくわれた挙げ句に破滅寸前まで追い詰められるのは、自業自得と片付けるには少し可哀想かも知れない。まあ、彼女の性格以上に雪人がとんでもない男だったというのがあるんでしょうけど、もう少し原作寄りのキャラにするべきだったねとは思います。真結希の人気がうなぎ登らなかったのは、そういうところに理由があるんじゃなかろうか。ミータと合同でなければ、今少し良いキャラになっただろうに……残念な話です。
イモウトノカタチが発売されてから一週間、公式サイトが更新されてシナリオ担当のなつかぜとおるによる更新終了宣言が行われました。いや、そこまでハッキリしたものじゃないんだけ ど、とりあえず今回のスタッフ日記でイモウトノカタチのサイトは一区切り着けるそうです。CUBEのyour diaryが発売後もずっと更新を続け、そのままメディアミックス展開へと繋げたのに比べると、こっちは物凄くあっさりしてますね。これが待望されていた Sphere完全新作の幕引きなのかと思うと、流石に寂しさを覚えずにはいられません。

さて、今日はイモウトノカタチにおいて丸投げされて放置状態になった伏線について書いていこうと思います。考察と言う程のものじゃないけど、全 ルート終わってみると、かなりの量の伏線や謎が残ったままになっていますからね。自分のためにも、これは少し整理してまとめておく必要があるかな と思いまして。何かに役立つかはともかく、あればあるで便利だろうから。
しかし、作中に鏤められた伏線が回収されないってのは間々あることだけど、殆ど明らかにされないってのは久しぶりじゃないだろうか? 雪人の妹が 誰なのかとか、雪人と美優樹の本名ぐらいは流石に分かったけど、それにしたって詳細が明かされたわけじゃないんだよね。兄妹が判明して、本名が分かって、け ど、それだけでしかない。どんな家族だったのかとか、両親はどんな人だったのかとか、そういった部分には遂に触れず仕舞いでした。これはあやかや 千毬も同じことであり、何らかの事実が明らかになっても、その先に進まないもんだから、すべてが中途半端に見えてしまう。アフターエピソードで回 収されるわけでもなく、ただ設定として存在しているだけなので、そこに広がりとか、結論を見出せないんだよね。雪人とあやかの両親については死ん でいる可能性が高いから仕方ないにしても、千毬の両親は健在なわけじゃないですか? でも、雪人がそういった裏事情よりも、彼の個人的な家族論を 優先させてしまったために、大事なことが何一つ見えてこなかった。他のルートにも高階夫妻が出てくるならまだしも、あの人たちってあそこにしか出 てきませんからね……まあ、前置きはこれぐらいにして、伏線の話に入りましょうか。

美馬雪人と瀬名美優樹の過去
雪人と美優樹が兄妹であることが発覚するのは、美優樹ルートの終盤と、真結希&ミータルートの序盤になります。どちらもタイムカプセルという過去 の遺物によって発覚するわけですが、無論その後の再調査によって裏付けも行われています。ここで問題なのは、二人が兄妹ならば、どうして最初に災 害受付センターで調べた際、兄妹であることが発覚しなかったのか? ということです。
馬鹿な雪人はそう言ったことに無関心というか、まるで気付いていませんでしたが、美優樹は何故もっと早くDNA検査で判明しなかったのかと疑問を 感じているシーンがあります。あの施設を取り仕切っているのは理事長のはずですが、彼女が嘘を吐いていたとは考えにくい。また、あやかルートにお ける順也の雪人の情報にはプロテクトが掛かっていたという発言からも、何者かが意図 的に神志那兄妹の情報を封印していた可能性が高いんです。そうすれば、最初の段階で二人が兄妹であると判明しなかったことにも説明が付きますし、 それ以外にはないでしょう。
けれど、何故そんな封印が施されていたのか? という話になると、途端にこの作品は口を閉ざしてしまう。あやかルートは自分のことよりもあやかの 問題を優先にしたから仕方ないにしても、美優樹ルートや、最終章である真結希ルートでさえも、そうした謎には一切触れることがありませんでした。 唯一、真結希ルートで理事長が神志那夫妻について言及するシーンがありましたけど、それだけでは何とも言えないし、そもそも兄妹のデータを消すこ とにどれだけの意味が、なんの意図があるのか、という疑問が残ります。よっぽど兄妹に凄い秘密があるとかなら分かりますが、真結希以外は平凡とは 言えないまでも、普通に生きてきたわけだしね。あるいは普通に生きて欲しいが為に、そうした処置を施したと言う可能性もあるけど、そうしたら今度 は何を隠したのか? という謎が出てくるわけで……神志那兄妹って何者なんだろうね。

神志那夫妻の研究内容とは?
タイムカプセルを埋めるシーンと、手紙ぐらいでしか出番のない雪人たちの両親、神志那夫妻ですけど、この人たちは環境特区で何をしていたんでしょ うか? 自然関係の研究や実験をしていた、と言うことにはなっていますが、具体的な内容は勿論明かされていません。言葉の端々から、自分たちの子 供や、次世代に対して多くの自然を残すことを目標にしていたことが分かりますけど、 その内容が何であるかまでは語られていないんですね。
当時の環境特区は自然制御型の研究や実験を繰り返しており、人工的に自然環境を制御ないし操作しようとしていたことが覗えます。理事長はそれを傲 慢であると良い、保守派そのために天罰として災害が起こったとされていますが、千毬ルートの高階夫妻の反応から、あの災害は人災であったことが分 かります。そして、高階夫妻が深く関わっていたであろうことも。では、神志那夫妻もまた災害の原因を作った研究者だったのでしょうか? 私は高階 利夫の反応から、その可能性は低いと思います。彼は明らかに自分の過ちへ神志那夫妻を巻き込んでしまったことを悔やんでいましたし、彼らがどれほ どのレベルで事に関わっていたかはともかく、神志那夫妻が直接の原因なら、むしろその息子である雪人を罵倒するはずです。子供に罪はないと分かっ ていても、良い気分はしないだろうし、ましてやそんな相手に娘の千毬を託したりはしないのではないか?
それじゃあ、神志那夫妻はどんな研究をしていたんだと言うことになるけど……やっぱり、ナノマシン関係なんじゃないかな、と思う。環境特区におい て行われていた研究、その内容を知っている人は多くても、全容を理解している人は意外に少なく、「ロボットがどうの」とか曖昧な答えしか返ってきません。実験地区で使われて いたロボットが何であるのか、その詳細は結局明らかになりませんでした。しかし、ナノマシンについては真結希という被害者がいる時点で、何らかの 形で実験に使用されていたことが分かります。
ナノマシンを使った自然制御という考えは、なんともありがちであり、大方これ が正解なんだろうけど、私は敢えて別の可能性を追求したい。そしてそれは、この次の謎にも関わってくることになります。

清宮真結希とナノマシンの関係
これは伏線と言うより、作中に残された謎みたいなものです。即ち、真結希の身体を冒し続けるナノマシンとは、一体どのような経緯で彼女の中に侵入 したのか? そもそもどうして彼女は全身麻痺になどなってしまったのか、ということ。真結希の説明では、自分は災害時に負った怪我か何かの影響で 感染症になっており、それで全身麻痺状態になったと言うことになっていますが、この説明には幾つかの疑問が残ります。
まず、仮に実験地区におけるナノマシンの使用法が前述のように自然や環境制御のためだとして、それが失敗したことによって真結希が空気中ないし大 気中のナノマシンを浴びてしまった、と考えることは確かに出来ます。出来ますが、何故真結希だけなんでしょうか? つまり、あの災害に被災して生き残った少年 少女というのは、言ってしまえば結構な数がいます。主人公である雪人や、ヒロインである美優樹や千毬、それにあやかだってそうですし、聡里や静 夏、晴哉と言った面々も又、あの災害から生還した子供たちであることに変わりありません。だから、真結希が空気中にばらまかれたナノマシンを浴び てあの症状になったというなら、他にも多くの事例がないとおかしいんですよ。それこそ、ソルティレイのプロシードみたいにね。
しかし、作中に登場する全身麻痺の患者は真結希だけであり、彼女は病院内でも存在を秘匿されるほど特殊な患者だった。このことから、ナノマシンに 侵食された少女は彼女だけしかいないのではないか、と言うことが読み取れます。本当に偶然、何かの事情で真結希だけがこうした症状になったという 可能性は、無論否定できるものじゃないけど、私はむしろ、ナノマシンは最初から真結希の中に入っていたのではないかと考えいたりします。どういうこ とかというと、ナノマシンを研究していた神志那夫妻は、実の娘に対して人体実験を行っ たのではないかということです。
もし仮に実験地区で研究されていたナノマシンが、対人用だとしたら? 人工的に制御された自然環境の中で、素早く人が適応する ための補助装置のような役割だったのだとすれば、どうでしょうか? 体内に打ち込まれたナノマシンが神経組織に作用することで、急激な環境変化に も即座に対応できる肉体を作り出す……神志那夫妻がそういった意図でナノマシンを研究し、その臨床実験に我が子を利用したのだとすれば、真結希の 体内にナノマシンがあることも納得が行くと思うんだよね。災害の影響か、あるいはそれ以前の問題で実験は失敗し、それで真結希は全身麻痺になった のだとすれば、一応の説明も付く。まあ、そうなると神志那夫妻はそんなに良い親でないってことになるんだけど、雪人や美優樹の親だしね。どんな人 かは分かったもんじゃありませんよ。


あやかの本当の両親、聡里の実の兄は?
あやかルートにおいて、あやかは実は澄稀家の養女であり、実の娘でないことが分かります。シナリオとしては単純ですが、そうなってくると気になる のは本当の両親、家族はどうなっているのか? ということです。あやかの義理の祖母、つまり澄稀家のおばあさんは街の有力者であり、あやかを始め とした災害孤児たちを引き取るなど、震災後の慈善活動には積極的でした。これは実験に関わっていた澄稀製薬の人間として責任を感じていたからとい うことだけど、当然、あやかや順也の家族も探したはずです。
あやかの説明から、おばあちゃんが亡くなったのはそんなに前のことではなく、ここ数年の出来事であることが分かります。少なくともあやかとは10 年以上暮らしていたことになり、それだけの期間があっても見つけられなかったのであれば、残念ながらあやかの両親は死んでいると考えたほうが自然 でしょう。子供ならまだしも、大人じゃね……
勿論、両親は存命で高階夫妻のようにどこかしら引き篭もっていると考えることも、出来なくはないんでしょうけど、あやかの両親に関しては何をやっ ていた人なのかとか、そういう情報が少ないですからね。アフターエピソードで出てくるようなこともなかったし、そもそもあやか自身、あまり本当の 家族に興味を持っていない。千毬とは違う意味で、彼女は澄稀としての人生を今まで歩んできたわけだから、今更本当の名前とか家族とか言われても、 容易に受け入れがたく、また、実感することが出来ないんでしょう。しかも、あやかの場合は、そうした自身の境遇と家族との向き合い方がテーマみたいなものだから、ここで本当の家族が出てくれ ば却って混乱を招くだけであり、たとえこの作品に今後があったとしても、登場することは恐らく無いと思います。
次に聡里の実兄ですが、彼女はそもそもこの子が主人公の妹なんじゃないか? という分かりやすいフェイクとして用意されたキャラです。要は雪人の妹探しにおける当て馬のようなもので、サブキャラと言うこともあって設定を掘り下げる必要がないんですね。あるいはFD等が出るなら、「赤の他人でも関係ない、俺が聡里ちゃんのお兄ちゃんになってやるぜ!」ぐらい雪人なら言いそうだけど、それだと本当のお兄さんがあまりにも不憫だし、生死はともかくあまり触れられないんじゃないかなと。

喫茶店の店長の家族は?
あやかルートで彼女がバイトを始める喫茶店の店長、もう随分なじいさんですが、この人は災害で家族を失っています。一応、生死は分からないので行方不明扱いらしいけど、そういやイモウトノカタチの世界観では行方不明者の失踪宣告ってどうなってるんでしょうか? 大抵は7年で死亡扱いされますけど、大規模災害だとまた違うのかな……近未来設定の世界観に現実の価値観を持ち込んで、どれほどの意味があるのかという話でもありますが。
とにかく、あやかのバイト先の店長にも行方不明の家族がいて、私はその会話や台詞から、この爺さんこそ雪人たちの祖父もしくはあやかの祖父ではないか、と考えていました。理由としては、そもそも喫茶店自体が研究所に勤める息子夫婦が、そこを辞めて、のんびり店をやりたいからと言って建てたものだったそうです。研究所とは即ち実験地区のことであり、雪人の両親は夫婦揃って研究者でしたから、これに当てはまります。
しかも、爺さん店長は「孫がもし今も生きているなら、そこのお兄さんとあやかちゃんぐらいの歳かねぇ……」と言いました。息子夫婦は家族で被災して行方不明になっていたんですね。
あやかの着ているメイド服は息子夫婦が娘のために用意したものらしいですが、仮に爺さんの孫が孫娘一人だとするなら、わざわざ雪人のことなど触れず、あやかと同い年ぐらいとだけ言えば良いだけの話です。それが雪人のことも触れる辺り、爺さんの孫は兄妹だったと考えるのが自然でしょう。夫婦揃って実験地区の研究員で、子供は男女の兄妹。明確な人数などには触れていませんが、雪人たちと重なる部分が、あまりにも多すぎるような気がします。勿論、王道展開としてあやかの祖父であるという可能性も捨てきれませんが、可能性としては雪人たちの方に天秤が傾いているように思える。もっとも、結局最後まで言及されなかったので、真相は全く分からないんだけど。

理事長の目的と正体
この人も何か裏がありそうな感じがして、一切それを明かさないまま退場してしまいましたね。無論、やっていることは慈善事業ですし、災害被災者を、特に子供たちを助けたいという考えは立派ですから、それ自体は何の問題もないのだけど……本当にそれだけなのか? という疑惑のようなものはあります。神志那夫妻への言及や、メディカルセンターへの興味、澄稀家の娘であるあやかへの接触など、理事長のやることには表裏を感じさせるものが多くてさ。単純な慚愧の念というよりは、あの災害を起こした人達への言い知れぬ感情みたいなものを抱えている気がする。実は悪人でした、なんてことはないでしょうけど、最終的な目的は、やはり災害の原因を究明することでしょうか。真相を明らかにして、その後どうするのか……悪い方向に転ぶような人ではないだろうが、もう少し掘り下げてくれれば、災害関係の伏線や謎も、幾らか解明できたかも知れないのにね。

ミータを奪取し、改造した組織の正体
真結希アフターにおいて、いつの間にか消えていたミータに対する追っ手。街中に人員を配置し、慰霊祭の会場にまで乗り込んでくる常識知らずの組織の正体は、結局分からないままに終わってしまいました。最先端ロボットであるミータを改造できる技術力と技術者を有していることは間違いありませんが、その改造内容はナノマシンの制御機器を取り付けるという、意図不明のものでした。真結希を助けるために行ったと考えれば、あるいは雪人たちの両親か? と考えられなくもないけど、彼らにさてミータを改造するだけの力があるとは思えないし、一介の研究者夫妻が何故大量の黒服を従える組織になど属しているのか、という疑問もあります。
ミータを奪取した組織がイコールで雪人たちの情報を消したり、ロックを施したりした連中なのかは分かりませんが、その可能性は決して低くないと思う。ミータに行われた改造は真結希に対して影響があるものだし……そうなると、やっぱり両親なのだろうか。神志那夫妻も一応生死不明だけど、高階夫妻の発言から、死んでいると考える方が自然だと思うんだけどな。ちなみに、ミータを改造したのは高階夫妻である、と言う考えは間違いです。何故なら、彼らは名前こそ出てきませんが、ミータルートにもちゃんと登場しており、ミータがぶっ倒れた後に奇跡の生存者としてテレビ番組で触れられているからです。彼らがその後どんな感じになったのかは分かりませんけど、ミータを奪取して改造するような環境にはいなかったと考えるのが普通ではないか。
まあ、街中に人員を配置し、来賓も多いくカメラも回っているであろう慰霊祭に乗り込んでこれるような組織が、ミータを誘拐して真結希の病気を治す改造を行い、雪人や美優樹のデータに対する細工施したというのが、そもそも理解不能なんだけど……何なんだろうか。

ざっと書いてみたけど、まあ、こんなところでしょうか? ミータルートへ入る前に書いた奴も含めて、これだけの伏線がイモウトノカタチには残されてるんですね。しかも、細々とした謎はまだまだ沢山あって、それらも放置されたまま作品は終わっています。アフターエピソードで回収されるわけもなく、そもそも災害なんて設定必要だったのか、と言わざるを得ません。いや、災害自体は必要だったのだろうけど、そこにSF的要素を持ち込む理由はないよね。言ってしまえば、efみたいな感じにも出来たわけだし、それで話も十分通じるし。何でこんな、風呂敷のたためない設定にしちゃったんだろう……たためないってことはないのか。ちゃんと書けば、それは可能だったはず。あれだけ時間があったのに、風呂敷たためなかったというのはちょっと深刻な問題ですね。これからSphereはどうするんだろう。
イモウトノカタチ感想レビューも個別ルートが終了し、残すはアフターエピソードのみになりました。まあ、要するにおまけシナリオなんですけど、ゲームクリア後、各ヒロインごとに4つ一遍に解放されるんですね。この作品のヒロインは5人じゃないのかって? いいえ、ミータはあくまで真結希ルートの付属品ですから、存在するのは真結希アフターのみです。

美優樹アフター
恋人から兄妹へと戻った雪人と美優樹ですが、アフターと言うだけあって時間が経過しており、なんとビックリ真結希も出てきます。どういう経緯で再会したのかは知りませんし、全身麻痺の方も完治しているわけではないのだけど、たまに寮へ遊びに来る程度には回復しているらしい。既に自分が清宮真結希ではなく、神志那真幸であることも理解しているようで、兄妹仲はそれなりに良いのだけど、美優樹は真結希のことを「可愛い」という雪人に美優樹は不機嫌さを隠せない。つまり嫉妬してるわけですが、それに対する雪人ときたら……
「ごめんな、美優樹。あの『可愛い』は、そういう意味での『可愛い』じゃないから」
などと言いつつ、美優樹に突然キスをします。
「真幸がどんなに可愛くても、こうやってキスしたいのは美幸だけだよ。可愛さだって、美幸の方が上だよ」
繰り返すようですが、このアフターエピソードはイモウトノカタチを全クリしないと解放されないものです。ということは、私に限らずプレイヤーは真結希&ミータルートでこっぴどく振られた美優樹を見ているわけで、美優樹にはなにも感じないと恋愛や性愛を否定した雪人を知っているわけです。にもかかわらず、上記のように美優樹の方が可愛いとか、キスしたいのは美優樹だけだなどと言われて、一体誰が信用してくれるんでしょうか? 恋人同士の微笑ましいシーンを演出したつもりなんだろうけど、雪人の軽薄な台詞に失笑しか出来なかったし、彼に対する軽蔑や侮蔑が先行しているせいか、イライラするばかりでした。本当にもう何なんでしょうね、この男は。何のために存在しているのか、という感じさえします。
さて、真結希は寂しいので寮まで遊びに来ると言って、馬鹿な雪人はろくに携帯も操れないので美優樹に返信を出させます。勿論、拒む理由はありませんからOKを出すわけですが、そんな状況下でなんと雪人と美優樹の二人は入浴を開始し、そのまま浴槽でセックスに突入します。兄妹バレした時点で、恋人関係を解消したはずの二人ですが、何だかんだで肉体関係だけは続けている模様で、妊娠しなければ大丈夫という感じらしい。それはそれでどうなんだと思うけど、まあ、エロゲですし、エロゲに繋げるには他に方法もないからね……
雪人が欲望の赴くままにセックスなどするものだから、その最中に真結希がやって来るという一歩間違えば修羅場に発展しかねない事態になりました。というのも、最初真結希は雪人の部屋に行ったのだけど、彼がいないものだから携帯のGPS機能から居場所を調べ、美優樹の部屋までやって来たのです。勿論、雪人がユニットバスの浴槽で美優樹とセックスしていることなど知りませんし、美優樹の嬌声は一人エッチをしているものだと推測するのですが、真結希は別に美優樹が一人エッチしていようと関係がなく、と言うより雪人以外に興味がないのか、「お風呂から出たら一緒に探そう」と提案します。当の雪人は、中にいるとも知らずに。そこでエピソードは終わるんですけど、なんでしょうか、どうやらオチはギャグのつもりらしいんだけど、ちっとも笑えませんでしたね。真結希&ミータルートをやった直後というのを考慮しても、私は一笑することも出来なかった。あ、ちなみに1年後の話らしいですよ。静夏が卒業しているそうだから。まあ、それがどうしたという話なんですけどね。ストーリーそのものに意味がなんてないのだし。

真結希アフター
こんなタイトルですが、真結希は一瞬たりとも出てこないです。というか、ミータの一人語りのようなもので、他キャラクターは一切出てきません。タイトルに逸話ありだけど、このアフターは他キャラのそれとは毛色が違い、本編で欠片も回収されなかった伏線に対して、最低限のフォローめいたものが行われています。最初にある16年ぶりにその身外気をさらしたドームというのは、土砂や瓦礫埋もれた旧実験地区のことであり、16年という表記から、本編の1年後であることが分かる。どうやらこのルートでは発掘作業が中断しなかったらしく、土砂や瓦礫は順調に撤去されている模様です。それが完全撤去なのか、まだ途中なのかは分からないけど、一体どこからそんな資金が出てきたのでしょうか? あやかの話では、旧実験地区をすべて掘り返すには、それまでの復興資金と同額必要になるってことでしたが……そういうフォローはされてないんですよね。
何故、真結希は完治したのか、真結希とミータを包んだ光は何だったのか? それについての解説は曖昧なものであり、彼女を蝕んでいたナノマシンが、ミータの中へと移ったことぐらいしか情報としては存在しません。ミータに施された改造が影響していることは疑いようもないですが、結局真相は明かされるこ とがなく、誰がミータを奪取したのか、そもそもどうしてミータは生きているのか? という謎には、一切の答えがありません。ミータが機能停止に至った理由は寿命であり、その主原因は彼女が換えの利かない特別なパーツを多数使用しているからでした。にもかかわらず、彼女は再度の機能停止をすることもなく、普通に稼働しています。
換えの利かないパーツとやらが、高価だから交換できなかったとかなら、これについてはまだしも納得出来ます。非常に金持ちの組織がパーツを用意して、それをミータに着けたのでしょう。しかし、換えの利かないパーツが特注品特別製なのだとしたら? 例えばもう死んでしまった科学者のオリジナルで、その人しか作れないので交換が出来ないとかなら、途端に話はおかしくなってくる。一体、ミータは何故生きているのか? 彼女への追っ手は既になくなっており、真相は闇の中へと消えたままでした。
けれど、ミータとしてはそんな些細なことはどうでもよく、自分が雪人と一緒にいられること、真結希の病気が治ったことを考えれば、むしろ感謝すべきだろうと考えている模様。前向きですが、まあ、結果論だけ見ればそういうことになりますね。
正直、あのくだらない3Pシーンをこっちに入れれば良かったんじゃないかと思うほど、意味のない内容になっていますけど、Sphereとしてはあれでしょうか、謎は謎のままにということで、後はユーザーの想像に任せるつもりなんですかね? なんというか、丸投げも酷いと思いますけど、回収しなかった以上はそういうことなんでしょう。

あやかアフター
イモウトノカタチにおいて一番マシとされるあやかシナリオですが、アフターにおいてもそれは変わらずでした。あやかは家族のいない日に、元々暮らしていた祖母の家で過ごすことが多くなっており、義理の両親にでも頼んだのか、順也から奪還に成功したようです。それに付き合って恋人である雪人も泊まりに来ているそうなんだけど、この二人は本当に普通のカップルという感じで、他のルートにある重たさや汚さはあまり感じられませんね。まあ、お兄ちゃんとか言ったところで二人の関係は赤の他人ですし、あやかは妹でも何でもないですから、別に何の問題もないんだけど、このルートには一つ、他と違った特徴がありました。
即ち、雪人の妹探しがなおざりになっており、少なくとも本編シナリオでは判明しなかったんですね。順也のおかげで本名だけはハッキリしましたが、それ以外のデータにはロックが掛かっていると言うことで、又、先にあやかの問題を片付ける必要があったことからも、深く追求はされなかったんです。その後はどうなったのかと言えば、理事長の計らいで雪人は仮の編入から、正式に学園に通えることとなり、相変わらず白鳥寮に住んでいるらしい。
それじゃあ、美優樹の方はどうなったのかと言えば、彼女もまた後々の調査によって自分が神志那美幸であることを知ることになって、未だに白鳥寮へと住んでいるらしい。雪人としてはどこが部屋でも借りて一緒に暮らしたいらしいのだけど、金がないという切実な理由から、今は学生という身分を最大限に利用しているようです。なんとまあ、まともな考えでしょう。他ルートの雪人なら、美優樹と暮らすためにバイトするとか色々無茶をやりそうですが、こちらは最低限、現実的な考えというものが出来るらしい。
もっとも、将来的にはあやかも含めて、俺たち家族で暮らしたいと言っているのは、どうかと思いましたけどね。年齢のことはあまり触れなくないけど、学校を卒業するとなれば進学やらなにやら色々あるし、成人だってすぐでしょう。これは最近映画館で観た映画の予告にあった台詞ですが、家族でいられる時間ってのは、結構短いものなんです。女の子ともなれば、特に。美優樹は雪人とあやかの仲を尊重して、あやかを立ててはいるようですが、それなら尚更、自分が二人の愛の巣……と表現して良いのかは知りませんが、一緒に暮らすなんて発想は出てこないんじゃないでしょうか? 雪人はあくまで暮らす気満々みたいだけど、そこら辺の食い違いが、何となく後々の波乱になりそうだよね。
このルートにおける真結希はどうしているのかと言えば、こちらもどういう経緯かは分かりませんが、無事に再会することが出来た模様です。ミータとの関係も、雪人に対する恋愛感情が存在しないため悪化するはずもなく、普通に介護ロボットとして世話をして貰っているらしい。あやかも面倒見が良い性格だし、雪人と同じぐらい真結希や美優樹を気遣っているらしい。その証拠に、彼女が祖母の家を順也から取り返したのは、雪人たち兄妹と一緒に暮らせる場所として考えていたからだそうです。なんて立派な娘なんだと褒めてあげたいですが、雪人にも雪人なりの考えがあり、あやかと二人きりになれる場所を残しておきたいとのことで、その好意はしばら遠慮したいとのことでした。何だ、将来的には一緒にとか良いながら、一応は考えているんだ。それなら安心……と言いたいけど、実際は実妹たちの考えが不明瞭なこともあって、そう簡単にはいかなそう。ただ、このルートの雪人ならそれなりに上手くやれそうな気がするので不思議。流石、マシなシナリオだっただけのことはあります。

千毬アフター
ヒロインの仲でミータと並ぶ元気娘にも関わらず、ユーザーの間ではイマイチ影が薄いというか、話題に上がることすら少ない千毬ですが、シナリオの不評が直接ヒロイン人気に影響を及ぼしているみたいだね。まあ、それが当たり前なんだけどさ。千毬のルートは、彼女も雪人もウザさ爆発しているから、あれで千毬の人気が出る方が不思議だったりする。私はそこまで嫌悪感は抱いてないけど、不快感がないかと言えば嘘になると思うし、千毬はシナリオに殺された感じがしますね。
まあ、それは良いとしても、このルートにおける真結希と美優樹は何をしているのかというと……正直な話、千毬って一番面倒くさいヒロインだと思うんですよ。いや、彼女の何が悪いってわけじゃないんだけど、義妹として年季があり、雪人に対する独占欲が強い彼女と、実妹である美優樹や真結希って相性が悪くて、勿論このアフターで喧嘩したとか、そう言うのじゃないんですけど、なかなか絡ませづらいんですよ。だから、ギャグでしか絡むことが出来ないし、妹がどうのとか、そういう話持ってくることが出来ない。この辺り、あやかルートとは対照的ですよね? 大体、このアフターにしたところで、水着の千毬が朝っぱらから雪人とヤッてるだけだから、話としてはそれほど価値があるものじゃないんです。ウブな美優樹と、ませている真結希の対象は面白かったけど、結局のことろそれ以外に書くこともないという。

以上が、イモウトノカタチのアフターエピソードです。どれも10分程度で読み終えてしまう内容ですが、まあ、今更内容の濃いアフターとかやられても困るだけだしねぇ。こんなものを挟むぐらいですから、多分、FDは出すつもりないんでしょうけど、それより何より残された伏線の数々はどうなるんですかね? 投げっぱなしで終わっていますが、アフターエピソードでも特に進展がないという。回収する気がない伏線とか、嫌らしいだけだから止めて貰いたいのですが……まあ、明日はそれら伏線について書くことにしましょうか。考察と言うには情報が少なすぎますけど。
イモウトノカタチ感想レビューも遂に最終回です。神志那真幸&ミータ編4回目ということで、復活したミータと、彼女への想いを取り戻す雪人の話でしたっけね。そんな二人を知って半狂乱になる真結希など、要するに三角関係が勃発しつつあるわけだけど、私はもうどうでもいいかなって。
なんというか、この感想レビューのために真結希編をやり直してみたわけだけど、もう本当に辛いのよ。主に雪人の言動とか、吐き気を覚えながら読んでいた感じで。まあ、このシナリオがどんな決着を迎えたのか、早速続きを書いてみましょう。

「ミータちゃんを守るなら、私のこともまもってくれるよね?」
「あ、ああ……もちろん」
雪人はやっと、自分が置かれている状況を理解しました。何もかもが既に遅く、取り返しの付かない状態になって初めて、彼は自分の周囲というものを認識することが出来たんです。故に彼は、真結希の言葉に頷かざるを得なかった。キスまでならまだしも、彼は真結希の処女まで奪っていた。真結希が自分に向ける異常なまでの愛情を、彼は馬鹿なりに知っていたから、断ることが出来なかった。
でも、そんな事情を知らない律佳や美優樹は反対します。真結希は、まともな日常生活などを遅れる体ではないのです。薬や専用の機器はいらないにしても、必ず誰かの世話にならなければ、生きていけない体なのです。なのに、真結希は一人で出来る、自分のことは自分ですると言って聞きません。
「真結希の世話が俺がします。俺がちゃんと面倒見ます」
馬鹿野郎とは、神志那幸人にこそふさわしい言葉です。彼にはここで、二つほど選択肢がありました。一つは真結希を説得すること。彼女を病院のベッドに縛り付けてでも、自分ところへは来させないということも出来ました。そしてもう一つは、ミータを律佳に返却すること。真結希が必死になっているのは、雪人の元にミータが居るからです。ならばミータを返せば、真結希がセンターの外に出る必要がなくなります。
「わかってるよ。だけど、ミータが放っておけないのと同じで、真幸だって放っておけないだろう」
にもかかわらず、彼は選べなかった。選ぶことが出来なかった。いつか律佳は、ミータのことをさして、彼女はロボットであり、誰かの身代わりなどではないと言いました。制作者として、弁えるべきところは弁える。それは正しい姿にして、当然の行動です。けど雪人は、そんなロボットの身代わりとして真結希を求めた。ミータの代わりに口付けをして、ミータの代わりに抱いて、そうした彼の愚かな行いのツケが、ここに来て一気に降りかかってきたのです。
「理屈ではわかっていたって、どうにもならない気持ちだってあるんだ……」
私が神志那幸人を、美馬雪人という人間を見限ったのは、この瞬間でした。理屈ではわかったって、どうにもならない気持ち……それは一体、誰の気持ちなんでしょうか? ミータを守りたいのも、真結希を放っておけないのも、結局は全てお前の気持ちではないか。雪人という個人の、身勝手な気持ちと都合を、いつものように最優先しただけ。自分がミータと真結希と一緒にいたいから、結局のところ彼は、それだけの男でした。思考回路が、人としての感情が、腐り落ちてるんです。どうして雪人の個人的な気持ちや都合に、ミータはともかく真結希までもが巻き込まれなければ行けないんだ! そして何故、そんな身勝手な男の気持ちが尊重されなければ行けない! それが作品の都合だというなら、私はそんな作品を認めるわけには行かない。美馬雪人を、許すわけにはいかないのです。

結局、雪人にはミータと真結希、どちらか一人を選ぶことが出来ませんでした。私は別に、どちらを選ぶべきだとか、どちらを選ぶのが正しいなどとは言いません。けれど、雪人はそれよりも先にすることがあったはずです。例えば同じ頭を下げるにしても、「自分をしばらくセンターに置いて欲しい」など、そうしたお願いをすることも出来たはずです。真結希を寮に連れて行くよりもずっと安全だし、ミータに異常がないか調べることも出来る。普通に考えれば、今の雪人に出来る最善の選択肢はそれしかないはずだった。なのに彼はそれを選ばなかった。考えることさえしなかった。
真結希はミータが帰るなら、自分も諦めると言ってるんです。ならば雪人がすることは、ミータを説得して病院に連れてくることであり、付き添えないにしても機体チェック等が終わるまでセンター内で待機しておくことでしょう。にもかかわらず、雪人はミータを渡そうとしなかった。真結希を連れて行こうとした。すべては自分の我欲のため……雪人という男にとって重要なのは、結局のところ自分が満足しているかどうかなんです。彼にとって重要なのはそれが自分のためになるかどうかであって、相手のことなど一欠片だって考えちゃいないんです。このクズ野郎の行動は結果論から見れば上手くまとまってますが、それは彼の努力や頑張りによって導き出されたわけじゃありません。だってこいつは、他人のためには何もしていないんだから。
どうして、何故こんな奴が主人公なんでしょうか? 鈍感なんて可愛いものじゃありません。こいつは本当に人の気持ちがわかってないんです。ひたすら自分の都合だけを優先させて、ヒロイン達を苦しめて……何故こんな奴に惚れるのか? どうして、こんな奴とヒロインの恋愛を見なければならないのか? 誰が一体何のために、美馬雪人ないし神志那幸人なんていう奴を作ったのか。誰か、私に教えてくださいよ。

真結希を寮につれて戻った雪人は、真結希を誰にも見つからないようにするという約束事を早々に破って、仲間たちに真結希のことを紹介します。あくまで知り合いの入院患者、清宮真結希としてですが。そもそも寮なんていう場所で、真結希の存在秘匿できるわけもないんですよ。
ここに来て、ミータは初めて真結希と接触します。まさか、自分に真結希という中身があったことなど知る由もないミータですが、彼女の存在になにかしら感じ取るものがあったようです。ミータにしてはピリピリした口調で、真結希に対する警戒心を露わにします。けれど、真結希の方は余裕がある。気持ちを分かち合える、半身だったなどと綺麗事を言ってはいましたけど、二人の関係は一方的なものに違いないのです。ミータの知らない事実を、彼女の役割を知っている。その時点で、真結希はミータを格下に見ることが出来たし、所詮は自分のために使われていた機械と、見下すことも出来た。
「神志那真幸と言います。お兄ちゃんの妹ですよ、ミータちゃん」
「そうですか、もう一人の妹ですね。見つかったですか、良かったです」
「はい、ミータちゃんのおかげで。いろんな意味で、ありがとうございました」

真結希にとって、ミータとは一番厄介な、復活などして欲しくない存在でした。かつて自分のために稼働していた機械、既に役目を終えて、お払い箱となった彼女に、真結希は一度ならず後ろめたい気持ちを抱えていた。彼女が築き上げた、募らせた雪人への想い、通じ合った心を、自分が奪い取ったのだから、気にもするでしょう。しかし、それもこれも、ミータが居なくなったからこその感情だったのです。ミータが生き返った今となっては、もはや彼女は自分で手に入れた雪人を奪い去る存在でしかない。故に、真結希にとってミータは敵なのです。恋のライバルとか、そんな単純なものじゃない。嫉妬の炎で半狂乱になるほど、認められない存在だったのです。

けれど、そんな真結希の余裕は徐々にではあるが崩れていくことになります。口ではなんと言っても、真結希は病人であり、体が不自由なことに違いありません。それに引き替えミータは高性能マシンであり、しかも介護ロボット。ミータは雪人へのアピールも兼ねて、真結希の世話をし始めます。見下していたはずの相手に、甲斐甲斐しく世話をされることがどれほど屈辱的なことであるか。一人では未だに食事すら出来ない真結希は、一番世話になりたくない相手の有能さに助けられているのです。真結希からすれば、ミータは何も知らない、自分の存在があってこそのロボットだという認識がありました。だって、ミータは真結希のために作られた機械なんです。起動キーは真結希が眠りにつくためだし、神経網も雪人も、本来なら全部真結希が貰うはずのものだった。それが何故、復活して自分から雪人を奪おうというのか?
真結希のこれまでの行動は、明らかに追い詰められた人間のしていることです。処女を捧げた時点で、あるいはキスをしたその瞬間から、真結希は雪人を手に入れているはずだった。美優樹など敵ではなく、倫理や道徳など端から気にしていない。なのにここに来て障害が、ミータという雪人の心を掴んで離さない存在が復活してしまった。真結希は雪人が自分を通してミータを見ていたことを知っていた。キスもセックスも、ミータに大してしたものだと言うことを理解していた。自分はミータの身代わりでしかないことを熟知していたから、彼女が復活した今、なりふり構っていられなくなったのでした。
そして真結希は、あろう事か雪人を誘惑しました。客人である彼女にあてがわれたのは客間でしたが、個室で一人部屋なのをいいことに、雪人に携帯で連絡を取り、テレビ電話で自分が自慰行為をしている姿を見せつけたのです。その扇情的な光景と誘惑に、雪人は熱病患者のようにふらふらと自室を出て……また真結希と関係を結んでしまった。

しかし、二度目のセックスをしても、雪人の心をミータから引き剥がすことは出来なかった。真結希は確実に体を武器にしたわけですが、それを持ってしても雪人が自分だけに心と気持ちを傾けてくれないことを、より強く認識してしまいました。彼女のミータに対する嫉妬は、自分のために存在していたはずの機械に対する憎悪は、限界を迎えました。
「なにも知らないのはあなたの方じゃない! 目的もなくただ生きているだけのくせに!」
話は前後して、寮に来た次の日。ミータの手助けがなければ人生ゲームのルーレットすら回すことが出来ない真結希が、ミータに対して言った言葉です。人生ゲームというのが全く皮肉というかなんというか、真結希は自分の歩く道すら、一人では動かすことも出来なかった。このとき暴れる真結希を押さえつけようとしたミータが、ものの弾みから真結希と口付けをしてしまいます。わざわざCGとして用意されていますが、これは後々になって、ちょっとした意味を持ってきます。
真結希とミータの不仲は、要するに雪人を巡っての三角関係です。ミータは真結希の琴なんて知ったことじゃないので、関係ないと言えばないんですが、真結希の方はそういうわけにもいきません。驚くべきことに雪人は未だ、真結希とミータの関係を理解していないことが発覚するんですが、こいつはもういいよ。
結局、雪人は真結希にミータを見ていただけでした。それを自分で認めていますし、真結希とセックスしたときも、真結希なのかミータなのかわからない状態だったと言います。もっとも、これに関しては真結希の計算もありましたから、一概に雪人だけを責めるわけにはいきません。雪人がどんなに酷い奴でも、これは真結希にも責任があるんです。しかし……

「二股かけます、って言えたら楽になるのかなぁ……」
雪人の中に浮かんだ答えは、人として、男として最低最悪のものでした。彼は常識からこの考えを却下するかと思いきや、美優樹が許してくれそうにないという理由でダメだと思ったのです。じゃあ、なにか? 美優樹が何も言わなければ、嬉々として二股をするというのか?
「考えるのはやめよう」
行き詰まった雪人は、遂に考えることすら放棄してしまいます。結局彼は、選ぶことが出来ないんです。彼は彼の都合だけで、真結希も美優樹も、そしてミータも大切にしており、手放したくないと思っていた。でも、これは美優樹も含めてのことだけど、相手は自分だけを選んで欲しかった。真結希とミータの関係を危惧するのも、結局は自分が不仲である二人を見たくないからです。だって自分は二人とも好きだから、大切だから。ミータと別れて、美優樹と真結希と穏やかに暮らす……喪失感を感じる度に真結希を抱くというのを無視すれば、一番現実的な選択肢を彼は考えるわけですが、ミータが戻ってきた今となっては、それもこれも無意味となりました。
だからでしょうか? 雪人はそうした自分の行いに対して、明確な報いを受けました。真結希が倒れたのです。体温計の表示が振り切れるほどの高熱で、一体どうして生きていられるんだと言ってもおかしくない状況。にもかかわらず、連日の異常気象で外は洪水となっており、救急車は出動できない状態だった。律佳は真結希は肉体的な疾患ではないので、異常高熱など出すはずがないと言いますが、真結希は現実に高熱にうなされて、何故死んでいないのかという窮地に立たされています。受け入れ体勢は整えるという律佳ですが、彼女がいるセンターに真結希を届けることが、出来ないのです。すべては雪人が真結希を連れ出したから。体温計でも測れないような高熱、仮に下がったとしても、確実に脳をやられているでしょう。馬鹿な雪人でも、それぐらいは理解できました。そうすれば例え全身麻痺は治っても、今度は脳障害による一生治らない後遺症を抱えることになるでしょう。

そうした絶望的な状況下において、最初に決断を下したのは意外にもミータでした。彼女はなんと、洪水状態である街中を、自分が真結希をセンターまで運ぶと言いだしたのです。確かにミータはロボットであり、災害時にも動けるように設計がされています。200キロの荷重にも24時間耐えるボディ、水中でも48時間の稼働が補償されているという彼女ならば、真結希をセンターまで送り届けることも可能でしょう。でも、雪人はミータだけにそんな危険な真似はさせられないと、自分も着いていこうとしました。しかし、ミータはそんな雪人をハッキリ邪魔だと拒絶し、一人、防水ベッドに収納した真結希を背中に背負ってセンターへと向かうのでした。そのときのミータは必死そのものであり、感動的なシーンなのか知りませんけど、私は失笑しか出来なかったなぁ……このイモウトノカタチって言う作品はさ、制作側が笑わせたいだろうシーンで笑えず、泣かせたいシーンで泣けないことが本当に多くて、そういったどれもが滑稽なものに見えるんだよね。要は滑っているし、全体的に寒いんだよ。
ただ、ミータの気持ちは理解できないでもありません。彼女にしてみれば、自分が機能停止をしている間に、雪人を真結希に寝取られたわけですから、彼女に対する感情が複雑化するのは当たり前です。やはり雪人は人間の方がいいのか、自分ではダメなのかと悩み、真結希への不快感に繋げるのも当然でしょう。しかし、それでも彼女は介護ロボだったし、雪人が愛する真結希を見捨てるわけには行かなかった。ボロボロな体はセンターに行けばメンテナンスをして貰えるでしょうが、その先に待っているのは再度の機能停止。それは、雪人との別れを意味していました。でも、分かっていてもミータは動くことを止めなかった。分かっていてもどうにもならないなどと宣った雪人と違い、彼女には彼女の使命があったから……

一方、寮に取り残された雪人が気が気でなく、やはり自分もミータたちを追い掛けようとして、美優樹にいさめられます。
けれど、雪人が美優樹の言うことなど聞くはずもなく、「なんでだよ!」と怒鳴り声を上げます。
「お兄さんの家族は、真幸とミータさんだけなの!?」
「――!?」

言ったいつからミータまで家族になったんだと思わなくはないけど、美優樹の叫びは完全に正しい。雪人は今まで蔑ろにしてきた美優樹の気持ちを、その一端をやっと理解するに至ったのです。その後律佳から連絡があり、真結希がICUに入ったことと、ミータのメンテナンスが開始されたことを知る雪人と美優樹。真結希は検査結果次第では手術が必要であり、予断を許さない状況だった。水が引き次第来るようにと言われた雪人ですが、翌日になっても雨は止まず、彼は再度病院に向かう決断をします。
昨日の今日で、もう美優樹の言葉を忘れてしまったのか? 当然怒る美優樹ですが、なんと雪人は美優樹も一緒に連れて行くことで、その状況を打破しようとします。わざわざ水着に着替えさせて、泳いでいこうと。外では市の職員がゴムボートに乗って外出を控えるように警告を出していたのに、すべては自分のため、自分の満足感のために美優樹を危険な目に遭わせた。付き合う美優樹も、賛同する周囲もどこか頭がおかしいんじゃないだろうか。
なんとかメディカルセンターに辿り着いた二人ですが、意外にも律佳は二人が来てくれて助かったと言います。しかし、それには深刻な理由があり、真結希の病気が再発していたからに他なりませんでした。全くの予断を許さない状況で、治る確率すらない。そもそも、再発すること自体あり得ないはずだった。真結希が瀕死であることに打ちのめされる雪人ですが、そこに追い打ちを掛けるような事件が発生します。ミータが、姿を消したのです。

律佳によってメンテナンスを受けていたミータは、システムに手を加えられた形跡があったと言います。以前とは異なるシステムが組み込まれており、それは制御装置の類いだという。特殊なナノマシンの制御装置に似た構造をしていたそうだけど、そんな難しい話は馬鹿な雪人に分かりません。
それよりも何よりも、雪人はここに来て二つの選択肢を迫られます。即ち、ミータを探しに行くか、真結希の側にいてやるか。ミータはメンテナンスを終了しており、元気かどうかと言われれば元気であり、一方の真結希は瀕死と言っていい状態です。どちらを選ぶかなんて、考えるまでもなかった。そして雨は……雪へと変わりました。
夜になって、雪人の都合のいい独白が始まります。自分はミータも真幸も大切であり、二人と一緒にいるためならすべてを賭けても良いと思っているとか、そんなことを。でも、実際に真結希の為に頑張ったのはミータであり、雪人の暴走を制したのは美優樹です。この男が、一体今まで何をしてきたというのか。正直、文字に起こすのも吐き気がするような雪人の身勝手な言い分が、瀕死で意識のない、言葉を返すことも出来ない真結希に浴びせかけます。何故ミータがいなくなったのか理解できない雪人は、やがてミータが追っ手に攫われたんじゃないかと思うようになり、助けに行かなければと妄想を広げ始めます。
しかし、それは今ここで苦しんでいる真結希を見捨てていくことに他なりません。けど、それならそれでいいんです。薄情ですが、雪人は真結希ではなくミータを選んだと言うことですから。二人との関係に対する、一つの結果に他なりません。
でも、真結希は混濁する意識の中で雪人が行ってしまうことを感じ取ったのでしょう。どちらも選べないと苦悩し続ける彼の手を僅かな柄に掴み、おそらく「行かないで」と思ったに違いありません。なのに雪人は、神志那幸人で美馬雪人でも、もうどちらでもいいですが、イモウトノカタチという作品の主人公は、作中において最低最悪の行動に出たのです。

真結希に繋げられたチューブを抜いて、背負って、病室を出て、病院を出たとき……雪人というクズ野郎は一体なにを思っていたのだろうか? 瀕死の妹を雪の中連れ出して。洪水の中、美優樹を自分のためだけに連れ出したのは、もはや次元が違うんですよ? ミータを探しに行きたい、でも真結希を見捨てていけない、だから真結希も連れて行こうなんて発想、常人には理解できないし、雪人はそれによって妹が死ぬかも知れないという事実からも目を背けたんです。じゃないと、自分の都合で動くことが出来ないから。
雪人の最悪なところは自分が正しいことをしていないという認識があるところです。認識があるのに彼はそれを改めず、身勝手な解釈のままに瀕死の妹を振り回し、彼女が嫌っていたミータを探すという行動を続けている。それは誰のためか? 真結希のためでもなければ、ミータのためでもない。雪人は最初から最後まで、自分のためにしか行動してないんです。
そんな雪人の前に、美優樹が現れました。彼女は雪人が家族をバラバラにしようとした事実を非難しますが、雪人はそんなことした覚えはないと言い出します。この後に及んで、こいつは何を言っているんだろうか。美優樹も諦めたのでしょう、彼女は仕方なく、ミータと真結希のことを引き合いに出しつつ、自分も雪人のことが好きだったという真実を話します。そして自分が欲しくても手に入れられなかった雪人を全力で手に入れてしまった真結希と、そんな真結希さえも裏切った雪人。美優樹はすべてを知っていたんです。彼がミータを失った喪失感から真結希を抱いたことも、分かっていたんです。
「そんなあやふやな気持ちで真幸と触れあって、そしたら真幸が傷つくとは思わなかったの?」
「真幸を愛したくせに、ミータさんが帰ってきたからってミータさんにも好きだって言って、それで真幸が傷つくとは思わなかったの!?」
「ミータさんがいたのに、真幸と関係して、ミータさんが傷つくとは思わなかったの!!」

美優樹の心そこからの叫びは、しかし、雪人に伝わりませんでした。
「思ったよ!」
という怒声で逆ギレをする雪人。結局彼は思うだけで何もしてこなかった男です。分かっていても、理解できても、彼はそれに対して自分から何かをしようとはしなかった。だから、美優樹の正論以外の何物でもない弾劾に、彼は逆ギレという一番みっともない真似しか出来ないのです。雪人が性根の底から腐っていることがもっとも現れているシーンですね。

けれど、結局は美優樹も神志那の血なのか、真結希とミータとの関係を認めてしまいます。彼女のもまた家族というものに固執していて、認める以外に選択肢はなかった。上記の弾劾も、今まで抱え込んでいた鬱憤晴らしに他ならないし、それが美優樹という少女の限界でもありました。いいからさっさと実家に帰れよと思わないではないけど、雪人が美優樹に対して恋愛感情を抱かないことや、彼が真結希とミータに二股を掛けて傷つけている現実にも納得してしまった美優樹に、もはや掛ける言葉などあるはずもありません……
瀕死の真結希を抱えた雪人と美優樹がミータを探し始め、意外とすぐに彼女を見つけることが出来ました。記念モニュメントがある、慰霊祭が行われた場所にミータはいました。一緒に帰ろうという雪人に、ミータはそれまでの『お兄ちゃん』『ユキト』に改めた上で拒絶します。何故なら、真結希の変調の原因が自分にあるから。もっと具体的に言うなら、真結希の体内で全身麻痺の原因を作っていたナノマシンが、ミータとの接触で再活性化してしまったから……故にミータは、真結希の前から姿を消したのです。正義のロボットだと思っていた自分が、一人の女の子を死に至らしめている悪のロボットだった。故に、自分はあのまま死んでいれば良かった。
あくまで笑顔を崩さずに自嘲するミータに異を唱えたのは、意外なことに真結希本人でした。例え自分の身体を蝕む機械がミータのものだったとしても、それは自分のことだからと。真結希は自分の病状を、当たり前かも知れませんが知っていました。彼女の病気は感染症といってもウイルス性のものではなく、体内に侵入したナノマシンの暴走と、それによる全身麻痺でした。おそらく律佳が何らかの手段で体内のナノマシンを抑制したものが、ミータとの接触で活性化したのでしょう。でも、そんなことはもはや関係ありません。
ここにきて、雪人の気持ちを感じ取ったという真結希は、ミータの存在を受け入れました。正直、高熱で冷静な判断が出来なくなったのではないかと心配しますが、彼女は見んな好きでいいんだと、今まで嫉妬や憎悪の対象でしかなかった美優樹やミータへの考えを改めました。雪人以外を拒絶しなくてもいいのだと、変な着地点ですけど、とにかく真結希は二股関係を受け入れたんですね。愛は分かち合えると、それを教えてくれたのはミータだと言って、彼女を受け入れます。

真結希はミータに真実を、彼女が何者であったのかを教えます。それによってミータもすべてを理解し、そしたら奇跡が起きました。かなり投げやりな表現ですけど、だって、それ意外に書きようがないんです。ミータの中にあるナノマシンの制御装置ですか? あれが作動したのか何か知りませんけど、それによって真結希のナノマシンの暴走は収まり、なんとビックリ病気は完治してしまいました。
そして話は数ヵ月後に飛んで、すっかり元気になった真結希は学園に入学して、白鳥寮にも住むようになりましたとさ! おしまい!
……結局、真結希とミータの三角関係はどうなんたんだって? そんなんあれですよ、EDテーマ後を見れば分かりますけど、結局選べなかった雪人が二股をすることで終わりましたよ。雪人が部屋に来ないから、朝から二人で押しかけてセックスですって。ははは、セックス狂いかよ。しかも、数ヵ月後の雪人は、そんな二人の影響もあって、立派なモラリストに変貌したそうで。いや、なんといいますか、全員洪水で洗い流された方が良かったんじゃないですかね? と、大真面目にそう思います。

イモウトノカタチはこれにて全ルートクリアしましたが、実はまだアフターエピソードがあったり、投げっぱなしで終わった伏線の件があるので、しばらくこの作品に関する日記は続けます。ただ、個別のルートについてもう書くことはないでしょう、最後はなんて言うか、なおざりになってしまいましたが、それほど私がこの作品に失望を覚えたと言うことで一つ。全体の評価は明日にでもしますけど、期待した作品、スフィアの完全新作という意味では、完全に裏切られましたね。なんというか……色々と辛いです。
イモウトノカタチ感想レビュー、神志那真幸編も3回目になりました。まさか、ハルカナソラのレビューよりも膨大なものになるとは思いませんでしたが、あっちはファンディスクであり、こっちはフルプライスの作品ですからね。そもそものボリュームが違うわけで、長くなるのは当然なんだけど……充実感においては圧倒的な差があるような気がしますね。私はこのレビューを書くに当たってイモウトノカタチを2周したわけですが、それ自体が、自分の中でキツい作業になっていた。普通、面白い、楽しかった作品なら、即座に2周目を回するものだけど、この作品にはそれがありませんでした。

真結希に全てを引き継ぎ、機能停止したミータ……律佳によって完全分解されたはずの彼女が、生きていた。ロボットには生死など存在しないけど、それ以外には表現しようのない光景が、雪人たちの前に広がっていた。
「どうもこうもあるないのです。お兄ちゃんに会うために、地獄から舞い戻るしたのです」
高らかに宣言するミータは、以前と同じ、まるで変わりのない姿でした。彼女と別れてから、僅か2週間程度。想いが風化するには、あまりに短い時間。雪人の口からは自然と嗚咽が漏れ、彼はなにも考えられなくなってしまう。だって彼は、未だにミータのことが好きだったから。つい先日、真結希のことを抱いたばかりだというのに、いざミータが目の前に現れると、彼女のことしか考えられなくなってしまう。果たしてそれは、不誠実なのか? 雪人の感覚で言えば、死んだと思っていた彼女が、ひょっこり戻ってきたも同じことです。混乱するのは無理もないし、心動かされても仕方ないでしょう。真結希の処女を奪った後でなければね。
「主役メカはやられても、必ず復活するです。それが王道というものです!」
アニメの設定にも似た抽象的な表現を使うミータ。確かに、そういうこともあるでしょう。死んだはずのヒロインが、奇跡や何かで最終的に生き返る、主人公の元に戻ってくる。そんなシナリオは探せばごまんとあるだろうし、私とて彼女の寿命が近いと聞いたときには、そんなこと言ったところでどうせ……と思わないではありませんでした。けれど、真結希が出てきたことで事情は変わります。

真結希は本来であれば、ミータの意思と記憶引き継ぎ、雪人にとって最後のヒロインとなるべく登場した少女です。実妹ではありますが、そこはまあ無視するとしても、彼女の存在はミータが居なくなって初めて意味を成すものでした。何故ならミータと真結希の抱いている気持ちは同質の物ではないにせよ、ほぼ同一の物であり、真結希の雪人に対する気持ちの出発点は、ミータを起源としているのです。
私はミータから真結希へとヒロインが移り変わったとき、このシナリオは真結希ルートとして完結を迎えるのだと思いました。彼女の中にミータを想い止め続ける雪人と、自分自身を見て貰いたい真結希。そんな感じに話を展開させつつも、どこかしら落としどころをつけて終わるのだろうと。ましてや、この状況でミータが復活するなど、あり得るはがない。だって、同質の気持ちというものは幾らでも存在して良いけど、同一の気持ちというのは一つしか存在できないんです。最終的にどちらかを、選択しなくちゃいけませんからね。真結希がすべてを継承した時点で、ミータは役目を終えなければならなかった。
でも、ミータは戻ってきた。以前の記憶と、想いと、真結希に上げたはずのものを全部残したまま、彼女は雪人のもとへ帰ってきたのです。それも彼が真結希を抱いた翌日、ミータから真結希へと心が移行しかけていた直後に。この時点で、それまで存在していた真結希ルートは横道に逸れるか、強引に引き戻された形になります。真結希は彼女なり、様々な計算と行動、言動などを多用して雪人の心を得ようとしました。そしてそれは、自らの処女と引き替えに果たすことが出来た。代償は大きく、しかし、真結希にとってはそれも望むところだった。だけど、それは雪人の想いの原点であるミータの再登場によって、完全に狂ってしまったのです。これによって、一つのシナリオに二人のヒロインが登場する事態となりました。それがなにを意味しているのかは、すぐに分かります。

復活したミータは何者かに追われている最中でした。黒服の集団……といえば、あやかルートを思い出しますが、あれは無頼漢でも誘拐犯でもなく、あやかの家の使用人かSPの類いです。同じ連中なはずはありませんが、また黒服の集団だなんて芸がないというか、なんというか。それに式典に乱入してまでミータのことを追い掛けてくると言うのも、奇妙な話です。彼女の言葉を信じるなら、彼女は雪人を探していたと言います。黒服たちが正当な理由なくミータを追い掛ける、所謂悪の手先であるなら、慰霊祭という人も多く、かなりの確実で撮影ないし生中継をして居るであろう場所に、乗り込んでくるものでしょうか? 理事長を始め、街の有力者たちが軒並み出席しているのです。警備だって、相応の人員が配置されていたはずであり、ミータはともかく、得体の知れない黒服共がどやどやと押し寄せてくれば、すぐに対処をしなければ行けません。つまり、彼らが悪人で、何らかの目的があって行動していたのなら、慰霊祭などと言う目立つ場所に乱入できるわけがないのです。
目立つ場所ならあやかが追いかけ回されていた街中も同じですが、あれにはまだしも人々を納得させる理由があります。黒服たちはあやかの家に雇われている人間であり、対外的には家で娘であるあやかを、兄である順也の言いつけで保護ないし、連れ戻そうとしているだけです。やり方の荒っぽさはともかくとしても、一応の理由にはなるでしょう。
だけど、ミータの場合は違います。これは後に分かることですが、ミータはメディカルセンターから盗まれ、行方不明になっていたんだそうです。彼女の所有者が律佳なのか、それともセンターそのものにあるのかは知りませんが、少なくとも彼女は何者かが違法に連れ去った、ロボットですから持ち出した、というべきでしょうか? これは立派な犯罪だし、ミータの能力を考えれば、何らかの悪事に利用しようとしたと考えられなくもない。それが再起動後に逃げ出したのなら連れ戻そうとするだろうし、躍起になるのも分かります。けど、ミータが慰霊祭という会場に逃げ込んだ時点で、その追求の手は一時ストップしないとおかしいんです。だって黒服たちはミータを盗んだ犯罪者か、少なくとも犯罪者の手先ではあるわけで、必要以上に目立つ行動など出来ようはずもない。会場が撮影されているとなれば、尚更のことです。

さて、黒服に追われていたミータは雪人を連れて逃げ出します。学園に身を隠し、一体どうして、何故再起動したのかを問いかける雪人ですが、あくまで以前の記憶のままに、自分は雪人の恋人であるという認識を崩さないミータに、彼の心は痛む。真結希を抱いてから、まだ1日しか経ってないのです。ミータから真結希へ、気持ちの切り替えをしようとしていたまさにそのとき、死んだはずの恋人が戻ってきたのだから、動揺もするでしょう。
けれど、雪人が抱いていた気持ちは少し異なります。彼は真結希を抱いたとき、それがミータへの裏切り行為だと思っていました。死んだ女、機能停止したロボットに操を立てたわけですが、それでも彼は結局真結希に流されて、流されたいと想っている自分の欲望に逆らわなかった。どうせミータはもう居ないんだし、目の前にいる真結希を選んだって問題はない。打算的な考えですが、それ自体は正しかったと思います。
けど、ミータが戻ってきたことで、雪人は本来なら発生するはずのない罪悪感を募らせることになります。現実から消えたはずの恋人が、現実の存在として帰ってきて、しかも自身は未だに恋人なのだと自分を認識している。ミータが時間の経過を意識していたのかは知りませんが、それにしたところで僅か2週間しか過ぎていないのです。まさか彼女とて、たった半月の間に雪人が別の女に乗り換えたなどとは思わないでしょう。生別ならまだしも、死別といって差し支えない状況で、雪人は自分の寂しさを埋めたいが為だけに、他の女を抱いた。如何に真結希が自分から迫ったとは言え、最終的に判断したのは雪人なのだから。
ここで問題となるのは生別でない以上、つまり関係が悪化して恋人関係を解消したのではないのだから、雪人は未だにミータのことが好きだと言うことです。私は二人の関係が恋人のそれだったとは思えないのだけど、肉体関係があったのは事実だし、雪人のミータに対する想いも本当でしょう。しかし、彼はミータが居なくなってから僅か2週間の間に別の少女と、真結希と恋仲になってしまった。ミータに向けられていた感情や気持ちを、既に真結希へと移してしまったのです。いや、正確には移そうとしていたと言うべきか。

学園にも追っ手が迫りつつあったことから、ミータは再度雪人を連れて逃げ出しますが、街中で美優樹と合流します。路地に潜んでいた彼女が、二人を安全な場所に引き込もうとしたのですが、突然であったからか、ミータの反応は過激なものでした。
「誰ですっ!?」
鋭い詰問と共に、自分たちを路地に引きずり込もうとした相手、即ち美優樹の首筋に手を伸ばします。まるで喉を握りつぶそうとするかのような勢い、ミータは少女ですが、その正体はロボットです。本人も言っていたように、何百キロもある握力を有しており、その気になれば喉どころか体を引き裂くほどの力を持っています。もし、ミータが美優樹に気付くのが遅れていれば、確実に美優樹は首そのものを砕かれていたことでしょう。
追っ手は街中に配置されており、どこに逃げても必ず現れ、雪人たちは段々と追い詰められていきます。鵠見市はそれなりに広い街であり、その全域をカバーするとなれば、100や200で待ちに合うわけもありません。一体どれだけの組織が、どれほど大がかりな規模でミータ捕獲に動いているのか?ミータは確かに最新鋭のロボットですが、同タイプのロボットが存在しない訳ではありません。単にミータという機種が一つだけしかないと言うことで、そこに希少価値を見出すというのは無理があります。あるいは盗まれた後に何か、必死になって捕獲しなければ行けないほど重要なものを埋め込まれたとかなら分かりますが、少なくも彼女の見た目は変わっていませんし、美優樹を殺し掛けたことを除けば、雰囲気や性格も以前のままと言える。後、ミータに特徴があるとすれば、それは精々真結希の神経網を持っていたことぐらいですが……真結希が病院で秘匿された患者、外部に漏らせない存在であったことを考えれば、そちらを狙ったという可能性もなくはない。真結希本人は無理でも、ミータを分析することである種の情報を得ようとしたりね。つまり、ミータという機体そのものよりも、中身を欲しての犯行というわけです。誰が、一体何のためにと言う疑問は残ってしまいますが、真結希の事情が依然として不明な以上、その目的までは分かりません。

敵はミータの通信機能から位置を特定しているのだと知り、ひとまずその機能を日以上する3人。美優樹の携帯電話からも察知される可能性があるとして、その電源も切ってしまいます。これによって追っ手を振り切り、白鳥寮へと逃げ込みました。皆、慰霊祭に出ていることから寮はもぬけの殻だったわけですが、自身も親善大使として参加していたにも関わらず、雪人はどうして皆がいないのか分かりませんでした。そこまで頭が回らなくなったのかと思いますが、美優樹の説明ではミータが雪人を連れ去った後、黒服たちが乱入してきたりと現場は大変だったらしい。会場は凄い騒ぎになったそうだけど、なんと理事長や先生たちが生徒を落ち着かせて、形だけでも式典を終わらせたのだと言います。
形だけでも終わらせたって……ちょっと待って下さい。来賓だって多いだろう式典に、不審者が大量に流れ込んできたんですよ? 式典など即座に中止して、生徒たちのみの安全を図るのが理事長や教師の努めでしょう。なのにどうして、あろうことか式典を再開させたのか。とりあえず終わらせたにしても、それでは美優樹は何故ここにいるのだろうか? スピーチの途中で兄妹を連れ去られ、少なくとも黒服たちと接触しそうになった立場には違いありません。すぐに保護して、安全を確保するのが普通でしょう。生徒たちが寮に戻ってないのは、学校に移動したか、それとも会場で待機しているかのどちらかでしょうけど、何故そんな中、美優樹だけ抜け出すことが出来たのか。式典を終わらせたという経過を知っている以上、二人を追って自分もさっさと抜け出してきた、というわけではないはずです。
まあ、それはこの際置いておくとしても、ミータはやっと落ち着いたことから自分の身になにが起こったのかを話し始めます。
お兄ちゃんとセックスしたあと、私は昨日を止めたです」
それも、かなり自身が機能を停止する以前まで遡って。ギャグシーンのつもりなんでしょうし、ミータは真結希の存在を知りませんから、美優樹の前で自分が改めて恋人宣言をするのは以上に意味があることです。けど、美優樹は雪人が真結希に劣情を抱いていることを知っている。彼が妹に、妹以上に感情を持っていて、一方でそれを自分に感じていないことを理解していた。

「お兄さん、どういうことなの?」
「どう、ってそれは……俺がミータを好きだってことで……」

「私もお兄ちゃんが好きです。二人は結ばれてるです」
正確に言えば、結ばれていたと言うべきでしょうし、雪人も好きだったと表現するのが本当のところです。真結希を知らないミータは仕方ないにしても、真結希とキスしたその口で、真結希を抱いたその体で、雪人はミータが好きだと言い切ってしまう。ロボットがどうとか、種族の壁なんて問題じゃないんです。勿論、それも将来的には問題になるでしょうけど、ここで重要視すべきは真結希の存在でしかない。
「それにミータさんが好きなら、どうしてお兄さんは真幸に……」
美優樹の疑問はもっともであり、雪人自身、痛いところを突かれた思いました。実妹の処女まで奪っておいて、痛いところで済んでしまうのが雪人らしいですが、彼はこの期に及んでも真結希とのことを深刻には考えてはいないのです。しかも酷いことに、彼は自分が真結希に惹かれた理由は分からないと思っていました。キスをした理由も、抱いた理由も自分では分からないというのです。雪人は馬鹿だから仕方ない? いいえ、違います。雪人はこのとき明確に嘘を吐いています。何故なら彼は真結希と行為をしているときも、その前も後も、常にミータの影をちらつかせ、ミータと真結希を重ね合わせておいた。理由なんて、考えるまでもなく明白じゃないですか。雪人は真結希をミータの代わりにしたんですよ。それ以外の何物でもないし、行為の最中にハッキリと彼が考えていることではないか。
けれど、雪人はそんな自分の気持ちを隠した。本当に愛していた人であるミータの前で、そんなこと言えるはずもないのです。ミータに浮気を指摘され、動揺を隠せなかった雪人です。彼にとって、真結希との関係はこの時点で浮気であり、本気ではなかったのです。だからこそ彼は未だ深刻になれないでいたし、おそらく取り返しも付くと思っていたのでしょう。どこまでも最低な奴だから出来る思考回路というわけですね。

真結希もミータも大切な人だと言い張る雪人に対して、あくまで浮気をしたかが重要であるというミータ。しかし、美優樹はそんなことよりも不潔なことをしたという事実が問題なのだと言います。まあ、この場合は美優樹が正しいような気もしますが、ミータは愛する者同士なら当然の結果だと言って取り合いません。そしてよりにもよって、美優樹だってそういう相手がいればセックスしたいと思うのではないか、と尋ねます。
「わ、私は……そ、そんな人……いない、から……」
雪人に対して失恋をした美優樹にとって、その問いかけは何よりも辛いものだったでしょう。それに倫理や道徳的なことを置いといて、仮に美優樹が雪人に対して性的なことを望んだのだとしても、美優樹には何も感じないと雪人に断言されてしまったわけですからね。美優樹の口が自然と重くなるのも、無理はありません。
「ならば、子供が大人の話に口を出すないです」
雪人とセックスをした、その事実だけで美優樹を子供扱いするミータ。幼い頃から女子校通いで、ファーストキスもまだなお子様は困ったものだと馬鹿にするミータは、一体何様のつもりなんでしょうか? 自分だって稼働歴1年半のロボットのくせして、たった一度男とセックスしただけで、それまで友人だった美優樹の性格や、人生そのものを否定するかのような言動を吐くだなんて……なんというか、毒舌にも程があると思います。雪人の悪い菌でも移ってしまったのか、ミータも他人の感情を読み取ることが出来なくなってしまったんだろうか。あやかルートでは彼女の気持ちを察して、色々と思いやりのある行動を取っていたというのに、男を知ると女は変わるものなのかな。少なくとも、ミータという存在に好印象ばかり抱けないのも確かです。まあ、ルートに入った時点で、彼女の暴走は目に余るものがあったけど。

良いから早く事情を説明してくれと、話の軌道修正を行う雪人ですが、どこかの研究室らしいところで目覚めたミータは、何を考えるまでもなく雪人のことを思い出し、彼のことを探しに外へ出たのだと言います。追っ手にしたところで、実は悪人であるとは限らず、ミータを修理していた善良な研究者という可能性もあるらしい。目覚めた理由も、何故追い掛けられているのかも分からなくて、悪人かも知れないからと次善策を取って逃げ出したミータ。それでも彼女の主目的は雪人との再会があり、それに関しては雪人も満足しています。この時点で彼の頭からは、真結希の存在など完全に抜け落ちていました。
白鳥寮でミータを匿うことにした雪人ですが、彼の選択は間違ってます。普通なら、まずはミータの制作者である、彼の表現で言えば母親に当たる律佳へと連絡を取るべきでした。真結希のこともありますし、ミータをどうするかは、彼女に判断を仰ぐのが当然のことです。けど、雪人はそもそもミータをロボットとしてみていないから、あくまで彼女の自主性を尊重しようとしているんですね。そこが、あやかと雪人の違いでもあって、雪人にとってミータは恋人であっても、ロボットや機械ではないんですよ。静夏が了承したから美優樹の部屋に泊まれることになりましたが、静夏だって事情は知らないわけじゃないのに、どうしてメディカルセンターに連絡を取った方が良いとか、そういった助言をしてあげないのか?
翌日になって仲間を集め、これからミータをどうすれば良いのか相談する雪人ですが、匿うにしても限界があるし、他の寮生だっているんです。黒服が何者か分からない以上、身の安全を考える必要だってあるでしょう。雪人は馬鹿なので後先考えずに、というか、ミータのことだけを考えていますけど、それに他の人が巻き込まれるいわれはないし、何故ロボットのためにそこまで? という気持ちだってあるでしょう。ミータに入れ込んでるのは、結局のところ雪人だけなんだから。
病院に相談したらどうかと言ったのは、意外なことに千毬でした。よりにもよってバカキャラの千毬に指摘され、今まで気付かなかったのが不思議なぐらいだったと、雪人は今更のように律佳へ相談することを思いつくのです。
ミータを寮に残して、美優樹と二人でメディカルセンターに向かった雪人。しかし、律佳は仕事中で会うことが出来ず、時間つぶしに真結希の見舞いへ向かおうとする雪人を、当の律佳が阻みました。彼女にとって、最も重要な仕事をしていた最中だと言います。眠っている真結希に会わせることは出来ないと、律佳は場所を自室へと移します。
「昨日の慰霊祭でね、神志那幸人くんが途中で……いなくなってしまっただろう? それで真幸くんは酷く取り乱してしまってね。半狂乱と言えるかも知れないほどに」
雪人たちに連絡を取ろうにも、二人は黒服から逃れるために携帯を切っていたから捕まえることが出来ず、真結希は自分で探しに行こうと、あの体でベッドから抜け出そうとしたと言います。何を言っても納得せず、仕方ないので薬を使った。それは雪人にとって、恐ろしさすら感じられる現状でした。真結希は、なにもかも振り捨てるほど、雪人を失いたくないと思っているという事実に、雪人は今になって気付いたのです。そして、自分が彼女に気持ちに応え、抱いてしまったからこうなったのだと。雪人は自分がとんでもない泥沼に嵌まりつつあることを悟ったようですが、彼がそこから脚を引き抜くことは出来ません。既に真結希を抱いてしまった彼に、そんなこと出来るはずもないのです。
「昨日の……君を連れて行った『あれ』は……ミータ、だったのか?」
律佳の問いは、彼女がミータの再稼働に関わっていないことを示すものです。彼女はミータが、一週間前から行方不明になっていたことを明かします。データ分析のために回収中だったものが、データごと機体を奪われてしまった。そう、いつか真結希の見舞いに来たとき、美優樹が廊下の騒動を気にして席を外したことがありました。あのときの騒ぎこそが、ミータを奪われた瞬間だったのです。何故教えてくれなかったのかと憤る雪人ですが、彼が怒るのは筋違いです。彼はミータの恋人かもしれませんが、そんなものはミータが勝手に言っていて、雪人がそう思い込んでいるだけのことであり、彼はミータに関してなんの権利を持っているわけでもないのだから。それに、事件性を帯びているころから打ち明けるわけにはいかなかったという律佳の言葉も、十分に説得力があります。

やはりミータは犯罪者によってさらわれた可能性が高かったわけですが、それにしては連中の行動はお粗末すぎる。律佳は痕跡の少なさから内部犯の可能性を指摘します。彼女には、ミータが再稼働した理由も、奪取した人物が誰かも分かりませんでした。しかも、起動しているにしてはテレメトリに信号は来ませんし、本来のミータであれば、それはあり得ないことです。だからこそ、律佳にはあれが本当にミータだったのか、という確認を取る必要があった。なにせミータはロボットですから、外見を似せるだけなら幾らでも可能なんです。
「ミータは、私たちが知っているミータではない可能性がある、ということだ」
機体に手を加えられた可能性もあるため、律佳はミータの回収するつもりでした。パーソナリティプログラムに手を加えられていないとはいえ、改造を施されたミータが雪人たちを襲うとも限らないし、なによりそれによって真結希に与える影響を考えれば、それ以外に方法などありません。律佳はミータの制作者であり、その所有権は彼女か、あるいはメディカルセンターにあります。律佳の言葉の正しさは、雪人だって理解しました。しかし、雪人はミータがセンター内で攫われたことを確認すると、信じられなことを口にします。
「だったら、俺はミータの側にいます」
ミータを犠牲にして、自分だけ助かるような真似は出来ない。格好いいことを口にしているようですが、実際はミータと離れたくないだけという、酷く個人的な都合です。ここまできて、こんな状況になっても雪人は自分の都合を優先したんです。学生寮に匿うとなれば、雪人だけの問題じゃない。人が大勢いる式典にまで乱入してくるような奴らです。他の寮生を気にせず、乗り込んでくる可能性だって十分にある。でも、雪人は自分の我が儘を押し通した。ミータと離れたくないという自分だけの都合に、皆を巻き込んだんです。もはや雪人の思考は、独善的ですらなくなっていました。間違っていると分かっているのに、我が儘だと理解しているのに、改める気がないのですから。

強情な雪人の説得は難しいと判断したのか、律佳は逆にミータを二人の手元に置き、敵の接触を誘い出す方向に考えをシフトしました。どうせ雪人や美優樹や親善大使として素性が割れているのだし、ミータを渡す気がないなら囮に使ってしまえと、そういうことにしたんですね。けど、そうした判断に納得出来ない者が、一人だけいました。
「ミータちゃんが行くなら、私も行く」
それまで薬で眠っていたはずの真結希が、その場に現れたのです。
「話は聞きました。私もお兄ちゃんと一緒に住みます」
突然の宣言に、一応の冷静さを保っていた律佳が動揺し始めます。薬で眠っていた真結希が、一人で起きて、車椅子を動かして律佳の部屋まで来た。それだけでも信じられないことなのに、あろことか病院を出て、雪人のところに行くと言いだしたのです。そんなこと、認められるわけもありません。
「ミータちゃんが寮に居るのは、ミータちゃんがお兄ちゃんに会いたいからだよね? だったら、私がお兄ちゃんに会いたいから寮に行くのも、立派な理由だよね?」
真結希の手足は擦り傷や、打撲の痕が多く見られ、傷だらけと言っていい状態でした。特別病棟から律佳の部屋まで、一体どれだけの距離があるのかは知りませんが、薬で動きが鈍っていたであろう体を無理矢理動かし、真結希はなんとかここまで辿り着いたのです。
「こんなかすり傷はどうでもいいの。私もお兄ちゃんと一緒に暮らす。ミータちゃんだけなんて認めない」
許可など出せるはずもない律佳に、許可などいらないという真結希。なのに雪人は、どうして真結希がそんなことを言うのか、その理由が見えてこない。彼は、彼は本当に馬鹿なんです。他人の気持ちが分からない、相手の心がくみ取れない、人を理解することが出来ない奴だった。
「……お兄ちゃん、本当にわからないの?」
だからこそ、真結希が直接告げるまで、彼は気付くことが出来なかった。自分の都合だけを優先してきた彼に、相手の心情や感情など、分かるわけはないのです。彼は真結希の感情が、ミータに対する嫉妬であることにやっと気付きます。ミータと分かち合っていた、いえ、ミータから引き継いだはずの想いが、復活したミータによって、今まさに取り返されようとしている。そんなこと、真結希に認められるわけはないんです。真結希が半狂乱になって取り乱したのも、結局のところ雪人を攫ったのが、他でもないミータだったから。真結希は、雪人がミータを愛していたことを知っているから……

文字数制限はまだなんですが、3回目で収まりきらなかったので、急遽分割して残りは明日に回すこととしました。まさか、6万文字で書き上げることが出来ないとは思いませんでしたが、それだけ私の中で、書きたいことが山のようにあった、ということでしょう。決して、好きな作品というわけじゃないのだけど、まあ、好きになりたかった作品だったこともあってか、自分の中で納得が言ってないのかも。まあ、とにかく明日に続きます。
イモウトノカタチ感想レビュー、神志那真幸シナリオの2回目になります。最終ルートだけあって書くことが多く、おそらく今回で書き上がることもないかと思います。この日記は1日につき2万文字を打つことが出来るはずなんですが、実際は1万9500文字も打ったらエラーが発生してしまい、正確に2万文字というわけじゃないんですね。それでも通常時の日記の10倍は書いているわけだから、この作品でよくもまあそんなに書くことがあるなと言う感じです。

ハイキングの翌日、真結希は昨日の今日で激しいリハビリを行っていました。ミータが機能を停止してから1週間、彼女が収集したデータは着実に真結希の中へ蓄積されており、そのノウハウは急速に実を結び始めました。つい先日まで指先しか動かすことが出来なかったというのに、僅かながら体を動かすレベルにまで回復していたのです。
真結希が疲れを無視してリハビリに勤しむ理由には、兄である雪人のことがありました。ずっと憧れていたお兄ちゃんに出会ったことで、彼女には頑張らねばならない理由が出来たのです。けど、本当にそれは真結希自身の気持ちなのだろうか? 雪人に憧れ、恋し、体を捧げたのは真結希ではなくミータです。ミータの行動原理に真結希の意思が介在しないことは、真結希本人が明言したことでもあります。けれど、なにかしら引きずられるところは合ったんじゃないでしょうか? でなきゃ、雪人なんかに惚れるはずがありませんから。
真結希の努力の根底には、美優樹への嫉妬心もありました。妹として、健常者として、雪人と同じ学校に通い、同じ寮で暮らし、親善大使の仕事を共にこなす美優樹の存在は、未だに歩くことすらままならない真結希にとっては、コンプレックスもいいところです。双子なのにどうして自分だけと、運命を呪うこともあったでしょう。だから真結希は頑張るし、美優樹に対して遠慮も容赦もしません。
先にキスをしたのは私と、ちっぽけな優越感を握りしめる真結希は、美優樹が雪人に憧れを抱いているのを察していました。察した上で、美優樹に大胆な行動をする勇気がないことを見抜き、自ら積極的な行動に出たのです。兄妹としての倫理観か、それとも別の理由か、いずれにせよ美優樹は自分の想いを表に出すつもりがない。真結希の推測は当たっていますが、彼女は美優樹に何があったのかを知りません。既に失恋していることや、雪人に女としてみられていないことを知らないのです。

美幸ちゃんが、お兄ちゃんの時間を独り占めするなら、私はお兄ちゃんの気持ちを、独り占めするんだ。
真結希の野望は、既に妹としての範疇を超えているものでした。彼女は美優樹に対してどこかキツい態度を見え隠れさせることが多かったのですが、それは冗談やイタズラ心などではなく、単純に美優樹への嫉妬心があったから。恨んだり、あるいは憎んだりしているかは判断着きませんが、真結希の行動に対する原動力が、そうした負の感情から生まれていることは確かです。主治医である律佳が、そうした真結希の内面にまで気付いてくれていれば良かったのですが、彼女は真結希の症状の方を気に掛けていたからか、真結希の中で渦巻くものの存在を、察知することが出来なかったのかも知れません。
お兄ちゃんたちは、ミータちゃんがいなくなった寂しさを私に会うことで埋めようとしている。
真結希は、雪人や美優樹の目的が、本当のところ自分にないことを感づいていました。美優樹の方はどうか分かりませんけど、雪人に関して言えば、なにせ真結希をミータだと思ってキスしたほどの男です。口にも出しかけていましたし、あの距離なら、真結希が聴いていたとしても不思議じゃない。
突然、双子の妹だと言われても、すぐにそう実感できるわけがない。私みたいに、ずっと会うことに焦がれていたわけじゃないのだから。
その明察は正しく、真結希は雪人がキスをしてくれた理由が、ミータを失った寂しさから来るものであることも看破していました。あのキスがミータに向けたものであることさえ、真結希は承知していたのです。兄が人の心を欠片も理解できないのに比べ、妹はなんという洞察力でしょうか。
でも、私はそれで良いと思っている。
真結希が雪人に向ける想いも、半分はミータに貰ったものだと言います。何故なら、彼女の体が覚えていることは、すべてミータから与えられたものだから。


雪人のこと大好きだと言い切る真結希。しかし、彼女は自分の中に疼いている感情を雪にとぶつけることへ、躊躇いを覚えていました。理性でも道徳でも、ましてや倫理観でもない。ただ、後ろめたいという気持ち。それは、美優樹に対してではありません。
「ミータちゃんは、今後どうなるんですか?」
答えにくかったら答えてくれなくてもいいと前置きした上で、真結希はミータの今後について尋ねました。その質問に意外さを覚えないではない律佳でしたが、それは答えにくいと言うより、聞かせにくい部類のもの。ミータが元の状態で復帰することは絶望的であり、真結希のリハビリが始まった以上はその必要がありません。既にミータは完全分解が始まっており、残されたデータを取っている最中なのだと言います。
そしてそれが終われば、真結希用に載せたシステムを取り払い、本来の使用に戻して介護ロボットとして運用するか……あるいは、別の患者向けに新たなシステムを搭載するか。律佳は、後者の方が可能性は高いといいました。どちらにせよ、ミータが持っていた性格や記憶は残りません。ロボットなのだからそれは当然であり、解体処分されないだけでもマシな方なのかも知れませんが、ミータを人と同じように扱っていた雪人などには、納得出来ない話でしょう。あやか辺りなら、案外すんなり受け入れると思いますが。
真結希にとってそれらは概ね予想通りの答えであり、だからこそ、後ろ暗さは消えなかったのでした。そう、真結希が意識していたのは、後ろめたさや躊躇いを感じていたのは、美優樹ではなくミータに対してでした。既にいないロボットを、かつて雪人を愛した存在を、真結希は気に掛けていたのです。これから自分がしようとしていることを、考えながら。

一方で、美優樹が悩み続けていました。雪人が真結希に、あるいは真結希が雪人にした口付け。家族なら、兄妹ならそれはあり得ないことであり、美優樹の認識から大きく外れた、常識外の行動。それを自らの兄がしたというのだから、信じられるはずもないのでしょう。当たり前の話です。
「お兄さんは非常識です。出会った時からそうでしたけど、今回ばかりは非常識すぎです」
そんな相手に何故惚れたのかと言いたくなりますが、雪人の頭がおかしいことは、今に始まったことじゃないのはその通り。彼には最低限の常識さえも欠如しているんですね。他にも色々ありますが、主人公としてというより、人間として必要なものが、彼には存在しないんです。
「言い訳はいりません。あんな不潔なこと……」
みっともなく言い訳をする雪人に対し、美優樹はハッキリと不潔であると言い切りました。箱入りで、お嬢様学校に通っていた美優樹らしい言葉ですが、それ以上に、家族や兄妹でそんなことをしてはいけないという、倫理観や道徳観もあったのでしょう。
「とにかく、もう二度とあんな真似はしないでください」
美優樹にしてみれば当然の忠告、いえ、警告ですが、それに対する雪人の返答は常軌を逸していました。
「気をつけてはみる」
普通であれば、はっきり「しない」と答える場面です。それが筋であり、道理というものです。でも、雪人は美優樹に責められても、怒鳴られても、曖昧にしか答えませんでした。だって、彼にはそんなこと無理だから。真結希とのキスに、目をそらせないほどの喜びを感じてしまった雪人には、約束なんて出来るはずもないのです。更に言えば、彼は自分の所業をそれほど深刻に考えていませんでした。兄妹喧嘩かと心配するあやかと晴哉に、美優樹は「兄妹ゲンカなんて、それほどのことじゃありません」と虚勢を張ります。実際、悪いのは雪人であって、美優樹に非はありません。対等でない以上は、喧嘩と言うには少し違います。けれど、雪人は――
「俺がやらかしちゃったのは確かなんだけどね」
軽薄な雪人の言動は、美優樹にとって許せないものでした。
「やらかしたって……そんな程度じゃないよね!?」
ムキになって怒鳴り散らす美優樹は、それによってクラス中の注目を受ける羞恥にも耐えねばなりませんでした。しかも、真結希の存在は秘密であるから、親しい友人たちに相談することも出来ない。兄である雪人が、妹の真結希に劣情を催すという事実を。

「本当にいやらしい気持ちでしたんじゃ、ないんだよね?」
何度も何度も、確認を取らずにはいられない美優樹。彼女は雪人と真結希の間に二人だけの世界が築かれつつあるのを知っていたから、自分が置いてけぼりにされるような、そんな不安を抱えていたのです。正直、もう実家に帰りなよと言いたいですが、美優樹はあくまで折角見つかった家族との関係を優先しようとします。だからこそ、それを壊しかねない雪人の異常な行動が見過ごせないのです。
「だから違う! ……と思う……って、何度も言ってるじゃないか」
この期に及んで、雪人は曖昧な答えを崩しません。彼が真に妹たちのことを、家族のことを考えているなら、ここは嘘でも否定するべき所でした。少なくとも、目の前にいる美優樹を救うには、それが一番いい答えだったはずです。
「その曖昧な言い方が引っ掛かるの。はっきり否定してくれれば私もこんなに言わなくてすむのに……」
美優樹はまだ、雪人のことを信じていました。兄のことを、かつて自分が想っていた相手を疑いたくはないと、彼女の常識と倫理観からそう思っていたのでしょう。これは何かの間違いで、間違いでなくてはいけないのだと。でも、そんな妹に対して雪人はどこまでも卑劣な男でした。
「……はっきり肯定した場合は……?」
もはや雪人は、真結希を意識せずにはいられなかったのです。だからこそ、彼は曖昧どころか、もっとも美優樹が望んでいない言葉を口にしてしまった。けど、それこそが彼の本心でもあったのです。
「お兄さん……そんなこと、本気で言ってるの……?」
愕然とする美優樹に対し、雪人はごまかすように視線を逸らします。美優樹の不安は、的中していたのです。だけど、彼女には確認しておかなければ、確かめておかなければ行けないことがありました。

「妹にそんな感情を抱くなんて……まさか、私も……」
美優樹の言葉は、雪人に対する不潔感以外のものが混じっていました。あるいはその答えによっては、美優樹は雪人を許していたかも知れない。
「だ、大丈夫だって。美幸にはそういうの感じないし……」
雪人の口から咄嗟に出た言葉は、紛れもなく彼の本音でした。彼は既に、美優樹を千毬と同レベル程度にしか思っていなかったから。
「私にはって、感じないって……じゃあ、真幸には……!?」
「あ……」

美優樹の追求に本音を漏らした雪人は、それが失言だったことに気付きました。口では曖昧なことを言いながら、結局彼は真結希に劣情を催していたのです。だけど、美優樹がショックを受けたのは、それだけじゃありません。雪人が真結希に向けてい異常とも言える感情、それが自分に向けられないことに、美優樹は激しいショックを覚えていたのです。無理もありません、どんなに雪人のクズっぷりが発覚しようと、美優樹が雪人を好きだったのは、変えようのない事実なのですから。
雪人はこれ以上の追求を避けるために、美優樹を連れて真結希の元に向かいました。真結希の前でなら美優樹は怒らないだろうという、卑怯としか言い様がない計算をした上で、雪人は真結希と美優樹を引き合わせようとしたのでした。全ては自分のため。自分が、これ以上美優樹からなにも言われないため。彼はそのために、真結希さえも利用したのです。二人を引き合わせることでどうなるかなど、雪人は当然考えていません。彼が考えていたのはただ一つ、自分の気持ちが整理できていないことだけであり、この男はどこまでもいつまでも、自分のことだけを優先させていたのです。美優樹が家族幻想に囚われていなかったら、あるいは雪人を見限るのは今だったかも知れません。そうすれば、雪人は一人家族の輪を離れた美優樹を非難するでしょう。自分のことも顧みず、こいつはそういう奴です。
でも、美優樹にはそれが出来なかった。優しい彼女に、実の家族を見捨てることなんて、出来るわけもなかったのです。

美優樹の気持ちを散々踏みにじった雪人は、その自覚をしないままに真結希の病室を訪れます。思った通り、雪人の目論見通りに、美優樹は真結希の前で感情を高ぶらせたりはしませんでした。一々確認する辺り、もうこいつは天然でも何でもないですね。動揺する妹を振り回し、無理矢理ここまで引っ張ってきて。こいつは、妹をなんだと思っているんだろうか?
既に雪人の眼中に、美優樹はいないのかも知れない。彼が見ているのは、病室に入ったその瞬間から、真結希だけになっていた。兄貴面をして着替えを手伝おうとしたり、つい先程まで美優樹から真結希に対する劣情を指摘されていたにも関わらず、遂に人の気持ちを理解できないだけではなく、人の言葉すら分からなくなってしまったんでしょうか? だとしたら、丁度良いことに病院ですし、医者に掛かった方がいいと思いますけど。
リハビリの疲れから赤みがかった頬をした真結希は、雪人がドキッとするほど可愛いものであり、彼がもはや真結希に対する気持ちを隠していないことにも繋がります。美優樹には一欠片だって感じないことを、真結希に対しては素直なまでに発露している。しかし、それは……間違っても雪人が純粋だからじゃありません。
真結希は雪人と美優樹の間にあったやりとりを知りません。知らないからこそ、彼女は自らが抱く野望に乗っ取り、積極的な攻勢を二人に仕掛けます。何気ない言葉に混ぜ込んだ挑発。美優樹も薄々とは気付いているんだろうけど、常識人である彼女にとって、それはあり得ないことです。けれど、こういう言い方をするとあれですが、真結希はそれほど性格がいい娘ではありません。純真無垢に見えるのは、あくまで外見だけの話であって、冷静に考えてみれば、14,5年間ずっと機械に繋がれて、無理矢理生かされていた少女が、まともな性格をしているわけがないんです。一度殺した心が歪みなく再生するものでしょうか? 後に自分で自分のことを肉塊とまで言い切った真結希は、何度も何度も死にたい気持ちを抱えていた全身麻痺の少女は、とっくに壊れていたんじゃ、ないだろうか。

真結希の前であることから、美優樹はなるたけ平静を取り繕います。真結希は言葉の端々で挑発行為を続けますが、雪人は馬鹿なのでよく分かっていませんし、美優樹もさほど気にしてはいない。けど、そのとき廊下で何事かあって、確認のため美優樹は席を外してしまうのです。病室内に居づらかった、というのもあるんでしょうが、真結希と会話することで気持ちがほぐれた部分もあったのでしょう。昨日、あんなことがあったにも関わらず、美優樹は雪人と真結希を二人きりにしてしまいました。これは美優樹らしくない、手痛い失敗でしたね。もっとも、雪人に確認を行わせたところで、彼が要領得ないことは明白なんですけど。
逃げ出した美優樹の心理を難なく察した真結希は、二人きりであるのをいいことに、積極的な攻勢を仕掛け続けます。既に、彼女の中で美優樹は敵ですらないのかも知れません。
「私とキスするのって、そんなにおかしいですか?」
雪人は自分の中かから消えつつある、最初から存在していたかも分からない倫理観を、真結希に求めていました。自分には無理だから、出来ないから、相手にそれをして欲しい。美優樹を黙らせるために真結希を利用したように、雪人はここでも、自分の中にある欲望や衝動の抑え役として、真結希の方から自制するよう望んだのです。
けれど、真結希がそんな役目を引き受けるわけがありません。彼女には野望があり、既に美優樹から雪人を奪い取ることは、彼女の中で決まっていたのだから。
おでこでもいいからとキスを要求する真結希に、雪人は抗うことが出来ません。元々壊れ気味だった人格が、崩壊寸前に達していたのでしょう。彼にはもう理性的な判断はおろか、なにが正しくて、なにが間違っているのかさえ理解できない、いや……そもそも、そういったことを考えていないのではないかとさえ思います。
結局、美優樹が戻ってきたことで事なきを得ますが、彼女が席を外した原因である、外の騒動は分からずじまいでした。病院だし、大方急患かなにかだろうと言うことで落ち着きましたが、雪人は美優樹が戻ってきたのをいいことに、今度は真結希から逃げだそうとします。元々、美優樹の怒りを静め、黙らせるために真結希を利用しに来たというのに、今度はその真結希に対して、雪人は自分を抑えられなくなっていらのです。それを全く拒まない真結希にも問題があるのは事実だけど、雪人は真結希が拒まないからこそ、自分は引かれているのだと勝手に怖がっています。馬鹿じゃないかと思いましたが、そういや雪人は馬鹿でした。

慰霊祭を間近に控え、親善大使としての仕事が忙しくなった雪人と美優樹は、真結希のお見舞いに行くことが出来なくなりました。仕事なんだから仕方ない話ですが、そもそも二人が親善大使になったのはお互いの家族を探すためであり、生き別れとなった真結希さえも見つかった以上は、実のところあまり意味がないものになっているんですよね。美優樹は真面目ですからともかく、雪人はそれをどう思っているのか。馬鹿だから、そうした事実にも気付いていない可能性はありますが。
やっと時間を作れたのは、慰霊祭を明後日に控えた土曜日でした。真結希はすっかりへそを曲げていましたが、美優樹から雪人が真結希のことばかり気にしていたと言われると、機嫌を直します。
「一人になるといつも『真幸-、真幸ー』って、壊れた音楽プレイヤーみたいに呟いてるんだよ?」
美優樹はどうしてその壊れたゴミを、焼却炉に投げてこなかったんでしょうか? 明らかに狂っていますが、バケツの水をぶっかけるなり、平手打ちの1ダースぐらいは食らわしてやるべきではないか。それとも美優樹は、兄が異常者であることに対して諦めてしまったんでしょうか?
寂しかったなどと、子供みたいな表現を使う雪人ですが、美優樹も少なからず寂しかったのは事実です。しかし、そこに真結希からこんな指摘が入りました。
「私はとっても寂しかったのに……美幸ちゃんは少しだけだったんだ?」
「そ、そういうことじゃ……」
「そうだよね、美幸ちゃんはお兄ちゃんが側にいてくれるし、寂しくなんてないよね」
真結希がチラリと見せた、鋭い牙。美優樹は自分に対して向けられた、憎悪にも似た嫉妬心を悟りますが、雪人はそれに気付くことが出来ません。冗談だといってはぐらかす真結希ですが、それが本音であることぐらい、誰が見ても分かることでした。ただ一人、雪人だけは気のせいで済ませましたが。

週明けの慰霊祭に向けて土日はしっかりと休息を取る意味も兼ねて、親善大使の仕事は休みでした。けれど、大事な行事に向けてのおさらいなどをしなければ行けませんし、休みとは言え、明日も真結希のお見舞いに来るのは難しい。真結希はそれに対して特に不平は漏らしませんでしたが、そうなると慰霊祭も挟んで次に会えるのは三日後になります。
いっそ、真結希を慰霊祭に招待することは出来ないか? と雪人は考えますが、真結希はなにせ存在が秘匿されています。事情が許すはずもありません。それでも自分と美優樹の晴れ舞台を家族に見て貰いたいと思う雪人の気持ちも、まあ、分からないではないです。他意は、ないと思いますし。
雪人にとっては一生に一度あるかないかの晴れ舞台だという美優樹に、雪人はあのコンテストならもう一回出ても何とかなると余裕を見せます。
「お兄さんはなにもしてなかったよね? 全部私に押しつけてたよね?」
もう二度と出たくないという美優樹の言葉は、彼女の本心でしょう。あの頃は雪人が実の兄であることを知らず、知らなかったからこそ、彼の無茶苦茶な性格にも許せるところがあった。でも、今は状況が違います。全部私に押しつけた、という美優樹の言葉は、雪人の性格や行動を端的に表しています。確かに、振り返ってみても雪人はなにもしていませんし、努力したのも、頑張ったのも美優樹です。兄妹となって、雪人の異常性に気付きつつあった美優樹には、例え同じコンテストでも、以前のような力は出せないと思っていたのかも知れない。それはまったくもって、正しい認識だと思うけど。
真結希はミータの中にいたこともあってか、美優樹がコンテストの際に苦労していたことを知っていました。まあ、すべてミータがやらかしたことなので当然と言えば当然ですが、半分は自分がしたことのようなものだと真結希は言います。半分は……真結希はミータとのことを話すに当たって、この表現を多用しますが、これは感覚として彼女がミータの記憶を自身の想い出として、分かち合っていると認識しているからでしょう。そういった意味では、真結希はミータなのかも知れません。
律佳に外出許可が貰えないか聞いてくると、美優樹はまた雪人と真結希を二人きりにしてしまいます。親善大使としての激務が、美優樹を油断させていたんでしょうか? しかし、これが完全に、おそらく彼女の人生において最大の失敗だったのです。

「……良かった、二人っきりになれて……」
都合よく美優樹がいなくなったことから、真結希はお願いの前借りと称して、とあることを要求します。
「うん、私、お兄ちゃんとデートがしたいです。私とお兄ちゃんだけで。美幸ちゃんには内緒で」
デートは構わないけど、何故美優樹を? と、雪人が問いただすよりも前に、明日はダメかと聞いてくる真結希。彼女が、勝負に出た瞬間でした。真結希には甘すぎる雪人にとって、それは断れるようなお願いではありませんでした。律佳には言っておくから、こっそり抜け出してきてと言われ、雪人はそれを了承してしまうのです。美優樹がいると真結希は目一杯甘えられないからなどと言い訳をしていますが、彼の中で、既に美優樹への隠し事や嘘は不誠実ではないという認識なんでしょうね。それが彼の言うところの家族なんだからになるのかは知りませんが、雪人はこれでもかと言うぐらいに美優樹を蔑ろにしており、しかも、それ自体に悪意はないんです。何故なら彼は、それを悪いことだとすら思っていないのだから。
律佳は慰霊祭に真結希を連れ出すにしても、面倒を見る人間がいないことから難色を示します。それでもまあ、家族のことですから、上に掛け合ってみると、自分が付添人となることを前提に考えてくれるそうです。真結希は当然喜びますが、美優樹は一つ不自然な点を見いだしました。
「……真幸の外出許可って、女医さんが出してるんじゃないの? 主治医は女医さんなんじゃ…・…?」
小声だったため、その疑問は誰にも聞かれることがありませんでした。馬鹿で脳天気な雪人は気にも留めませんでしたが、律佳が真結希の主治医であることは、本人たちが言ったことであり、疑う余地はありません。ですが、にもかかわらず、真結希の外出には主治医である律佳より上の人間から、許可を貰わねばならないという。それは一体誰なのか? そもそも何故真結希は存在が秘匿されているのか? これもまた、大きな伏線の一つだと思います。

明けて翌日、美優樹は明日に控えた慰霊祭のおさらいをしつつ、今日はどこにも出掛けずゆっくり休むことにしました。彼女は日記をつける習慣があり、親善大使になってからのページを読み返しながら、雪人が兄となったこと、ミータがいなくなったことなどを振り返ります。そして勿論、真結希の存在も。
親善大使になってから1ヵ月、真結希と出会ってからは2週間でしょうか? 色々なことがありすぎて、未だに美優樹は全てを受け止めきれないでいました。真結希に対して家族として接することは出来るようになったものの、自分の中における立ち位置が見出せていないのです。なにせ真結希は双子だから姉も妹もないと、誰かを思い出す発言で煙に巻いていますし、彼女の挑発的な言動もあってか、美優樹は心がささくれ立っています。美優樹は真結希が何度もからかったように真面目であり、常識人ですから、真結希の危うさすら感じる態度や言動が、理解できないのでしょう。雪人と違って馬鹿でないからこその苦悩。雪人なんてきっとなにも考えていないだろうと、美優樹は苦笑します。
親善大使の仕事がなければ、おそらく美優樹は人格的に亀裂が走っていたでしょう。彼女は仕事に逃げることで、真結希のことを始めとした色々な問題から目を背けてきました。逆に仕事がなければ、とっくに限界を迎えて実家に帰っていたかも知れません。彼女にとってはその方が良かったと思いますが、美優樹はそれでも実の家族に未練がありました。結局のところ、美優樹にも神志那の血が流れているわけですから、どこかしらおかしいところはあるのでしょう。それでも義理の両親である瀬名家の人がまともだったからか、こうして常識人に育つことが出来たのだけど、雪人は……
明日の打ち合わせをしようと雪人を探す美優樹ですが、寮長である静夏から今朝から姿を見かけないと言われます。てっきり美優樹と一緒に出掛けたのかと思っていたが、美優樹がいるなら寝坊だろうと言うことで、特に確認もしないまま昼近くになりました。そして美優樹は気付くのです。今日この日が、鵠見市に来てから雪人と会わない初めての日であることに。

雪人は当然のごとく、寝坊などしていませんでした。彼は彼の密約を、真結希との約束を果たすために彼女と出掛けていたのです。美優樹には内緒で、寮の誰にも気付かれないよう朝早く。秘密にお出かけと言えば聞こえはいいかもしれませんが、彼は確実に美優樹を裏切っているのは違いありません。でも、きっと雪人には分からないんでしょうね。彼にとってこれは、裏切るとか裏切らないじゃないんです。だって、美優樹は家族なんだから。雪人は度々、兄妹の意味を調べた方がいいと美優樹に忠告されていました。それは冗談めかした言葉ではあったものの、実は彼にもっとも必要な事だったのかも知れません。
思えば、登場した当初から雪人の家族観、兄妹観は人とずれており、明らかにおかしいものでした。それがどんどん増幅されて、遂にここまで酷くなってしまったのだけど、彼は本当に、家族というものが分かっていないんでしょうね。まあ、実際に家族がいなかったんだから仕方ないのかも知れないけど、分からない、仕方ないで済ませるのもまた雪人ですから、結局彼は自分の理想や勝手な想像を他者に押しつけ、結果として美優樹は振り回されている。もはや真結希よりも、美優樹の方が哀れな存在になりつつありました。
まんまと美優樹を出し抜いた真結希は、自分語りや思い出話をし始めます。律佳に憧れていることや、彼女が災害時に研修医だったこと、その経験を元に、ミータを始めとした各種システムを開発したことなどを話します。もっとも、ミータに関してはあくまで真結希用ではありましたが。
特別な患者だった真結希に、律佳は『君は私の希望だ。必ず治してみせる。だから生きてくれ』と言い続けたそうです。それはまだ真結希の治療法も分からない、つまり彼女が口も聞けなかった頃の話であり、真結希が寝ていると思い込んでいた時に、寝言かうわごとのように言っていた言葉らしい。普段のクールな姿も相成って、真結希はどこかおかしかったそうですが、その言葉に生きる希望を与えられたのも事実です。律佳を一番尊敬しているというのも分かりますし。ですが……
「私も、この人みたいに立派な、誰かのためにいきられるような人になりたいな、って」
真結希の決意は素晴らしいものですが、ならば何故、真結希は今現在暴走をしているのだろうか? 律佳のような聡明な生き方も、出来たはずなのに。

冷静に考えれば、15年間学校に通うことも出来なかった真結希が、医者になれるはずなどありません。普通の職業だって無理でしょう。しかし雪人は馬鹿ですから、自分たちと同じ学校に入ればいいと、理事長が優しいので大丈夫だと、人任せなのを良いことに勝手なことを言い出します。
「……私、今、美幸ちゃんの苦労がわかった気がしました」
美優樹の苦労というか、雪人に対してウンザリしている部分というのは、まさにこういうところなんでしょうけど、真結希はまだ我慢できる範疇のようでした。というより、そんなことで真結希は行く道を引いていられないのです。だって彼女をは、今日という日に勝負を賭けに来たのだから。
1週間のリハビリの成果、自力で車椅子を、僅かではあるも動かせるようになった真結希。レジャーシートを引いて、以前よりも見栄えの良い弁当を作ってきた真結希。全ては雪人のため、彼に見せるためであり、食べさせるためにやったこと。まるで恋人のように、お互いに頬を染めながら食べさせ合う二人。私は、このシーンになにかを思い出しました。でも、そんなはずはないとその考えを打ち消しました。だってそれは、あり得るはずのないことですし。
食事の後、散歩を続ける雪人と真結希。なにを話して良いのか分からない雪人に、真結希はこんな風に切り出しました。
「私には……お兄ちゃんしかいないんです」
兄がいること、それだけを頼りに今まで生きてきたという真結希。ですが彼女は、先程律佳のことを尊敬していると言ったはずです。
「律佳さんを一人の人間としてみることができたから、自分と同じなんだと思えるようになったから、だから尊敬できるようになったんです。」
「それまでは、私は人間じゃなかったから……ただ息をするだけの肉の塊で……そんな私に生きる意味を、人間であることを教えてくれたのがお兄ちゃんです」

正確には、兄がいるという事実が、真結希と同じ境遇で、自分を想ってくれている人がいることが、彼女に生きる意味を与えてくれたと言います。しかし、同じ境遇というなら、美優樹も同じではないのか?

「美幸ちゃんはずるい」
静かに、吐き出すように、それでいて感情のこもらない声。真結希は美優樹がいない今だからこそ、双子の姉妹に向ける憎悪にも似た嫉妬心をさらけ出します。
「なにもしなくてもお兄ちゃんと居られる。お願いなんてしなくても、お兄ちゃんとお出かけできる」
15年間寝たきりだった少女に、普通の人生を歩んできた姉妹に対して、憎しみや恨みの感情を持つなと言うほうが無理なのでしょう。それは誰のせいでもない、でも、運命のいたずらで片付けるには、大きすぎるもの。真結希の持っていないものを、美優樹は全て持っているのだから。歪んでいるようで、真結希は当然の感情を美優樹に向けているのです。
だから彼女は、美優樹から雪人を奪おうとしている。もう待つだけの生活は嫌だから、重なり合わない自分と雪人を結びつけるには、自分がその場所に行くしかないから。雪人が一欠片も理解していなかった、真結希の頑張る理由。人の心情や感情を読み取ることが出来ない雪人には、真結希の抱える不安が分かっていませんでした。彼女がどれほどの孤独を抱え、どれだけの想いを雪人に向けていたのか。こうやって面と向かって、ハッキリ言われるまで、雪人は気付くことが出来なかったのです。
「どうして……どうして私の脚は……動かないの……」
悔しさに涙を流す真結希。それはきっと、雪人や美優樹には理解したくても出来ないものです。程度の差はあるにせよ、15年間を幸せに過ごしてきた二人と、無理矢理生かされ続けてきた真結希には、絶望的なまでに距離があります。そして、生き続けてしまったからこその苦しみが、今も続いているのです。
「いつも思うの……私にしてくれたのと、同じことを美幸ちゃんにも、してるんじゃないか? って」
美優樹がその場に居れば、杞憂であると悲しげに笑ったことでしょう。真結希は、雪人が美優樹を女として見ていない、その事実を知りません。だから焦っているし、急いで雪人の心を奪おうとしている。でも、美優樹にしてみれば自分は雪人にとってただの妹でしかなかったから、寂しく笑う以外に、なにも出来なかったことでしょう。

「好きなの」
留まることを知らない真結希の感情。それが濁流となって雪人を流していく。
「初めて会ったときから……再会したときから、兄だなんて思ったことなかった」
「この人じゃなきゃだめなんだって、私にはこの人しかいないんだって、ずっと思ってた」

ミータの中で、それを見ているだけで真結希は幸せだった。ミータに向けられる笑顔や、叱られているときの言葉さえも自分に向けられているようで、
「お兄ちゃんと一緒にいられるミータちゃんが羨ましくて、途中から割り込んできた美幸ちゃんが憎らしくて」
明確に美優樹が憎いと言い切る真結希。ミータに対して羨ましいと言っているのとは、随分と差がありますけど、なにせミータは自分の半身だし、そもそも機械です。機械に嫉妬する人間など、いるはずはない。
「でも……ミータちゃんが、お兄ちゃんに抱かれて……幸せが伝わってきて……」
ミータのことであるとは言え、やっと雪人と一つに、彼の特別になれたと思った真結希。でも、現実の彼女は、ミータじゃなかった。
「だけど再会したらただの兄と妹で……なんで……大好きなのに……会えたのに、なんで遠いの……なんでなの……」
暴走を続ける真結希は、遂に言ってはいけないことを口にしてしまいます。元々そのつもりで、そうなることを望んでいたことには違いないのだろうけど、彼女は過ちを犯した。
「抱いてよぉ……また抱いてよ……ミータちゃんみたいに抱き締めて……女の子にしてよ……」
「……二度と……離さないで……私をどこにも行かせないで……」

必死で悲痛な訴え。常識や倫理、道徳など全て投げ打った真結希の叫びに、雪人は何故か彼女とミータを重ねていました。この期に及んでも彼は、真結希の中にミータを見つけようとしていました。同じところなんてないと分かっているくせに、ただ、瞳の奥にあるすがってくるような輝きだけが、彼の求めている瞳だったのです。
雪人は自分から、真結希にキスをしました。そして彼は、妹を抱きました。

真結希にとって、ミータとは自身の半身にも近い存在であり、ミータにとって、真結希とは自分の中身とも言うべき存在でした。けれど、その関係は一方的なものであり、片方は相手を知っていたけど、もう片方は相手を知らなかった。故に対等な関係とは言い難く、真結希がミータに後ろめたさを感じていたのは、そうした部分もあったのでしょう。雪人に抱かれたとき、真結希は自分なら寂しさを埋めることが出来ると言いました。何故なら、自分はミータの半身だったから。いなくなった辛さは自分も同じだと言いました。
その言葉は、間違いではないのでしょう。真結希の心に、機能停止したミータという機械に対する、哀悼の意があっても不思議はありません。だけど、真結希はそうした状況と事実を最大限に利用したんです。この子は雪人が自分を通してミータを見ていたことを知っている。自分の中に見出したミータの影を追い、故に自分とキスをしたことも見抜いていました。だから、真結希はミータになったんです。自らミータと重なり合い、傷心の雪人に真結希はミータなのだと錯覚させることで、ぽっかりと空いた彼の心に潜り込んでしまった。
真結希は恐ろしい娘です。彼女は雪人がミータを失った喪失感が、美優樹やあやかなどと言った友人たちとは比べものにならないぐらい大きいことを理解した上で、自分がそれに成り代わろうとした。しかも、雪人はミータに対する罪悪感を覚えると同時に、目の前に居る真結希に対しても、ミータと同じに扱ってしまうことへも罪悪感を感じていたから、その心理を読み取って、徐々にミータから自分に視線と心を移すように誘導したんですね。自らの処女と、体を捧げてまで。その効果は絶大でした。雪人はミータを忘れ、真結希に心を傾けようと思った。真結希をまるで、俺のために用意されていたような、女の子とまで言い切る雪人ですが、それは正しい認識です。ただ、彼が理解していなかったのは、真結希自らがそうなるように仕向けたという事実だけです。

慰霊祭当日。約束通り、真結希は律佳に連れられて会場へとやってきました。美優樹は雪人が真結希と前日に会っていたのではないか、そこまで行かなくても、密かに連絡を取っていたのではないかと思いましたが、親善大使としてのスピーチがあるため、それを表に出すことが出来ません。雪人は既に割り切ったのか、それとも美優樹の存在をこの問題から除外することにしたのか、どちらにせよ彼は取り返しの付かないことをしたのです。流石に自分の行いを誰かのせいにするようなことはしませんでしたが、まさか律佳も、真結希が処女を喪失しているとは思わなかったでしょう。
不信感を抱く美優樹ですが、それを吹き飛ばすような出来事が起きました。会場に、夏場だというのに雪が降ってきたのです。ここに来て明かされる新事実ですが、なんとイモウトノカタチの世界では雪という減少はもう何十年も確認されておらず、雪人たちの世代でそれを見たことがある物はいないというのです。雪のメカニズムを考えるに、そんなことはあり得ないはずなんですが、北国とか、世界的にはどうなってるんでしょうか? まさか、この世界は地球ですらなかったのか。
まあ、そこはあくまでSF設定だろうと考えるにしても、更に信じられないような光景が、雪人と美優樹、そして真結希の前に訪れました。
「はーっ、はっ、はっ、はっ! なにを騒いでおるか、愚民共!」
それはあり得ない、もう聞こえるはずがない声。
「余の復活を祝う式典はここか? くっくっく、ならばなぜ余を待たぬのか? くくく、くはーっはっはっは!!」
文章だけだと、いきなり超ファンタジー世界が出現したかのような印象を受けますが、そんなはずはありません。
「主賓を待ちきれずに始めてしまうとは、それほどまでに私を焦がれていたですか?」
これは、この台詞は。
「ミータっ!!」
「ミータさん!!」

「ミータちゃん!!」
神志那三兄妹が同時に叫んだその人物、いや、ロボットこそ、機能を停止したずのミータだったのです。

切りも良いので、今回はこの辺りにしておきましょうか。多分、次でラストになると思います。まさかミータが復活するとは思いませんでしたが、それだと事前の雑誌情報にあった3P要員が誰になるのか分かりませんでしたし、ある程度の予想はしていたのかも知れない。まだ聴いてないけど、ソフマップ特典のドラマCDを聴くと、結構あからさまだったみたいですね。どうしてミータは復活したのか? 彼女は機能停止したのではなかったのか? 色々な謎は次回に持ち越しだけど、先に言えることがあるとすれば、私の個人的な感想としてこれだけは言っておかなければならない。

ミータは復活するべきじゃなかった。そしてこのシナリオはここから大きく狂いだしたのだ、と。
イモウトノカタチ感想レビューも、いよいよ最後になりました。物語を締めくくるヒロイン、神志那真幸ルートへと突入したのです。まさか、ミータルートから地続きで繋がっているとは思いませんでしたが、どうやらこの二人のルートは共同みたいです。もっともミータは機能停止をしてしまいましたから、普通に考えればミータから真結希へ、ヒロインが入れ替わったと考えるのが妥当ですけど、そんな簡単な話でもないみたい。

「初めまして……清宮真結希、ううん……」

「神志那真幸、と言います。よろしくお願いしますね、幸人お兄ちゃん、美幸お姉ちゃん」


律佳から紹介された少女は、自らを神志那真幸と名乗りました。それは雪人と美優樹が探していた妹の名前であり、彼女はこの特別病棟に長期入院している患者でした。ここで最初に注目したいのが、真結希は最初から、真幸として登場しているんですね。この日記では書き分けが面倒なので、幸人は雪人、美幸は美優樹と表記しているのだけど、二人も自分たちの本名が分かって以降は、それぞれ本名を使用するようになっています。だから、あやかは神志那さんと呼ぶし、雪人のことは幸人と表記されるわけです。
でも、真結希は二人が本来の名前を取り戻した後に現れた存在であり、登場時した時点で自分の本名を知っています。だから、テキストでも常に真幸表記であり、彼女が真結希であるシーンは、意外なほど少ないんですね。雑誌や公式サイトなどの事前情報で、この子は清宮真結希であると知っていた私には結構違和感が強くて、戸惑いのような物を感じないでもなかったんだけど、神志那が本名なのだから仕方ない。ただ、個人的には真幸よりも真結希の方が字面が可愛いと思うので、この日記では雪人たちと同じく仮の名前をメインに書かせて貰います。

「ずっと会いたいと思ってました。夢に見るだけのお兄ちゃんと、双子のお姉ちゃん」
寝たきりで、自分で身体一つ起こすことが出来ない真結希は、全身麻痺を患っていました。正確には指先程度は動かせるようになったそうなんですが、逆に言えば、指先一つしか動かせないことになります。涙を流しても、その涙を自分で拭くことも出来ない。それが清宮真結希の現実でした。
唐突のこと、何故ミータの関係者が自分たちと真結希を、真幸を名乗る少女と引き合わせるのか不思議でならない雪人。混乱するのも無理はないし、信じていないわけじゃないと言い繕う雪人を、真幸は静かに制します。彼女とて、事実を知ったときは信じられなかったのだから。
「ずっと夢に見ていた人が、私のお兄ちゃんだったなんて」
訳の分からないこと、少なくとも雪人にはそう感じられた言動に、彼は自分のことを知っているのかと問いただします。すると、なんとか表情だけは動かすことの出来る真結希は拗ねたように唇を尖らせました。雪人は真結希に対して「君」という他人行儀な呼称を使いました。妹相手には使わない呼び方ですし、記憶にないだけで二人は初対面じゃありません。でも、雪人は他人行儀な姿勢を崩すことが出来ませんでした。
けど、何も真結希はそうした態度に怒っているわけではないのです。彼女が不満を見せた理由は、すぐに判明します。
「私はご覧の通りの寝たきりで、私の最初の記憶はこの部屋の天井から始まりました」
自分の過去を語り出す真結希。彼女は災害に被災した後、15年もの長きに渡って、この特別病棟の一室で治療を受けていたのです。一度たりとも病院の外に出ることはなく、娯楽と言えば室内に配置されたスクリーンで映画を観るぐらい。そんな生活を15年間、ずっと繰り返してきたと言います。「それが私の世界のすべてでした」と言い切る真結希の言葉に、嘘偽りはありません。ですが、嘘偽りでないからこそ、雪人や美優樹には想像も出来ない世界だったのです。

真結希は自分がそうなってしまった原因を、感染症による後遺症らしいと話します。あまり具体的でないのは、おそらくハッキリとした病名が定まっていないからなのでしょう。あるいは仮称ぐらいは律佳が決めているかも知れませんが、様々な事情から、それを真結希本人には告げていないんだと思います。真結希と律佳の繋がりは、言ってしまえばミータよりも強いものがあります。何せ過ごしてきた年数に10倍近くの差がありますし、ミータの存在理由を考えると、真結希の方により大きな気持ちを傾けていると言っても過言ではありません。けれど、そんな関係にありながらも、律佳は真結希に自分の知っていることの全てを話していないのです。
「脳以外の神経がすべて壊れて、筋肉そのものは無事なのに、それを動かす信号が伝わらなくて……機械に繋いで無理矢理生かされていたらしいです」
脳死とは逆に、脳だけが生きている状態。自身をそう定義する真結希の言葉は、雪人にとって欠片も理解できないものでした。ショックが大きすぎて、というわけではありません。単純に彼の知能が真結希の説明について行けないのです。彼に分かったことと言えば、その話が笑いながら話すような内容でないと言うことと、真結希にとってそうした不幸な境遇が、既に日常と化していたことだけでした。
この時点で、雪人は真結希という存在が分からなくなりました。これは仕方がないことかも知れませんが、健常者としていき、田舎の野山を駆けまわり、バイトに勤しんでいた彼には寝たきり少女の生活など理解できるはずもなく、屈託のない態度を取る真結希に超然としたものを感じても、不思議はないでしょう。すべては15年前に起きた、鵠見豪雨災害による爪痕の一つ。
しかし、それならば何故、真結希は自分が神志那真幸であることを知っているのか? 雪人の疑問に、真結希はこう答えます。
「タイムカプセルです。ミータちゃんが見つけた、タイムカプセルのデータを律佳さんが見て――」
ミータという名前に反応する雪人。どうして真結希がミータのことを知っているのか。何故、その名前が今になって出てくるのか? 混乱する雪人に、真結希はゆっくりと事実を告げるのでした。
「それは私が、ミータちゃんが介護する対象だからです」
衝撃の事実ですが、それを反復する雪人の地の文はそれは私が、ミータちゃんを介護する対象だからですになっています。いつから真結希がミータの介護する人になったんだという話だけど、まあ、これも誤字ですね。誤字を繰り返し言われてなんと言えない気分だけど、コピペしたんだろうか。

話を戻して、一体真結希にとってのミータとはなんなのか? 曰く、ミータは真結希のリハビリをサポートしていたと言います。
「より正確に言えば、私が体の動かし方を覚えるための、仮の肉体なんです」
唖然とするような内容を前に、雪人は即座に「よく分からない」と言います。彼の知能レベルでは、どうやら理解できなかったようです。真結希はそんな雪人に対して懇切丁寧に、自分の置かれた現状と、ミータの役割を解説しました。
「人間は適応力の高い生き物で、自分が生きている環境に合った体に変わろうとします」
例えば寝たきりの人間は、体を動かす必要がないので殆どの筋肉がなくなります。効率良く筋肉を動かす方法も忘れるし、軟骨が固まるから関節も動かなくなる。
「私なんて、体が動くということがどういうことなのかも、よくわかりません」
手足がどういうものかすら、自分の体の一部とさえ思えない真結希。神経が通っていないのですから、それも当然の話でしょう。相変わらず雪人は理解できていませんが、全身麻痺によって、痛みや熱さ、重たさなどの触覚すら失っていた真結希にとって、世界とはただ見たり聞いたりするだけものでした。ほんの、1年前までは。
「律佳さんは、私の主治医として15年間治療を続けてくれました」
律佳と真結希の繋がりの深さには、それを培うだけの年月がありました。15年間、律佳は真結希を治すために様々なことをしてきたといいます。後遺症の原因を探り、壊れた神経を修復する方法を研究し、実践と失敗を繰り返し……15年とは、そうして律佳が真結希と共に歩み続けてきた時の流れでもあったのです。

「諦めずにずっと私の側で、私を励ましながら、絶対に直るって何度も何度も約束して……約束を果たしてくれたんです」
律佳の尽力もあり、真結希の壊れた神経を繋ぎ治すことには成功しました。これによって機械に繋がれて無理矢理生かされていた彼女は、それがなくても生きられるぐらいには、回復したのです。僅か、1年前の話ですが。
物心ついたときからずっとベッドに上にいた彼女は、前述の説明通り、体の動かし方を知りませんでした。一度も動いたことのない人間に動けといっても、感覚としてそれを理解することが出来ないのでしょう。14年間、手足の存在すら実感できなかったのに、それをいきなり認識することなど出来ません。腕を動かしてご覧と言われたところで、そんなものは、今まで真結希の体にはなかったんですから。
「だから律佳さんは、ミータちゃんを作ってくれたんです」
淡々と、真結希は核心を語り始めます。
「ミータちゃんは、体の動かし方を知らない私の脳に、体の動かし方を教えるための機械でした」
ミータの体の中には、真結希と同じ神経網があった。故にミータが活動しているときの、脳の反応や神経網の状態は、私が体を動かしているときと同じ状態になると言います。そして、その蓄積されたデータを真結希の体で再現することで、真結希自身が体を動かしていたことにしてしまうと言うのが、ミータの本当の役割だったのです。全ては真結希のため、彼女のための活動データを収集することこそ、ミータの行っていた実験だった。かつて律佳はミータを誰かの身代わりではないと言いました。それもそのはず、ミータはあくまで真結希のサポートをするためだけに作られた存在であり、そのための機械だったのです。
真結希はミータのことを、自分のために作られた機械だと認識しています。事実、ミータは本人こそ知りませんでしたが、真結希のためだけに作られ、彼女のためだけに存在していたと言ってもいいでしょう。だってそれが、ミータの役割だったのだから。
語られた真実に対して、雪人は何も言えません。案の定、彼は何一つ理解することが出来ませんでした。「すみません、説明が下手でしたね」と謝ってしまう真結希ですが、これは単に雪人が自他共に認める馬鹿なだけです。そして、真結希は雪人が馬鹿であることも知っていました。

それは何故か? より踏み込んだ内容に差し掛かろうとしたとき、真結希の体は限界を迎えました。雪人や美優樹の感覚ではさして長くもない会話も、真結希にとっては重労働に等しい行為でした。話したりないこと、ミータとの関係において一番重要な部分を話す前に、真結希は疲労から眠りについてしまいました。
「君たちさえよければだが、これからもあの子に会いに来てやって欲しい」
病室の外で待機していた律佳はそのように言いますが、彼女の言葉は裏を返せば、嫌なら来なくても構わないと言っているようなものです。重病患者である真結希を前にして言葉をなくした雪人と美優樹を、やはり気遣っているのでしょう。逃げるなら、引き返すなら今だと、暗にそう言っているのかもいるのかも知れません。けれど、律佳の中にはやっと再会できた兄妹に、真結希の支えとなって欲しい気持ちもありました。既に真結希が回復する準備は整っており、後は彼女の意思次第で、これまでの時間を取り戻す勢いで回復が可能だというのです。それもこれもミータによる実験の成果な訳ですが、重すぎる事実を前に、雪人と美優樹は言葉を発することは出来ず、頷き返すことでしか答えられませんでした。雪人に至ってはなにが起きたのか? なにを話されたのか? 誰と会っていたのかすら理解できなくなっていたのです。要するに、頭が現実を受け止めきれなかったんですね。
「ねえ、お兄さん……あの人、本当に真幸なのかな……?」
帰り道、路面電車を途中で降りた美優樹は、雪人にそのようなことを言い出しました。やっと再会できた双子の妹を「あの人」と呼び、兄妹であることの真意すら疑っています。酷い話のようですが、美優樹にしたところで突然自分の前に現れた真結希の存在を、受け止めきれないでいたのでしょう。彼女のシナリオのラストがそうであったように、雪人にしろ美優樹にしろ、真幸はどこかで元気に生きているものと思っていました。兄妹の無病息災を願うのは当然のことですが、悲しきかな、二人が会いたかったのは元気な姿の真幸であって、病院で寝たきりの真結希などではなかったのだから。
真結希がそれに対してどう思うのかは分かりませんが、律佳はそれを考慮したからこそ、君たちが良ければと前置きをしたんでしょうね。現に美優樹は、真結希の存在そのものを信じ切れないでいた。

「わからない。でも疑う理由はないかなって、思う」
また、雪人の分からないが始まりました。
「事情とかは全然わからないけど、あの子が良い子なのはよくわかったから」
そういう問題じゃ、ないと思います。真結希が無理をしてまで語ったことを、雪人は一欠片も理解していませんでした。勿論、真結希が良い子であり、自分たちを騙すような相手でないことは認識したようですが、雪人の低すぎる知能では真結希の話は大きすぎて、理解どころか想像の範囲にさえ収まっていないのです。体のこと、ミータのこと、二人の関係。全てが明らかになったわけではないにせよ、真結希は自分に可能な限り、疲れて寝込んでしまうまで、必死で自分のことを伝えようとしました。再会した兄妹に、やっと会えた兄に、自分を知って貰いたかったのでしょう。
「やっぱり、よくわからないよ」
でも、雪人は馬鹿なんです。どうしようもなく、彼は頭が悪かった。これまで何人もの人が、彼に難しい話を、出来るだけ簡単に話そうとしてきました。けれど、その度に雪人は分からないで話を済まし、より簡単なものに話を置き換えてきました。そんな彼に真結希が生きてきた、歩むことすら出来なかった15年など、分かるわけもないのです。無論、困惑や戸惑いはあるのでしょう。兄妹とはいえ、殆ど初対面と言っても差し支えなく、あれだけ会いたがっていた真結希と再会できたのに、雪人は喜ぶことすら出来ませんでした。
「気持ちが追いついていかないよ」
美優樹の言葉は、彼女の心情を過不足なく表現していました。彼女は雪人と違って馬鹿ではありませんから、真結希の話に多少は理解できることもあったはずなのですが、それ故に壮絶な人生を味わってきた彼女を、自分の双子として受け入れることが出来ないでいました。雪人は、真結希にまた会わなければ行けないと言いました。それだけは間違ってないと、これに対しては美優樹も同意します。
わからないことだらけだけど、だからこそ、わかるまで何度でも繰り返すしかないから。
こうした雪人の決意に、私が少なからず彼を見直したのは事実です。といっても、多少は物事をマシに考えられるようになったぐらいのもので、どうして今までの人生でそれをしてこなかったのかと言いたいですけど、それに関しては真結希が雪人の妹かも知れないからなんでしょうね。まだ認めたわけではありませんが、妹に対すると兄としての意識が、無意識に出ていたのかも知れません。要するに妹だけは特別ってことですけど、まあ、彼が少なからず努力するようになったのだから、そこは素直に褒めてあげるべきでしょう。いつまで続くのか、という不安は勿論ありますけど……

行動するなら早いほうがいい。もともと考えるのは苦手なんだ。
雪人に少しでも期待した私が馬鹿だったんでしょうか? 彼は翌日になって、もう考えることを放棄して行動することを選びます。美優樹に自分の意志を伝えに行こうとしますが、彼女は部屋の中で着替え中。朝だから当然の話ですが、雪人はなんと「ちょっと待って――」という美優樹の言葉を無視します。妹とはいえ、つい先日までは他人だった女の子の部屋です。明確に拒否されているのに、雪人はどうどうと扉を開けて、「あ、ごめん。着替え中だったのか」と何でもないことのように言います。全裸の美優樹を前にして、です。
礼儀として扉を閉める雪人ですが、当然美優樹の気持ちは収まりません。待ってと言ったのに、何故待ってくれなかったのか? 怒る美優樹に、雪人は着替え中だとは思っていなかったと弁明します。朝なのだから当然だと怒鳴る美優樹に、「でも、ノックはしたし……」と言い返す雪人。ノックに対しての返事を聞かなかったくせに、この男はなにを言っているんでしょうか? 美優樹の怒りは高まる一方ですが、そこにトドメの言葉が降り注ぎました。
「俺たち兄妹なんだから、そんなに気にすることない――」
兄妹だから良いというものではありませんし、デリカシーがないという以前の問題です。けれど、このシーンで重要なのは、もっと別のことです。即ち雪人は、美優樹に女としての色気を感じなくなっていたのです。兄妹なんだから、美優樹は妹なんだから裸を見ても気にすることはない。美優樹が気付いていたのかは知りませんが、雪人がこの様な認識をし始めたというのは、このシナリオにとっては結構重要なポイントなのです。
心からの謝罪もなく、デリカシーのない発言を続ける雪人に美優樹の平手打ちが飛びます。しかし、雪人はなにも平手打ちすることないじゃないかと、自身の行動や言動が、平手打ちに値しないものだと思っていました。いくら何でも、美優樹に対する扱いが酷すぎやしないでしょうか? けど、雪人にとってはこれが普通なんです。だって二人は兄妹なんだから。

千毬ルートの序盤で、雪人は千毬が着替えている部屋に居座るという行動をやってのけ、聡里に驚かれていました。千毬にしろ雪人にせよ、裸を見ること、見られることに抵抗がなかったんですね。それは二人が長い月日を共に過ごした義兄妹だったからで、今の雪人の美優樹に対する認識や行動は、あのとき千毬に見せたものに近いものがあると思うんです。それは雪人の考える兄妹像としては普通のことだったのかも知れませんが、それを美優樹に押しつけていることを彼は気付いていません。だから、美優樹にひっぱたかれた理由も彼は理解できないんです。
それでも美優樹を怒らせてしまったことに変わりはありませんから、雪人は一応謝るのですけど、美優樹の機嫌は当然のごとく悪いままでした。とはいえ、美優樹は我慢強い娘ですし、いつまでも怒りを引きずっているわけにも行きません。雪人も状況を打開しようと、学校の校門で仲間たちと合流したときに、今日も病院へ行こうと美優樹を誘おうとするのですが、彼女は慌ててその口を塞ぎます。何故なら、真結希の存在は律佳より他言無用と念を押されていたからです。美優樹は慌てて親善大使としての仕事があるといって嘘をつき、皆もそれに納得するのですが、あやかだけは少なからず不審を抱いた模様。
「ほら、昨日の幸人、ミータのことで落ち込んでたじゃない。なのに、今日は普通な感じでしょ」
確かのその通りです。雪人はミータの名前を一言も出さなくなり、それどころか意識の中からも除外していました。今、彼の頭の中にあるのは真結希のことだけ。しかし、その存在を知らないあやかには、察することが出来ません。
「ミータのことだから別にいいんだけど……幸人の入れ込みようが凄かったから、なんか違和感あるのよねぇ……」
ミータのことだから別にいいというのは、なにもあやかの強がりというわけではありません。確かに彼女とミータは友達でしたが、あやかはそれでもミータのことをロボットであると認識していましたし、雪人とは考え方が違うのです。故にミータへの入れ込みが凄かった彼を強く意識していたのでしょうけど、それがパッタリと止んだものだから、なにか引っかかるのも無理はないのでしょう。しかし、あやかは事情を知りませんし、深く考えることなくその思考を打ち切るのでした。

親善大使の仕事を休んで病院へと向かう雪人と美優樹。理由は明かせないけど休ませて欲しい、雪人の言い分は筋が通っていませんが、彼は教えられる部分は教えたのに何故分かってくれないんだと勝手なことを考えてます。これには美優樹もため息を吐くしかありませんが、理事長も雪人のことは分かっているのか、快く、というわけではないにせよ許可を出してくれます。連絡事項は覚えられないからと、全部美優樹に丸投げして、話が終わるや否や部屋を飛び出す雪人。その姿に、流石の理事長も不信感を抱きます。病院に、メディカルセンターに何かあるのではないか、と。
理事長から疑惑の念を受けていることも知らず、雪人と美優樹はメディカルセンターに到着しました。予め律佳から正面玄関を使うなといわれていたので、指示された別の入口から入りますが、特に受付を介すこともなくノーチェックで済みました。特別病棟には人っ子一人おらず、美優樹は真結希の存在は病院内でも秘密なのではないかと思うようになります。雪人にとってはにわかに信じられない話でしたが、誰とも会うことがない特別病棟を歩きながら、否定することが出来なくなってしまいます。
昨日に続いて真結希と会いますが、なんと彼女は僅かではあるものの腕を動かせるまでに回復していました。たった1日でどうやって? 疑問はありますが、律佳の言葉を信じるなら後は真結希の気持ち次第ということでしたが、昨日まで指先しか動かせなかったのに、いきなり腕を、1センチとはいえ動かせるようになったというのは大したものです。本人曰く、特訓したそうなのですが……単純な雪人は詳しい事情は分からないままに、素直にを評価するものの、美優樹の方はそれほど単純ではないから、驚きが隠せないといった感じでした。
ミータが1年半の間、真結希に体の使い方を教えていてくれたからだと言いますが、雪人が知りたいのは正にそれでした。一体、真結希とミータはどういう関係なのか? 繰り返すようですが雪人は馬鹿ですから、ミータの説明した実験の内容を話半分も覚えていませんでしたが、それでも真結希のことなど口にしていないことは知っています。

「ミータちゃんは、私のことを知りません」
真結希が告げた、意外な事実。真結希自身は機能停止状態のミータを何度も見たことがありますが、その逆はありません。ミータが活動していると言うことは、真結希が眠りについていることを意味しますが、律佳はその状態の真結希を特にミータと引き合わせることはしなかったようで、当然のごとく眠っている真結希は動いているミータを見たことはないのです。故にミータは真結希のことを知らなかったわけで、彼女の登校が遅かったりすることがあったのは、真結希の活動時間だったからなんですね。
ほとんど丸一日、外泊したら二日間、ミータが外にいる間、真結希はずっと眠っています。本当に眠りについているわけではなく、神経としては活動しているのと同じなので、気持ちとしてはとても疲れるそうなのだけど……それは真結希にとって、幸せな時間でした。ミータという機械を通じて、病室の天井しか知らなかった真結希は色々なところへ行けたのだから。
ここまで説明されても、雪人は結論の部分を理解することが出来ません。つまり、ミータと真結希はどういう関係なのか? いい加減、最低限の知性を身につけてくれと頭を抱えたくなりますが、彼はこの知能で15年間育ってきたわけですから、今更変えようがないのかも知れません。いや、真結希はたった1日で指先から腕を動かすまで成長したのだし、単に雪人の努力が足りないだけでしょう。というか、そもそも彼は努力しているのだろうか。なにもしていないように私は思うのだけど。
「なんていうのかな、夢……なのかな」
ミータが活動している間、彼女と真結希の意識は重なっている感じだと言います。
「私という意識はないんですけど……ミータちゃんが体験していることを、夢に見ているような感じで」
夢を見たあとに、体がぼんやりと夢の体験を覚えている感覚。
「ミータちゃんが見聞きし、感じたことを、私はミータちゃんの中で体験している……これでわかっていただけるといいんですが」
真結希なりに気を遣ったのでしょう。雪人にも分かるように、かなり簡単な説明を心がけたんだと思います。真結希はなにせミータの使用者ですから、詳しい原理なども律佳から説明は受けているはずです。けれど、それを雪人は理解することが出来ないだろうと、そう思ったんでしょうね。

しかし、雪人にはまだ理解力が足りませんでした。彼がない知恵絞って辿り着けた答えはは、真結希がミータを動かしていたのかというもので、もうどうしようもない感じでした。更に言えば、彼はそうして辿り着いた結論に納得出来ない様子。まあ、ミータはミータじゃなかったと言われているようなものですから、彼女のことが好きだった雪人としては認めたくない事実なのは分かります。でも、それはミータとの思い出を守りたいがあまり、目の前にいる真結希を否定しているのと変わりありません。
真結希はそんな雪人の心情を察したのか、ミータは起動にこそ自分の脳波パターンが必要だったけれど、彼女は彼女としての意志や人格を持っていたと教えてくれます。これによって雪人は自分の考えを改め、真結希に対して酷い考えを抱いてしまったことを恥じるのですが、結局のところ彼はミータに対する未練があるんですね。あやかの言うとおり、雪人はミータに入れ込みすぎていたのです。
話すことは話したとして、今度は雪人と美優樹の話を聞きたがる真結希。ミータを介して色々な話をしたとは言え、ミータは特別過去のことを聞いては来ませんでしたし、雪人たちも話しませんでした。真結希にしてみれば、15年も離ればなれになっていた兄妹のことを知りたいと思うのは当然のことなんですが、雪人はどうしてそんなことを知りたがるのか、不思議ではあると、まったく理解していない様子。あまりこういうことは言いたくないんですが、雪人ってなにかしらの病気だったりするんじゃないでしょうか? ほら、あるじゃないですか、他人の情緒を理解できないという奴が。雪人って基本的に行間を読まないよね。人の心情を忖度出来ないのもそうだけど、相手の気持ちを考えたり、汲み取ったりするという、人として持って生まれるべきものが欠落しているとしか思えない。美優樹ルートの時もあやかルートの時も、特に酷かったのは千毬ルートですが、あやかはともかくとしても、皆どうして雪人なんか惚れるんだろうね。

雪人の昔話に真結希は楽しそうに笑います。彼女はずっと、自分の兄妹とはどんな人達なんだろうと想像していたと言います。何年も、ずっと。
自分たちが兄妹と分かったのはついこの前じゃないかと美優樹は言いますが、真結希は家族がいること自体は、随分前に聞かされていたらしい。なにせ真結希は全身麻痺で、今でこそ普通に喋ってはいますが、つい数年前までは会話も出来なかったと考えるのが自然です。現に真結希自身、かつては会話や食事が出来なかったことを振り返っています。災害で身元不明になった子供なので見舞客も来ませんし、知り合いと呼べるのは主治医の律佳と、世話をしてくれる看護師だけ。
「無理矢理生かされているだけ、なんのために生きてるんだろう? なんて思ったりもして、だけど自殺しようにも体が動かないから、なにも出来ない」
真結希は間違いなく、死にたい気持ちを抱えていたと思います。何年も何年も、本当は殺してくれと叫びたかったんじゃないでしょうか? でも、彼女にはそれをすることすら許されていなくて……私はふと、とある小説を思い出しましたけど、この作品とは関係ないので伏せておきます。真結希はこれまで、絶望の中を生かされ続けていたのです。当人の意思とは関係なく、機械に繋がれて不本意な生を甘受しなければならなかった。心も殺して、なにも考えようにして、そうでもしなければ真結希の精神は崩壊していたことでしょう。
しかし、そんな真結希の心を救ったのが律佳でした。真結希に家族がいることを告げて、離ればなれになった君を探してくれている家族のために生きるんだと、希望を与えたのです。その言葉に感銘を受けた真結希は、そんな人がいるなら会ってみたいと思うようになり、死にたいと良い気持ちは、生きたいという想いに変わりました。そしてミータによる実験が始まり、彼女は雪人と出会いました。
ミータはなんのつもりか、雪人のことを「お兄ちゃん」と呼び始め、それは真結希の心を強く揺さぶる単語でした。ずっと言いたかった言葉、それを先に言ったミータへ嫉妬したという真結希は、雪人に自分の中にある兄像を重ねていたと言います。正直、こんな奴が兄でいいのかと思うのですけど、イモウトノカタチのヒロインは総じて男の趣味が悪いか、男を見る目がないと考えた方がいいのかも。

真結希が雪人と美優樹を自分の兄妹であると知ったのは、律佳によって教えられたからでした。伝えるべきか否か、おそらく律佳は悩んでいたと思うのですが、そもそも家族の存在を真結希に教えてしまったのも彼女ですから、雪人と美優樹が付き合ってくれることに賭けたのかも知れません。事実を知った真結希は喜びましたし、前述のように雪人に憧れていた節があるので、素直に嬉しかったと言います。
「えへへ……お兄ちゃんに触っちゃいました」
自分の手で兄の体に触れる。たったそれだけのことに嬉しさをを感じている真結希に、雪人は彼女を疑っていた、つまり本当は妹ではないのではないか、妹を語る偽物か、あるいは何かの間違いなんじゃないかと思っていた自分を殴りたくなったと言います。まあ、これは美優樹にも言えることなんですけど、自分の妹が障害者であるとは、なかなか認めたくないでしょうからね。キツいようですが、人間心理としては当たり前のことなのかも知れません。
とはいえ、真結希の必死さに絆された雪人は彼女を疑うことを止めて、自身の妹として兄妹三人、仲良く暮らしていこうと言います。真結希はともかく、一応美優樹には瀬名家に義理の両親がいるはずなんですけど、そこら辺はどうなっているんでしょうね? まあ、美優樹のことですから身元が判明した段階で連絡はしているはずだけど、瀬名家の両親からすれば義理とは言え美優樹は大切な娘です。それも箱入りの。いつも通り勝手に話を進めている雪人だけど、そこら辺のことはどうしてるんだろうか。彼は施設育ちですから、顧みる義理の両親なんていないですけど、はてさて……
美優樹は雪人ほど簡単に割り切れなかったようですが、兄弟仲良くの流れに逆らえるはずもなく、流されるままに真結希を受け入れることにします。真結希はそれを察しているのか、美優樹に対しては結構ずけずけとしたものの言い方をするのだけど、これに関してはちょっとした訳があるんですよね。まあ、すぐに判明することですが。

真結希と打ち解けたことで、雪人と美優樹は足繁く彼女の元に通うようになります。七夕の日に笹を届けてあげたり、交流が深まっていくのだけど、そこで一つ問題が発生しました。律佳と話している最中、彼女はどこで雪人と美優樹が真結希の兄妹であると知ったのか、という部分に言及します。真結希は特別な患者であり、他言できない事情があった。そのため、家族であるはずの雪人や美優樹にも話すことは悩んだそうです。けど、真結希を家族という幻想にすがらせたのは、他でもない律佳です。彼女が家族の存在を告げることで真結希を生かそうとしていたのは明白ですが、一度それをしてしまった以上、見つかったものを隠すわけには行かないと思ったようです。あるいはこのとき、律佳が思い止まって雪人と美優樹の存在を秘匿すれば、真結希はあんなことにはならなかったはずなんですが、まさか律佳もああなるとは考えてもいなかったでしょうから、そこは仕方ないと思います。
それよりなにより、問題なのは律佳が雪人と美優樹の真実を、ミータの中にあった視聴覚データから知ったと言うことです。ミータはなにせ実験として稼働していたわけですから、彼女の見たもの聴いたものは全てデータとして収集され、研究に利用できようになっています。ミータ自身、そんなことを言っていたのを思い出しながら、雪人はとあることを思い至ります。即ち、ミータとの情事も記録され、解析されたのではないかと言うこと。その予想は当たり、律佳は少々驚いたと言うぐらいで、特に咎めたりはしませんでした。実の娘ならまだしも、処女があるわけでもないロボットですから、そこら辺は軽く考えているのでしょうか?
しかも、しかもです。真結希はミータの体験したことは全て夢として、ぼんやりとではありますが覚えていると言いました。つまり、あの情事を知っているのは律佳だけではない可能性があると言うことです。実の妹にそんなことを聞けるはずもない雪人ですが、態度からバレバレになってしまい、察した真結希が頬を赤くしたことで、彼女も知っていることを悟るのでした……

ミータとの情事を思い出したからではないでしょうが、雪人は彼女のことを夢に見ました。ミータに対する未練は雪人の中で非常に強く、彼はなにかを追い求めるように病院へ向かいます。真結希に会いに来たから、ではありません。確かに真結希もいるところですが、そこがミータを見届けた最期の場所だったからです。とはいえ、ミータはもういなくなりましたから会えるわけもありませんし、折角だからとついでのごとく真結希の病室へ向かう雪人。真結希が傷つくのを理解しつつも、彼の中では未だミータの存在が大きいのです。
しかし、そこで雪人が見たのは予想もしていなかった光景でした。壮絶な、そう、苛烈といっても過言ではない真結希のリハビリシーン。動くようになったとはいえ、真結希の身体は未だ完全な自由を得たわけではありません。固まった体が急に動くはずもなく、それを動かすために、真結希は毎日激しいリハビリを行っていたのでした。自分で食事一つ満足に取れない妹を見て、雪人は手伝おうとしますが、真結希は頑なに拒否します。プライド、ではないでしょう。その場に看護師がいないことからも分かるように、真結希は自分一人で食事を食べられるようにならなければ行けないと、そう考えていたのです。いえ、食事に限らず今後はあらゆることを自分で出来るようにと、見上げた努力です。でも、雪人にとってはそんな彼女の努力も、痛ましいだけの、同情しか誘わない姿でした。兄である以上は仕方がないことなのかも知れませんが、彼は自分の欠点もろくに直そうとしない男なので、理解していると言いながらも、家族の情で手助けをしてしまう。要は兄を気取りたかっただけなんですけど、それもまあ仕方ないことでしょう。家族であることには違いないんだし。
けれど、そんなことを言いながら雪人の本心は別の所にありました。真結希のため、家族の情、そうやって言い訳をしていた雪人は、なにを隠そうミータのことを思い出して、彼女を真結希と重ね合わせていただけだったのです。真結希の姿が、言葉が、重なるはずのないミータと重なり……また後で書きますが、雪人がどれだけ最低な男か、ここから更に彼の化けの皮がはがれていくことになります。

ところで真結希の登場で蚊帳の外に置かれている美優樹ですが、当人もそれを何となく意識し始めていました。真結希が意図的に、自分を差し置いて雪人との世界を構築しつつあること察しているのだけど、常識人としての理性的な部分がそれを否定する。けど、美優樹は大事なことを忘れいていました。今も時折茶化される、雪人への感情。かつて美優樹は雪人が幸人だと分かる前、彼に恋をし、失恋しました。気持ちは切り替えましたが、引きずっていないと言えば嘘になり、健在であると言っても嘘にはならなかったと思います。
つまり、美優樹は未だに雪人のことが好きなんです。兄としてではなく、異性として、雪人としての彼が好きだった気持ちが、残っている。にもかかわらず、美優樹は気付くことが出来ませんでした。真結希もまた、、同じ気持ちを抱いているかも知れないということに。
雪人の方はといえば、、自分が真結希に感じるものは、美優樹や千毬に対するそれと異なることを意識しつつありました。真結希に対しては、触れただけで胸が締め付けられるような、苦しいような感じがするというのに、美優樹に対しては、抱き合っても頭を撫でてあげたくなるぐらいでしかないと、そう思ったのです。なんでしょうか、このシナリオは美優樹に恨みでもあるのでしょうか? 私は美優樹にこれといった思い入れがあるわけでもないですけど、それにしたって扱いが酷すぎる。前述したように、美優樹は完全に妹と化していたのです。千毬と同じような、ただの妹に。
あまつさえ、美優樹にはなにも感じないとまで言い切った雪人に、美優樹は遂に怒りを爆発させます。再び頬をひっぱたかれ、しかし、家族であるが故にその気持ちが理解できない雪人。というか、この男は家族であることを逃げの口実にしているのではないだろうか。甘えている、と言えなくもないが。美優樹もいい加減、雪人なんて見限れば良いのにと思わなくもないんだけど、一度は惚れた弱みなのか、実家にも帰らず彼に付き合ってくれます。これは他のルートにも言えることなんですが、なんで美優樹はバッドエンド以外では実家に帰らないんでしょうね? 特にこのルートを最後までやると、美優樹もまた実の家族という枠組みに囚われすぎているのではないかと思うのだけど、そこら辺はどうなんだろうか。

順調にリハビリを続ける真結希は、遂に外出できるほどに回復しました。雪人と美優樹、二人と一緒に念願の外出をする真結希ですが、行く先はいつか雪人たちが林間学校で来たキャンプ場でした。夢の記憶としてではなく、実際に来られたことにはしゃぐ真結希ですが、雪人はミータとの思い出がある場所だけに、感傷に浸ってしまう。既にミータが機能を停止してから1週間、つまり、真結希と出会ってからもそれぐらいが過ぎているわけですが、雪人は未だにミータのことが忘れられず、真結希の中にミータの影を追い続けます。
真結希とミータ、繋がりはあるにせよ、全く違う両者をダブらせる雪人は、段々と惑乱し始めます。そして遂に、真結希の唇を奪ってしまいました。ずっと求めていたものがそこにあるような気がして、と彼は言いました。なくしたと思って、もう手に入らないと思って……ミータの面影がここに……
「お兄ちゃん……」
あるいはそれを待ち望んでいたであろう真結希に、
「ミー……真幸……」
全く違うものを欲していた雪人。彼がキスをしたのは、決して真結希ではありません。彼はミータにキスをしたのです。いなくなったミータを追い求めるあまり、彼は真結希の中にミータを幻視してしまい、兄でありながら妹の唇を奪うという間違いを犯してしまった。
それも、美優樹が隣にいるにもかかわらずです。そう、美優樹は手洗い等で離れいていたわけでもなく、雪人と真結希の側にいました。一緒にお弁当を食べて、兄妹水入らずの楽しい時間のはずだった。けど、それは、いつの間にか雪人と真結希の二人だけの世界、甘美な時間へと変わっていたのです。
「お兄さんは、ちょっと普通じゃないところもあるけど、こんなことまで……妹にまで手を出す人だなんて、思ってなかったのに……」
一度は惚れた相手だけに、ショックも大きかったのでしょう。なまじ、自分にはなんの感情も雪人は抱いていないことを、美優樹は知っているのですから。だがしかし、これは美優樹の見る目がないとも言えます。雪人はちょっと普通じゃないのではなく、元からおかしいんです。雪人は美優樹の弾劾を否定しようとしますが、キスをしたのは事実なのですから、否定できるはずもありません。彼がキスをした相手は真結希ではなくミータなのだけど、そんなこと言っても通じるわけはないし、言えるわけもありませんでした。ただ、このとき雪人がそれを正直に告げていれば、その後の展開は変わっていたかも知れません。
他人の気持ちが分からない雪人は、遂に自分自身の気持ちさえ分からなくなりました。雪人は後悔しました。ですが、その奥には目をそらせないほどの喜びがあったのでした……

どうやら文字数制限が来てしまったようです。なんとか2万文字以内に前半を収めるつもりだったのだけど、流石に最終シナリオだけあってボリュームが凄いですね。続きはまた次回、明日に持ち越すこととします。残り1回で終わるかどうかは分かりませんが、話の区切りも考えつつ書いていこうかなと思います。
イモウトノカタチの最終シナリオであるミータルートの感想レビューへ入る前に、これまで攻略してきた3つのルート、美優樹、あやか、千毬のシナリオに存在した各種伏線について書き出してみようと思います。この作品、最終ルートをロックしているだけ合って、作中に様々な伏線を鏤めています。それは15年前の災害の真相だけに留まらず、本当に色々なことが解き明かされないまま、最終ルートまで来てしまいました。当然、これらは解明されて然るべきことなんですが、まとめると以下のような形になります。

1.鵠見豪雨災害の真相
まあ、最初はやはりこれでしょう。15年前に起きたという大災害。これの原因はなんだったのか? あやかの口などから当時のことは語られますが、あくまで天災であったという認識であり、表面的には自然災害と言うことになっています。けれど、物語を読み込んで行くにつれてどうもそうではないらしい、なにか別の原因があったのではないかと、そう思えてくるのです。特に環境特区は、『自然共生型環境都市』と、『持続可能な都市モデル』をスローガンとして抱えていたわけですからね。そしてその主たる研究内容は、人間による人工的な天候操作だったのではないかと推測されるのです。故に、災害が起きたのには、何か人為的な理由があり、本当は人災だったのではないかと思うのだけど、それが今までのルートで語られることは遂にありませんでした。

2.神志那幸人、神志那美幸、神志那真幸の三兄妹
美優樹ルートの最後に分かることですが、実の兄妹である雪人と美優樹の本名は神志那であり、両親はそれぞれ環境特区で働く研究員だったようです。そして、これも大方の予想通りですが、兄妹には更にもう一人の女の子がいて、名前を真幸というそうです。家族写真があるため当時の雪人たちを観ることが出来ますけど、外見から年齢を察するにどう考えても幼稚園児か小学校低学年、雪人の入学が一年遅れた発言を思い出すに、4,5歳ぐらいだったと考えるのが自然でしょう。そうすると15年後は二十歳過ぎじゃないかといういつかの突っ込みが入りそうですが、赤ん坊には見えないんだから仕方ない。それに、初期設定では災害は10年前ですしね。
問題なのは、当時4,5歳の雪人や美優樹がお互いの存在、そして両親や妹のことを完全に忘れていたことにあります。既に物心も付いているであろう年齢だろうに、何故記憶の中から忘却されたのか? 災害のショックで記憶障害にという可能性もありますが、美優樹は写真を見ただけで、「どうして今まで忘れていたんだろう?」と事実を思い出します。雪人は何せ馬鹿ですから、そんな簡単にもいかないんですけど、このことから察するに、美優樹や雪人の記憶には何らかの封印が施されていた可能性があるんです。それは後々登場する真幸、いえ、真結希にも言えることなんですが……次の伏線からも、それは読み取ることが出来ます。

順也による神志那の調査失敗
あやかルートにおいて、あやかは澄稀の人間ではなく、神巫という家の娘であることが分かります。それを知った順也が澄稀家の力を遣い雪人のことも独自に調べ上げるのですが、分かったのは本名だけであり、他の情報にはプロテクトが掛かっていたというのです。澄稀家はC4と呼ばれる街の有力企業の一つであり、その家柄と権力は鵠見市全体に及ぶと言っても過言ではありません。しかし、そんな澄稀家ですら神志那の情報はトップシークレットであり、重要な情報は何一つ引き出すことが出来なかった。一体、神志那家とは何者だったんでしょうか? 気になるところではありますが、あやかルートはあくまであやかの家庭環境についてがメインだったので、そこら辺に踏み込むことは遂にありませんでした。ちなみにあやかの本当の両親についても、特に語られてはいません。

高階夫妻の贖罪と目的
千毬の両親である高階夫妻は、封鎖地区だった旧実験区域の底に住んでいました。つまり土中に埋もれた旧施設内であり、そこに15年も済んでいたというのです。理由は贖罪であると言いますが、この施設は一部電源やシステムが生きており、稼働自体はしていたようなのです。それでも15年間引きこもれる物なのだろうか? という疑問はありますが、あそこで行われた実験が自然共生型だったことを考えると、生活用の実験プラントの一つや二つあっても不思議ではないし、流石に15年は長いですが、なんとか生きていくことが出来たのかも知れない。疑問なのは、15年も地下で何をしていたのか? ということです。夫妻の口ぶりから、夫妻が関わっていた研究や実験によって、鵠見豪雨災害が引き起こされたのではないかと推測されます。それも間接的にではなく、直接的なレベルで。じゃなきゃ、15年間も土の下になどいられないでしょう。
けど、二人が結局そこで何をしていたのかは、千毬ルートでは語られないんですね。雪人はそもそも災害の真相とか、そういうことに興味を持っていませんし、難しいことは欠片も理解出来ない奴ですから、肝心なことが何も明かされないままにシナリオは終了してしまいます。

現状だけで、これだけの伏線が未消化になっています。どれも重要なものであり、すべて解明されて然るべきことです。他にも細々した謎や疑問は山のようにあるんだけど、とりあえずはこんなところでしょう。すべての謎が解き明かされるであろうミータルート……随分と前置きが長くなってしまいましたけど、彼女のルートに関して書いていくことにしましょう。予めルートロックされているミータシナリオは、他の3ヒロインすべてのシナリオをクリアすることで、初めて解禁される仕掛けになっています。選択肢やあまり意味のないルートマップなどは特に関係なく、春日野穹のように誰か一人でもクリアすれば、という甘いものでもありません。
何故、妹でもないロボットのミータシナリオがこれほどまで厳重に管理されているのか? このゲームをプレイした方で、特にミータを最初に攻略したかった人などはそんな疑問を抱かれると思います。私はかつて、ミータというキャラに一つの仮説を立てたことがあります。あるいはミータも主人公の妹であり、実妹の記憶なり、意識なりを移植されているのではないか? という奴で、類似の物であればD.C.~ダ・カーポ~に同じような話がありましたね。これならミータが実妹であっても一応の理屈は通りますし、かなりこじつけではありますが、妹候補の一人として考えることも出来るでしょう。けど、我々プレイヤーは事前に美優樹ルートをクリアしているわけですから、雪人の妹が美優樹と真結希であることは分かっているのです。それこそ、真結希がイコールでミータだったということでもなければ、この仮説は成立しようがありません。

さて、ミータルートの攻略を始めるわけですが、このイモウトノカタチというのは体験版の部分が共通ルートの終盤と言っても差し支えなく、そこから先はMAP上のヒロインを選択し、ひたすらフラグを積み重ねる作業に入ります。といっても、精々3~4回のことなんですけどね。体験版のラストと言えば千毬が雪人の元にやってきたところだけど、ヒロインの選択しルートにおいても、その流れは引き継がれていきます。故にあやかルートでは、雪人と親しげなあやかに、やってきたばかりの千毬が嫉妬したりするわけですね。
では、ミータルートではどうでしょうか? 千毬がやってきたばかりなことに変わりはありませんし、彼女が話題の中心にあるのも事実ですが、ミータはその性格から比較的早く千毬と打ち解けており、千毬もミータのことは気に入っています。飄々としたミータの性格や言動は、人によっては不快感を刺激されるかも知れませんが、一応は純粋で素直な心の持ち主である千毬は普通に面白いとか、楽しいとか感じているらしい。
ところで、千毬と言えば、彼女は雪人のことを「ゆきにい」という呼称で呼びます。要するに雪人お兄ちゃんの略なわけですが、その意味を知らなかったミータは、何故かお兄ちゃんという言葉に酷く食いつきます。他のルートでは特に興味も示さないのに、自分のシナリオだと妙に拘り、「私の灰色の脳細胞がビビっと来るしたです。私も『お兄ちゃん』と呼ぶです」などと言い出すのです。当然、自分こそ雪人の妹であるという矜持を持っている千毬は嫌がりますが、「ではこうするです。チマりんは『ゆきにい』を独占するです。私は『お兄ちゃん』を使うです」と、言葉巧みに丸め込んでしまいました。何がしたいのか分からないのは雪人もプレイヤーも同じですが、雪人に関してはわからなかっただらけで、その疑問を解消する気にもなれなかったと、早くも考えることを放棄してしまいました。本当にもう、雪人は仕方のない奴ですね。

ミータルートの特徴としてあげられる物の一つに、選択肢の少なさがあります。つまり、他のヒロインはMAP上のヒロイン選択を何回かクリックし、2~3回と決して多くはないですがフラグを立てる必要があるのに対し、ミータの場合は、ルートロックが解除され、解禁された選択肢を一度選ぶだけで、強制的にルートへと突入してしまうのです。別にもうミータしか残っていないわけですから、今更横道にそれる理由なんてありはしませんが、もう少し日常パートを楽しみたかったと、そう思わないでもありません。だって、最初の選択肢が終わったら、すぐさま林間学校に突入するんだから。
そして、ミータルートのもう一つの特徴として、これまであった3つのルート、美優樹、あやか、千毬のシナリオであった各種イベントを、掻い摘まむ形ではありますが、追体験していくというものにあります。美優樹で言うなら親善大使コンテストとか、そう言ったものにミータが積極的に絡んでいくんですよね。しかし、一方でミータ固有のエピソードというものは、シナリオ前半においてあまり多くはなく、序盤はむしろ美優樹ルートの流れが軸として存在していたと思います。故に美優樹は自身のルートと同じように雪人へ恋をするのですが……これは彼女のルートでも、シナリオでもありませんでした。それがどういう結果を生むのかは、意外とすぐに分かります。
ところでミータと言えば、彼女は私服の一つにとてもSFチックなスーツを着ていることがあるんですが、何故かこのスーツを着ると雪人や美優樹がミータをミータと認識することが出来なくなります。雪人だけなら彼が馬鹿だからで済ませることも出来ますが、美優樹でさえ半信半疑なのは何とも妙な話。別に顔の形が変わったり、身体だが変形しているわけでもありません。ちょっと奇抜な格好をしているだけなのにね。まあ、それが納得いかないらしいんですが、少なくとも美優樹はミータをロボットとして認識しているんだから、その反応はおかしくないだろうか。
二人がそんな格好のミータと出会ったのは、コミュニティサイト用の宣材写真を撮りにボート乗り場に来たときのことで、ミータは当然のようにデート中なのかと茶化します。雪人は否定しますが、美優樹は結構複雑。この時点で、彼女がかなり雪人に気があることが伝わってきます。ヒロインが、他のヒロインのルートで主人公に好意を向けたり、恋愛感情を見せることはそう珍しい話ではなく、この作品にしたところで既にあやかルートにおける千毬などの前例がありますね。だから、美優樹にしても不思議はないはずなんですが、ミータルートの序盤に関して言えば、あたかも美優樹がヒロインなのではないかと錯覚するほどに、彼女が恋する乙女になっているのです。これは何か、不吉なものを感じますよね。

話は進み、雪人の誕生日パーティ。年齢バレするところは同じですが、始終微妙な空気で終わったという他ルートとは違い、ミータルートでは二次会にまで突入します。といっても、男子禁制の女子によるパジャマパーティなんですけどね。晴哉と雪人が聞き耳を立てる中、そこそこ盛り上がったのだけど、なんとその席上でミータが急に意識を失います。それはもう、電源が落ちた電化製品のようにパッタリと。動揺する雪人たちですが、ミータが病院住まいであることを思い出し、とりあえず病院へと連絡を取ります。
すると現れたのは清宮律佳、白衣を着込んだ中央メディカルセンターの医師でした。寮長こと静夏曰く、内科のお医者さんだったはずの律佳ですが、てきぱきと指示を飛ばしてミータを回収していきます。そして律佳の言葉から、ミータがかなり繊細な機体であること、人間ではなくロボであることがまざまざと語られます……が、彼女なりにかみ砕いた説明、実際私には超分かりやすかった解説ですら、雪人にとってはちんぷんかんぷんでした。この男は本当にどこまで馬鹿なのかと怒鳴りたくなりましたが、挙げ句の果てにあやかが「そんな説明してもこの人には分からないから! 熟睡してるとか、そういう説明にしてあげて」と、ミータの状況をあろう事か熟睡で片付けてしまいます。実際、ミータはバッテリー切れによる自閉モードを作動させていたので、熟睡は決して的外れな言い回しではなかったのだけど、厳密には違います。雪人のこうした性格で、何度貴重な説明や解説が台無しになったことでしょうか。いい加減、私は辟易していました。内科医であるはずの律佳がミータのことを異常なまでに詳しいことへ、千毬や聡里ですら違和感を持っていたというのに、雪人だけは最近の医者はロボットも診られるんじゃないかとか、訳の分かんないことを言いだして。世間知らずでゴメンナサイとか言ってましたけど、彼はそれを改善する気が全くないのがね……もう最悪です。

その後は親善大使コンテストに向けての特訓が始まり、ミータによるスパルタ指導が行われます。対象は主に美優樹ですが、このときの彼女は雪人が何かとミータの肩を持つことに不信感を抱き始めています。いえ、不信感と言うよりは嫉妬心なんですが、美優樹の雪人に対する気持ちに気付いているあやかとしては、ロボットのミータなどより美優樹を優先しろと雪人に釘を刺すのだけど、ミータがロボットであるという実感をあまり持てないでいる彼は、あまり深刻にその言葉を聞くことが出来ません。まあ、これに関しては雪人がミータに惹かれ始めているのだと解釈すれば良いだけですが、そうすると美優樹はどうなるのでしょうか? ルートだと親善大使コンテストの中で美優樹は告白を断行するのだけど、ミータルートであるからか、流石にそこまでは行きませんでした。
さて、親善大使コンテストへ出るに当たって、雪人はペアとなるべく相手役を模索します。彼は他人の心なんて分かっちゃいない男ですから、口にこそ出しませんが結構辛辣なことを考えており、例えば静夏の美貌は武器になるだろうが、聡里や千毬では力不足だろうと考えます。確かに、後者2人には美貌はないかも知れないけど、水準以上の可愛さは持っているはずなのにね。しかも、普段は馬鹿なくせに「鼻血を吹くような妙なトラブルは回避したい」などという理由で、一番やる気があってコンテスト参加に乗り気でもある聡里を却下します。聡里は雪人に王子様像を抱いているようですが、こんな内心を知ってもそれを崩さずにいられるのだろうか。
興味深いのは、この時点だと雪人はミータに関しても言動こそおかしいが見た目は普通という評価を下しています。特別美人だとか、可愛いとは言ってないんですね。私は正直、静夏の原画がそれほど好みではないから、美貌とかなんとか言われても微妙な気持ちになるんだけど……あやかが拒否したことから美優樹をパートナーにと考えますが、こちらも断固拒否されてしまいます。まあ、本人のルートでも承諾までは時間が掛かったので当たり前ですが、あくまで拒む美優樹に千毬やミータがパートナー役を強く希望しますが、雪人は即断出来ません。美優樹のルートでもないくせに、ミータや千毬では役不足であると、本気で思っていたからです。美優樹やあやかが出られなかろうと、自分自身が頑張れば問題ない! という考えには至らず、パートナーが必要と分かった途端、急に現実的な考えをし出すから不自然でなりません。

コンテストの優勝は、即ち街の公認カップルになるといっても過言ではないため、雪人はそこら辺を幾らか意識し始めます。そして、結局誰もパートナーになってくれなかった事実に対し、雪人はこんなことをぼや聞くのです。
「そりゃあ、俺が女の子にモテモテだとか、二股三股の不義理ができるほど人気があるとは思ってない」
実際恋人なんていないし……と、自分の現状を悲観する彼ですが、ここで重要なのは彼が二股や三股を不義理であると認識していることです。また、彼はそれらの道理に外れた行為を女子に人気があればできるとも考えているんですね。今の段階ではそれほど問題のある言動じゃないですが、彼のこの台詞は後々になって深い意味を持ってくるので、覚えておくと良いでしょう。
雪人は誰もパートナーになってくれなかったことが不満なようですが、よく考えてみましょう。雪人が普段付き合いのある女子は6人であり、美優樹、あやか、ミータ、千毬、聡里、そして静夏です。静夏はなにせ去年の優勝者だし、生徒会の仕事もあるから除外するとして、残り5人の内半分以上の少女たちは、親善大使コンテストに出ても構わないと言ってくれているのです。でも雪人はあくまで勝ちたいし、勝つためには千毬たちでは力不足だと言い切るのです。勿論、好意そのものは素直に嬉しいと思ってはいるそうだけど。
客観的に見て、美優樹やあやかなら勝ち目があると判断する雪人は、完全に打算で動いています。素直に千毬や聡里の厚意を受けないのは、彼が厚真にコンテストでの優勝へ拘っているから。優勝すれば妹に会えると思い込んでいますから、性格上必死になりますし、自分の都合が最優先の男ですから、相手の気持ちになど構っていられません。そこで夜の夜中に美優樹の部屋へと押しかけて説得工作を行います。ここで思い出して貰いたいのは、このルートの美優樹は雪人への親愛度が自分のルート並に高く、つまり殆ど惚れている状態です。雪人の言葉に絆され、最終的には彼の言葉に理を感じて出場を決意します。しかし、美優樹が確実に雪人へ恋愛感情を抱きつつあるのとは逆に、雪人はあくまで共に家族との再会を目指すパートナーとしか考えていません。この気持ちの差が、結局は美優樹の運命を決めたのかも知れません。

コンテストが水着着用の見世物協議であることを知った美優樹は、元々羞恥心の塊を持っていることもあってか尻込みしますが、雪人はそんな美優樹の心情を逆なでしつつ、ミータの口車に載せられて特訓を開始します。これがまた前述のようにスパルタで、その割りにはあまり効果がないもので……ここから徐々にではありますが、ミータに対する雪人の意識が変化し始めます。妙に大人ぶった、似非人格者のような言葉を乱発するのですが、ルート後半における彼の言動を考えると、冗談にしか見えないのが不思議です。美優樹は自分がミータから受けている理不尽な仕打ちを雪人に助けて貰いたいんだけど、彼にはその気持ちが伝わらない。それどころか、雪人はあやかに電話して助言を求める始末です。理由は、「友達同士が喧嘩しているなんて嫌なんだよ」とのことですが、彼は美優樹が何に対して怒っているのか分かっていないばかりか、あやかに仲裁役を頼んだのも、あくまで自分にとって都合が悪いからに他なりません。
しかし、聡明なあやかは美優樹の気持ちを正確に理解していますし、彼女の心情がよく分かっています。けど、それ故に、ハッキリとした助言は美優樹の想いを明かすことになるから、言うことができません。だからこそ、雪人は遂に美優樹の気持ちを理解することが出来なかったんですけど。あやかのことではなく、ミータについてあれこれ聞き出そうとする彼は、ミータとは長い付き合いであるはずのあやかですら、彼女のことを機械であると認識していることに納得がいきません。雪人は知識として人型の、極めて人間に近いミータのようなタイプを知らなかったので、実感が湧きにくいのかも知れませんね。

段々と、無自覚ではありますがミータに惹かれ始める雪人。しかし、美優樹の好意というか恋愛感情は持続されたままであり、告白こそしませんでしたが、親善大使コンテストにも優勝しています。その後の打ち明けでも告白に近い発言をしていますし、美優樹が雪人を好きであることに違いはありません。でも、雪人がそれに気付くことはない。だって彼には、他人の心根というものが分からないから。そういった自分の性格に対して、勝手な奴だという自覚は持っているみたいなんですが、それを改めたり、改善したりしないのが、雪人の残念なところでもある。
雪人は美優樹のことを兄妹探しのパートナーとしか思っていません。勿論、友人であることに違いはないのですが、彼女に見捨てられることは雪人にとって考えられないことです。けど、もし妹と天秤に掛けるなら? 晴哉の問いに、雪人は初めて迷いを見せます。親友である美優樹と妹、どちらを選ぶべきなのかと。美優樹は同じような気持ちで苦しんでるんだと晴哉に諭された雪人ですが、彼は本当にどうしようもない馬鹿ですから、その言葉の意味を理解出来ず、いえ、勘違いしてしまいます。即ち、自分のことなど忘れて兄探しを優先させろと、美優樹に言ってしまうのです。美優樹の恋が、終わりを告げた瞬間でした。
あやかも、そしてミータでさえ美優樹の気持ちと、そして雪人の性格を理解していたから踏み込んだことは言わなかったのに、晴哉はまさか雪人もそこまで馬鹿ではないだろうと、一般的には優れた助言を与えたのですが……あやかの言うとおり、それは最低な結末に結びつくこととなりました。美優樹は雪人に一欠片も自分の気持ちが伝わっていなかったことと、彼がほんの僅かも自分に恋愛感情を抱いていないという事実を突きつけられ、失恋するのです。正直、美優樹が可哀想すぎて見ていられませんし、雪人の性格がどこまで最悪なのか分かる瞬間ですが、これが美馬雪人なんです。他人の気持ちが分からず、相手の考えが理解出来ず、目の前にいる人の心情さえ忖度出来ない。それが美馬雪人という主人公なんですよ。

美優樹は失恋しましたが、このルートが美優樹シナリオを軸に進んでいることは変わりなく、舞台は封鎖地区、旧実験区域の発掘現場へと移ります。要は発掘作業の手伝いを行うわけですが、雪人は相変わらずデリカシーというか、常識のない行動で美優樹を怒らせてしまいます。一体、雪人のどこに好意を抱く部分があるのかと不思議でなりませんが、失恋した直後であっても、相手を嫌わないでいる美優樹は天使なんでしょうか?
シナリオ的には普通にプレイしていれば中盤ぐらいまで進んだはずですが、即座にイチャイチャへと発展したあやかルートに比べて、ミータルートはまだ恋仲にすらなっていません。なにせ、直前まであたかも美優樹がヒロインのような立ち位置にいたのですから、ミータとの恋愛方面での交流などあろうはずがありません。しかも、ミータというのは基本的にギャグキャラであり、行動も言動も突拍子がないため、シリアスな雰囲気というのがあまりないんですね。いるだけなにかしらのネタになるというか、真面目な会話に発展しづらい。更に言えば、ミータは自分のことをあまり話しませんから、雪人にとっては友人ではあってもよく分からない奴から、なかなか先に行かないんだと思います。
封鎖地区で仲間たちと昼食を取る中、ここにきて旧実験区域で行われていた研究について言及され始めます。今でこそ自然共生型の環境都市を目指している鵠見市ですが、災害前は自然制御型のシステムを模索していたようで、要は人工的に自然環境を操ろうとしていたわけですね。これは後に理事長も言っていることですが、そうした傲慢な考えによる天罰で災害が起きた、と考えている保守派は少なくないようで、鵠見市育ちのあやかなどは封鎖地区にそれほど良いイメージが持てないようです。無理もない話だけど、外で暮らしていた雪人にはその気持ちが分からない。彼が発掘作業を手伝うのは、両親の手かがりを探すためであり、そんな悲観的なことは知ったこっちゃないのです。気まずさこそ感じていますが、それはあくまで自分が蚊帳の外へ置かれたからであり、自分の希望に水を差されたような気分になったからです。
無論、雪人にしろ美優樹にせよ、鵠見市の生まれではあるはずなので、余所者というわけではありません。でも、二人はこの街で育ってきたわけではないから、限りなく余所者に近い感覚の持ち主でもあるのです。千毬なんかはもっとハッキリしていて、彼女は待ちに対する思い出や思い入れがありませんよね。だから、1,2歳しか年の差がない雪人にしたところで、それは大して変わらないというわけで。

ところで、旧実験区域と言えば千毬の両親が引きこもりを続けている場所ですが、ミータルートでも夫妻が潜んでいた地下施設が出てきます。本人は流石に出てこないのだけど、施設自体は登場し、雪人、ミータ、晴哉の3人が潜入を開始します。これはその直前まで施設の入口があった廃ビルの屋上で、ミータと千毬が遊んでいたことから偶然発見したのですが、千毬に対して危ないことはしちゃ行けないと怒っておきながら、オトコノコだからという理由で、雪人は廃墟の中に入っていくのです。当然美優樹は怒りますが、そもそも人の気持ちを尊重出来るような男ではないから、無駄という物です。
廃墟内を進む3人はやがて行き止まりに、自動ドアの前まで来ますが、廃墟なので当然開くことはありません。力尽くで開けようにも、爪の入る隙間すらない。探検もここまでと引き返そうとする雪人と晴哉ですが、それに対してミータがこう言います。
「待つです。このドアの電源系統は生きているようです」
なんとドアにはセキュリティが掛かっており、開かないのはそのためらしい。千毬ルートをやった人なら、高階夫妻が施したものであることは明白ですが、このルートの雪人や晴哉はそんな事情知るわけもありませんし、15年も前に土砂の中へ埋まった研究所の電源が何故? と訝しがります。
「私の演算能力ならセキュリティを突破できるです。……やるです?」
中に何があるのか、もしかしたら危険な物かも知れないのに、好奇心には勝てないのかミータの誘いに乗ってしまいます。介護ロボットのくせにクラッキング機能まであるとは、高性能と言うより万能の域に達している気もしますが、セキュリティの突破は口で言うほど容易ではなかったらしく、解除と共にミータは機能停止をしてしまいました。駆けつけた律佳にしかり飛ばされる雪人と晴哉ですが、今更のように後悔する彼は、病院にまで同行してミータの様子を伺いに行きます。しかし、当然のごとくミータと会うことはできず、同じく着いてきた美優樹と二人、律佳からミータについての話を聞かされることになりました。あくまでミータが機械であることを前提に、というか事実として話す律佳ですが、無学者というより無知でしかない雪人に、彼女の言葉は何一つ伝わりません。決して難しいことを言っているわけではない、プレイヤーの私ですら理解できるのだから、雪人や美優樹向けに、かなり簡単な説明をしてくれているのでしょう。

しかし、当の雪人と言えば、そんな説明も一切理解することができませんでした。
聞いたことのない言葉や、知らない話、繰り返される原因と結果、の説明。日常の中では聞くことがそれらのことが、遠い世界の出来事のように感じてしまう。
日常の中では聞くことがそれらのことがとは、日常の中では聞くことがないそれらのことがの脱字でしょう。イモウトノカタチはじっくり読み込んでみると非常に誤字脱字が多く、台詞と文章が合っていない箇所が結構あるのですが、ここは地の文なので余計目に付いてしまいますね。
まあ、そんなツッコミは良いとして、雪人は律佳の説明から改めてミータが人ではないことを思い知らされ、その事実に反発します。ミータを化け物みたいに言うなと、お前は今まで何の説明も聞いてなかったのかと言いたくなるような、そんな一言を。上記にもありますが、雪人は聞いたことのない言葉や、知らない話を、そのままで済ませる癖があります。彼は分からなければ許されると思っている人種であり、それが彼の限界でもあります。分からなければしょうがない、確かにそれはその通りかも知れない。でも、如何様にも努力は出来たはずです。自ら進んで、知ろうとすることは可能なはずだった。けど、雪人にはそうした発想がない。分からないことは分からないで済ませ、自分勝手な解釈で物事を定義づけている彼には、それこそ不可能な話でした。
「あの子は機械だよ。可能な限り人間に似せてはいるが、機械だ」
そうハッキリと断言する律佳に雪人は苛立ちが隠せないわけですが、彼女はこう続けます。
「あの子は誰かの身代わりなんかじゃない。ただの機械なんだ。作った私が、それを一番に弁えなければならない」
律佳の言葉は、人型ロボットの制作者としては立派なものです。人間そっくりなロボットやアンドロイドのルーツが、誰かの身代わりであることは少なくありません。開発者の死んだ子供だったり、身近な人物をモデルにして作られることは非常に多い。ミータにモデルがいるのかは知りませんが、律佳はそうした代替物としてのロボットを否定したのです。しかし、雪人はそんな難しい説明分かりません。身代わりとか言われても、彼にとってミータはミータでしかないのだから。

律佳がミータの制作者だと分かると、一転して雪人は怒りの矛先を治めました。自分に責任があるとか言ってたくせに、なんで雪人が怒っているんだろうと思わなくもないですが、あろう事か彼は律佳が散々否定したにもかかわらず、彼女をミータの母親だと認識しました。律佳はそれを感傷的な表現だと言いますが、馬鹿な雪人にとってはそれが一番分かりやすい答えだったんでしょう。母親が大丈夫だと言ったなら心配ないと、独りでに安心し始めます。ミータを律佳の子供扱いする雪人ですが、それには流石の律佳も訂正をします。
「子供、ではないよ。あくまでそのようなもの、というだけだ。同じじゃあ、ない」
律佳の断言を、またも雪人は理解できなかったようです。彼としてみては、やっと分かりやすくなった関係性を、何故否定するんだと言った感じでしょうか? 律佳の立場からすれば当然の言動も、雪人にとっては冷たい一言にしか思えない。それは彼が彼の感覚でしか物事を考えていないからであり、相手の気持ちを考えるまでに到らないからです。人として明らかに欠落している証拠ですが、もうどうしようもありません。彼はきっと、最後までこんな感じなんでしょう。
ミータは結局精密検査となりましたが、基本的にはバッテリー切れであるため、特別問題はありませんでした。週明けには学校へも登校してきましたしね。しかし、元気な見た目とは裏腹に、その状態は深刻なものに変わりつつありました。律佳が白鳥寮を訪れ、雪人と美優樹だけに、ミータの現状について話したのです。
ミータの稼働目的と、役割。交換の利かない部品を多数使用していることや、元々は二年間の運用を予定していた事実を告げます。
「――時期が来たら、あの子の役目は終わりだ。あの子に限らず、機械である以上は仕方のないことなんだ」
律佳の口振り、親であるにも関わらずミータを機械扱いする言動に雪人は苛立ちを隠せず、美優樹に言い方がキツいと言われるほどに言動が荒くなります。しかし、律佳はそれに動じることもなく、ミータが「二年が過ぎれば調査の後、解体し、処分される」ことだけを淡々と話します。そしてミータがあやかたちに出会ったのは、去年のことです。
「ミータは今年度いっぱいで運用を終了する予定だった」
予定だった。その言葉が意味するところは、ミータの現状が芳しくないと言うこと。パーツの劣化が進み、もはや修復できないレベルにまで達していたのです。ミータは近々機能を停止する。人間で言えば寿命と同じであり、それも1,2ヵ月程度しか残されていないという現実に美優樹は打ちのめされましたが、雪人は受け止めきることが出来ませんでした。
会えてミータには伝えず、最後のその日までこれまで通り友人として接して欲しいという律佳の頼みを、雪人は一応了承するのですが、彼には事実を事実として受け止めきることが、難しすぎました。これに関してはまあ、友人の死を宣告されたわけですから、無理もないと言えるのだけど……人に流されやすいこともあってか、すぐに落ち込んでしまいました。

そこから雪人はミータに対して過剰なまでに、過保護とも言える接し方を始めるのだけど、そうなってみて初めて、本当に急な話ではあるのですが、雪人はミータを意識し始めます。とはいえ、近々機能停止が確定しているミータを前にして思うように話すことが出来ず、空回りの連続となってしまう。ただ、ミータ本人は自分の状態を知りませんから、いつも通りに接してくるし、一見すると何も変わりがないように思えます。けれど、雪人は事実を知ってしまっているから気が気でないという感じで、それが却って不信感を抱かれる原因に。あやかや晴哉にも話せば良いものを、彼は結局他者の力を借りようとはしませんでした。
あくまで雪人の力になりたいミータは発掘作業の手伝いを継続し、遂にタイムカプセルを掘り出すことに成功しました。けれど、その代償は決して小さいものではなく、ミータの残り時間は確実に削り取られていきます。ミータ自身、それを意識するところがあったのでしょう。彼女は頑なに雪人の手助けをした理由も、少し考えれば分かるとこだと思います。
ミータの活躍によって神志那の性と、本来の名前を取り戻した雪人と美優樹ですが、それは同時に真結希の存在が明らかになることでもあります。やはりこの二人、記憶にプロテクトでも掛けられたいのか、手紙や写真を見ただけで全てのことを思い出すのだけど、肝心の真結希がどこにいるのかが分からない。当然雪人は探し出すことを決意しますが、それより先に問題としてのし掛かってくるのは、やはりミータのことです。無理がたたったミータは頻繁にメンテナンスを受けるようになり、限界が近いことを如実に告げているのでした。このことから雪人は真結希とミータのことに関して平静ではいられなくなるのだけど、どうしてその二人が同列なのだろうかと思わなくもない。それに妹だと分かった途端、美優樹に対する言動が心ないものに、勿論本人は無自覚なんでしょうが、失恋を味わった彼女にはキツいものになっています。ハッキリ言うと、このルートにおける美優樹はかなり酷い仕打ちを受けているのだけど、それを受け入れてしまうのも、また美優樹だったりする。
結局、ミータは回復することなく機能を停止します。分かっていたことではありますが、遂に最後の日が訪れたのです。ここになって雪人はミータを初めて抱きますが、やや唐突さを感じなくもありません。だってそれまで雪人は、ミータに対して愛だの恋だのといった感情を見せたりはしなかったのですから。双方合意の上なので、別に強引ではないのだけど、正直なんと言えば良いのか分からない。

翌日になって本当に機能を停止したミータを、雪人と美優樹は病院に送り届けます。大切な友人、雪人にとって疑似妹のような存在を失ったことで、途方もない喪失感を受けますが、それも仕方ないことです。これにてミータルートは終わり、ミータはいなくなってしまったが、彼女が幸せだったのだからそれを尊重して……というわけには行きませんでした。何故なら、ミータが機能を停止してから数日後、律佳によって雪人と美優樹が病院へと呼び出されたからです。
てっきりミータの件で話があると思い込んでいた二人を、律佳は病院内の特別病棟へと案内します。律佳自身、話すべきか、事実を伝えるべきか悩んでいたという事柄。それは既にいなくなったミータのことなどではなく、もっと別のことでした。特別病棟の、無記名のネームプレートが掛かった部屋……そうです、その部屋にいた少女こそ、

「初めまして……清宮真結希、ううん……」

「神志那真幸、と言います。よろしくお願いしますね、幸人お兄ちゃん、美幸お姉ちゃん」

イモウトノカタチ最後のヒロイン、清宮真結希だったのです。

こうして話は最終ルート、神志那真幸シナリオへと繋がっていくのですが、流石に長くなったのでここら辺にしておきます。伏線云々も書いたとは言え、まさかこんな膨大になるとは思わなかった。ハルカナソラ以来とも言えますが、その割りにちっとも作品を褒めていませんね。まあ、そもそもが良作ではあり得ないから、自然と感想やレビューが否定的な方向に向いてしまいがちなんだけど、個人的にはまだまだこの程度は序の口だと思っています。何故なら真結希ルートは……いえ、その話は次回、明日の日記で書くとしましょう。全てを書き終えることが出来れば、ですが。
そういえばミータルートでは、最初に書いた伏線一切回収されてないですね。まあ、それもこれも真結希ルートに入ったわけですし、全ての事情と種明かしは、ここで行われるのでしょう。きっとそうに違いないのだ。
イモウトノカタチ感想レビュー3回目、本日は美馬千毬ルートになります。雪人と同じ災害孤児であり、同じ施設に引き取られた彼女は、謂わば雪人にとって妹分的な存在であり、千毬はハッキリと自分は義妹であると認識しています。このことからも、千毬は最初から妹として形が定まっている存在なんですね。義理だけど歴とした妹であり、作品のテーマ的に考えると、一番分かりやすいキャラクターです。だから、シナリオに関してもそうした二人の関係性を前面に押し出してくるのかと思ったんだけど……

千毬ルートの特徴は、主人公である雪人が彼女と長い付き合いであり、兄貴分、妹分としての立場がありますから、親密度は最初からMAXだというところにあります。とはいえ、ゆきにいこと雪人が好きで好きでたまらない千毬に比べると、雪人の方には少々の温度差があり、施設にいるチビたちと同じぐらいにしか考えていない節が、序盤においてはチラホラ見られます。まあ、基本的に鈍感ですし、美優樹ルートでは千毬に恋愛感情は抱かないとまで言い切ってますから、妹分は妹分、長く家族として過ごしてきたともあって、一人の女の子としてはなかなか見ることが出来ないのでしょう。
対する千毬は、何せ主人公を追い掛けて鵠見市までやってるぐらいですから、積もり積もらせた想いには強烈なものがあります。あやかルートで見せた分かりやすい嫉妬心などは、少々子供っぽいながらも、見ていて微笑ましいものがありますね。聡里に言わせれば乙女心らしいけど、それを理解していないのが雪人なんですよね。美優樹ルートでそうだったように、彼は恋愛感情というものをよく分かってないから、「大好きなゆきにい」と千毬が言ったところで、それが愛だの恋だのに結びつかないのです。千毬が家族以上の感情を持って、雪人のことを好きでいることは、会って間もない美優樹や聡里だって察することが出来たのに、付き合いの長い雪人だけは、それを理解していないというのが千毬ルートの現状です。
ここで面白いのが、千毬は他のヒロインと違って最初から雪人が好きなんですよね。美優樹は出会った当初から好印象を抱いており、あやかも比較的デレるのは早いですけど、一応の恋する過程は存在します。でも、千毬に限って言えば、元から知り合いであり、初恋をそのまま育てている最中なので、むしろ千毬の気持ちにいつ気付くのかが、物語の焦点となっているんですよね。

千毬ルートの特徴としては、あやかルートでは後回しにされていた、雪人の妹探しが再び活性化してきます。まあ、雪人の主目的はそれなんですから、むしろあやかルートの方が例外だったんだけど、義妹である千毬としては、当然それが面白くない。恋愛感情を向けても気付いて貰えないのに、今度は妹としての立場も危うくなるわけですからね。美優樹とは違う意味で兄妹探し、家族探しに気乗りがしないのも無理はないでしょう。それに千毬が鵠見市に来たのは家族を探すためではなく、雪人に会うためであって、ここを理解していなかった彼は後々衝撃を受けるんだけど……ほんと、物わかりの悪い主人公って嫌だよね。ありがちな内容とはいえ、ウンザリしちゃう。
妹を探す雪人のやり方は直線的で、まあ、要するにウザいんだけど、学園の女の子に片っ端から「君は俺の妹か?」と聞いて回るという、端から見ても危ない感じです。ギャグシーンのつもりなんだろうけど、見事に滑ってウザさが爆発してします。千毬の言うとおり、雪人のやっていることはナンパと殆ど変わらず、義妹として恥ずかしさを覚えるのも無理はありません。ここでも雪人は相手の心情を忖度出来ない、人として未熟な部分をさらけ出しているんですが、彼にはそんなこと関係ないんです。妹を探すという自分の目的や目標、都合の前には、相手の気持ちなど些細なことでしかありません。こういう強引さにプレイヤーが拒否感を示すとは、考えなかったのでしょうか?
雪人が人格的にダメであればあるほど千毬の方に同情心が向いてしまうわけだけど、実は千毬にも結構問題があって、この子はなにせ雪人を好きになるぐらいだから、性質的に似通った部分があるんですよね。つまり一言で言ってしまうと、この子もそこそこウザい性格と言動をしているのだけど、女の子の場合だと、それもウザ可愛いになってしまうからお得ですね。

そんな千毬ルートにおいて、第三者として客観的な視線から二人の関係を見ているのは、サブキャラの聡里です。美優樹と同じく災害で兄と離ればなれになった彼女は、似た境遇である雪人に惹かれていきます。乙女チックな女の子にありがちな妄想癖の持ち主ですが、性格的にはかなり常識的な方であり、まともな感性を持っています。妄想癖の強い聡里に千毬が抑え役となるのか思いきや、暴走キャラである千毬を、聡里が面倒見る形になっており、そこそこバランスが良いコンビです。
ただ、千毬の暴走は日増しに酷くなっており、とにかく嫉妬が凄くなってきます。あやかルートの場合は、まだしもあやかという現実の存在が相手であり、張り合うことも出来れば、その人柄に触れて和解することも可能でした。しかし、生きているかも分からない本物の妹が相手では、張り合うことも出来なければ、分かり合うことも出来ません。故に千毬の嫉妬心は収まることを知らないし、雪人に対する妨害とも取れる行動が目に付いてしまう。千毬に言わせれば妹探しに反対していないそうなのですが、そこには明らかな嘘と、無理が見られます。しかし、千毬の感情などお構いなしに突き進んでしまうのも雪人であり、二人はお互いの気持ちを尊重出来ていないんですね。
やがて、ふとしたことから雪人は千毬こそ自分の本当の妹なのではないか? と思うようになります。実はこれってあやかルートにも似たような流れがあって、彼女の場合は実の兄と思われていた順也に絶望していたから、雪人の存在に縋りたい一面もあったのでしょう。そう考えると、なんだって美優樹ルートだけ自分が美優樹の兄かも知れないと思い至らなかったのかは謎ですが、とにかく雪人は千毬との関係に悩むあまり、そんなことを考えてしまうのです。確かにそれなら、実妹と義妹の間で揺れ動く必要はありませんし、雪人にとっては非常に都合のいい話になります。要は考えるのから逃げているわけだ。

しかし、そんな雪人の考えをぶちこわすかのように舞台は封鎖地区の旧実験区域へと移り……そこで彼と千毬はは思いがけない人物に出会います。登場人物紹介で謎の白衣とされていた高階利夫と、立ち絵はありませんがその妻が出てきたのです。なんと夫妻らは、十五年もの間、土中に埋もれた旧実験区域の一角で生きてきたという。それは二人にとっての贖罪であり、その言動から、鵠見市の豪雨災害の真相がどう言うものであったのか、何となくですが分かってきます。
けれど、雪人にとって重要なのはそんなことではなく、彼が、高階利夫が千毬の父親であるという事実の方が、よっぽど衝撃的でした。雪人はこの時点で、千毬と自分は実の兄妹であるという妄想に取り憑かれていますから、当然千毬の両親は自分の両親でもあると思い込んで話しますが、夫妻の方から雪人には別の両親がちゃんといることを告げられ、間接的に千毬とは赤の他人であることを知らされてしまいます。その場で理解出来なかったのは、彼が馬鹿なのに加えて、認められなかったからでしょうかね。雪人は自分が認めたくない問題が起きると、思考停止してしまうことが少なからずあって、他ルートでもそうしたシーンは見受けられます。でも、千毬ルートに限っては、とにもかくにも千毬の両親が見つかったのだからと気を取り直して、夫妻と千毬の橋渡し役になろうとするのですが……当の千毬に問題が発生します。なんと千毬は、実の両親を両親と認識することが出来なかったのです。けどまあ、考えてみれば雪人よりも2歳は年下であり、災害被災時は物心が付いていなかった可能性が非常に高い。であるなら、実の両親であっても知らない人に違いなく、家族ではないおじさん、おばさんと言ってしまうのも無理はないのです。その段階に来て、初めて雪人は気付くのです。千毬にとって、自分がどういう存在であったのか、彼女にとって家族とはなんだったのかを。遠い記憶に、欠片として残る妹の存在。雪人は錯覚かも知れないそれを必死に追い掛け続けましたが、千毬にはそもそも家族との思い出が一欠片も残ってはいなかったのです。すべてを悟ったとき、雪人は自分の愚かさと、千毬の不憫さに言い知れぬショックを受けます。問題は、千毬自身が自分を不幸であると、まるで思っていないことにもあるのです。

考えを改めた雪人は義兄として、千毬を愛する者として奔走します。贖罪の気持ちから表舞台から姿を消した高階夫妻を説得し、千毬のため、なんとか親子の中を取り戻そうとするのです。夫妻には夫妻の考えがあり、表舞台に出られないことには相応の理由があるはずなんですけど、雪人にとってはそんなこと関係ない。彼の目的は、千毬を幸せにすることだから、高階夫妻の都合なんてどうでも良いんですよ。だから尊重もしないし、強引にでも引っ張り出そうとする。まあ、結果としてそれは実を結ぶわけですが、雪人があくまで千毬とのことを優先させてしまったために、高階夫妻が何故引きこもっていたのかとか、土中で何をしていたのか、もっと言えば、15年前の災害とはなんだったのかなど、そうした伏線は一切語られることなくシナリオは終わってしまいます。
でもまあ、それは良いんです。なにせわざわざルートロックされていたミータシナリオに、今のところ影も形も見られない真結希シナリオがあるはずですから、すべての真実はそこで語られるのでしょう。少なくとも、千毬ルートを終わらせた直後は、そう思いました。

次回はミータシナリオ真結希シナリオになります。明日だけで書き切れるかは不明ですが、とにかく、イモウトノカタチの真価とは、このルートによって決まります。私がなにを感じなにを思ったのか、どこまで書けるかは知りませんが、整理が終わり次第まとめてみます。
イモウトノカタチ感想レビュー2回目と言うことで、本来であれば今日が正式な発売日なんですよね。勿論、私も横浜や秋葉原に出掛けて店舗予約していた分を回収してきましたが、どの店舗でもやはりこの作品をメインに売っている印象が強く、売上本数は相当なものになりそうです。まあ、売れた作品が必ずしも良作であるとは限らないわけですが、イモウトノカタチは買った先から売りに出されているのか、ヨスガノソラと同じく買い取り価格が暴落しており、このままいけば在庫過多で買い取り拒否になるかもしれません。週明けには、二束三文となっていることでしょう。

まあ、そんな話はどうでも良いとして、今回は澄稀あやか編になります。新作では唯一ハッシーこと橋本タカシが原画を担当しているヒロインで、体験版の時点では声優の演技や声について難があるのではないかと一部で言われていました。私もその一人ですが、これに関しては慣れてしまえば、さほど問題にはならないでしょう。独特な声ではありますけど、体験版の頃に比べれば安定しているような気もするし。
あやかというヒロインは主人公のクラスメイトであり、市の有力者である澄稀製薬の令嬢です。つまり、俗に言うお嬢様キャラな訳ですが、一般的なお嬢様キャラみたく高飛車な面は一切なく、かといってヨスガノソラの渚さんみたいな、淑やかな少女という感じでもない。常識人であるところは同じですが、送迎車による送り迎えもありませんし、お嬢様っぽく各種習い事に大忙しという感じでもなく、放課後や学校がないときは街をブラブラしているというのが彼女の日常。たまきんこと晴哉や、ロボットであるミータがぶっ飛んだ存在であるためツッコミ役に回ることが多く、この辺りは渚さんに近いものがありますか。
主人公の雪人とあやかは、何故か彼女が白鳥寮の主人公の部屋に居座っていたことから交流を持つようになりますが、あやかは基本的な面で常識人であり、雪人と違い世間ズレしていませんから、謝るべき所はきちんと謝りますし、仲良くなるのは比較的早いです。晴哉曰くあやかはぼっちだったことがあるらしく、ミータや晴哉と出会うまでは、割と孤独だったらしい。まあ、市の有力者である大企業の令嬢ですからね。本人の性格はともかく、気負いするところもあるのでしょう。分からなくはない話です。

あやかと主人公の関係が密接になっていく過程で重要になってくるのは、主にあやかの家庭環境になります。要は澄稀家なわけですが、ヨスガノソラがそうであったように、両親を始めとした大人が積極的に絡んでくるわけではなく、軸となるのはあやかの兄である順也との関係性です。このルートとシナリオの特徴的な面として、メインが雪人の妹探しではないことが上げられます。彼は他のルートだと、それはもうウザくてウザくて仕方ないぐらい、自分の妹を探すことへ躍起になっているのですが、あやかルートに限っては明確に彼女の側に問題があるため、それを解決するために奔走し始めるわけです。
雪人は独り善がりで、大変自分勝手な性格をしていますが、あやかシナリオでは彼女の境遇に同情し、率先して協力してくれるんですね。この時点で、他ルートの彼と微妙な違いが出てきます。自分とは関係ない他人の、他人と言っても友達ですが、その子のために自らの目的を一時置いてまで助けてくれるという、比較的まともな行動を取ります。これがどれだけ貴重なことかというのは、他ルートを進めて行くにつれて分かるのですが、あやかに対する手助けにも彼特有の強引さが見られる辺り、おそらく美馬雪人という少年は、相手の心情を忖度することが出来ないんでしょうね。彼が常に重要視しているのは自分自身の都合と感情であり、相手の気持ちを汲み取ったり、受け入れたりしているように見える場面でも、結局は自分のことを第一に考えているのが分かります。ただ、あやかルートに関しては、あくまで人助けをしているわけだから、その強引さが男らしさにすり替わったかのような印象を受けるんですね。
まあ、少し嫌な書き方をしてしまいましたが、自分のことへ親身になってくれて、尚且つ助けてくれる相手に心を許さないはずもなく、あやかが雪人に惹かれる過程というのは、そのスピードの早さはともかくとして、割と自然な流れになっています。ろくにツンツンする間もなくデレデレになっていますが、そこはあやかチョロいということにしておきましょう。

さて、あやかが抱える問題というのは、表面的なことを言えば家庭環境にあります。雪人がそもそも彼女を助けるようになったのは、あやかが町中で黒服の集団に追われていたからです。お嬢様だけに誘拐かと思えば、そういうわけではないらしく、どうにも歯切れの悪いあやかは、自分が家族と、特に兄と折り合いが悪いことを告白します。あやかの兄である順也は、しばし外国に遊学していたのですが、最近になって帰国し、横柄かつ尊大な態度であやかに接し、特権階級特有の嫌みな性格で、妹いびりをしていると言います。
それが嫌であやかは家に帰らず、街をブラブラしては時間を潰すという毎日を送っているんですが、ヨスガノソラでは奈緒が似たようなことをしていましたね。もっとも彼女の場合、家族との折り合いが悪いのは自業自得であり、一方的な被害者であるあやかとは、事情が全く異なりますけど。
順也の嫌みったらしさは、馬鹿な雪人でも分かるぐらいハッキリとしたもので、彼があやかに送りつけてきたメールを読んだだけでも、滲み出る悪意を感じ取れたほどでした。雪人は自分の感情に対して非常に正直な男ですから、自分の考えや精神にそぐわないと見れば、例え会ったこともない相手だろうと即座に嫌うことが出来るのです。無論、順也が嫌な奴であることはミータの証言からも分かっていることですし、現実にあやかが困っているわけですから、疑いようがないのですけどね。私は当初、もしかすれば順也にも筋の通った意見や、不器用ながら妹を想う感情があるのかも知れないと考えていたのだけど、そんなことは全然ないどころか、最初から最後まで嫌みな奴という印象を残しました。思うに、あやかルートの雪人がまともに見えるのは、もっと直接的に人の嫌悪感を逆なでする順也というキャラがいたからでもあるんじゃないでしょうか? 要は、より目立つ嫌われ者がいたから、そっちの方が目に付いただけとも言える。正直、他ルートの雪人は順也より質が悪いことをしてしまうのだけど、あやかルートではひたすら彼女を守り助ける、心強い恋人であり続けます。

あやかにも一応それなりの秘密があるんですけど、これも体験版や各種情報が後悔されていく内に囁かれていた、養女説そのまんまでした。なんとも分かりやすいというか、あやかは災害孤児だったところを澄稀さんちのおばあさん、つまり義理の祖母に保護されたんですね。幼かったからなのか、それとも被災時に記憶障害でも起こしていたのかは知りませんが、あやかはその事実を知らず、祖母が銀行の貸金庫に残した手紙から真実を知ることになります。彼女は祖母が亡くなるまで、基本的に祖母の家で暮らしていたという過去があり、それが両親や兄との間に距離感を生じさせる原因にもなっていました。
別にあやかの両親は祖母が保護した災害孤児である彼女を疎んでいたわけでも、嫌っていたわけでもないらしいのですが、澄稀あやかという存在を否定されたあやかは半狂乱になり、自分自身を保てなくなりました。そりゃそうでしょう、元々今の自分が本当の自分でないことを知っている雪人や美優樹と違って、あやかは澄稀家の娘であることが事実であり、当然のことだと思ってきたわけですから、ショックも大きいはずです。けれど、その手紙にはもっと大きな秘密が、気付いてはいけない事実が記されていました。雪人に言わせれば隠しておく必要のないことなんですが、あやかは優しい性格をしていました。彼女は家柄や身分といったものへの執着とは、常に無縁の位置にいましたが、向こうがそうじゃないことを熟知していたからです。つまり、兄順也プライドの高さが、何を持って成り立っているのか……そうです、養子は決してあやかだけじゃなかったのです。兄である順也もまた、同じ立場にあった。それを知らずに本人は、ずっとあやかをいびり倒していたのです。まったく、どうしようもない奴ですね。彼のあやかに対する所業に耐えきれなくなった雪人が全てを暴露してしまうんですが、これに関しては雪人の独断専行が強いです。あやかは兄のプライドが崩壊することを恐れて最後の最後まで黙っていたんだけど、自分の感じた怒りを発露したかった雪人が、ぶちまけちゃったわけです。
そしてあやかの予想通り順也のプライドとアイデンティティーは崩れ去り、ショックで精神崩壊寸前まで行くのだけど……それを助けたのもまた、妹あやかだったという話。まあ、本当にもう良く出来た娘だ。

あやかシナリオは、妹探しという本筋が絡まない分、あやかと雪人の交流に重きが置かれており、そう言った部分では一番ラブコメらしい内容になっています。あやかがバイト初めて、なにやらメイド服っぽいウエイトレスになったりとか、平凡ながらも流れにまとまりがあるんですよね。気になる点があるとすれば千毬であり、公式サイトの字音物相関図によると、千毬は美優樹に対し雪兄が取られる?と危機感や焦りのようなものを持っていたはずなんですが、実際に作品をプレイしてみると、そうした嫉妬心や独占欲を見せるのは、主にこのあやかシナリオであり、美優樹シナリオではそうした面がまるで書かれません。千毬にとっては少し辛い内容でもあるんだけど、この子にも個別ルートはありますから、そっちで報われることを祈りましょう。
そんなわけで、次回は雪人の義妹である美馬千毬について書きます。何かと影が薄い、話題にもなっていないルートですが、ここら段々と本筋に入っていくはずだったんだよね……本当なら。まあ、詳しくは明日書きます。
ネット通販した分が1日早く届いたので、早速レビューを書きます。私はあまり通販という物を利用しないから、こんな風に正式な発売日よりも先にエロゲを手にする事ってのは、書籍のそれに比べると少ない方なんですが、何とも新鮮な気分ですね。配送業者の都合もあるんだろうけど、丁度積みゲーを崩している最中だったので、どちらを先にやるか少し迷いました。でも、この作品は週明けまでに全ルートを攻略、つまりゲームクリアしておきたかったから、先に済ませてしまうことに。時間はそれほど、掛からないと思いましたし。

イモウトノカタチ-瀬名美優樹編-ということで、私はこのシナリオを一番最初か、あるいは一番最後にプレイすることをオススメします。というのも、この作品はルートロックが掛かっているため、最初にミータを攻略することが出来ません。ヨスガノソラにおける穹みたいに、誰か一人でもクリアすれば解禁されるという類いのものではなく、美優樹、あやか、千毬の3人を全てクリアすることで、初めてミータルートのロックが解除されるわけですね。ちなみに上記3人、どのルートにも進まないという選択肢もあるにはあるのですが、それは後述するバッドエンドに行ってしまうので、観てみたい人でもない限りは時間の無駄だと思います。
瀬名美優樹という少女は、主人公である美馬雪人が鵠見市において一番最初に出会う少女です。同年代で、共に災害孤児という境遇から親しくなり、箱入り娘であった美優樹は良い意味でも悪い意味でも行動力がある雪人を頼りにしていくというのが、序盤の流れです。体験版で語られた部分については掻い摘まんで話しますが、生き別れの家族、特に兄妹を捜したかった二人は鵠見市に留まり、お互いに協力し合いながら兄妹捜しを始めるんですね。ここまでは言ってしまえば共通ルートであり、特別美優樹編というわけではないのだけど、なんだかんだで、一番関わってくるのが彼女ですから、そのままの勢いで美優樹ルートに進んだ方が、私は自然だと思うんだよね。一応は、彼女がメインヒロインな訳だし。
イモウトノカタチは無駄に選択肢が多いエロゲで、今時珍しいMAP選択方式を採用しています。ただ、学内や寮内に限って言うと、数が多いだけでヒロインと遭遇するようなイベントもないので、ハッキリ言うと意味がありません。

さて、美優樹の個別ルートはお互いの兄妹捜しが軸となって話が進みます。二人ともそのために鵠見市にやってきたんだから当たり前の話ですが、災害被災という特殊な事情を抱える町や人の中で、二人は思うように活動することが出来ません。大っぴらに捜そうにも、被災者の気持ちを考えてあげてと、どこかで聞いたような文句で説教される始末。まあ、その説教自体はもっともなことですから良いのだけど、そのために雪人のウザいぐらいの積極性は殺され、思うように身動きが取れなくなってしまうんですね。
そこで考えたのが、兄妹の方からこちらを見つけて貰うという方法であり、雪人は鵠見市の親善大使コンテストに興味を示します。これは1年間鵠見市の広報活動をする男女ペアを決める大会のことで、まあ、客寄せパンダの一種です。余程の目立ちたがり屋でもない限りは断ることが多いらしいのだけど、雪人たちはこの親善大使として広報活動に参加すれば、自然と顔が売れてどこかにいるであろう兄妹の目にも留まるのではないかと、そう考えたわけです。
しかし、美優樹は箱入り娘にしてお嬢様学校通いでしたから、人前に出ることに対する抵抗感があります。要は恥ずかしがり屋なんですが、雪人は自分の都合や目的を優先するタイプですから、やや強引ながらも美優樹を説得し、二人で親善大使を目指すのでした。この流れで分かるのは、雪人が相手の都合よりも自分の都合を、勿論本人は良かれと思ってやっているのでしょうが、それを最優先に行動することが印象づけられます。彼はノリが良いように見えて、言動や行動に強引さがあり、それでいて他人の気持ちに気付きません。鈍感と言えば主人公にはありがちなタイプのように思えますが、雪人の場合は、そもそも他人をあまり気に掛けないんですね。こうした性格が後々問題になっていくのだけど、今の段階では少々ウザいぐらいに抑えられています。

主人公である美馬雪人には一つの設定があり、彼は実のところ美優樹やあやかといったクラスメイトよりも、年上なんだそうです。年上クラスメイトと言えばヨスガの亮平が思い出されますが、別に留年したとかそう言うのじゃなくて、災害に被災したときに大怪我をしてしまい、1年近く入院生活送っていたため入学が遅れてしまったと、まあ、そういうことらしい。
入学というのは小学校のことでしょうが、逆算すると15年前のことだから……あれ、20歳越えちゃいますね。当初の設定通り、10年前のことならしっくり来るのだけど、いや、エロゲには18歳以上のキャラしか出てこないとはいえ、何だろうこの違和感。災害から10周年を15周年に変えたのは、雪人が皆よりも入学が1年遅れたという設定から、明記していない年齢を逆算されないためなんだろうか。変なところに拘るもんだと思うけど、制作が分からしてみれば重要なことなのかな。私に言わせれば、あんな人間の出来ていない成人男子は嫌だと言いたいのだけど、この作品は美馬雪人という主人公にどこまで耐えきれるかというレベルに達しているほど、主人公が残念な作品なので……これに関しては後でみっちり書くつもりですが。
つまり、ここで重要となるのは雪人は皆よりも年齢が上と言うことで、彼にとっては美優樹は勿論、あやかなどのクラスメイトも年下の女の子であると言うことです。美優樹はそれまで似た境遇でありながらも雪人が兄であるはずがないと思っていました。だって彼は同学年であり、年齢は同じのはずでしたから。しかし、そうした前提が彼の告白、というには大袈裟なシーンによって崩れてしまい、美優樹はある種の疑惑を感じ始めます。これは本来、最初に雪人が気付くべき事だったんですが、何せ彼は筋金入りの馬鹿であり、人の気持ちを理解出来ない奴なので、美優樹の考えを察することもなく、シナリオは進んでいくことになります。そこに何が待ち受けているかも、理解しないままに。

親善大使コンテストに向けての特訓、コンテストは何故か男女ペアによる二人三脚なんだけど、それを行うにつれて雪人と美優樹の距離はどんどん縮まっていきます。美優樹は元々雪人に対する好感度が高いし、一番身近な男性でもありますから、惹かれるところが多いんでしょうね。正直、箱入り娘が最初に出会った男性を好きになっているだけのような気もしますが、まあ、惚れる理由なんてそんなもので良いのかも知れませんね。強引なところはあれど、このルートにおける雪人は世間ズレしているだけで、箍が外れている訳ではありませんから。
雪人は他人の気持ちに鈍感と言うより、自分のことだけしか考えていない部分が非常に強いので、美優樹の気持ちに気付くのも遅いです。何せ、美優樹から告白されても実感が湧かなかったぐらいですし。彼のこうした性格は、彼だけが知らぬ間に相手を傷つけているのだけど、どのルートも基本的にヒロインが雪人に惚れているわけですから、例外除いてそれほど大きな問題にはならないのがせめてもの救いです。
先に書いてしまいましたが、美優樹は親善大使コンテストで優勝した際のスピーチで、雪人に対して告白します。彼女にとっては一世一代の、自分の中にある勇気を総動員しての行動だったんですが、当の雪人は実感も湧かなきゃ、恋愛というものがどう言うものかすらよく分からないと言う感じで、なんとも頼りない。けど、美優樹のことは好きだし、彼女が言ったずっと一緒にいたいという気持ちは同じだったので、漠然とではありますが理解はしているようです。
雪人は馬鹿で世間ズレしていると周囲から言われているように、色々なことに対して無知です。それは日常的なことから、精神的な面まで、あらゆることへの欠落が見られます。でも彼は、そうした分からないを、分からないままにしてしまう傾向が非常に強く、理解することに対しての努力をしないんですね。分からないもんは仕方ないで物事を済ませ、説明する側が却って気を遣ってしまうと言う、読み手としては非常にイライラするパターンです。イモウトノカタチはSF色もある話なので、それに対する説明や解説が入ると、雪人は難しすぎてついて行けず、結果としてごく簡単なたとえ話に置き換わってしまうんです。ハッキリ言うとプレイヤーは雪人ほど馬鹿ではありませんし、彼のために一々説明が中断されるのは、正直どうかと思いました。

家族の手がかりを探す雪人と美優樹は、やがて封鎖地区における発掘作業を手伝うようになります。そこは旧実験施設があった場所であり、最も災害の被害を受けた、土砂に埋もれた廃墟です。そこ何かを感じたという雪人は、自分たちの家族に対する手がかりを得ようと、必死になって作業を手伝うのですが……恋人である美優樹はとある事への不安から、即座に賛同することが出来ませんでした。少し考えれば分かることなのに、それでも雪人は理解することが出来ない。彼女の気持ちを、汲み取ってあげることが出来ません。彼は、そういう男なんです。他ルートをやればよく分かりますが、雪人は自分の気持ちには正直なんですが、恋愛というものに相手がいることを、本質的な面で分かっていない節がある。愛は育むものと言いますが、彼はそれをどこまで理解しているのか、
相手が自分と異なる考えを持っているかも知れないというごく簡単な事実に、行き当たらないんですよ。だから彼は、最後の最後まで美優樹の真意に気付くことが出来なかった。でも、それは仕方ないことなのかも知れません。だって雪人には分からないことなんですから。
結果的に雪人たちは家族の手がかりを、タイムカプセルを発掘することに成功しました。けれどそれは、そこに書いてあったのは、美優樹が最も知りたくない事実、雪人と美優樹が兄妹であるという真実でした……

真実を知った美優樹は雪人との関係に終止符を打とうとします。彼女は真面目で、常識人で、ごく当たり前の倫理観を持っていましたから、既にやることやってしまった後とはいえ、兄妹である二人が恋人ではいられないと考えました。けど、美優樹は雪人を愛してしまったから、愛しているのに結ばれないことが耐えきれず、逃げ出してしまうのです。彼女が残した手紙から、遅れて事実を知る雪人ですが、彼はこの期に及んでも事実の全てを飲み込むことが出来ません。美優樹が悩んできたこと、苦しんできたことを一度も察することが出来なかった彼は、彼女が抱え込んできた全てを、いっぺんに受け止める羽目になったのです。色々なことが「一度に起きすぎなんだよっ!!」と怒鳴る雪人だけど、そうなったのは他でもない雪人自身のせいです。彼がもう少し、後一欠片でも頭を働かせていれば、こうはならなかったかもしれない。結局これは、美馬雪人が無知であることと、分からないことを分からないで済ませてきたことへの、しっぺ返しでしかないのです。でも、彼は自分を省みようとはしません。逃げだそうとしているのは美優樹であって、彼は知らなかっただけなのだから。無論、自分にも落ち度があったこと位は認めていますが。
結局雪人は美優樹を連れ戻すことに成功し、彼は美優樹が恋人だろうと妹だろうと好きな気持ちは変わらないと説得します。まあ、彼は恋愛感情もろくに分かっていない男ですから、恋人と妹の違いさえ、実は分かってないんじゃないかという気もしますが、そこがまあ、タイトルであるイモウトノカタチという奴なんですかね? 雪人は本当にろくでもないですが、自分が兄だと自覚した途端、生まれ変わったように美優樹を諭すもんだから、全く調子が良いというかなんというか……調子が良いというレベルの話じゃありません。

美優樹シナリオは、そこそこ上手くまとまっています。終盤の展開が早すぎることと、ややこじつけ気味にタイトルとの関連性を持ち出してきたところも含めて、まあ、こんなものだろうという気分にさせてくれる。作品の入口という意味では、丁度良いんじゃないでしょうかね? ルートロックされているミータシナリオに関するネタバレ要素があるにはあるんだけど、ぶっちゃけ皆分かっていたことだから、それほど意味があるものでもありません。むしろ、どうしてその設定にしちゃったのかと私は思うんだけど、これはミータルートで語ることにしましょう。
ちなみに最初の方で書いたバッドエンドとは、幻の理事長ルートのことです。ヒロイン3人に対してMAP選択時に均等な数だけ選択すると、フラグの足りなさから個別ルートに進むことが出来ず、兄妹が見つからないことに絶望した美優樹が帰ってしまうのです。元々期限付きの転校でしたし、彼女はそれほどメンタルが丈夫ではないですから、分からない話でもありません。まあ、他キャラのルートではしっかり残ってるんだけどね。美優樹という共通の目的を持った相手が去ったことに雪人はショックを受けるんですが、そこに理事長が現れて彼を叱責し、励ましてくれます。それが効いたのかは知りませんが、何を思ったか雪人は唐突に年下の男に興味はありませんか? と理事長を口説き始め、何と告白してしまうという凄まじいエンディングです。当然、その後が書かれることはないまた別の話なんだけど、何とコメントして良いのか、正直わかりませんね。

しばらくはイモウトノカタチ日記を書きます。なので、次回は澄稀あやかですね。このルートも結構やりやすいというか、分かりやすいシナリオなんですが、それについては明日じっくりと書くことにしましょう。
イモウトノカタチ公式サイトが更新されて、Webドラマ第4回が公開されましたね。ミータ編ということですが、その話へと入る前に同時更新されたCUFFSのHPについて。先日のCUFFS/Sphere/CUBE 2012夏のグッズ通販の諸問題に関する記載があって、芹花のタペストリーと香澄さんのコップは販売予定に無い商品として、誤って掲載されていたらしい。どういう状況でそういうミスが起こったのか、私としては不思議でならないのだけど、この二つのグッズに関しては制作検討中とのことで、まあ、早くても冬コミでしょうね。折角夏コミに受かったというのに、なんと少ない新作グッズか。

第4回がミータ編ということは、最終回であろう第5回は真結希編ということになるんだろうけど、確かに今回の話はそれに続くかのような流れが垣間見えたと思う。
無事に(?)白鳥寮訪問を終えて、広報誌制作のためのネタは十分に揃ったと言うミータ。
しかしその言葉を誰も信用せず、むしろ疑いの眼差しを向ける面々。

しかもミータが記録したデータは証拠することが不可能ということで、散々恥ずかしいデータを収集されたあやかたちはなんとか消去させようと試みるが、結局はミータのペースにハマっていつもの漫才トークになってしまい……?
体験版でも感じましたが、イモウトノカタチはミータが全体を支配しているかのような勢いがありますよね。美優樹はどちらかと言えばおっとりしている部分があるし、千毬はバカっ子で状況をよく理解していないどころか、ミータの口車に乗ってしまうこともしばしばだから、まともにやり合えるのはヒロインだとあやかぐらいしかいません。しかし、そのあやかも激情家な部分があるから、ミータのペースに翻弄されて、煙にまかれてしまうんですね。
聡里や静夏はサブキャラだから、ある程度の距離があるのは仕方ないとしても、このWebドラマは今のところ最初から最後までミータの独壇場って感じだ。

恐らく来週の更新で第五回、再来週の更新で発売直前のをアップするんだと思いますけど、それにしたってマスターアップ報告が来ませんね。先月末のパソパラにおいて、「このパソパラが出る頃にはマスターアップしていたい」みたいな記述があったにもかかわらず、 イモウトノカタチは未だにマスターアップしてないようです。流石に延期はしないと思いますが、早いところだと既に報告を終えているところもあるので少し心配です。 カウントダウンボイスだってやるんだろうし、本当に間に合うのかな。
別に延期したって構わないといや、構わないんだけど、一ヵ月とかならともかく、一週間とか中途半端な期間だと、コミケとの兼ね合いもあって色々面倒臭いからさ。出来ることなら月末に出て欲しいわけですよ。
けど、イモウトノカタチって公式通販が行われないこともそうだけど、あんまり外部に対する企画に乏しいイメージがある。早期予約キャンペーンのたぐいも行われなかったし、your diaryのときみたいに毎週のようにカードが配布されるわけでもない。発売日当日の購入者イベントぐらいはやるかと思うけど、近年のエロゲとしては結構控えめな展開だよね。予約率は結構良いみたいだし、おそらく初動売上としてはヨスガノソラを上回ると踏んでるんだけど、その分、色々と暴落しそうだよね。まあ、それに関してはヨスガノソラも似たようなもんだったけど、CUFFS系はワゴンの常連だからね……一応、話題のタイトルだし、秋葉原の主要店舗は特設コーナー作って店頭で推しまくってますから、難民が発生するなんてことはないと思うんだけど、果たしてどうなることやら。なんだかんだで、発売まで一ヵ月切ってるのか。

夏コミ作業で忙しい関係上、イモウトノカタチばかりに気を遣ってもいられないという感じなのだけど、まあ、乗りかかった船ですから、最後まで付き合ってみようかなとは思います。情報は錯綜してるし、期待値も変動激しい作品だけど、曲がりなりにもSphereの2作目ですからね。ヨスガノソラ好きとは、やはり無視できない何かがあります。凡作で終わるか、良作となるか、あるいは名作や傑作と呼ばれる程に化けるかはまだ分かりませんけど、楽しいエロゲになってくれさえすれば、それでいいのかもしれない。他の人はどうだか知りませんが、私がイモウトノカタチに求めていること、実質その程度なのかもしれないな。
イモウトノカタチが今月末に発売されるらしい昨今、私はさて、この作品をどれぐらい買うかと言うことで現在悩んでいます。どれぐらい、というのは、つまり特典をすべて集めるのかどうか、と言う意味であり、コミケ前ということも相成ってかなり慎重になっている自分がいる。イモウトノカタチは描き下ろし特典が8店舗で、オリジナル特典が14店舗の、計22店舗で特典が付くわけだけど、私は当初これら全部を買いそろえようかと思っていました。後で集めるよりは、効率良いと思ったしね。でも、果たしてそれが正しいのか、そこまでする必要があるのかどうか、と悩んでいたりする。

描き下ろし特典が付く店舗はすべて予約済みですから、これに関しては既に買うことは決めています。ヨスガノソラのときもそうだったし、これについてはまあ、問題ないでしょう。好きな物買うために仕事しているわけだし、その程度の金銭に関してはなんともでもなります。なりますが、ここに来て14店舗もの追加があるとは思ってなかった。いや、想定の範囲内ではあったのだけど、公開が遅かったからてっきりないんじゃないかと思って、違うな、ない方が良いなという個人的な願望に縛られていたんだと思う。だって、14店舗ってことは単純計算で14万円超ですからね。ヨスガノソラに比較して数は減っていますが、それでも22店舗というのは決して少ない数ではありません。総合計22万円というのは、私みたいな若人には結構な大金でしょう。
勿論、その金額にしたところで出せないわけじゃないし、普段からケチやってますから、いざというときに使える物は持っているんだけど……果たしてそれが今なのか? なんて疑問もありまして。イモウトノカタチに対する期待値はそこそこだけど、正直言ってヨスガノソラを超えるものではないし、数あるエロゲの一つという感覚が拭えないからなぁ。仮に7月がイモウトノカタチだけというならともかく、実のところ他にも買う作品はありますし、殊更イモウトノカタチだけに拘るというのもどうなのかなと。だって、なんだかんだ言ってヨスガノソラではないわけだし、描き下ろしを8店舗ですか? それだけ抑えれば十分じゃないかって気持ちになってます。しかも、今回はオフィシャル通販もないみたいですからね。てっきり真結希が来ると思ったのに、なんか拍子抜けです。オフィ通やらないなんて、作品やブランドとしての価値にも関わると思うんだけど。

店舗特典の詳細は公式HPと、それから先月末に出たパソコンパラダイス8月号にて情報が載っていました。パソパラは電撃HIMEと違い描き下ろしイラストこそありませんでしたが、8Pという非常に大掛かりな特集記事を組んでおり、ヒロインごとのあらすじを書いているのが特徴的ですね。それを読むと分かるのですが、どうにもこのイモウトノカタチという作品、お話としては一本道という可能性が出てきました。
つまり、G線上の魔王とか、最近で言うと穢翼のユースティアみたいなタイプのシナリオで、一つの大きな物語がある中、各ヒロインのルートが枝葉のように分かれている感じなんですよ。何故、そう思ったのかといえば、ヒロインごとのシナリオあらすじが、地続きというか時系列に沿っている感じがしたから。以下に各ヒロインとの物語、そのあらすじを抜き出してみましょう。
美優樹との物語
家族探しを開始したものの、なかなか上手くいかない雪人と美優樹。そこに『親善大使コンテスト』というイベントがの話が舞い込んできて……。

ミータとの物語
『親善大使コンテスト』に参加することになった雪人と美優樹を助けるべく、二人に対しスパルタ特訓(?)を開始するミータだったが……。

あやかとの物語
林間学校が終わったある日、何故か再び黒服姿の男達に追いかけられることになってしまったあやか。彼女の身に一体何がおこったのか?

千毬との物語
ふとしたことから、封鎖区域に指定されていた地域へと入り込んでしまった雪人たち。そこで彼らが見たモノは、とても重要なモノだった――。
このように、美優樹とミータのあらすじを見るに、明確にお話しが繋がってるんですね。まず美優樹との『親善大使コンテスト』なるイベントが舞い込んでくる話と、ミータがそれにスパルタ特訓を行う話。この二つは時系列として続いており、話の繋がりを感じさせるものです。勿論、この時点ではまだ共通パートなんだよと言われれば返す言葉もないけれど、気になるのはあやかの項目。彼女との物語は林間学校が終わってから動き出すことが記述されており、そこは疑いようがありません。黒服に追われるのは二度目、ということはこれより以前にそんな場面へ雪人は遭遇しているのだろうけど、ここで問題なのは林間学校なんてものがそんなに早く開催されるのか? ということ。周りが山と森だらけの土地で何が林間学校なのか不思議だけど、あの手の行事は大抵泊まりがけでしょうし、それがそんなにもすぐに行われるでしょうか? 美優樹の話とミータの話をやった上で、そういった行事に入る方が、自然だと思うんだよね。

同じようなことが千毬のシナリオにも言えて、封鎖区域での重要なモノを発見するというのは、如何にもラストっぽい流れじゃないですか。真実に近づいているというか、そんな感じがするし、それを千毬のシナリオだけでやるのか? という疑問がある。これが一本道の物語なら、例えばユースティアのように少しずつ、徐々に世界の真実に触れていくという段階を踏むことが出来ますから、話としてはしっくりくるんじゃないかなと。
そして何より、隠しヒロインである清宮真結希の存在もあります。パソパラにはCUFFSのディレクターである佐倉さんのインタビューが載っていたのですが、「どうして真結希を今まで秘密にしていたのか?」という質問に対して、こんな風に答えています。
A:彼女は『イモウトノカタチ』という作品において、とても大きな役割を担っていまして、企画自体がこの子を前提にしていた……と言うとちょっと大げさですが、それくらい重要なポジションの娘なんです。ゆえに、ネタバレになってしまうので公開出来ることも少ないですし、初期設定もわかりづらくなる恐れがありましたので、後から公開となりました。
つまり、真結希は隠しヒロインと言うよりは作品や企画の根幹であるメインヒロインとしての役割が強く、それ故に公開がしづらかったのでしょう。企画自体が真結希を前提にしているというのはよっぽどのことだし、雪人の実妹であるかどうかはともかく、その重要度は抜きん出ていると考えた方が良いと思う。

更に、「本作のテーマを教えてください」と言う質問に対しての答えでは、こんなことも言っている。
A:『生き別れの妹探し』です。あと、題名にもなっている、「妹にもいろいろなカタチがある」というのもあります。血が繋がってなかったり、幼なじみだったりしても、妹は妹なんだよみたいな、そういうテーマも込められています。
血が繋がってない妹というのは、義妹である千毬なんでしょうけど、幼なじみというのはさて誰か? ロボであるミータはあり得ないとしても、美優樹かあやかか、真結希ってことはないと思いますが、いずれにせよ幼なじみが一人はいると言うことです。つまり、全員が妹であると言うことはあり得ないし、探すべき実妹というのは一人だけである可能性が高い。実は双子の姉妹がいましたとか、そういう斜め上なことはしないでしょう。
ちなみに、一本道シナリオを裏付ける発言として、佐倉ディレクターは「後半に差し掛かって様々な謎が解き明かされる」とも書いていますし、イモウトノカタチに纏わる様々な謎というのは、最終的に真結希へとたどり着くことで、すべてが明かされていくのではないかと、そう思います。
まあ、これはあくまで推測ですから、実際のところはやってみないとわからないわけだけど、私は別に一本道でもいいかなと。それはそれで面白いし、特別嫌う理由もないからね。ユースティアとかも、個々のシナリオは結構良かったと思います。要は、各シナリオが枝葉だとして、大きさが均等であれば問題はないんじゃないかと。勿論、樹の幹である真結希には劣るかも知れませんが。その辺はもう、各人の好みでしょう。

まあ、これ以上は各自雑誌を買って確かめて貰いたいのだけど、Sphereとして色々挑戦した作品ではあるらしいから、ヨスガとはガラっと変わったものを出してくるのは間違いないでしょう。SphereというかCUFFS系初の3Pあるらしいけど、Sphereで3Pとかハーレム要素ってどうなんだろう。この作品で3Pやるってことは、相手はミータと真結希になるかね? 祖父の特典でも共演してるし、品の無いことを言いますが、ミータは下の世話までしてくれるわけか。なんかいやらしいな。
CUFFSの公式サイトが更新されて、『CUFFS/Sphere/CUBE 2012夏のグッズ通販』のページが公開されましたね。まあ、例年から考えてもそろそろだろうとは思っていましたが、今回のラインナップは割りと落ち着いた感じだと思う。もっと、イモウトノカタチグッズで溢れかえっているかと思いましたが、Sphereからは美優樹の抱き枕が一つだけと控えめであり、期待されていた真結希のグッズはありませんでした。しかも、抱き枕など通販限定の品も多く、コミケ会場には4点しか持って行かないらしい。

『CUFFS/Sphere/CUBE 2012夏のグッズ通販』
URL:http://www.cuffs.co.jp/main/shop/201207a/

私が最初に見たときは、CAFE SOURIREのヒロインである、水島芹花タペストリーと、水島香澄グラスが商品としてあった気がするのだけど、なんか今見ると消えてますね。スーロリからは杏子のタペストリーだけになっていて、これがコミケ販売分のグッズが少なく見える原因みたいだ。なんで一度発表したグッズを消したのかは不明だけど、画像差し替えにしては消えている時間が長過ぎますね。
かといって、グッズの発売を中止するというなら、それに伴う発表があると思いますし、一体どういうことなのか……? 私はなんだかんだ言ってスーロリが好きだから、スーロリの新作グッズが多くてホクホクしてたんですけど、急に消えてしまってガッカリしています。制作が間に合いそうもないといっても、それなら通販限定にして発送を遅らせれば良いだけですしね。冬コミに回すのか、あるいは完全に発売中止なのかは分からないけど、なにかの間違いであって欲しいです。
スーロリといえば、美百合さんのタペストリーが再販されるのは嬉しいですね。ドリパで販売されたやつですが、限定1部だったので1枚しか買えなかったんですよ。美百合さんはスーロリで一番好きな方だし、思い入れも沢山あるからこの機会にもう少し買っておこうかなと思います。流石に通販なら、限定1ってことはないでしょう。

後、他に気になるグッズがあるとすれば……やっぱり、miniビジュアルファンブックですか? 豪華作画陣による新規描き下ろしイラストや版権イラストが収録されているそうだけど、昨年の冬で遂に、カレンダーを除くヨスガノソラのグッズが無くなったことから、しばらくヨスガの公式グッズとは無縁だったのですが、miniビジュアルファンブックということは、新規イラストはともかく版権イラストでヨスガが数枚あるはずですし、少なからず期待できるんじゃないでしょうか? 確か、まだ収録しきれていないのがあったはずです。まあ、それが出たら本当にヨスガ関連は最後ってことになるんですけど……
CUBEの新作テレカも発表されるらしいですが、your diaryのメディア展開が始まったところで新作とは、結構動きが早いね。てっきり、次の新作はCUFFSが来るんじゃないかと思ってましたが、CUFFSは頑張ってGarden作ってるんですよ、きっと。グッズが少ないのは残念だけど、その反面、イモウトノカタチの購入で結構な出費をすることから、懐事情としてはむしろ助かったのかもしれない。勿論、グッズが減ったのはなにかのミスで、やっぱりだしますというのでも全然構わないんだけどさ。夏コミも控えているから、あまりグッズとかも買っていられないのが実情でして。

私は、your diaryにさほど興味が無いので、多分買うとしてもCAFE SOURIREのグッズを中心にいくつかということになると思います。まあ、イモウトノカタチ抱き枕は買いますけど、夏で一つしか出ないということは、冬は一体どれほどの数になるのか……考えただけで、懐が寒くなりますね。まあ、12月頃には私の金銭的な体力も復活していると信じたいですが、その為にはイモウトノカタチに対する支出をギリギリまで抑えこまないといけないというジレンマ。店舗特典が追加され、オリジナルテレカが発表されたわけですが、通販店を閉店してしまった宝島はともかく、それ以外のを含めると総勢21店舗ですか。21本も同じソフト買ってどうするんだよと思うし、また、様々な理由から千毬推しを止めてしまったので、オリジナル特典についてはちょっと減少の方向で行こうと思います。それでも描き下ろしは全部買うし、そもそもヨスガノソラじゃない作品にそこまで金を使う必要もないだろうとか、言い訳をしてみたり。まあ、21本買えないわけじゃないんですけど、流石に自重しといた方がいいかなと。ギリギリまで悩みますが。
イモウトノカタチの公式サイトが、本来の更新日である今日ではなく、昨日更新されました。私が芝居見物をしている間でしたか、キャラクターページとダウンロードページ、それに店舗特典のページに追加があったようで、一体どうして一日早めたのかが分かりません。今日は今日で別の大きな更新があった、というわけではないようですし、雑誌発表に合わせたかったかといえば、情報が掲載されるらしい電撃HIMEもパソパラも発売は明日ですからね。なんだって今回に限って、木曜更新にしたのだろうか。

これまで隠しヒロインと言われてきた清宮真結希ですが、関係者発言を整合するに真ヒロインと形容した方が正しいのかもしれない。というのも、存在を隠していたという割に基本情報は今回の更新で全部出ましたし、後はグラフィックぐらいでしょ? 本編をプレイして初めて出てくるキャラってわけでもないし、どちらかと言えば前作ヨスガノソラのメインヒロインである、春日野穹に近いものがあると思う。穹も、今でこそヨスガノソラを象徴するようなキャラクターになっていますが、作品が発表された当初はビジュアルが公開されていませんでしたし、ファーストファンブックにも一人だけ載っていません。ただ、主人公であるハルのページにおいて妹の存在が示唆されていました。
思うに真結希もそういった類のヒロインであって、公開時期を意図的にずらしていただけなんじゃないでしょうか? 橋本タカシ原画のキャラクターなら、あるいは作業が遅れていて同時公開できなかった、なんて想像も出来なくはないですが、結局真結希のデザインは今回のメイン原画家である武藤此史でしたから、作業的な意味で遅れていたとは考えづらいんだよね。むしろ、隠し玉や切り札の類い、発売前の目玉情報として取っておいたと考える方が自然じゃないだろうか。
それを示すかのように真結希は結構攻めのデザインをしており、言い方は悪いですがあざとい感じがします。薄藤色の長い髪に、白い肌、薄桃色の寝間着に触れれば折れてしまいそうな華奢な体、そして穹と同じ金色の瞳など、もう萌え要素の塊じゃないですか。しかも、基本設定として病弱な実妹がセットで付いてくるときた。勿論、実妹かどうかは確定していないけど、今のところ最有力候補と言っても過言ではないと思う。

真結希のキャラページの紹介文を引用しますと、彼女が他のヒロインと明らかに一線を画する存在であること分かります。
『もう15年になるのかな……この天井と、先生と、3人の看護師さん。それが私の世界のすべてでした』
清宮 真結希 CV:夏野こおり


鵠見中央メディカルセンターに入院している女の子。

物心着いた頃からの全身麻痺で病室から一歩も外に出たことがない。
主治医からの生き別れの家族がいることを教えられ、その家族を見つけるために早く退院したいと思っていたが、思わぬ形でその願いを叶えることになる。

健気で相手を立てる優しさを持つ一方、儚げな印象とは逆にとても我が儘な一面を持っている。
この作品、設定から言っても生き別れの家族を探しているキャラは結構多くて、主人公は勿論のこと、ヒロインの美優樹と千毬、それにサブキャラの聡里は災害で家族と生き別れになっています。千毬はあり得ないにしても、単純な妹候補であれば美優樹と聡里にも可能性があるわけで、真結希を実妹であると断定するには時期尚早という気は確かにします。ですが、真結希はその紹介文やサンプルボイスから、あまりにも実妹であると訴えかけてきているのです。
まず、第一に真結希は生き別れの家族がいることになっていますが、同時に思わぬ形で再会を果たすようなことも書かれています。勿論、生き別れの家族出会って兄弟姉妹、あるいは両親とも明確な記述はなされていませんが、確か雑誌発表の段階では兄と明記されていたような、しないような。仮に家族だとすれば、雪人だけでなくサブキャラの高階利夫も候補になりますが、彼は台詞からして雪人の関係者っぽい……いや待てよ、彼が雪人の父親だとすれば、必然的に妹の父親でもあるわけか。「公的にはこれが初対面」という台詞から、どう判断すべきなのか。悩ましい限りです。

サンプルボイスからして、真結希は律佳やミータの関係者であることが分かります。姓名から察するに、災害孤児で介護が必要な真結希を律佳が引き取るなり、法的な親代わりになるなどして、病院に入院できるようにして上げたのかな? 生き別れの家族がいると書かれている時点で、律佳は本当の家族ではないのでしょう。呼び方もさん付けだしね。
体験版をやる限りでは、およそどこら辺が介護ロボなのかサッパリだったミータも、真結希に対してはその役割や使命を果たそうとするらしく、関係性の深さが伺えます。もっとも、真結希は意固地になっているのか、ミータの手を借りるのが癪なようで、「ミータちゃんの世話なんかにならなくても、私はやれます! 出来るんです!」と強く訴えていますね。大病を患って、寝たきり状態の人間がこうした癇癪を起こすのは珍しいことでもなく、気が強いと言うよりは慢性的なストレスが溜まっていると考えた方がいいでしょう。全身麻痺で、それも天井を見上げる以外に自分では何も出来ないとなれば、日常生活のすべてを看護師やミータの世話になっているわけであり、何一つ自分の思い通りにならない毎日というのは、常人には想像も出来ない苦痛だと思います。
そんな真結希がどうして実妹として決定的なのかというと、3つ目のサンプルボイスを聴けば分かるように、雪人は真結希にキスをしているんです。彼女曰く、「熱いキス」をしたということで、ここで思い出してもらいたいのは体験版。雪人は妹と再会したとき、まず何をすると言ったでしょうか? そう、熱い抱擁を交わし、口づけをすると言っていました。現時点で、明確にそれが果たされているのは真結希しかおらず、どういう状況か分かりませんが彼女が妹であると確信付ける何かがあったのでしょう。意外な形、というのはミータの付き添いか何かで雪人が病院へ訪れていたときにバッタリ会ったとか、あるいはミータの友達として真結希に紹介されたところ、実は妹だったとか、そんなところじゃないかな。

私は真結希が実妹じゃないかと思うし、もう少し言うと実妹であって欲しいと考えています。これは単純にキャラが好みだとかそういう問題ではなく、真結希が実妹じゃない場合、あまりに救いがないからです。全身麻痺の障害者という設定もそうですが、仮に真結希の実妹フラグが全部ブラフであり、赤の他人だったとしましょうか? そんなとき、妹でもない少女に主人公はどうするのでしょうか? 実妹だから、血の繋がりのある家族だからこそ背負えるものというのは確かにあって、それがない場合、酷いことを言うようだけど、真結希の存在はあまりに重たくなると思う。そんな状況で「私を見捨てないで!」とか言われたら、葛藤通り越して発狂しちゃうよ。
おそらく、ミータの紹介で話し合いてないし友人付き合いをしていくうちに真結希が雪人に好意を持つも、実は兄妹だったことが発覚するとか、ベタな展開で行くんじゃないかな。情報不足は如何ともし難いが、いずれにせよ1ヵ月切ってますから、これ以上は本編でという形になるんだろうな。来月のPUSHがギリギリ間に合う気もするけど、なにか追加情報があるのかどうか。今の時点では、なんとも言えません。
イモウトノカタチの公式サイトが更新されて、体験版が公開されたので早速プレイしてみました。19時からの一斉配布だったようですけど、場所によってはフライングしているところもあったとかで、結構まばらでしたね。かくいう私も少し早くプレイすることが出来たのだけど、何というか少し懐かしい感じがする体験版だと思いました。開始からすぐに本編が始まるのではなく、体験版をプレイするに当たって~みたいな、茶番劇が入るところなんて、ここ最近じゃ見られなくなった光景だし、そういった意味でもこの作品は王道をひた走っているのかもしれない。

茶番劇はヒロイン達による体験版説明と、主導権争いが展開されるわけですが、この時点で既にミータは抜きん出ていますね。毒の存在感と言い回しで周囲を翻弄し、相手が出来るのは長い付き合いらしいあやかぐらいな物というのがよく分かります。逆に、比較的雪人に近い位置にいるであろう美優樹や、今のところの妹である千毬などは、素直であり単純であることからも、ミータに良いようにあしらわれてしまっています。
そんなミータを御すことが出来るのは、おそらく関係者である律佳や真結希なのでしょうけど、今のところは生徒会長兼寮長も先輩だけあってミータも気を遣って行動しているみたい。起こると怖いって設定があるからだろうけど、この人もまた典型的な先輩キャラだよなぁ。イモウトノカタチはなんて言うか、テンプレートが多いというか、記号としての萌え要素が分かりやすく形になっているから、ある意味でキャラが単調なんだと思う。
例えば、主人公である雪人はヨスガノソラの主人公ハルに比べると、容姿、性格共に標準と言ったところで、エロゲにはよくあるタイプであることが体験版をやると分かります。これまで雪人はWebドラマにも登場しませんでしたし、キャラクター造形が見えてこなかったわけですが、第一印象としてはどんなエロゲにも良そうな感じ、ってところかな。

内容を事細かに書く必要はないと思うけど、学園ラブコメと言うだけあってノリが非常に軽いね。背景としての設定は災害の被災者と被災地区だから非常に重苦しいはずなんだけど、それに引き替え登場するキャラクターはどこか楽天的な部分が多いと思う。ラブコメ、つまりギャグ要素がある以上は暗かったり真面目ぶったキャラクターは少ない方が良いんだろうけど、設定と照らし合わせると、ちょっと落差があるよね。ただ、雪人にしろ美優樹にせよ、エロゲの登場人物は18歳以上という建前を抜きにして考えれば、被災した当初は年端もいかぬ子供だった可能性が高いから、所謂トラウマを抱え込むほどではなかったのかも知れない。いつか書いたかも知れないけど、この辺りはminoriのefに近いものがあって、例えば広野紘や宮村みやこなんかの主人公世代と違って、紘の姉である凪や、火村夕などの年上たちは震災の記憶や、その爪痕を心に刻み込んでいるから、地震などに対してかなり敏感に反応してしまうし、廃墟に対する視線や考え方も違うわけです。
ところで、鵠見市を襲った災害というのは豪雨だったようですね。豪雨と、それによる山崩れや地滑り、それに洪水と言ったところかな。地震でないのは世情から考えても無理だったんだろうけど、水害か……実験区が一番酷かったと言うのは、本当のところ人為的な失敗等で起きた災害だったということの伏線かな? 水害と言われると、あまりピンとこない人もいるかも知れませんが、歴史的に見れば結構あることで、日本ですら近代、あるいは現代でも強い被害を受けることが多々あります。あやかの台詞ではないですが、環境特区と称して人間に都合に沿った環境を作ろうとした結果、それがすべて洗い流されたわけですから、まったく自然というのは怖いものだ。

体験版だけの感想で言うなら、実に平凡なエロゲだったかな。ギャグも面白いし、特にミータは良いキャラだと思いますが、突出したものに欠けると言いますか。王道というか、正統派の学園ラブコメを目指すあまり、看板や目玉のようなものが見当たらないんだよね。ヒロイン達は確かに可愛いが、今のところ魅力としては横並びって感じもするし、そういうところは、やっぱりヨスガを意識してるのかなと。つまり、ヨスガは穹だけ飛び抜けて人気だったから、他キャラのグッズを出すだけで文句を言われるようなこともあったけど、人気が同じならそういうことも起こらないでしょう。
もうちょっと野心的な作品でも良かったと思うけど、そこはまあ隠しヒロインの存在もありますから、今後に期待かな。私はまあ、楽しかったとは思いますよ。
イモウトノカタチ公式サイトが更新されて、舞台紹介ページの追加と店舗特典が公開されました。店舗特典はまあラフ状態ですけど、内容や展開の仕方はCUBEのyour diaryに近いものがありますね。アレも確か、各店舗に布モノ特典とデジタルコンテンツがセットでついていたし、布とデジコンでキャラが統一されていないのも折込済みです。まあ、複数買いさせる良くある手段だけど、私の場合は本当に全店舗で買う予定だから別に構わなかったりもする。オリジナルテレカの類が公開されるのが気掛かりだけど、これも過去の事例からないってことはないでしょう。

意外だったのは、メロンブックスでデジタルコンテンツが付くことなんだけど、あそこでドラマCD等を付けたことがあるのってRococo Worksとかlightとか、その辺りぐらいでしょ? いや、私が買ってないだけでもっとあるのかもしれないけど、大抵は祖父やげっちゅ、それにメッセやゲマ屋だから、メロンが含まれているのはちょっと興味深かった。おそらく、現状発表されている特典が付く店舗の中で、メロンは全国展開の店舗だったから優先されたのだと思うけど……それならゲマ屋でも良いわけだしね。あるいは、ヨスガノソラのときの特典があれだったので今度は良い奴をという配慮かもしれませんが、さて、どんな奴が来るのかな。your diaryの例から言えばピロトークCDという可能性もあるけど、あれも元を辿ればソイネノソラから来ているわけだし、CUFFS系の定番として定着させてくるかも。逆に、アクセサリー集とかは出してこない傾向にあるしね。
わざわざ、キャラごとのデジタルコンテンツと銘打っているぐらいですから、ピロトークまたはドラマCDと考えておくべきかな。後者も私は好きなんだけど、エロゲのドラマCDだと主人公出てきませんからね。いや、出てくる場合もありますが、その場合は音声無しとか微妙なことになるので、それを思えば前者の方が望ましいのだろうか。イモウトノカタチもまあ、相応のメディアミックス展開を考えているでしょうから、後々なんらかの形で声が付くことはあるかもしれませんけど、今はまだ遠い日の話でしょう。アニメ化にしたって向こう1年半程度は枠が埋まっているはずですし、ヨスガだって発売から約2年後の話でしたからね。今はオーガストとか一部のところを除いてエロゲでドラマCDシリーズを、って感じでもないので、そこら辺は深く考えない方が良いかも。

舞台紹介については、白鳥寮とウィンドファームが公開されたわけですけど、風力発電施設の是非についてはどうなんだろうね。エコだなんだと言われていますが、あれも低周波だとか人体への影響がありますから、距離的に民家や人の多く集まる場所から離れていた方が良いのだけど……距離的には結構あるのかな? まあ、そういう小難しい部分は何せ近未来設定があるし、技術的な面では解決されているのかもしれませんが。
白鳥寮に関して、前回私は旅館やホテルの類を改装して使っているのではないか、と推測しましたが、どうやら元々はペンションだったらしいですね。ペンションに温泉ってどうなのよ? という気もしますが、観光地なんだから温泉ぐらい合っても不思議じゃないでしょう。ただ、舞台図から見る限り、白鳥寮ってあまり西洋風の建物に見えないよね……というのも、ペンションはその定義として西洋風なしゃれた建物のことを指しますから、それこそ洋館みたいな外観をしていないとおかしいんですよ。改装物件ですから、内装面でそういったしゃれた装飾が取り外されたり、学生寮っぽく変わっていても不思議はないんだけど、建て直しでない以上は外見が様変わりしているとも思えないし。大体、エロゲに出てくる学生寮は小洒落ていると相場が決まっていますからね。それなのにまあ、食堂のパッとしなさときたら。これが近隣から大変人気の高い学園の寮なのか。場末の定食屋じゃないだからさ。

しかし、寮長の計らいで混浴タイムが設定されているとは一体……仮にも学生寮ですよね? 混浴タイムなんて合法的な制度があったら、お風呂でバッタリにならないじゃないですか。寮長は温泉プレイを推奨しているのだろうか? あまり知られてないけど、実は混浴って行政指導の対象だから、おおっぴらに認められてないんだよね。うっかりやると処分されちゃうとかで、旅館の家族風呂とかにも規制があるぐらいですから、近未来凄いなって感です。しかし、大まじめに女性である寮長、自身も生徒であり生徒会長という立場にある彼女が、何故混浴などを推奨しているのかという説明はあるのだろうか? 現実的に考えて、あり得ない話だけにね。これはちょっと、気になる話です。

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